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WRC参戦中の勝田貴元選手インタビュー、ラリー・フィンランドの収穫は新コ・ドライバーとのコミュニケーション

2021年10月4日 オンライン開催

勝田貴元選手

 WRC(FIA世界ラリー選手権)にTOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムにより参戦している勝田貴元選手は、10月1日~10月3日の3日間に渡って行なわれた第10戦ラリー・フィンランドにヤリスWRCを駆って出場した。

 将来のワークスドライバーへの昇格を目指している勝田選手だが、今シーズンは、第6戦のサファリ・ラリー・ケニアで自身初となる2位表彰台を活躍するなど前半戦はコンスタントに上位入賞を続けていた。しかし、後半戦に入りコ・ドライバーが負傷などにより2度も交代したことなどもあり、リタイア、そして前戦はコ・ドライバーの参戦ができないことが直前に起きるなどして欠場となり、思うようにいかない展開になっていただけに本人も得意としていたラリー・フィンランドで巻き返しを図りたいところだ。

 今回の勝田選手は新しいコ・ドライバー(助手席にのってドライバーにコース指示書=ペースノートを読み上げる役割)としてアーロン・ジョンストン選手をパートナーに迎えて、チームの地元(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamの本拠地はフィンランドにある)ラリーでもあるラリー・フィンランドに臨んだが、デイ2(土曜日)のSS8でスピンからクラッシュを喫してしまいデイ・リタイア(その日の走行はそれで終了するということ)になってしまい、日曜日にはクルマを修復して走り続けたものの、総合37位と悔しい結果に終わった。

 そうした勝田選手のオンライン会見が、ラリー終了翌日に行なわれたのでその模様をお伝えしていきたい。

Day2でデイ・リタイアになってしまったが、最終日にはセッティングを変更し、競争力を向上させることができた

──勝田選手よりラリー・フィンランドの振り返りを

勝田選手:Day2でデイ・リタイアになってしまった。チームが修復してくれて最終日が走れたが、総合では37位だった。週末を通して苦しみ、厳しい週末になってしまった。今回のラリー・フィンランドに向けては、目標を高く設定していて、ポディウム争いをするつもりで臨んでいたが、金曜日からいいペースをつかめず、クルマのフィーリングも自分のフィーリングもかみ合わないまま進んでしまった。新しくパートナーを組んだ、ジョンストン選手とは、最初のステージからよいスタートを切れたので、それは本当によかった。

 金曜日はスタートからなかなかいいフィーリングを得ることができず、ペースをあげることができる自分もミスを犯してあまりよい1日ではなかった。そこで、土曜日には方向性を変えたセッティングを、ステージごとにいろいろと試していく中で、SS8でようやくフィーリングがかみ合ってきたような手応えを掴むことできた。そのSS8では、優勝したエルフィン・エヴァンス選手を除いて最終スプリット(区間タイムのこと)までベストで来ていた。しかし、最終的にそのステージのフィニッシュ手前400mというところで、ジャンプの着地から車速が速すぎたこともあり、ペースノートよりもイン側で着地してしまい、ターンインをもっと切り込まないといけない中でリアがスライドしてリアタイヤを岩にヒットしてしまい、足まわりを壊してデイ・リタイアとなった。

 夜、サービスに戻ってからクルマを修復し、日曜日の再出走ではすでにデイ・リタイアしているし、一番前からのスタートなので思い切ってセットアップも変更して臨んだ。それまでアンダーステアと戦っていたが、セッティング変更により大きく改善され、日曜日は高い競争力を持って戦うことができた。この経験を生かして、データエンジニアと一緒にほかのドライバーと比較して学習していきたい。

 結果的に自分としては一番期待していたラリー・フィンランドでよい結果を出せなかったことは悔しいが、今の実力を現わした結果なので、次戦や来年のラリー・フィンランドに向けて改善していきたい。

──路面について、金曜と土曜では路面が違っていたのか? 事前テストではトヨタのドライバーはみんないいフィーリングをもっていたが、結果エヴァンス選手以外は苦しい展開になっていたが……

勝田選手:通常のラリー・フィンランドは7月下旬~8月にかけて行なわれる、夏場なのでドライになっており、どちらかというとルーズな路面が残っていたりする。そうしたワイドでコンパクトな路面が通常のラリー・フィンランド。今年に関しては、路面コンディションはよくグリップが高いと全ドライバーが最初は感じていた。森の中では湿っているという印象があるのだけど、レッキ後に走ってみるとよりグリップが得られる感触があり、ほかのドライバーも含めて驚いたという状況だった。そのままクルマは煮詰まっていると判断してテストを終えた、しかしラリーに入ってみると全然グリップしないという状況になり、同じセッティングで臨んだハリ・ロパンベッラ選手、セバスチャン・オジェ選手みんな苦しんでいた。エヴァンス選手だけは一人違うセッティングを見つけており、それが功を奏したのではないか。テストの時にこういうところを試していたらもっと違っていたのではないかというところが見えてきているので、そこをもっと詰めていきたい。

──グリップを感じるような路面、ドライビングしていてちがうのか?

