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軽ワゴンと軽バンのいいところを併せ持つスズキ「スペーシア ベース」をN-VAN乗りがじっくり見てみた

気になっていた「スペーシア ベース」をゆっくり見る機会を得たので、N-VAN乗りの目線から主にリアスペースについての印象を紹介していく

 8月26日に発売されたスズキの新型商用車「スペーシア ベース」は、アウトドアレジャーユースを中心に需要が高まっている“イマドキ”の軽バンの使い方に合わせたモデル。筆者は本田技研工業の「N-VAN +STYLE FUN」に乗っているので、嗜好が似ているスペーシア ベースは大いに気になっていた。

 今回、スペーシア ベースを撮影する機会を得たので、N-VANとの比較を入れつつ紹介していこう。

8月26日に発売されたスペーシア ベース。撮影車のグレードはXF。ボディカラーはデニムブルーメタリック。XFの価格は154万7700円(FF・CVT)と166万7600円(4WD・CVT)
フロントフェイスはスペーシア カスタムをベースにしたもの。迫力ある印象だ
リアのクォーター窓はボディカラー同色のカバーで覆われている。この意匠はスペーシアシリーズでもベースが唯一採用している。理由は後述するがこのリアクォーターがカバーされているのはいい印象を受けた
激戦区の軽ワゴンからの派生モデルだけにデザインは凝っている。スタイルだけ見ると4ナンバーの軽商用バンには思えない。スライドドアのレール部の処理もキレイ
タイヤサイズは155/65R14。カラードのスチールホイール+カバーとセット。とても似合っていると思う
エンブレムは滑り止め形状の鉄板の上にロゴを載せたようなデザイン。細かいところだがこういう部分も軽商用バンにはない仕様。プライベートユースを主体とする4ナンバー車という新しいジャンルならではのことだろう
この手の軽バンは最大積載量が300kgの設定だが、4ナンバーでありながら趣味用としての位置づけのスペーシア ベースは200kgの設定としている

 改めてだが筆者はホンダのN-VANに乗っている。グレードは+STYLE FUNのターボ、4WDだ。2018年9月から乗っていて、今年で2回目の車検を通している。コロナ禍により稼働率は減ったけどそれでも6万kmほど走行した。

 N-VANを購入した理由を聞かれることも多いが、実はこれ、ちょっと返答に困る。具体的に「キャンプに行くため」とかの返答を期待されているのだろうが、自分の場合はそうとも言いにくい。

 乗り始めのころはそのときにやりたいことを理由にあげていたけど、なんだかんだと4年ほど乗って感じているのが「具体的に“なに”じゃなくて、なんだか楽しそうに思えたから買ったんだろうな」ということ。

 抽象的で分かりにくいと思うけど、実際、N-VANは「いろいろ入れて運べる箱」という感じであり、そこが一番の魅力でそれ以上でも以下でもない。便利な箱であることが大事なのだ。

 そして便利な箱なので「やってみたい」と思ったことを実践しやすい。まあ、そうはいってもたいしたことはやってないが、たいしたことをやるために乗っているわけでないからそれでいいと思っている。

 あと、軽バンなので見栄とか関係ないし、660ccはターボと言えど必要以上に急ぐ気にならない。周囲の交通とごく自然にペースが合うので平常心で走っていられる。また、軽自動車というボディサイズ的に狭い道でのすれ違いも楽で、路肩を走る自転車も避けやすい。これが予想外によくて、道路を走るときに少~しずつたまっていくストレスを感じにくくなった。

 つまりN-VANはリラックスして乗れるクルマでもあったのだ。そこにやりたいことがドンドンわいてくる秘密基地的なスペースが加わるので「楽しいしホッとする存在」となっている。

 そしてスペーシア ベースにもN-VANと同じような雰囲気を感じたので、これは見てみたいと思ったわけだ。

N-VANはいろいろ使えて便利なクルマだ。そして維持費も安い。毎年の自動車税も軽バンなら5000円。冬季用にスタッドレスタイヤ(ブリヂストン「ブリザック VL1」の12インチ)を購入したときも、新品4本と工賃を合わせて3万円台で収まっている。また、有料道路の通行量も(少々)安いのもうれしいところ

スペーシア ベースは質感のいい軽バン

 さて、スペーシア ベースだ。このクルマの特徴はなんと言っても元になったのが軽ワゴンのスペーシアシリーズというところだろう。

 このスペーシア ベースは軽商用貨物、いわゆる軽バンである。一般的に軽バンは実用的というか、快適装備や遮音性に関して「サラッと」済ませている傾向だし、インテリアもあちこちが鉄板むき出しであったりと質感に乏しかったりする。

