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SUPER GTレース・ダイレクター服部氏・坂東代表による第2戦富士の事故に関する会見詳細 事故そのものはレースアクシデントと認定

2022年5月29日 開催

SUPER GTレース・ダイレクター 服部尚貴氏

 SUPER GTのプロモーターであるGTアソシエイション(以下、GTA)は5月29日、SUPER GT第3戦鈴鹿が開催されている鈴鹿サーキットにおいて定例会見を開催した。今回の定例会見は、第2戦富士において発生した3号車 CRAFTSPORTS MOTUL Z(千代勝正/高星明誠組、MI)の事故の検証について行なわれた。

 定例会見はGTA 代表取締役 坂東正明氏のほか、SUPER GTレース・ダイレクター 服部尚貴氏も参加。インカー映像などを用いた説明が行なわれた。事故後、各方面に大きな影響を与えたこともあり、今回の定例会見はすべての記者の質問にすべて答える形で実施され、1時間を越えるものとなった。

GTアソシエイション 代表取締役 坂東正明氏

事故そのものはレースアクシデントと認定。ビデオ検証した結果を正式に説明

 会見の冒頭、GTA坂東代表、服部レース・ダイレクターの2人から第2戦富士で発生した事故の検証結果などに関しての報告が行なわれた。

服部氏:前回のレースで大きなクラッシュがあったということで、なぜ起こったのかを検証した。そもそも事故そのものは、前回のレースの時点でレーシングアクシデントと認定し、その判断は今も変わっていない。しかし、今後どうすればそういう事故を防げるのかということも含めて、事故の調査を車載カメラの映像などすぐに確認することができない映像を含めて検証した。

(GTAが検証に利用した映像が会見場で流される)

服部氏:50号車が最終コーナーを立ち上がってきたところから時速170kmとスピードが上げられない状態になっており、コントロールラインをまたぐぐらいからは時速130kmまで落ちている。この時にストレートでグランドスタンド側にあるポストでは白旗が出されており、後続車両に対してスローダウンしている車両があることを伝えていた。ところが運営サイドとしては申し訳ないことに、次のメインフラッグタワーでは、後続の3台がそこに到達するまでに白旗を準備することができていなかった。

 そしてそのスローの50号車もストレートのピット側ギリギリや、白線の内側などを走るのではなく、イン側のグリッドアングルにかかる位置を走ってしまっていた。グリッド枠からピット側の白線まで2.5m、さらにその白線からウォールまで3mある。本来では(スロー走行している車両なのだから)白線をまたいだり、踏むぐらいで走ってくれていれば状況は違っていた。そうした複数の要因が重なって起きたという事故だ。

(ここで、39号車のインカー映像が流される)

服部氏:39号車のドライバー(関口雄飛選手)はどこで本人は気がついたのかということだが、本人に聞く前の段階でさまざまな映像を分析してみたが、(39号車がスリップストリームを得るために利用している31号車がピットレーンに向かって)31号車が抜けた後、その時点で遠くに50号車は見えていたと思う。しかし、その50号車のスピードがレーススピードなのかトラブルなのかは分かっていなかったと思う。それを関知したのはスタートライン上のブリッジぐらいではないだろうか。では、それはなぜか?

(ここで、3号車のインカー映像が流される)

服部氏:3号車はストレートスピードがとても速く、ものすごい勢いで前走車(39号車)に迫っている。この状態で、ドライバーの立場で言わせてもらえば、前2、後8ぐらいの割合で、ほとんど後ろに集中しているような状態だ。抜かれないようにどうしたらいいかだけを考えていて、後ろがどうなっているかして見ていないだろう。

(ここで39号車が50号車を左へとよける前に、3号車が右にステアリングを切る様子が映像で示される)事故がああした形になってしまったのは、3号車は39号車のスリップを出るために右にハンドルを切っている。その後39号車が左に50号車をよけ、3号車も50号車が見えたのでステアリングとブレーキを入れてしまい事故としては大きなものになってしまったと検証した。

(インカー映像だと)39号車が速く動いたように見えるが、それは3号車が右、39号車が左に動いているので、速く見えるということだ。みなさんが見たオフィシャルのカメラ映像だと(カメラ自体が)振られているので、実際とはやや違うように見えることもある。

