ニュース

トヨタ、3冠を実現した2021年WRCシーズンエンドグループ取材 ラトバラ代表&年間優勝のオジエ選手が1年をふり返る

2021年11月24日 開催

質疑応答の中で取材者から贈られた「優勝おめでとう」という言葉にサムズアップして応じるセバスチャン・オジエ選手

 TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(トヨタ自動車)は11月24日、先日開催された第12戦 ラリー・モンツァで幕を閉じた2021年のWRC(FIA世界ラリー選手権)についてふり返るシーズンエンドグループ取材をオンライン開催した。

 2021年のWRCでチームは序盤から快進撃を続け、シーズン最終戦まで1戦を残した第11戦 ラリー・スペインでドライバーズランキングのタイトル獲得はセバスチャン・オジエ/ジュリアン・イングラシア組とエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組の2組に絞られた。

 11月19日~21日(現地時間)に行なわれた第12戦 ラリー・モンツァでオジエ/イングラシア組が優勝を果たし、エバンス/マーティン組も総合2位でフィニッシュ。チームもマニュファクチャラーズタイトルを獲得して、トヨタは1994年以来の3冠を達成した。

トヨタは1994年以来となる3冠を実現

 取材会にはチーム代表のヤリ-マティ・ラトバラ氏、ドライバーズチャンピオンを獲得したオジエ選手が出席して行なわれた。

「チーム全員が笑顔でいることが勝ちにつながる」とラトバラ代表

TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team チーム代表 ヤリ-マティ・ラトバラ氏

 まずはラトバラ代表が華々しい結果を残したシーズンについてふり返り、「マニュファクチャラー、ドライバー、コ・ドライバーの3つのタイトルを獲得できて、今のフィーリングは最高です。セバスチャン・オジエ/ジュリアン・イングラシア組が優勝して、2番手にエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組が入って、シーズン12戦のうち9勝できた完璧なシーズンでした」とコメント。

 また、母国のフィンランドに帰国した際のエピソードを紹介し、「今回はトロフィーではなく、1973年からこれまでにタイトルを獲得した選手などの名前などが書かれた大きな絵のような物をもらって、これを持ってフィンランドの空港に到着したとき、多くのファンが出迎えて祝福の声をかけてくれました。このときに、『自分たちは勝ったんだ』と実感できました」と語った。

 今シーズンからチーム代表に就任したことについては「これまではトミ・マキネン氏がチーム代表を務めてチームにハイレベルな機能を与えていました。2020年にもセバスチャンとジュリアンがタイトルを獲得していたので、そこでマシンの状態も非常によいことが証明されています。2021年も同じように達成していこうということをセバスチャンとターゲットにしてきたので、無事に実現できたことは非常に喜ばしいです。彼は昨シーズンの段階で通算7回目のタイトルを手にしており、勝ち方は十分に知っていると私は考えていましたので、セバスチャンとジュリアンの2人、そしてチームの全員が笑顔でいることが勝ちにつながると考えて、それを心がけていました」と述べている。

オジエ選手

 続いてオジエ選手がシーズンをふり返り、「私は今、非常にハッピーな気分です。キャリアがスタートした当初は夢にも考えていなかったようなことですが、現時点で通算8回目のタイトル獲得を実現できて、本当に信じられない気持ちです」。

「今年のターゲットはもちろんトリプルタイトルでした。昨シーズンはエルフィンと1-2でタイトルを獲ったものの、マニュファクチャラーズタイトルを手にすることができず、非常に残念な思いをしました。チームは年間タイトルを獲得するに十分な仕事をしてくれて、私たちに完璧なマシンを与えてくれていたからです。今シーズンは全12戦のうち9勝を達成して、全体の4分の3をわれわれのチームが勝ったことになります。また、(コ・ドライバーの)ジュリアンとの協力関係でこれ以上は望めないほど素晴らしい結果を残すことができ、本当に喜んでいます」とコメントした。

セバスチャン・オジエ/ジュリアン・イングラシア組がドライブするヤリスWRC 1号車

「2022年はエキサイティングな時代の幕開けになる」とラトバラ代表

2022年シーズンの変更点などを解説するラトバラ代表

 最後にラトバラ代表から2022年シーズンについての解説が行なわれ、「2022年はエキサイティングな時代の幕開けになると思います。ハイブリッドシステムが導入されてドライバーたちはマシンに慣れるのが難しくなることでしょう。センターデフがなくなり、空力の恩恵も少し減らされたマシンに慣れることにドライバーたちは苦労するかもしれませんが、エンジンは同じ物を使いつつ、ハイブリッドシステムによって100馬力ぐらいはパワーが出る状況になります。現地に足を運んだり、画面などを通じて観戦したりするファンの皆さんには、エンジンサウンドや外観の迫力がなくなることなく楽しんでいただけるシーズンになるかと思います」と語られた。

質疑応答

質疑応答で回答するラトバラ代表

 質疑応答では今シーズンで最も印象に残ったラリーについて両氏に問われ、まずラトバラ代表が「やはりケニア(第6戦 サファリ・ラリー)が自分としては一番印象に残ったイベントになります。デイ2でエルフィンがサスペンションを壊し、カッレ・ロバンペラも砂地にタイヤを取られてスタックしてリタイア。セバスチャンもダンパーを壊してかなり順位を下げてしまったわけですが、一方で勝田選手はいい順位につけていました。この時点では『表彰台の一角は獲れても、それ以上の結果は難しいかな』と思っていましたが、最終的には1-2で、優勝と2位という信じられないような結果になって印象に残るラリーになりました」と回答。

