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トヨタ、2019年のWRC活動報告会。ドライバー&コ・ドライバータイトルを獲得したタナック/ヤルヴェオヤ組らが来日

2020年はマニファクチャラーズのタイトルを含めた三冠を目指す

2019年11月20日 開催

TOYOTA Gazoo Racing WRTチーム

 トヨタ自動車は11月20日、東京本社において同社のWRC(世界ラリー選手権)の活動を担う「TOYOTA Gazoo Racing WRT」チームの取材会を開催した。

 今シーズンのトヨタのWRC活動では、オィット・タナック選手/マルティン・ヤルヴェオヤ選手がドライバーチャンピオン、コ・ドライバーチャンピオンを獲得するなど、2018年のマニファクチャラーズチャンピオン獲得に続く成果を挙げており、トヨタのドライバーがWRCのタイトルを獲得するのは1994年のディディエ・オリオール選手以来25年ぶりの快挙となる。今回の会見では、チーム代表のトミ・マキネン氏、タナック選手を始めとしたドライバー陣が参加し、2019年のWRC活動について振り返った。

 なお、この取材会後には、今シーズンまでWRCに参戦していたシトロエンが、トヨタへの移籍が噂されるセバスチャン・オジェ選手が離脱を決めたことを理由に、2019年限りでのWRC撤退を発表した。依然としてトヨタからは正式な発表はないが、オジェ選手のトヨタへの加入の可能性が高まってきた。

2020年のターゲットは今年落としたマニファクチャラーズのタイトルを含めた三冠

ヤリスWRC

 トヨタ自動車 GR統括部 モータースポーツ推進室 室長 市川正明氏は、冒頭で今年1年のトヨタのWRC活動を振り返った。市川氏は「今シーズンは優勝6回で、ドイツ戦では1-2-3フィニッシュを果たして表彰台を独占した。そしてドライバー、コ・ドライバーのタイトルを獲得した。トヨタのドライバーがチャンピオンになるのは1994年以来25年ぶりとなる」と述べ、今年の成果について説明。今シーズンのWRCでは、オィット・タナック選手/マルティン・ヤルヴェオヤ選手のコンビが常に最速で、全14戦のうちスウェーデン、チリ、ポルトガル、フィンランド、ドイツ、イギリスで6勝を挙げ、見事に両選手がドライバー、そしてコ・ドライバーのタイトルを獲得した。

トヨタ自動車株式会社 GR統括部 モータースポーツ推進室 室長 市川正明氏
シーズン6勝
各ラリーでの優勝カップ
2つのタイトル

 市川氏は、「その裏側では改善を積み重ね、2017年、2018年とオーバーヒートに苦しんだメキシコでは全車完走し、コルシカでは全車パンクしたが、ドイツに向けてそれを改善して1-2-3フィニッシュを実現することができた。しかし、リタイアはのべ12回で、マニファクチャラーズタイトルを逃した。WRC参戦の目的はもっといいクルマづくりであり、来年は最終戦が日本になることもあり、日本でトリプルタイトルを獲得して祝いたい」とコメント。2020年の目標はドライバー、コ・ドライバー、マニファクチャラーの3つのタイトルを獲得することだと述べた。

カイゼン
リタイアはのべ12回
WRC参戦の目的

 その後、チーム代表のトミ・マキネン氏、各車両のドライバー、コ・ドライバー(ミーカ・アンティラ選手は欠席)の5名、さらにはトヨタ自動車 WRCエンジン・プロジェクト・マネージャーの青木徳生氏が入場し、市川氏からマキネン氏に慰労の花束の贈呈が、さらに各クルーには青木氏からそれぞれの車両のエンジンで利用されていたピストンが記念品として代表のタナック選手に進呈された。

花束贈呈
青木氏からタナック選手にピストン贈呈

 その後、各人から今シーズンの振り返りが行なわれた。

トミ・マキネン代表

トミ・マキネン代表:マニファクチャラーズタイトルが獲れなかったのは残念だったが、2018年に獲れなかったドライバータイトルを獲れたのは嬉しい。今年も課題はあったが、クルマのスピードはあって、タナックがチャンピオンを獲得してくれた。

トヨタ自動車株式会社 WRCエンジン・プロジェクト・マネージャー 青木徳生氏

青木徳生マネージャー:今年はドライバーのチャンピオンを獲れたのはよかった。エンジンはクルマの一部で、ドライバーとはスロットルでつながっている、大事なことはクルマとの一体感なんだということが3年目にしてようやく分かってきた。「こうするとコントロールしやすくなる」というフィードバックを、ドライバーからもらいながら運転しやすいエンジンを導入した。フィンランドで新しいエンジンを投入して、それからは結果もついてきている。

