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スバルは「意思ある情熱と行動」を掲げ、水平対向エンジンの未来へ向けワークス活動復帰 スーパー耐久でトヨタとガチンコ勝負
2022年3月18日 13:30
スーパー耐久にフル参戦、ワークス活動はWRC以来
スバルは3月19日~20日、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催されるスーパー耐久第1戦鈴鹿5時間レースのST-Qクラスにワークス体制で参戦する。これは、2021年のスーパー耐久最終戦岡山で明らかにされていたもので、トヨタ自動車のGR86とともにカーボンニュートラル燃料を使って参戦。ともに競い合いながらレースを通じて開発を行なっていく。
トヨタはGR86に開発中の1.4リッター直列3気筒ターボを搭載。一方スバルはBRZに2.4リッターの水平対向4気筒自然吸気エンジンを搭載。レースにおけるターボ係数を掛ければ同等という枠組みになっている。燃料は同じカーボンニュートラル燃料を用い、BRZ、GR86それぞれの車体にエンジンをマウント。マウントを工夫することで、車体は共同で開発していく仕組みになっている。
つまり、ST-QクラスにおけるBRZとGR86の公開開発は、カーボンニュートラル燃料を用いるエンジンは競争領域、車体は協調領域という位置づけ。次世代のFRスポーツカーを、スポーツの現場であるスーパー耐久で開発していくという。スーパー耐久には、第1戦鈴鹿の5時間レースをはじめ、第2戦富士の24時間レースなど、信頼性や燃費性能が必要となるレースが多い。パワー、燃費、信頼性、そしてスポーツカーらしさを競い合いながら開発していくことになる。
主眼は将来の開発のため、STI(スバルテクニカインターナショナル)ではなく、スバル本体での参戦。つまり、WRC(世界ラリー選手権)以来のスバルワークスでの活動になった。これはマツダも同様で、カーボンニュートラル燃料「サステオ」を使うディーゼルエンジン搭載のMAZDA2でワークス参戦。2022年のST-Qクラスは、トヨタ自動車、スバル、マツダといった日本を代表するチームがワークス参戦する豪華なクラスとなっている。
富士のタイムは、GR86に比べてやや苦戦か?
開発が主眼とはいえ、昨年の最終戦岡山での参戦発表時に中村知美社長は「出るからにはがんばってガチンコ勝負を挑みたい」と発言。監督には本井雅人氏(スバル研究実験センター長)、チーフエンジニアには竹内源樹氏(ボディ設計部)、ドライバーには廣田光一氏(車両運動開発部)のほかに、SUPER GTでGT300クラスを制した井口卓人選手、山内英輝選手の両名も加わっている。両名はニュルブルクリンク24時間でもクラス優勝しており、日本でトップを争うドライバーといってもよいだろう。スバルはガチンコで勝負できる体制を整えてきたわけだ。
富士の公式テスト時点での最速タイムは、ST-QクラスのGR86の1分53秒454に対し、1分56秒197と遅れていたが、お互いテストメニューも異なるため、なんとも言えないところ。ただ、GR86のほうがタイムの出がよく、BRZは着実にタイムを詰めているという印象だった。3月19日から始まる鈴鹿の予選で、実力が明らかになっていくだろう。
ドライバーと監督、チーフエンジニアに聞く
この61号車 Team SDA Engineering BRZ CNF Conceptをドライブする井口卓人選手に富士公式テストで開発の方向性を聞いたところ、「うちはうちらしく、スバルらしさをレースで出していきたい。タイムは戦う上で必要なのですけど、乗りやすくていいクルマを作っていきたい」とのこと。山内英輝選手は、「トヨタさんに勝つという意味ではいろいろやっていく必要があるが、今あるクルマをお客さまに『いいクルマだね』って言ってもらえるような形が最終目標だと思っています」と語り、まずはスポーツカーとしてのクルマを仕上げていき、トヨタと競っていくようだ。
監督である本井雅人氏、チーフエンジニアである竹内源樹氏に聞いたところ、エンジンは競争領域であるものの、ボディまわりやカーボンニュートラル燃料の送り出しにかかわる領域は共同でトヨタと開発を行なっているという。
たとえばレースでは安全燃料タンクという特別なタンクが必要となるが、これは設計をスバル側で行なって、GR86も同じものを使っているとのこと。カーボンニュートラル燃料は従来のガソリン燃料に比べて、アルコール成分などが多く、より微細な隙間から染み出していきやすい。そのような特性も考慮して、燃料の送り出し系統を設計する必要があるようだ。
これはエンジン開発も同様で、スバルは従来から手がけてきた水平対向の自然吸気エンジンを使うが、カーボンニュートラル燃料の特性もあって、横Gがかかったときの燃料の染み出しなどの確認を行なっていくという。燃焼室まわりから燃料が染み出すと、それがオイル系統にまわり、オイルがシャバシャバになってしまう。結果、潤滑不足となりトラブルへとつながっていく。
スバルがワークス復帰したことについて聞くと、そこには大きな2つの目的があるとのこと。1つは、「カーボンニュートラルの将来に向けて選択肢を残したい」「水平対向の未来を残したい」ということになる。「カーボンニュートラルの将来に向けて選択肢を残したい」は、バッテリEV一辺倒でない将来のクルマのあり方になる。
スバルは新型車「ソルテラ」でバッテリEVに本格参入となるが、将来のクルマ構成を考えたときに、バッテリEVだけでない未来を模索するということだ。「水平対向の未来を残したい」は、スバルの特徴である水平対向エンジンがカーボンニュートラル燃料の普及によって、カーボンニュートラル社会でも成り立っていくならば、それを打ち出していきたいということだろう。
2050年のカーボンニュートラル社会を見すえた場合、今から開発をしていかねばならず、水平対向エンジンを残すことの難しさを本井氏も竹内氏も強く感じていた。エンジニアは十数年先の未来を見て開発しており、今の市販車を見ている自分とは、危機感が根本的に違っているのを感じた。
リアウィンドウに掲げられた「意思ある情熱と行動」
実際、61号車のリアウィンドウには「意思ある情熱と行動」というメッセージが掲げられており、バッテリEV一辺倒ではない未来を作り上げるという強い思いが感じられる。この言葉は、モリゾウ選手(というより、日本自動車工業会 会長としての豊田章男氏)が常に言い続けている言葉だが、「思いを一緒にして走る」(本井氏)とのことだ。
そしてもう1つの目的がエンジニアの育成。この61号車には、前述のように井口卓人選手、山内英輝選手といった一流のプロドライバーも乗っているが、廣田光一氏(車両運動開発部)という社内ドライバーも乗っている。これはスバルドライビングアカデミーという社内組織からの参加となり、車両の開発エンジニア自身がステアリングを握るとのことだ。
このスバルドライビングアカデミーは2015年に創設された組織で、平均年齢も20代で主力が3年目~5年目という若手のエンジニアが多い。スバルではテストドライバーという専門職がなく、エンジニア自身が「乗って、感じて、考えて、物理にする」といった開発ラインをすべて担当している。「乗って、感じて」というテストドライバーと、「考えて、物理にする」というエンジニアリングをすべて担当するというのだ。
その部分にスーパー耐久参戦が入ることで、毎戦毎戦の課題も明確になり、開発速度が上がり、開発ノウハウも蓄積されていくだろう。そしてなにより、1.4リッターターボのGR86というライバルがいるため明確な目標もある。スバルの挑戦、スバルの進化が楽しみなスーパー耐久参戦だ。