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10歳の豊田少年が見た風景を今の子供に見せたいと豊田章男氏 一般見学を視野に入れたルーキーレーシングの新ガレージ竣工

ルーキーレーシングの新ガレージ竣工であいさつを行なう豊田章男代表 ドライバーのモリゾウ選手でもある 写真撮影:三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY

ルーキーレーシングの新ガレージ竣工式

 3月3日、ルーキーレーシングの新ガレージ竣工式が行なわれた。富士スピードウェイの西ゲート付近ではかねてからルーキーレーシングのガレージの建設が行なわれていたが、そのガレージが無事にできあがったことになる。

 竣工式には施主であるルーキーレーシング代表 豊田章男氏、設計を行なった日建設計 代表取締役社長 大松敦氏、施工を行なった大林組 代表取締役社長 蓮輪賢治氏ら関係者が多数出席。浅間神社より宮司を招いて竣工の神事式が行なわれた。

 2022年の東京オートサロンにおける富士スピードウェイのブースで展示されたように、富士スピードウェイ近辺では世界的なモータースポーツエリアへするべく各種の大規模な開発が進んでいる。西ゲートの近くには「富士スピードウェイホテル アンバウンド コレクション by Hyatt」という日本初進出のハイアットブランドのホテルを建設中で、2022年秋に開業予定。その富士スピードウェイホテル内には、モータースポーツの歴史をたどることができる「富士モータースポーツミュージアム」が開業する。

 開発の進む富士スピードウェイ西ゲートエリアで最初に竣工したのが、ルーキーレーシングの超巨大ガレージになる。

富士スピードウェイの西ゲートエリアに竣工したルーキーレーシングの新ガレージ 写真撮影:三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY

モータースポーツの未来を変えていく意思を持つルーキーレーシング

 ルーキーレーシングは、トヨタ自動車 代表取締役社長でもありモリゾウ選手としてラリー活動やレース活動を行なう豊田章男氏が代表を務めるレーシングチームで、2020年5月から活動を開始。当初は謎のチームでもあったが、2021年の本格活動を前に豊田章男氏のプライベートチームであることが明らかにされ、「トヨタにはToyota Gazoo Racingというワークスチームがあるのになぜ?」など大きな話題となったチームだ。

 2021年シーズンのはじめに、日本で最高格式のフォーミュラレース「スーパーフォーミュラ」と、最も人気のあるGTレース「SUPER GT」の参戦を発表。とくにSUPER GTの第1戦岡山では14号車 GR Supra(大嶋和也/山下健太)がデビューウィンを飾るなど、インパクトのあるスタートを切った。

 当初はトヨタのエースチームとも見られたルーキーレーシングだが、その第1戦岡山が行なわれた4月下旬に驚きの発表が行なわれた。4月22日11時に豊田章男氏は日本自動車工業会の会長として「私たちのゴールはカーボンニュートラルであり、その道は1つではない」とeフューエルや複合技術活用を語ったあと、午後にはトヨタ自動車 社長として水素を燃やして走る水素燃焼エンジンを搭載する「カローラ」(以下、水素カローラ)を発表。そのレース参戦をスーパー耐久で行ない、ルーキーレーシングにチーム運営を委託。富士24時間レースにいきなり参戦し、ドライバーの一人にはモリゾウ選手を起用するとした。

 当時、クルマの脱炭素の回答は電気自動車、しかもバッテリEVのみしかないという雰囲気になっていたが、そこへ一石を投じ、内燃機関の1つの未来を示した。その後の世の中の変化は多くの人が感じているとおりで、カーボンニュートラル系燃料を活用した内燃機関などの見直し機運が強まっているほか、水素カローラも毎戦開発が進み、同じベースエンジンを使うガソリン車を超えるほどの馬力を獲得するほど進化していった。

 Toyota Gazoo Racingというトヨタワークスは、WEC(世界耐久選手権)やWRC(世界ラリー選手権)といった世界的なレーシング活動での勝利を目指しているが、水素カローラの参戦以降、ルーキーレーシングは単に勝利を目指すのではなく、豊田章男氏の思いを前面に出して「世の中を変えていこう」という意思が強く働いていることが徐々に明確になっていった。

「モータースポーツを心から愛し、モータースポーツをもっともっと盛り上げたいと強く願う」

「そのために持てるチカラの全てをかけて素晴らしいレースやラリーをしたいと動く」

「やるからには勝ちにいく。勝とうとする努力が、もっといいクルマづくりにつながっていく」

「そんな姿を見ていただくことで、ファンの皆さまに笑顔になってもらいたい」

「参戦する立場だからこそ得られる技術や技能があり、知ることのできる事実や課題がある」

「クルマが好きでクルマに育てられた“恩返し”のために、得られたことの全ては自動車産業にフィードバックしていく」

 設立時に以上の思いを掲げていたルーキーレーシングが、2022年シーズンを前に竣工したのが富士スピードウェイ内にある新ガレージになる。

「10歳の私がパドックで見たようなきらきらと働くメカニックの姿がここで見られる」と豊田章男代表

2つの思いを語る豊田章男代表 写真撮影:三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY

 竣工式の施主あいさつで、豊田章男代表は新ガレージに込めた思いを語った。

 豊田章男氏は工事に関わった人たちに感謝を述べたあと、「昨年2月、このガレージの完成が2年後と聞き、もっと早くならないかなと思わず無茶なお願いをさせていただきました。何とか来シーズンに間に合わせてほしい、こんな無茶を申し上げた裏には、2つの思いがございました」と語り、それぞれの思いを明かした。