 こういった部分は仕事用と割り切っていれば気にならないけど、自家用となるとちょっと違う。軽バンと言えどもそれなりの快適性や遮音性、そして質感のよさは欲しくなるものだ。

 そんなニーズに合わせてきたのがスペーシア ベース。軽ワゴンをベースにしたことで乗り味は実質的に軽ワゴンクラス。走行中の遮音性も高いし、インテリアの質感もいい。それとイマドキなので予防安全装備も付いているし、上級グレードのXFには全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)も搭載される。つまり軽バンでありながら「バンだからこんなものだなぁ」と思わなければならない部分がほぼナイのだ。これはN-VANにもアトレーにもなかった部分。「質感のいい軽バン」という新しいジャンルのクルマであり、確実に支持されるはずである。

軽ワゴンと同等の質感を持ったインパネまわり。インパネカラーパネルにフロアコンソールトレイ、フロントドアミドルポケットのアクセントカラーにグレーイッシュブルーを使うなどしている
夜間の歩行者も検知するデュアルカメラブレーキサポートなどを採用するスズキセーフティーサポートを全グレードに標準装備する
XFグレードには全車速追従機能付きのACC(アダプティブクルーズコントロール)が採用されている
オプション設定の8インチナビゲーションも設定され、装備に関しても不足を感じない軽バンだ
XFグレードの前席は左右ともシートヒーター付き。GFグレードは運転席が標準装備で助手席ヒーターは4WDのみの装備となる
Type-A、Type-CのUSB電源ソケットも装備。従来のアクセサリーソケットもある
ルームランプは残照式3ポジションLEDルームランプ。前席に座った際の頭上の開放感はかなりあった。また、天井のライナー色が明るめなので室内全体も明るいイメージだった
メーカーオプションの全方位モニター用カメラパッケージが装着されていたので8インチナビゲーションがあれば後退時に車両を上から見下ろしたような表示が出る
バックランプの位置がリアカメラに近い。今回は昼間に撮影したので試していないが、真っ暗なキャンプ場などでもリアカメラの映像は明るそうだ
フロントはスペーシア同様のシートなので座った感じもいい。表皮は撥水機能付き。シート高も高すぎず低すぎずなので、足腰が弱ってきた高齢の方などを乗せるときにも便利
N-VANの助手席はダイブダウンすることから簡易的な作りなので、助手席に人を乗せることが多いなら、ワゴン同様のシートが付くスペーシア ベースのほうが断然いいだろう。なお、助手席座面は前方に向かって跳ね上がって開く構造で座面下は収納スペースになっている
軽ワゴンのスペーシアシリーズとはリアシートが大きく異なる。4ナンバーの要件を満たすため、スライド機構はなくリクライニングもしない。また、ヘッドレストもない
後席は2名乗車できるので定員は4名となる
窮屈なリアシートだが座面の厚みがしっかりあるので、座った感じはN-VANのリアシートよりいい
身長約160cmの人が助手席に座った状態。シートを前に出しているが、足下には奥行きがあるので見た目ほど窮屈ではない。身長170cmくらいでもこの位置で座っていられるので、リアシートに人を乗せる場合は、助手席をこのあたりあわせるといいかも
フロントシートを前に出した状態で、後席の足下スペースはこれくらい。足を横にずらさずには座れる
助手席下のフロアが低くなっているのでそこに足を入れてみた。長く座るときには足を動かせる幅があるのはいいかも

スペーシア ベースでもっとも魅力的なラゲッジスペースを見てみた

 軽ワゴン譲りの快適な前席に対して、後席以降をラゲッジスペースとしているのがスペーシア ベースだ。

 諸元によると2名乗車時は1375×1245×1220mm(荷室床面長×幅×高さ)の四角いスペースが取れるのだが、それでもN-VANやアトレーと比べると狭くて、特に縦の長さが短いのだ。ちなみにN-VANのラゲッジスペースは約1500~約2600mm(助手席折りたたみ時)で、アトレーは約1800mmもある(その分運転席は狭い印象)。

 そんなサイズなので一見すると使い勝手が今ひとつにも思えるけれど、実はそうでもない。スペーシア ベースは荷物の配達用ではなく、趣味のためのクルマだから、ラゲッジスペースに積むのはほぼ趣味の道具。最近だとキャンプに乗って行くためにスペーシア ベースを選ぶ人もいるはずだ。

 筆者もN-VANにキャンプ道具を積むのだが、たいていのものはアウトドア向けの収納ボックスに入れてからクルマに積む。こうして道具を箱に入れて運ぶことはキャンプに限ったことでなく一般的なことだろうが、このときに使用する収納ボックスにも流行があって、イマドキだと長さが80cm、幅が約35cmで容量が70Lサイズのものが主流だと思う。そしてこのサイズのボックスであればスペーシア ベースのラゲッジスペースでも3つ並べて置けるのだ。