 そうしたことが複合的に発生して起こってしまった事故だと分析させてもらい、報告書を書かせていただいた。大事なことはどうしたら次にこうしたことが起こらないかと考えていて、運営としてはスローな車両がいることをできるだけ早く後続車に伝え、白旗のポストとポスト間の連絡ももっと円滑にいくように連絡網を強化していきたい。

 またドライバーたちに関しては、トラブルが発生した車両は何らかの方法で自分がトラブっていることを後続車に伝えていくことが防止策の1つである。今回のように3台がつながっていく場合には、プロのドライバーなのだから検知能力を最大限発揮してもらって、何かが起こっているということを察知してもらうことが大事だ。

 前のクルマは見えているが、後ろのクルマは見えないという状況では後ろの仲間を守るような行為に切り替えてもらうことが大事だ。レースに参加しているのはプロのドライバーなのだから、そうした状況を後ろに適切に伝えていただくことが大事になる。

(坂東代表から、前回のレースがどうしてセーフティカー先導のまま終了したのか説明してもらうという話があり)

服部氏:大きなクラッシュがメインストレートで起きて、ガードレールも含めてかなりの損傷を受けた。その時点で(獲得ポイントが)フルポイントには至らない75%以下の距離になっていた。ガードレールの打ち直しを考えたが、(レースの最大)終了時刻までに終わらない。そこで応急処置でもよいので、レースを続ける策はタイヤバリアだとなり、レース終了時刻までに終わるやり方をトライした。

 終了時刻の20分前の時点で、競技長と一緒に修復現場を見に行って、一番怖いセカンドインパクトが発生したときのことを考えると、このまま続けるのは難しいという話になった。そこでそのままレースを終えるのではなく、レースを少しでも75%に近づけるようにしようということで、セーフティカー先導でのリスタートを選択した。レースそのまま終了させるのではなく、レースを成立させるために努力するというのが我々の共通認識で、安全第一でレースを成立させるために全力をつくした。

坂東代表:レース運営はレース・ダイレクターである服部氏に一任している。レース中は、判定はその場で行なってレースを先に進めるということでやっている。今回は大きな事故だったということもあり、そこはしっかり検証して、説明する責任があるだろうと考えて服部氏に出席してもらって説明してもらった。我々としてはそうしたレース運営は高いクオリティでやっているつもりで、それを多くのお客さまに知ってほしいと思い、この会見を設定した。

 また、前回のレース中の事故ではお客さまがお一人怪我をされた。お客さまが怪我をされたことに関しては心よりお見舞い申し上げたい。そして映像を見ていただいて分かったように、3号車をドライブしていた高星選手もこの状況からよけたことに関して、高い回避能力だったと感じている。その高星選手を救出したGTAのメディカル、富士スピードウェイの医療体制、そして事故が起きてもドライバーを無傷で守るような安全なクルマを作り上げたニスモ、事故が起きてからセーフティカーが出るまで3秒しかかかっていないなど、関係各所のクオリティの高さがわれわれのレースを支えている。

 今回、事故が起きてからの検証に関しては、GTA、DSO(Driving Standard Observer、ドライバーのドライビングなどについて審査を行なう組織。ドライバーにペナルティを出したり、ペナルティポイントの付与などを行なう)で情報共有しながら進めた。また、JAFとも連絡を取りながら進めており、レース部会、安全部会などとも連絡を取り合っている。JAFからはFIAにも報告してもらって今回の教訓を世界に発信していきたい。JAFとも協力して国内のモータースポーツがもっと発展できるように協力していきたい。

レースが終わってから検証に時間をかけ、今回のレースでドライバーや記者に説明することにした

 坂東代表、服部レース・ダイレクターの冒頭説明が終了した後、日本モータースポーツ記者会の高橋二郎会長からの代表質問、その後記者からの質問などが行なわれた。

──レース界において、こういうアクシデントの後、詳しく説明していただいたことは歴史的に初めてなのではないか、記者としてもこうした取り組みには感謝したい。今回の事故はレーシングアクシデントとしてペナルティは出さないということだが、あるチームからはお詫びのような形でリリースが出ている。それに対してGTAとしてはどう考えているか?

