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AI開発で成功の鍵は他社との協業、ソニーグループ 副社長 勝本徹氏のNVIDIA AI DAYS 2022基調講演

2022年6月24日 開催

ソニーグループ株式会社 執行役 副社長 勝本徹氏

 NVIDIAは6月23日~24日の2日間にわたって「NVIDIA AI DAYS 2022」というイベントをオンラインで開催した。2日目となった24日には「DAY2 基調講演」が行なわれ、「ソニーグループでのAIの事例から見るテクノロジーの活かし方とコーポレートR&D の在り方」と題して、ソニーグループ 執行役 副社長 勝本徹氏(役職は本イベント開催日時点)が講演を行なった。

 勝本氏は「AIにはさまざまな可能性があるが、1社でできることは限られている。さまざまな可能性をみながら、パートナーと協業して作り上げていくことが大事だ。AIの活用にはリスクはあるが、むしろ今はリスクをとらないことがリスクになっている」と述べ、AI活用の鍵は他社との協業であり、今やAIに取り組まないことこそが企業にとってのリスクになっていると指摘した。

AI開発を成功させる鍵は他社との協業、オープンな開発が大事

グランツーリスモ・ソフィー

 ソニーグループ 執行役 副社長 勝本徹氏は「ソニーでもAIの活用が行なわれており、研究開発をどのように成長につなげていくかが重要になっている」と述べ、ソニーグループでも積極的にAIを利用していると説明した。

ソニーグループのPurpose(パーパス)にマッチするグランツーリスモ・ソフィー

 具体的な事例として、同社がゲームコンソールのPlayStationシリーズ向けに提供しているレーシングゲーム「グランツーリスモ」シリーズを活用して学習したAI「グランツーリスモ・ソフィー」を紹介した。勝本氏は「ゲーム領域でのAIの研究開発を行なえるのはまさにソニーグループならでは」だと紹介し、そのグランツーリスモ・ソフィーの開発をリードするソニーのグループ企業であるソニーAIでAIの研究開発を行なっている河本献太氏を紹介した。

株式会社ソニーAI 河本献太氏

 河本氏は「グランツーリスモ・ソフィーは、現実の自動車レースをほぼ再現するグランツーリスモSPORTにおいて、世界最高のeスポーツプレイヤーに勝利する能力を持つAIとして開発していた。プロジェクトを進めていく中で、いくつかの学びがあった。ただ速く上手いというだけでなく、対戦相手に敬意を払いスポーツパーソンシップを学ばせることが大事、また、グランツーリスモ・ソフィーと一緒にプレイしてくれたプレイヤーからも学んだことも多い」と述べ、AIを効率改善に利用するだけでなく、AIと人がお互いに学んで行くような環境を用意したと説明した。

 勝本氏は「AIにはさまざまな可能性がある。レイトレーシングで周囲の状況を理解したり、AIが音源を分析して個別の音に分離したり、画像認識を強力なCPUがなくてもできるようにするCMOSイメージセンサー、カメラの瞳検知、ソニー損保の自動車保険など金融でも活用できるようソニーグループではあらゆる領域で開発が行なわれており、ソニーでも開発ツールを外部にも公開してより多くの人に利用してもらい、そのフィードバックを受け取ることで、さらに発展させていきたいと考えている」と述べ、AIは自社で閉じるのではなく、外部も含めて開発に参加してもらうオープンな環境での開発が重要だと強調した。

音声情報への活用
映像領域への活用
音声や映像のほか、金融領域など、ソニーグループが展開するさまざまなアプリケーションへの活用が期待される
ソニーが外部に公開しているAIツール

AI開発の促進には環境整備、オープンな議論、社員のAIリテラシーの向上

AI開発を促進する3つの要素

 勝本氏はそうしたAIの開発を促進するには3つの要素が大事だと述べ、それがパフォーマンスを発揮できる環境の整備、オープンに議論を交わす場、全社員のリテラシーの向上という3つの要素だと述べた。また、企業としては、そのAI開発を加速するようなコンピューティングリソースを提供することが大事だと強調し、ソニーグループがGAIA(ガイア)という名称のNVIDIA GPUベースのシステムを投入しており、学習などにかかる期間を短縮していると説明した。

コンピューティングリソースの提供
STEF(Sony Technology Exchange Fair)
AI研修

 ソニーグループの内部イベントとしてSTEF(Sony Technology Exchange Fair)を開催しており、コロナ禍ではオンラインとバーチャルのハイブリッドとして開催していたと説明した。勝本氏によれば、それぞれのほかのグループ企業が何をやっているかなどをお互いに知る機会を作り出すことは容易ではないが、STEFを通じてそれを社内的に理解したりすることが可能になっているという。また、全社員対象のAI研修も始めているという。

可能性かリスクか
AI倫理ガイドライン

 勝本氏は「AIはまだ発展途上で多大な可能性があるが、その反面プライバシーや雇用などの面でリスクもあり、今後も議論を積み重ねていきながら実装を続けて行かないといけない。そうしたリスクを避けるためにはAI倫理ガイドラインのようなガイドラインを設けていき、その中でも特にステークホルダーとの対話を重視している」と述べ、そうしたガイドラインをAI実装する時に取り入れていく必要があると強調し、ソニーグループが外部にも公開しているAI開発の入門用動画などを紹介した。

今やAIを利用しないことがリスクになっている、企業はAIの活用を

現場を深く理解する、コミュニティの形成、熱意ある人材

 講演の最後に勝本氏は、自身のソニーグループでのキャリアの中で、さまざまな気づきがあったことを紹介し、AIだけでなくテクノロジーを活用するには「現場を深く理解する、コミュニティの形成、熱意ある人材の確保」が重要だと述べた。

 例えば、2013年にソニーとオリンパスの合弁会社で医療機器を販売している時には、テレビなどのスタジオと手術室に共通点があることを見つけたという。手術過程のスケジュールがスタジオでの撮影の進行も同じだと気づいたり、ハンディカムの製品設計担当者だったときには、足繁く工場に通い、工場側から製造しにくいという声を受けて、開発プロセスを見直して開発に工場の声を反映したりなどの取り組みを行なってきたという。

 そうした経験を元に、ソニーグループのR&Dセンターを、世界各地に設置したり、成長が望めそうな市場のオフィスの一角にR&Dのデスクを置かしてもらったり、マーケットのニーズを研究開発に活かせる体制をつくったと述べた。また、グローバルにフラットな組織を作り、R&Dを社内外に発信することで、新しい人材を確保できるようにする取り組みなどを行なってきたということだった。そのほかにも、ソニーユニバーシティと呼ばれる次世代リーダーの教育機関の整備なども行なっており、とにかくさまざまな対話を行なうことが重要だと述べた。

学び続けること、他者とつながること、対話し続けること

 AIも含めた研究開発には「学び続けること、他者とつながること、対話し続けること」の3つが重要で、実際にそうした場を社内に作っていくことが大事だと強調した。

 勝本氏は「AIは大きな可能性がある技術だが、それだけでは価値は生み出せない。社会にどのような貢献ができるかをよく議論していくことが大事だ。リスクはあるが、挑戦するリスクよりも挑戦しないリスクの方が大きいと考えている。一社でできることは限られており、ぜひ一緒に未来へ挑戦していただきたい」と述べ、ソニーだけでなくパートナーになってくれる企業などとしっかり協業しながらAIを使える社会を作っていきたいと講演をまとめた。

 なお、NVIDIA AI DAYS 2022では参加者向けに7月4日から15日までの2週間限定でオンデマンド視聴も実施。新規登録も可能となっている。