勝田選手:そこがびっくりしたところだ。これまでのフィンランドと言えば、滑る路面というイメージはなかった。地元のロパンベッラ選手もびっくりしたと言っているぐらいだった。今回はどのドライバーも驚いていたというのが正直なところ。ルーズな路面で滑る、コンパクトな上で滑る路面というのはニュルニュルと滑っていく感じだ。グリップを掴むのが難しく、路面を掴んでいる感じが全然しなかった。

──コンパクトな路面とは?

勝田選手:普通のグラベルの路面はフカフカの砂。フィンランドは路面が圧縮されていて、舗装路かと思うぐらい路面が固められている。秋から冬にかけてより圧縮され、コンパクトになっていく。轍ができるようなコーナーが多いが、(通常の開催時期との)2か月の差が非常に大きかった。

豊田社長のコメントにもあったように、将来につなげることができるラリーになったラリー・フィンランド

──豊田社長のラリー後のコメントにも、未来に学ぶというコメントがあったが、自分の課題とシーズンへの課題をどう思うか?

勝田選手:今回は結果としては悔しい結果だが、どのラリーでも先につながるラリーになっている。ラリーに来る前の準備とかをしっかりやっていかないと、ラリーに入ってからだと修正しきれずリスクが大きくなってしまうというのが今回の教訓だ。そこをテストでチームと一緒に突き詰めるのが大事で、今後は最初のステージから自信満々で臨んでいけるようにする必要がある。最初の1つや2つのステージを失うと、それと取り戻すのは大変だからだ。

 そんな中でも、SS1から、新しいコ・ドライバーとのコミュニケーションがうまくいったのは収穫だった。それも今後はあうんの呼吸でいけるようにさらに改善していかないといけないと思う。

アーロン・ジョンストン選手(左)、勝田貴元選手(右)

──フィンランド、Twitterなどを拝見する限りはかなりリラックスしているように見えた。

勝田選手:ラリーが始まる前から、楽しみで仕方が無かった。そのため変に緊張して動けなかったということはなかった。もちろん緊張感が必要な時には集中できたし。そうして期待値は高かったので、もう少しステップバイステップで合わせこんでいくことができれば別の展開があったのではないかと思っている。SS2でスピンしてしまい、こんなハズじゃないというのが最初の感覚だった。そのスピンは自分のライントレースのミスで、バンプにより弾かれてスピンした。こういったラリーでは自信はとても大事で、一度失うと取り戻すのは簡単ではない。どんなラリーでも何をすべきか考えていかないといけない。

──ジョンストン選手で3人目のコ・ドライバーとなる。マッチングなどはどうか?

勝田選手:ラリー・エストニア以降、コ・ドライバーが変更し、これまでラリーとラリーの間にいつもどおりの準備ができないことが続いていた。ジョンストン選手にせよ、キートン・ウイリアムズ選手にせよ、2人とも26歳と若いのだが、ものすごく真面目で絶対に失敗しないように万全の準備をしてきてくれていた。今回のラリー・フィンランドはコ・ドライバーにとって難しいラリーの1つで、ものすごくスピードが速いからだ。今回はジョンストン選手がうまく対処してくれたのでスムーズに進めることができた。

 例えば、前半戦ではラリーが続いて行く中で、どういう予習をしてなどのルーティンがあって、ダン・パリット選手(シーズン前半戦を一緒に戦った、コ・ドライバー、ラリー・エストニアで競技中に首を負傷してウイリアムズ選手に交代した)とできる限りの準備をして臨んでいた。それがここ3戦はうまくいかない面があった。まずはペースノートを作るところからやらないといけない中で2人ともよくやってくれていたのだが。スペインとモンツアでは引き続きジョンストン選手と組むことになるので、しっかりやっていきたい。パリット選手と実現できていた、言わないでも分かるような関係が作れればいいと思っている。

──ジョンストン選手はアイルランド人だが、パリット選手やウイリアムズ選手のイギリス人の英語と発音の面で違いはあったか?

勝田選手:確かにアイリッシュアクセント的なものはあるし、声のトーンなども2人とは違う。しかし、結構すらすらと入ってくる、それはこちらが聞き取りやすいように読んでくれているからだと思う。ただ、パリット選手とであれば、読み上げるタイミングも、こっちが聞き逃してしまったなという時には何も言わないでも言い直してくれる。そういうところの違いにジョンストン選手とはお互いにまだ慣れが必要なのだと感じた。しかし、パリット選手も現場に来てサポートしてくれているし、大きな問題は無かった。ただ、アイルランド人同士で話しているときには正直聞き取るのは難しかった(苦笑)

──残り2戦のアプローチは?

勝田選手:スペインの道はサーキットのような道で、ラインをトレースできる気持ちのよい道が多い。これまでの経験を生かしてよい結果を目指したい。また、グラベルクルーも入るし、新しいコ・ドライバーとのコミュニケーションもさらによくしていきたい。

 モンツアはグラベルとのミックスになるので、ややこしい感じになると予想している。自分としてはフランスよりもイタリアの山岳地帯の方が得意な感じがしている。というのもイタリアの山道はイン側が側溝になっていてインカットできず、自分としてはその方が得意だからだ。また、サーキットのセクションもあるので、そういうところをうまくいかして今後に向けていいフィーリングが得られるようにプッシュしていきたい。