 70Lサイズのボックスはけっこう収納力がある。だからこのサイズの収納ボックスを3つも用意するとソロキャンプだと多すぎる。2人分のキャンプ道具を入れるとしてもちょっと多いと思うので、実際に積み込むのは1つか2つとなる(マットやシュラフなどは別)。

 つまり他と比べると数値的に狭いのは事実だが、実際に積むものはそれほど大きくなく、数も多くないと思うのでスペーシア ベースのラゲッジスペースで十分だったりする。スペースの話になると数値が気になるが、積むもののサイズから考えてみると具体的にスペースが足りるかが見えてくるので、スペーシア ベースのラゲッジスペースが「どう使えるか」はそれぞれのやりたいことから積む荷物を想像して考えてほしい。

後席をたたんだ状態にすると一辺が約1.3mの四角いスペースができるので、大きめなアウトドア向け収納ボックスでも3つは置ける。天井までの高さもあるので収納ボックスを重ねたり、上にシュラフなどを置いたりも余裕。また、スペースに余裕があり出し入れする開口部も広いので、パズルのような積み込みをしないでいいのは出発のときはもちろん、キャンプを終えた朝の撤収時に「便利だぁ」と感じるだろう
リア側のスライドドアからも荷物にアクセスできるのは便利だ
積載スペースを作るときにあったほうがいいと思ったのがフロアに敷くマットやボード。特にリアシートバックレストの保護は必須だろう。また、荷室のフロアは固さはあるが滑りやすい材質なので、収納ボックスなどをメインで積む際は滑りにくいマットを敷いたほうが荷物が暴れずに済みそう

クルマテントや車中泊のときはどうする?

 キャンプと言えばクルマをテント代わりに使う一種のオートキャンプスタイルもある。N-VANなら助手席をダイブダウンさせれば前後に余裕の就寝スペースが作れるし、純正アクセサリーを含めてベッドキットもいくつか販売されている。アトレーに関してはリアスペースが特に広いので身長が170cm台であれば床にマットを敷くだけで就寝OKだ。

 それに対してスペーシア ベースはスペースの長さが約1.3mなので、床に寝るのはどう考えても無理だ。そこで使用するのが標準装備されている「マルチボード」。これを下段にセット。合わせて、フロントシートのリクライニングを利用すれば大人2人分の就寝スペースが作れるのだ。

 ただ、フロントシートの部分は段差ができてしまうので、クッションなどを入れて面を整える必要はあるだろう。ちなみに純正アクセサリーには車中泊用に「リラックスクッション」というアイテムがある。

 なお、室内が広くない軽バンでのクルマテントや車中泊では、着替えなど小物置き場も考えなくてはいけないけれど、マルチボードの下に着替えやシュラフ収納袋など散らかりがちなものをしまえるのは便利だと思う。

 スペーシア ベースでの車中泊はN-VANやアトレー、エブリィと比べると寝床の準備に少々手間がかかりそうではあるが、何度かやれば慣れるだろう。それに、車中泊やキャンプは「ある程度の手間」も楽しみの1つでもある。だからこのあたりの使い勝手に関してはネガティブに考えることでもないし、そもそもスペースに限りがある軽バンなのだから、スペースを作るための準備や使い勝手のいい寝床を作るためのアイデア出しなども、楽しみの1つという気持ちでいたい。

マルチボードを利用して就寝スペースを作ったところ。ボード部分は固く、シート部分は段差があるので、1泊するなら厚みのあるマットを併用したいという印象
2人就寝モード。ソロのときもこうすると物を置けるスペースが増えて便利そう
ソロモード。運転席がそのままなのでシュラフなどを片づけなくても移動できるのが便利。マルチボードを展開した状態で走行する場合はマルチボード固定用アタッチメントを使用する
マルチボードはこのようなカタチで積むのが基本だが、ラゲッジスペースが区切られるので、積みたいものによってはジャマになる。外して自宅保管になる人もいるだろう
ボードの裏側にもユーティリティフックをつける穴が欲しかった。スペースに限りがある場合は「壁に沿って立てて積む」というやり方も有効なのだ
マルチボードを基本位置にセットした状態でのスライドドア側スペース
マルチボードはセットする高さが変えられる。上段のこの位置はマルチボードを机として使えるモード。イスはたたんだリアシートだが、クッション性がないので別途敷くものが必要と感じた
上段モードのときの足下スペース。イスが低いのでローチェアに座った感じで足は前に投げ出すスタイル。足下に荷物がある場合は片づける必要がある
中段モードはキャンプ時にテーブルとして使うのもいい。調理の準備など立った状態でやると思うけどそのときはこんな感じ
下段モードだとキャンプチェアに座ったときのテーブルとしても使えそう
右リアにLEDルームランプがあるので作業灯になる
リアクォーターの窓がカバーされているのがいい。デスクモードのときにここに窓があると太陽の向きによってはまぶしく感じることもある。また、ユーティリティフックや棚を利用した状態では中が透けて見えるガラスより壁のほうが外からの見栄えもいい。筆者のN-VANはこの窓に車中泊用のシェードを付けっぱなしにしている。なお、それでも後方確認にやりにくさはない
スライドドアの窓には遮光性のある引き出し式のロールサンシェードが付いている。これもデスクモードのときに便利だと思う
上段モードにして座った状態の頭の上に小物入れもあるので、資料などを入れておける。デスクにもなるマルチボードはかなり広いので、たいていの作業ならデスクの上だけで足りそうではある