 同じ質問に対してオジエ選手は「代表と同意見ですね。ケニアはスペシャルなイベントで、WRCではさまざまな場所に行きますが、アフリカ大陸では初めてラリーを行ないました。もちろん優勝できたことも非常にうれしかったのですが、とても難しい状況で冒険のようなイベントになりました。現地の人々が大歓迎してくれて、ラリーで走っていてとてもハッピーな気分になりました。応援はあまりにも熱狂的で、自分がまるでロックスターになったような気持ちになりました」。

「また、ケニアではトヨタ車がたくさん走っていて、これは過去に行なわれたラリーの遺産であり、これからもトヨタのクルマがケニアでたくさん走るようになると思います」と答えている。

勝田貴元選手は第6戦で自己最高位の総合2位を獲得。2021年シーズンのドライバーズランキングで7位となった

 サファリ・ラリーで2位表彰台にも立った勝田貴元選手について、ラトバラ代表がどのように評価しているのかという質問では、「まず、サファリ・ラリーでの走りについては、勝田選手は非常によいパフォーマンスを見せてくれました。マシンをうまくコントロールできていたと感じています。最初から難しいコンディションが続きましたが、途中では一時トップを走ることもあり、最終日にはセバスチャンが猛追したわけですが、そこでも勝田選手は非常にクレバーな走りを演じていました。まずは表彰台を獲得するということに集中できたということは非常によかったと感じます。焦って無謀な走りをするとそういった機会を失うことにもなりますし、まずは表彰台を獲得して、それから優勝を目指していくことが順番だと思っています」。

勝田選手のサファリ・ラリーにおける走りを「非常によいパフォーマンスを見せてくれた」とラトバラ代表は評価した

「シーズン全体では、最初の半年は非常に安定した進歩を彼は見せてくれました。コンスタントに最後まで走り切っていましたし、ケニアでは最初の表彰台を獲得して自信がついていったように思います。ただ、残念ながらエストニア(第7戦)ではジャンプのところでコ・ドライバーが負傷してリタイアとなり、そこからは不運もあって少し自信が低下する雰囲気も見えました。代理になるアーロン・ジョンストンという新しいコ・ドライバーと組んでから、またきちんとした走りができるようになり、シーズン中盤では難しい時期もありましたが、彼はまた戦うための準備ができたように感じます。(最終戦の)モンツァでは再び自信を取り戻してよい走りができました」。

「勝田選手は今シーズンも非常によいステップを重ねたと思いますが、自分のキャリアをふり返って考えると、まずは経験を積んでいくことが非常に重要になると思います。経験を積むことがドライバーとしての向上につながり、ドライビングスキルやマシンのセットアップ、ペースノートの作り方、コ・ドライバーをどうやって100%信用するかといった部分の経験が必要になっていって、その経験と自分のミスからいろいろと学んでいくことになるでしょう。その点を彼は今シーズン十分に行なってきていますし、2022年にも同じように積み重ねていって、うまく続いていけば2023年にはワークスチームにステップアップすることができるかもしれません。そのあたりをターゲットにしていってほしいです」とコメント。将来的に勝田選手がワークスチームで活躍することも期待していると明かした。

経験を積んでいくことが非常に重要だと語るラトバラ代表

 直前に行なわれたシーズン最終戦の走りについて「アグレッシブに攻めていたのでは?」と聞かれたオジエ選手は、「これまでのキャリアを通じて、自分のフィーリングを大切にしてきました。マシンが思いどおりに動いてくれると自分の気持ちも乗ってきて、限界まで攻めても快適な走りができます。これまでの数戦はマシンのセットアップなどが少しうまくいかないところがあって苦しいところもありましたが、モンツァに関しては準備もうまくいってフィーリングが非常によく、思いどおりの走りができたと思います。(コ・ドライバーの)ジュリアンと組んで走る最後のラリーでもありますし、来年からは新しい世代の『Rally1』というマシンに変わるので、WRカーでの最後のラリーでもあります。ステージのコンディションも非常によかったですし、自分で期待する通りにラリーを展開できたので、そのように感じてもらえる内容になったのかと思います」とふり返った。

 また、2022年からオジエ選手はスポット参戦になるが、どこに参戦するのか、ラリージャパンにはエントリーするのかと問われ、オジエ選手は「チームとしても楽しみにしていたので、今シーズンのラリージャパンがキャンセルになったのは非常に残念でした。日本では多くのファンが応援してくれていますし、そんなファンの前で走れなかったのは非常に残念でした。来年のカレンダーが完全には決まっていないので、ラリージャパンに出るかどうかは決まっていませんが、チームの一員としてファンの皆さんの前で走ることができれば光栄なことですので、調整したいと思います」と回答。

質疑応答で回答するオジエ選手

 オジエ選手の出走について、ラトバラ代表は「(シーズン開幕戦の)ラリー・モンテカルロはセバスチャンにとってのホームイベントにもなりますし、今シーズンの最終戦で見せた勢いをモンテカルロでも生かしてもらうことは重要になります。その先は、セバスチャンがどういったイベントで快適に走れるかを考えていかなければいけません。戦略的に考えればサルディニアやアクロポリス、ポルトガルといったグラベル(未舗装)イベントは出走順が非常に重要で、出走が後になるほど有利になります。エルフィンやカッレが高い順位に付けていると早い出走順で不利になって、優勝争いに入りにくくなることもありえるので、そういったイベントでセバスチャンが後方からのスタートで優位に立ち、優勝争いをしてくれることを期待しています。そういった戦略を彼と考えていきたいと思っています」と解説した。