 1つは、この一帯で最初に完成するのは、このガレージであってほしいということになる。「話は56年前にさかのぼります。私は10歳の誕生日を、ここ富士スピードウェイで迎えました。父が第3回日本グランプリに連れてきてくれたからです。プレゼントの中身は走り抜けるかっこいいクルマとうるさいエンジン、そしてクルマをいじるかっこいい大人たちの姿でした。このガレージには、見学に来た子供たちにメカニックの作業をよく見てもらえるような工夫がちりばめられております。10歳の私が感じたように、子供たちの記憶に残るクルマの原体験をしてもらいたい」という。

 竣工式後行なわれた鈴鹿のファン感謝デーでも、同様に第1回日本グランプリに父(トヨタ自動車名誉会長 豊田章一郎氏)に連れてきてもらったことをビデオメッセージで語っており、豊田章男代表は子供のころから日本グランプリのレース観戦を鈴鹿や富士で行なうなど、クルマ好きの英才教育を受けてきたことを明かし、多くの子供たちに同様の原体験をしてほしいと語る。

 そのため、レースシーズン前に屋上から富士スピードウェイのコースが見られるルーキーレーシングのガレージが完成する必要があったとのこと。

 そしてもう1つはルーキーレーシングのメンバーに対して。「もう1つはルーキーレーシングのメンバーたち。1日でも早く、もっとよい環境で仕事をしてもらいたいという思いでした。よい環境でよい仕事ができればクルマももっと速くなる。そうすれば勝てる。そんな気持ちもありましたが、それよりもメカニックという職業、子供たちにとってもっと憧れの職業になっていてほしいと思うのが大きな理由です。そうなるためには、メカニックの職場改善が絶対に必要でした。おかげさまで本当に素敵な作業場ができあがりました。メカニックたちはここで素敵な仕事をしてくれると思います。10歳の私がパドックで見たようなきらきらと働くメカニックの姿がここで見られると思います」とあいさつ。

 豊田章男代表は、10歳の豊田少年が日本グランプリで見たようなメカニックの働きを、今の子供たちに見せたいという。

 実際、ルーキーレーシングの新ガレージは見学施設が充実しており、来客がメカニックの働きをよく見られるような構造になっている。さらに前述したような屋上からの見学施設も用意されている。

 そして豊田代表は驚きのあいさつをする。「そんな私の無茶な発言を実現してくださったのが、日建設計様、大林組様、そして施工業者のみなさまです。健康と安全を第一に遂行するだけでも大変なコロナ禍において、無災害で予定どおりに完成の日を迎えてくださいました。週6日で稼働し、天候不順で遅れが生じたときには、土日も返上しがんばってくれたと聞いております。工事に携わっていただいた55社、1140名のみなさま、本当にありがとうございました。まだこの後も2期棟、3期棟の施工もございます。どうか健康と安全対策引き続きよろしくお願いいたします。ちなみに工事の現場をリードしてくれた石原さんと安保さんの息抜きは、ここの屋上でコースを走るクルマを眺めることだと聞きました。先日のテストの際、そこから声援を送ってくださったそうでございます。4月と5月には富士でレースがございます。そのときもぜひ屋上にお越しください」。

 このあいさつから分かるように、今回竣工したルーキーレーシングの新ガレージは1期棟にすぎず、2期棟、3期棟も用意されているという。

 豊田代表は、「1本目の木であるわれわれの使命は、モータースポーツ業界で、今までにないほど素敵な職場を作ることだと思っております。モータースポーツの未来、そして自動車産業の未来を切り開く木として、まずはわれわれがその役割を果たしてまいりましょう。そんなわれわれの誓いをみなさまへのお礼に代えさせていただき、本日のごあいさつとさせていただきます。関係者のみなさま、本当にありがとうございました」と、施主代表あいさつを結んだ。

 富士スピードウェイでは、4月9日~10日に「全日本スーパーフォーミュラ選手権 第1戦・第2戦」、5月3日~4日に「AUTOBACS SUPER GT 第2戦」、6月3日~5日に「ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook 第2戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」といったビッグレースが予定されており、いずれもルーキーレーシングは参戦予定だ。富士24時間までにはルーキーレーシングの新ガレージは見学可能になると思われる。10歳の豊田少年が見たような素敵な風景を、今の子供たちが見られるときが来るのはとても楽しみだ。

竣工式後の記念写真 写真撮影:三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY