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SUPER GTに挑むダンロップに聞く、安田恵直氏が語る2022年シーズンのタイヤ開発
2022年7月29日 10:11
ダンロップ&ファルケンの両ブランドを軸にSUPER GT、F4、ニュル24時間耐久などに挑戦し続ける住友ゴム
住友ゴム工業は日本を代表するゴム製品メーカーの1つで、日本やアジア地域などで販売する「ダンロップ(DUNLOP)」、日本やそれ以外の地域で販売する「ファルケン(FALKEN)」など、複数のブランドでタイヤ事業を展開している。そのほかにも、ゴルフ製品やテニス製品、制振ダンパー、医療用ゴム製品、土木海洋製品など、幅広く事業を手掛けている。
日本におけるモータースポーツ活動の多くを「ダンロップ」ブランドで展開しており、日本のトップカテゴリーの1つであるSUPER GTユーザーへのタイヤ供給、またSUPER GTと併催されているジュニア・フォーミュラのFIA-F4選手権日本シリーズおよびJAF-F4などにワンメイク供給を行なうなど、未来のスタードライバーを育てるジュニアカテゴリーへのサポートも熱心に取り組んでいる。
海外に目を向ければファルケンブランドで、市販車ベースのレーシングカーの24時間レースとして歴史のある「ニュルブルクリンク24時間レース」に毎年チャレンジしており、2022年5月に行なわれた同レースでは「ファルケンモータースポーツチーム」の2台と、「SUBARU WRX STI NBR CHALLENGE 2022」を含む合計35台にタイヤを供給してチャレンジを支えている。
住友ゴムのSUPER GT活動は、GT500クラス、GT300クラスのユーザーチームにダンロップタイヤを供給する形で行なわれている。GT500クラスでは16号車 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(笹原右京/大湯都史樹組)、64号車 Modulo NSX-GT(伊沢拓也/大津弘樹組)のホンダ「NSX-GT」2台に供給。1メーカー2台という体制は昨年からのもので、以前のように1台だけとか、2台でも複数のメーカーで1台ずつという体制よりも集中的にデータを得ることで、より深掘りした研究開発を加速できる体制を整えている。
2022年 GT500クラスのダンロップタイヤ装着マシン(ゼッケン順)
16号車 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(笹原右京/大湯都史樹組)
64号車 Modulo NSX-GT(伊沢拓也/大津弘樹組)
GT300クラスに関しては、昨シーズンに61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝組)が悲願のチャンピオンを獲得するなど、大きな結果を残した年となった。61号車は8戦中4戦でポールポジションを獲得して速さを見せつけたほか、第5戦で優勝。特に後半戦はコンスタントに上位に入る活躍をみせて、見事シリーズタイトルを獲得した。
結果を出したこともあってか、今シーズンは昨シーズンの5台から2台増えて計7台がダンロップユーザーとなり、GT300クラスの中では2番目に多いユーザー数となっている。
2022年 GT300クラスのダンロップタイヤ装着マシン(ゼッケン順)
10号車 TANAX GAINER GT-R 富田竜一郎/大草りき組
11号車 GAINER TANAX GT-R 安田裕信/石川京侍組
20号車 シェイドレーシング GR86 GT 平中克幸/清水英志郎組
34号車 BUSOU raffinee GT-R 柳田真孝/井出有治組
60号車 Syntium LMcorsa GR Supra GT 吉本大樹/河野駿佑組
61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT 井口卓人/山内英輝組
96号車 K-tunes RC F GT3 新田守男/高木真一組
ダンロップのSUPER GT活動に関して住友ゴム工業 モータースポーツ部 モータースポーツ開発1グループ 課長 安田恵直氏にお話しをうかがった。
新構造のタイヤを持ち込んだGT500クラス、前後のバランスを変えて決勝でも持つタイヤを目指す
──2021年シーズンのSUPER GTでのモータースポーツ活動を振り返ってほしい。
安田氏:GT500クラスに関しては、一昨年に64号車(ナカジマレーシング)にベテランの伊沢選手の加入、さらに浜島裕英エンジニアのチームへの合流、昨年は16号車がわれわれの陣営に加わってくれたこともあり開発が確実に加速した。特に材料開発が進んだことで一発のタイムはしっかりと出せて、予選で上位には来るのだがレースでは……という課題が依然として残っており、それがシーズンオフにおける大きな宿題になった。
GT300クラスに関しては、タイヤ自体は前年から大きく変わっていないが、少しずつ主に構造を進化させていて、全体としてパフォーマンスが上がっていった。GT300クラスは台数が多く、そこから得られるデータ量も多く、ゴムの配合などに関しては大きくは変わっていないが、チームやドライバーがそれらを生かしてパフォーマンスを上げてくれた。
──今シーズンの開幕戦(岡山)、第2戦(富士)を終えての評価を。
安田氏:GT500クラスに関しては、予選一発よりも決勝を見据えたタイヤ開発をシーズンオフより行なってきた。これをひと言で表わすなら「すべて変更した」と言ってよいほどの大変更を行なっており、形状、サイズ、構造、配合などすべてを変えている。それに合わせてシーズンオフにテストを重ねてきたが、上手くいっていない部分と上手くいっている部分があるという状況。
構造とサイズや形状を変えたことで、ゴムの使われ方が変わってきており、ゴムのレンジを構造に合わせ切れておらず性能が出ていない部分があると考えています。チーム側もそのあたりを明確にしたいと、今回のレース(第3戦)では両チームで別のスペックを使用して確認している。
GT300クラスに関しては引き続き正常進化のタイヤを、シーズンオフでもテストして開幕戦、第2戦と投入している。岡山でも予選は上位に入ったがレースでは残念な結果になった。それに対して第2戦ではレース終了のタイミングがイレギュラーであり、それが我々には有利に働いた。評価は難しいが1位から4位まで上位を独占することができた。
──昨年からGT500クラスは同メーカーで2台体制になっている。テストなどで走らせる台数も増えており、タイヤ開発によい影響があるか?
安田氏:チームが違えば同じ車両であってもセットアップが違うので、タイヤのどこに問題があるのか見つけやすくなっている。そしてドライバーが4人になると、ドライバーそれぞれ表現も違ってくる。1台だと、ドライバーにより表現が偏ったりして問題点を想像するのが難しいこともあるが、2台/4名体制だとそのバラエティが増える。
確実にタイヤの限界を引き出してくれるドライバーもいれば、データを見ながらフィードバックしてくれるドライバーもいたりと、さまざまな捉え方が出てくるので、これまでよりも問題点を把握しやすくなっている。
──今年GT300クラスが増えたのはなぜか?
安田氏:1つには社内の方針で、台数を増やしていこうというのがあった。生産キャパシティ的にはかなりギリギリの状態だが、台数が増えるとどこかのチームが仮にリタイアしてしまっても、ほかのチームが上位に残ってくれる可能性もあるし、どちらも残れば上位を独占することも可能。また、マーケティング的には露出が増えるというよい面もあると考えている。
──2022年シーズンのタイヤ開発に関して教えてほしい。
安田氏:今年の新しいタイヤは、課題に対して“構造はこう”、“サイズはこう”、“形状はこう”、“全体のバランスはこう”と作ってきて、それは狙いどおりになっている。ただ、ゴムの配合も含めてのパッケージングとして考えるとまだ調整が必要と考えていて、第4戦までの中休みでその調整を実施していく。
今回のレースで16号車が新構造、64号車は前の設計に基づいた構造と分けられたことはデータの観点からは大きな意味があると考えており、初日の公式練習を走っただけでも両者のデータの違いなどすでに収穫が得られ始めている。
──SUPER GTにおける最先端タイヤ開発の市販車タイヤへフィードバックなどは?
安田氏:GT500クラスのゴム配合に関しては市販車開発に対してフィードバックしていますし、常時考え方のフィードバックはしており、材料なども一昨年のここ(鈴鹿サーキット)でポールを獲得したときの新しい材料は、レーシングタイヤと市販用を同時並行で開発したものだった。
──GT500クラス、GT300クラスそれぞれの目標を教えてほしい。
安田氏:GT500クラスは最低1勝したいと思っている。GT300クラスに関しては昨年チャンピオンを獲得することができたので、2年連続を狙っていきたい。
ダンロップの第3戦鈴鹿だが、新しい構造のタイヤを履いた16号車 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTは序盤快調に走行し、第1スティントは4位でピットイン、上位でゴールできそうなレースを展開していた。しかし、後半スティントではトラブルが発生してピットイン、さらにGT300クラス車両との接触事故によりリタイアになってしまった。レースにタラレバは禁物だが、仮に最後までインシデントが起こらず走れていれば、別の結果が待っていた可能性が高い。その意味で、新しい構造の導入は成果が見えるところまで来ているのだろう。
次戦の第4戦富士、第5戦鈴鹿はいずれも暑く、かつ長距離(第4戦は100周、第5戦は450km)のレースになるため、高温に強いとみられているダンロップには大きなチャンスとなり、決勝結果に大いに期待したいところだ。