坂東氏:そうしたリリースに関してはチームが各々の判断で出している。自分の理解は後続を思う心という点でのお詫びだということだ。プロの世界でチーム、ドライバーも競争している。戦略があって、策があって、それがレースである。しかし、ほかの参加者への仲間意識がないと、レースとしては成立しない。

 われわれがやっているレースは、GT500とGT300という速度の違うクルマで混走するレース。そうした環境の中で戦略を駆使しながら競争を行なっている。集団の中でやっていて、危機回避は必要である。そこに関してのリリースであると理解している。

 ドライバーズブリーフィングでもさまざまな意見が出た。今回のような事故を起こさないように、どうしたらいいかを考えていかないといけないし、起きないようにする規則、さらに安全な車両を作っていかないといけない。

──作業検証の流れ、第2戦が終わってから約2週間だと、遅いのではないか?という意見もあるのではないか……。ドライバーズブリーフィングでも、やや感情的な反応があったという話だが……。

坂東氏:遅いといっても、しっかりという裏付けのある検証をしなければならないということで、それなりの時間がかかったということだ。

服部氏:ドライバーたちにとっては、こちらが正式な見解を出さないと、SNS上でやや厳しい反応があったりなどがあって、つらいという思いはあったので理解できる部分である。例えば、なかには「ペナルティはいつ出すんだ」という方々もいた訳だが、われわれとしてはレーシングアクシデントという判定をしたので、ペナルティを出すということは考えていなかった。

 それを自分が説明してもよかったが、こうした正式な会見で説明してからのことだと思っていたので、声明などを出すことは差し控えた。今回の件についてさまざまな意見があって、なかには誹謗中傷みたいになってしまっている場合もあって、ドライバーたちが心を痛めている状況は気の毒だなと感じていた。

──こうした動画を公開するという意見はなかったのか? 事故発生時には、場内放送で動画などの撮影は差し控えてほしいというアナウンスもあった。だが、現代は観客のみなさまも発信者になれる時代だ。

坂東氏:こういう時代だからお客さまの発信というのもあるということは認識している。いい発信をしていただくのはいいのだが、ちょっと違うなというのを抑えるものではない。お客さまにそうした発信をいただくことはプラス面とマイナス面があり、大事なことは正確な情報をきちんとお客さまに届けていくことだと考えている。だからこそこうした記者会見などを行なっている。

GTA広報:場内放送でそうしたお願いをした経緯は(大クラッシュした3号車をドライブしていた)高星選手の状態が、その時点ではまったく分からず、さまざまな事態を想定してお客さまにご迷惑がかかるかもしれないとは認識しながら取り急ぎ緊急事態としてアナウンスすることを決断した。自分自身としてはあれがベターな対応だったと思うが、よかったというご意見もあれば、やり過ぎではないかというご意見があったことも承知している。

 今回の鈴鹿のレースでそういうことがあったときにどうするかは鈴鹿サーキットとも話をしており、状況次第ではあるが同じような対応を採る可能性がある。しかし、ケースバイケースで必ずこうするというのは今の段階では言えない。

──3号車をドライブしていた高星選手が右にハンドルを切ったのはなぜか?

服部氏:あくまで私見だが、右にハンドルを切ったのはイン側から抜こうとしていたと思う。あの時点で3号車はトップを走る39号車のスリップに入っており、そのままでは追突してしまう、だから右にハンドルを切ったのだと思う。あの瞬間、レースでは白線は越えちゃいけないとなっていても、富士ならイン側を押さえたいからほとんどのドライバーは右側にハンドルを切ると思う。

──ガードレールが破損した場所にタイヤバリア設置後、SC(セーフティカー)でゴールしたのはなぜか? そもそもタイヤバリアで走らせるべきではなかったのではないか?

服部氏:過去のレースを思い出してほしいが、車両が安全な場所に移動できれば車両がコース脇に残ったままのレース続行もあった。ただ、ガードレールが破損したままではレースを続行することができないということで今回の措置になった。

──服部レース・ダイレクターは、実際の当事者、そのあたりのドライバーに話を聞いたりしたのか?

服部氏:検証時は外の意見を入れずに検証したかったので、それが終わってから聞いている。(39号車をドライブしていた)関口選手には「言葉が足りないよ」ということを注意しておいた。ドライバー本人の言葉はとても重く、メディアに対して言葉足らずというのはいいことではないという話をしておいた。

──ドライバーの考えていたこと、ずれはあったのかなかったのか?