ヤリ-マティ・ラトバラ選手

ヤリ-マティ・ラトバラ選手:2019年はベストな年ではなかった。自分も大きなミスをしたし、解決しなければならない課題があった。ヤリスは十分なパフォーマンスがあって、チームメイトが結果を出したことでそれは証明されているし、ドイツでの1-2-3フィニッシュはとても特別な瞬間だった。

クリス・ミーク選手

クリス・ミーク選手:今年チームに入って、ヤリスをドライブすることは楽しめた。もっとよい結果を期待していたが、ミスをしたりしてポイントを失うなど望んでいた結果ではなかった。オーストラリアの最終戦が災害によってあんなことになってしまったのは残念なことだったが、もしラリーが開催されていれば、もう1つのタイトルも獲れたと思う。自分がラリーに興味を持ち始めた1990年代はトヨタが強い時代で、初めてのラリーもAE86で出場したので、そういうトヨタチームに入れたことは嬉しかった。

セブ・マーシャル選手

セブ・マーシャル選手(ミーク選手のコ・ドライバー):今シーズン初めてクリスと組むことになり、コンビが機能するまでに時間がかかったが、そんな中でもドイツで1-2-3を実現できたことはとても素晴らしい結果だ。そして、その後TMG(筆者注:欧州でのトヨタのモータースポーツの拠点)に行き、トヨタファミリーであることを実感できたことはよかった。そしてタナック組の2人にはチャンピオンおめでとうと言いたい。

オィット・タナック選手

オィット・タナック選手:これまで火の中水の中(筆者注:過去のWRCでクルマごと池に落ちたり、クルマが燃えたりという珍しい経験をタナック選手はしてきている)など大変な目にあったこともあったけど、チャンピオンになれたことは嬉しい。2019年は非常にいいシーズンだった。自分のキャリアにとっても人生にとっても転機になる年だったと言える。トヨタ、トミ、チームと非常に良い仕事ができたと思う。特に2017年の終わりにチームに加入して多くのことを成し遂げてきて、2018年はチャンピオンを逃してしまったものの、今年は非常に強く自信が持てる年になった。

マルティン・ヤルヴェオヤ選手

マルティン・ヤルヴェオヤ選手(タナック選手のコ・ドライバー):いいシーズンで最高の結果で終えることができた。いろいろと大変なこともあったが、最終的にペイオフされたと言える。自分たちの目標を成し遂げることができたので完璧な1年だった。

「オジェ選手が引退する前にタイトルを獲ることが目標だった」とタナック選手

ドライバー王者となったオィット・タナック選手(右)とコ・ドライバー王者となったマルティン・ヤルヴェオヤ選手(左)

 取材会の後半には質疑応答が行なわれた。なお、チャンピオンを獲得したタナック選手は2020年にヒュンダイへ行くことがすでに発表されているが、トヨタの2020年のラインアップはまだ発表されていないということもあり、2020年シーズンの体制への質問は不可という条件で行なわれた。

 この取材会終了後、欧州ではWRCに参戦していたシトロエンが公式Twitterで、同チームのエースであるセバスチャン・オジェ選手が離脱することを理由に2019年で撤退することを明らかにした。その発表により、かねてから噂されていた2013年~2018年まで6年連続WRCチャンピオンを獲得したオジェ選手のトヨタ入りの可能性が高まってきている(トヨタ、オジェ選手ともに現時点では何も発表していない)。

――2018年型と2019年型のヤリスの違いは何か?

タナック選手:2018年と2019年では開発を続けてきたこともあり大きな違いがあった。空力もエンジンも、ドライバーもパッケージでそれがうまくまとまっていたということだと思う。

ラトバラ選手:2017年から乗ってきたが、マシンは毎年毎年変わっている。サスペンションやエンジンも進化している。特に今年はFIAのレギュレーションの解釈変更で、シーズンの終わりにはリアスポイラーをより小さなものに変更することになったが、それでもパフォーマンスはほとんど変わらなかった。エンジニアがいい仕事をしたと言える。

ミーク選手:今年加入したので昨年以前とは比較できないが、モータースポーツは常に進化し続けないといけない。ライバルも毎戦進化していたし、われわれもシーズン最初と終わりでは大きな違いがあった。

――2020年に開催されるラリー・ジャパンでは初めてラリーを見る人も多いと思うが、ラリーの面白さとは何か?