 リアまわりの使い勝手について、もう少し印象をお伝えしよう。スペーシア ベースは右側のみワンアクションパワースライドドアで左は手動となる。

 この点について「どうせなら左もワンタッチパワースライドドアにしてほしい」と思うだろうが、キャンプや車中泊のときのサイトは夜になると静かなので、ドアの開閉ブザー音が鳴らないほうがむしろ具合がいいのだ。なお、実際に操作してみると手動の左スライドドアは軽い力で開け閉めできるので、音が響かないよう「そっと」操作するのも容易だと感じた。しかも、XFは半ドアの位置まで閉めるとドアを自動で全閉するスライドドアクローザーが搭載されるので、より静かな開閉ができるだろう。

左側スライドドアは手動。しかもXFは半ドアの位置まで軽く閉めるだけでドアを自動で全閉するスライドドアクローザーが搭載される。純正アクセサリーにはカータープがあり、カタログではテールゲート部に付けているが、これはサイドに付けるほうが便利だと思う。クルマをテント代わりにした際はスライドドアから出入りするが、このときにタープが横にあるとテントで言うところの前室になる
スペーシア ベースのXFにはルーフレールが標準装備されているが、取り付け位置がルーフの端よりなのがいい。タープなどを固定するのにやりやすく、ブラケットなど使用するときもボディに干渉しにくい

信号スタートでは不足なし! 追い越しはタイミングに慣れるべし!

 撮影のあとに少し試乗する時間があったのでその印象もお伝えしよう。まずは誰もが気になるエンジンの力について。スペーシア ベースのコンセプトは気になるけれど、ターボの設定がないことがひっかかっている人もいると思う。

 では、実際に運転してみてどう感じたかというと、信号など停止した状態からのスタートに関してはターボ付きのN-VANと比べても力不足と思わない。そこからまわりの流れに乗るのもスムーズだ。「NAの軽バンだと加速が鈍くないかな」という心配は皆無だろう。

 ただ、一定の速度からさらに加速するときはわずかに非力さが出る。加速しないというわけではないけど速度の伸びはゆっくりになるから、高速道路などで追い越しをかけるときはターボ付きとは違うタイミング、間合いの取り方を考えたほうがよさそう。でも、ターボ付きでも軽バンは80km/h~100km/hあたりで巡航するのが車体的にも燃費的にもいいし、ACCを使うと思うので頻繁な追い越しの機会はあまりないはず。それに、試乗時や乗り始めは加速感について必要以上に興味が出ているので急なアクセル操作をしがちだけれど、慣れてくるとそういった踏み方はしなくなると思う。発進加速が十分にいいのでなおさらだろう。

 もちろんこの点の感じ方には個人差があるけど、そもそもNAエンジン車しかないスペーシア ベースを「いいな~」と感じた人ならば、走りについても受けいれられる走り味なんじゃないかと思う。

市街地走行であればNAでも力不足をあまり感じない。遮音性もいいのでアクセルを踏み込んで高回転まで回してもそれほどうるさく感じない

 という感じのスペーシア ベース。トータル的にはいいクルマだという印象だけど、そこは軽自動車だし、NAエンジン車だし、軽バンなので「足りない」と思う部分は誰にも必ずあるだろう。

 だけどこの先、まだまだいろんなクルマに乗るチャンスはあるだけに、いま軽バンが気になったのなら乗ってみるのもわるくないだろう。

 また、クルマはそれ自体も趣味になるけれど、趣味を楽しむための道具でもある。そうした見方をすれば、速さはないがコンセプトや装備が凝っているスペーシア ベースはクルマ趣味の視点でもアリだし、クルマ以外の趣味をやっている人ならそれにも活かせる。クルマもその他の趣味も合わせて楽しみたいと言うことにも対応できるのだ。

 車種は違うが「遊べる軽バン」に乗ったことで楽しみが増えたと感じている筆者としては、この手のクルマは一度乗ってほしいと思うのだ。