服部氏:関口選手は自分が思っていたことと真逆のことに伝わっていたりして、損しているよという話をした。もし自分がドライバーとして相手をひどい目にあわせてやろうと思うなら、「ギリギリまで分からなくて~」みたいなコメントをします(笑)。そうじゃいから関口選手はああいう言い方になるのだと思う。

 映像から見れば本気で緊急回避しているだけで、あのZの速さで来られると、どっちから攻めに来るんだろうという話だったと思う。本気でそういうことをやって相手を陥れようなんていうドライバーはSUPER GTにはいないと思う。

坂東代表:これから服部レース・ダイレクターと話をするときには要注意だ(笑)。

──レースアクシデントは不可抗力で避けられなかった事故、という理解か?

服部氏:レース中に起こり得る可能性がある事故だったという認識だ。

──スロー走行時のハザードやウインカーというのはルールの中にはないのか?今後規則に導入する可能性はあるか?

服部氏:今の所はないという認識だ。インターナショナルのルールの中にコースをゆっくり走ってはいけないというのがあるが、それをどう解釈するかということであって、これが禁止しているのはわざとゆっくり走るのを禁止ということで、今回はトラブルが発生していたのでそれに該当するのかなどは議論としてある。ウインカーやハザードに関しては、JAFからFIAの提案として考えている。

──ドライバーへの説明はどのような状況だったのか?

服部氏:数名のドライバーは異論があったようだが、それ以外は納得してくれていたと受け止めている。みんなの意見も聞いてみると、それはどうなのという意見もあったことはあるが、こういうシチュエーションに自分が直面したときにどうなるのかということだと思う。今回のレースを見ていると、コース上でトラブルを出したクルマはウインカーとかを出してくれているので、みんな真剣に考えてくれていると思う。

──50号車のドライバーとは話をしたのか? メインポストでの白旗の改善はどうするか?

服部氏:50号車のドライバーとは監督を交えて話をさせてもらったが、本人は寄っていたつもりはあったのだけど、結果トラブルになったので、そこの認識はきちんとしてほしいというお話しはさせていただいたし、ドライバー自身も反省されている。白旗に関しては、メインフラッグポストには旗を入れている場所にドアがあったり、メインポストだけにポスト員3名がいろいろな役割があって、ほかの役割もあるので、そこは今後改善するために何ができるのかを検討していく必要がある。

──37号車の車載カメラの映像も見せてほしい。

(会場では撮影禁止の条件の下で3位を走行していた37号車インカー映像が流れる)

服部氏:(39号車、3号車、37号車の順でスリップの列になっていて)37号車はスリップで3号車から徐々に離れていっている、50号車はまったく見えていないと思う。39号車が左に行ったのとほぼ同時に(3号車の)ブレーキランプがついている。

 37号車はハンドルを左に切っており、50号車の左リアに少しだけ当たっている。3号車に当たらないで済んだのは、3号車が飛んでいったから。宮田莉朋選手が大きなダメージがなかったのは本当にラッキーだったからで、(50号車、3号車、37号車)3台の大きな事故になる可能性もあった。

──第2戦ではピットストップ2回義務付けが、最後のSC先導での再開前に撤廃になった。なぜその判断になったのか?

服部氏:先ほども述べたとおり、フルポイントになるには75%の周回数をこなす必要がある。2回の給油義務というのは、1/3、2/3の段階で終えているものというのが基本的な考え方だ。しかし、セーフティカー先導でレースを再開したときには、五十数周を終えた段階で、75%には届かないことが明白だった。踏まえて、もう一回の義務はキャンセルにしたということだ。しかし、もし逆に75%に届いていてフルポイントを得られるような状況だったら、全員に2回の義務を課して、1回しかこなしていないクルマには何らかのペナルティが出る形になっていたと思う。その基準がフルポイントが得られる75%が1つの基準になるということだ。それを急に言い出したみたいになっているので、ラッキー、アンラッキーが出てしまったのは否定できないが、みんな公平に考えるとそっち側だったのではないか。

──あの時にトップを走っていた39号車などの車両が、今後バトルをしている車両がよけられるようにウインカーを使うなどはあるのだろうか?

服部氏:そこはとても難しく、50号車のもう1つイン側を狙ってあの位置でスリップから出るというのがドライバーだ。それであっても起こらないようにするにはどうしたらいいかと考えると、もう1つのラインを残してレコードラインを走るお人好しなドライバーはいない。じゃあ、それを強制しても守ることができるのかということなので、議論は簡単ではない。

 現状はこうなったらヤバイというイメージを持ってもらうことが大事で、争っている最中にそれを使うのは本当に難しいけど、ウィンカーというのも1つの手ではある。