ラトバラ選手:日本でWRCが10年ぶりに開催されるのは素晴らしいことだ。北海道で行なわれたイベントには出ていたが、日本のファンは熱心だし、ロードセクション(ステージとステージの間に一般道を走ること)でも横断幕などで応援してくれるんだ。これは本当にユニークなことで、来年もそうしたファンがいることに期待したいところだ。

タナック選手:日本のWRCには出たことがないけど、日本のファンは熱心だと聞いている。トヨタのファクトリーがある日本でやれることはいいことだ。ラリーは他のモータースポーツと異なり、それぞれが異なる環境で走る競技だ。ラリーを見たことがないファンには、そうした環境の中でドライバーがどう走るか楽しんでほしいと思う。

ヤルヴェオヤ選手:ラリーでは公道を走るので、普段走っている道を“普通じゃない人たち”が走るとどうなるのかを見てほしい。

ミーク選手:日本のファンは情熱的で、モータースポーツ文化への理解度が高いと聞いている。日本でWRCが行なわれることはトヨタにとっても、そして他の日本の自動車メーカーにとっても素晴らしいことだ。

マーシャル選手:セントラルラリーもポジティブな結果だと聞いているし、日本の道を走るのはエキサイティングなことだと思う。新しいラリーに望むのは楽しいと、コ・ドライバーならみんな思っている。平均速度はあまり高くないと思うが、日本の道は難しいので大変なラリーになると思う。楽しみだ。

――2020年に向けてドライバーが変わる可能性があると思うが、それでもチームのレベルを維持するには何が重要か?

マキネン代表:ドライバーがよりよい条件を求めて他のチャンスを求めるのは理解できるし、すべてのシーズン後に変化があるのは普通のことだ。チームとしては何が重要なのかを常に注目している。一般論としては、若いドライバーにもっとチャンスをあげた方がいいと常に議論している。来年もタカモト(筆者注:トヨタの育成ドライバーの勝田貴元選手)のプログラムを続けていく。いろいろな要素があるが、チームのレベルを上げていくのが私の仕事だ。

――タナック選手に。6連覇していたオジェ選手を倒したことをどう思っているか?

タナック選手:オジェ選手がリタイアする前にタイトルを獲ることが僕の1つのターゲットだった。この15年、2人のセブ(筆者注:2004年~2012年までセバスチャン・ローブ選手、2013年~2018年までのセバスチャン・オジエ選手という2人だけがタイトルを獲得してきたこと)だけがチャンピオンを獲ってきたので、そのオジェ選手がリタイアする前にタイトルを獲れたことは嬉しい。2017年に彼とチームメイトとして戦い、そこから多くのことを学んで来た。その彼に打ち勝つことができたことは特別なことだ。

――最終戦のオーストラリア・ラリーのキャンセル時の状況について教えてほしい。

ミーク選手:オーストラリアの自然災害は大変怖いもので、スポーツよりも人命を優先すべき事態だったため、オーガナイザーの決断は正しかったと思う。中止後、われわれはチャリティに協力したり、現地の消防署を親善訪問して説明を受けたりした。2010年にも大きな火災があり、その時には多くの人が亡くなるような火災だったと伺った。それに比べると、今年の場合は備えができていて状況は改善されていると聞いているが、まだ火災が続いていると聞いているので、早く改善することを祈っている。

――ラトバラ選手は2020年のラリー・ジャパンでコーヒーショップを出す予定はないか?

ラトバラ選手:それはいいアイデアだ。僕はヘビーなコーヒー愛好者で、ヤリ-マティ・コーヒーというのを発売しているぐらいで、去年トヨタのショップで売り出そうとしたんだ。欧州から日本への輸入は手続きが大変だったが、検討の余地はありそうだ(笑)。

――トヨタがマニファクチャラー選手権で厳しい形になったのは、他のマニファクチャラーがセカンド、サードのドライバーをグラベルとターマックでドライバーを変えるなどのローテーションを行なったという見方もあるが、来年はどうか?

マキネン代表:ローテーションについては考えてみたことはある。現役の時に感じていたことは、専任のドライバーであればクルマをもっとよく理解できるということだ。このため、われわれの戦略はフルタイムのドライバーだ。来年に関してはまだドライバーのラインナップも決まっていないし、現時点で公表できることはない。

【お詫びと訂正】記事初出時、写真とキャプション表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。