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トヨタ、GRヤリス向けスポーツタイプの新型8速ATを開発 早川副会長を開発ドライバーにラリチャレでデビュー

GRヤリスに搭載された新開発の8速AT。完全新設計のステップAT

GRヤリス向けの完全新設計8速AT、目的は楽しく速く走れること

 3月13日に行なわれたTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジ(以下、ラリチャレ) 第1戦 安芸高田では、「GRヤリス」の開発車両が持ち込まれていた。それがE-4クラスに参戦していた、109号車 ルーキーレーシングGRヤリス 889(早川茂/山内理恵子組)になる。

 この109号車は外観から異なり、フロントマスクはより開口部の大きいものを一から設計。左右の開口部には、オイルクーラーとATオイルクーラーを配してある。ATオイルクーラー?と思われるだろうが、そうこのGRヤリスには新設計のAT(自動変速機)が搭載されている。

8速ATを搭載するGRヤリス 109号車
新開発8速ATの開発ドライバーも兼ねるのがトヨタ自動車 代表取締役副会長 早川茂氏

 開発スタッフにこのATの概要を確認すると、完全新設計の8速ATであること、トルクコンバータを使ったステップAT(いわゆる通常のATですね)であること、変速部分はプラネタリギヤを使用してギヤ比はクロスして設定してあることなどが分かった。

 開発方針も「速く走ることにこだわった」もので、燃費だけを狙うのではなく、速く気持ちよく変速していき、結果的に楽しく速く走れるようにするものだという。とくに低い段ではクロス気味にギヤ比を設定したというので、スムーズにスピードを乗せていくことを狙っているのだろう。

 モリゾウ選手はこの新開発8速AT搭載車のプロトタイプを用意した狙いについて、「GRヤリスというとスポーツカー、スポーツカーというとマニュアルとなるのだけれど、オートマチックでも相当コンペティティブだなと。ひょっとしたらオートマチックのほうが、コンペティティブな部分があるよねというのを示せたと思います」と語る。このラリチャを通じて開発を行なっていくとした。

 この完全新開発の8速AT搭載車でラリチャレに参戦しているのが、トヨタ自動車 代表取締役副会長 早川茂氏。早川選手は、2021年シーズンはトヨタ「86」で参戦していたが、2022年からはこのGRヤリス8速ATで参戦することになった。

こちらは通常タイプの110号車のグリルまわり
早川副会長のドライブする109号車のグリルまわり
右側にはオイルクーラー
左側にはAT用オイルクーラー

「もう全然違う」と早川副会長

運転席側から見たコクピット
スタンダードなATセレクトレバーを備える。シフトもできるようだ
パドルシフトを備える

 早川選手にGRヤリス8速ATの手応えを聞いたところ、「今回初めてこのクルマ(GRヤリス8速AT)で出させてもらって、ちょっと練習をモリゾウさんとやったのですが、もう全然違うんですね」という。開発ドライバーとしての位置づけのためか、「壊していいよと言われています。すでに一度壊しました」(早川選手)と、テストコースでは負荷をかける運転をしたためか、壊れたとの実例を教えてもらった。

 開発中の製品のため、限界ギリギリを狙っているところはたくさんあり、壊れるなど不具合が出るのは当たり前だし、不具合を出して直していくのが開発作業そのものでもある。ただ、それを正直に語っていただいたのには驚いた。モータースポーツを起点にしたクルマづくり、公開開発といったキーワードで語られるようになったトヨタのスポーツカーづくりの正直さは、将来製品になったときの信頼にもつながっていくのかもしれない。

 モリゾウ選手は、「このGRヤリスは、今までの開発とは全然違う。全然違うようなアプローチでやっている。言葉で言っちゃうとアジャイルとか、壊して作ろうとかいうんだけど、やっぱりものすごい現地現物。あのプロも乗り、われわれジェントルメンドライバーも乗り、評価ドライバーも乗り。いろんなやり方をやって、とにかくクルマを痛めつけています。そこで開発陣は、かつては、かつてはですよ、データ上問題ありませんとか、号口(ごうぐち、市販製品のこと)で問題がなければいいでしょとかいう会話で止まっていた。(それが)モータースポーツを起点としたクルマづくりで、みんな変わってきていると思います。あのクルマ(GRヤリス)をきっかけに」と、とくにスポーツカーのクルマづくりは大きく変わったと語ってくれた。

 この8速ATはパドルシフトでも変速できるようになっていたが、開発陣によると「D」ポジションで速く走れることが目標。そのためにはギヤ比とともに変速マップなども作り込んでいく必要がある。また、このGRヤリスに8速ATという大規模ユニットを組み込めたのは、3気筒というGRヤリスのエンジンが貢献しているとのこと。フロントまわりはGA-BというコンパクトなGRヤリスだが、いずれは8速AT仕様が加わっていくのだろうか?