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トヨタ、豊田章男社長がヨーロッパにサプライズ登場 水素GRヤリスでWRCベルギーをユハ・カンクネン氏とデモラン

WRCラリー・ベルギーのステージを走り終えたユハ・カンクネン氏(左)とモリゾウ選手こと豊田章男社長(右)

 トヨタ自動車は8月19日~21日に現在開催中のWRC第9戦ラリー・ベルギーに、日本からFCEV(燃料電池車)である「MIRAI(ミライ)」と、水素燃焼エンジンを搭載する「GR YARIS H2」(以下、水素GRヤリス)を同時に持ち込み、WRCのポイントリーダーを争っているTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamのサービスパークに展示している。

 水素を燃料に発電して走る電動化車両であるミライと、同じ水素を燃料にこれまでのガソリンエンジンと同様に燃焼させて走る水素GRヤリスを同時に展示することで、来たるべきカーボンニュートラル社会への多様な選択肢をクルマという形でヨーロッパの人々に見てもらうという意図になる。

水素GRヤリス

 ちなみに、ミライにしろ水素GRヤリスにしろ、水素を燃料として使用した後の排出物は水(GRヤリスは熱燃焼をしているので、水蒸気)。高度な技術が必要だが、カーボンニュートラル社会の実現に大きな要素となるのは誰の目にも明らかとなっている。

 とくに水素GRヤリスに積まれた、水素燃焼エンジンは技術的に非常に難しく、これまで実験車は作られてきたものの、レースをガソリン車と同等の速度(給水素時間を除けば)で走れたり、24時間レースや5時間レースを普通に走りきったりするようなクルマはこれまでなかった。

 国内ではスーパー耐久レースをトヨタ自動車 代表取締役である豊田章男氏がモリゾウ選手として走ることで急速に理解が進み、水素カローラが耐久レースを完走することが普通の風景になりつつあるが、これは世界的に見ても突出した状態。豊田社長の掲げる「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」による急速な技術開発と、豊田社長自身のレーシングネームであるモリゾウ選手の発信力によるとことろが大きく影響しているのは間違いない。

 実際、水素カローラは海外では「Hydrogen Car(水素自動車)」として紹介されることが多く、一般にHydrogen Carと言えばFCEVのため、その辺りを混同している記事も見かける。当たり前だが、見たことも、(排気音を)聞いたこともないものは、なかなか想像しにくいのも事実だろう。

 そんな背景もあり、トヨタは海外発信の第一段階としてTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamのチーム代表であるヤリ-マティ・ラトバラ氏を富士24時間レースに招き、モリゾウ選手とともに富士24時間レースを完走。その第2段階として、WRC(世界ラリー選手権)の行なわれているベルギーに水素GRヤリスを日本から持ち込み、WRCラリー・ベルギーのDAY1にレジェンドドライバーであるユハ・カンクネン氏の手によってデモ走行したわけだ。

DAY2はモリゾウ選手がサプライズデモラン。ユハ・カンクネン氏がコドライバー

ユハ・カンクネン氏がコ/ドライバーを務めた。モリゾウ選手の運転はスムーズとのこと

 DAY2も水素GRヤリスによるデモ走行が予定され、取材のためにその走行後を待ち構えていたのだが、トヨタはここにサプライズを予定していた。なんと、DAY2のデモ走行ドライバーはモリゾウ選手こと豊田章男社長自身だったのだ。

 わざわざ日本から水素GRヤリスとミライを持ってくるだけでもなかなかに大変、さらにレジェンドドライバーのユハ・カンクネン氏をデモ走行ドライバーとしてアサインするだけでも大変なことは想像に難くなく、トヨタの水素普及にかける思いは十分伝わってくるものだった。

 しかし、トヨタはさらにモリゾウ選手である社長自らが水素タンクを背負って走る、しかも世界ラリーという舞台においてというサプライズを用意していた。

 ステージを走り終えたモリゾウ選手は、路面が滑りやすかったとコメント。コースもトラクターが走る農道などが設定されていたことから、民家が近くチームにとってもラリージャパンへの経験値になるなど、ベルギーのラリーを走りつつ、11月に開催されるラリージャパンをどう成功させるか考えているようだった。

「スペクテーター、お客さんに対してどように見せていくか。ラリージャパンに向けて、見る人、やる人、サポートする人、どうすれば日本で安全に楽しい、またやってみたいラリーになるのか。みんなで課題を持って準備をしていきたい」(豊田章男氏)と、本州で初開催となるWRCへの思いは強い。

 トヨタは水素の地産地消で水素燃焼エンジンの開発を行なっているが、WRCラリー・ベルギーではヨーロッパの水素を使用した。今回ヨーロッパの水素を用いて走ったことについては、「水素はいろいろな由来でできると思う。太陽光由来あり、地熱由来あり、下水道由来あり。水素はやりようによっては、コストを今は度外視すれば、どんな由来でもできる可能性のあるエネルギーだと思います。こうやって使う側が水素を使うことによって、今度は水素を作る側の研究が進み、それが実用化につながり、すべての方にアフォーダブルなエネルギー価格に落ち着くときのスピードが、こういった活動によって少しでも速くなればいいのかなと思っています」とコメント。

 トヨタの活動がカーボニュートラル社会への選択肢を増やし、使う側として新たな未来の到来に少しでも協力できればという思いを述べた。