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軽ワゴンと軽バンのいいところを併せ持つスズキ「スペーシア ベース」をN-VAN乗りがじっくり見てみた
2022年9月27日 08:00
8月26日に発売されたスズキの新型商用車「スペーシア ベース」は、アウトドアレジャーユースを中心に需要が高まっている“イマドキ”の軽バンの使い方に合わせたモデル。筆者は本田技研工業の「N-VAN +STYLE FUN」に乗っているので、嗜好が似ているスペーシア ベースは大いに気になっていた。
今回、スペーシア ベースを撮影する機会を得たので、N-VANとの比較を入れつつ紹介していこう。
改めてだが筆者はホンダのN-VANに乗っている。グレードは+STYLE FUNのターボ、4WDだ。2018年9月から乗っていて、今年で2回目の車検を通している。コロナ禍により稼働率は減ったけどそれでも6万kmほど走行した。
N-VANを購入した理由を聞かれることも多いが、実はこれ、ちょっと返答に困る。具体的に「キャンプに行くため」とかの返答を期待されているのだろうが、自分の場合はそうとも言いにくい。
乗り始めのころはそのときにやりたいことを理由にあげていたけど、なんだかんだと4年ほど乗って感じているのが「具体的に“なに”じゃなくて、なんだか楽しそうに思えたから買ったんだろうな」ということ。
抽象的で分かりにくいと思うけど、実際、N-VANは「いろいろ入れて運べる箱」という感じであり、そこが一番の魅力でそれ以上でも以下でもない。便利な箱であることが大事なのだ。
そして便利な箱なので「やってみたい」と思ったことを実践しやすい。まあ、そうはいってもたいしたことはやってないが、たいしたことをやるために乗っているわけでないからそれでいいと思っている。
あと、軽バンなので見栄とか関係ないし、660ccはターボと言えど必要以上に急ぐ気にならない。周囲の交通とごく自然にペースが合うので平常心で走っていられる。また、軽自動車というボディサイズ的に狭い道でのすれ違いも楽で、路肩を走る自転車も避けやすい。これが予想外によくて、道路を走るときに少~しずつたまっていくストレスを感じにくくなった。
つまりN-VANはリラックスして乗れるクルマでもあったのだ。そこにやりたいことがドンドンわいてくる秘密基地的なスペースが加わるので「楽しいしホッとする存在」となっている。
そしてスペーシア ベースにもN-VANと同じような雰囲気を感じたので、これは見てみたいと思ったわけだ。
スペーシア ベースは質感のいい軽バン
さて、スペーシア ベースだ。このクルマの特徴はなんと言っても元になったのが軽ワゴンのスペーシアシリーズというところだろう。
このスペーシア ベースは軽商用貨物、いわゆる軽バンである。一般的に軽バンは実用的というか、快適装備や遮音性に関して「サラッと」済ませている傾向だし、インテリアもあちこちが鉄板むき出しであったりと質感に乏しかったりする。
こういった部分は仕事用と割り切っていれば気にならないけど、自家用となるとちょっと違う。軽バンと言えどもそれなりの快適性や遮音性、そして質感のよさは欲しくなるものだ。
そんなニーズに合わせてきたのがスペーシア ベース。軽ワゴンをベースにしたことで乗り味は実質的に軽ワゴンクラス。走行中の遮音性も高いし、インテリアの質感もいい。それとイマドキなので予防安全装備も付いているし、上級グレードのXFには全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)も搭載される。つまり軽バンでありながら「バンだからこんなものだなぁ」と思わなければならない部分がほぼナイのだ。これはN-VANにもアトレーにもなかった部分。「質感のいい軽バン」という新しいジャンルのクルマであり、確実に支持されるはずである。
スペーシア ベースでもっとも魅力的なラゲッジスペースを見てみた
軽ワゴン譲りの快適な前席に対して、後席以降をラゲッジスペースとしているのがスペーシア ベースだ。
諸元によると2名乗車時は1375×1245×1220mm(荷室床面長×幅×高さ)の四角いスペースが取れるのだが、それでもN-VANやアトレーと比べると狭くて、特に縦の長さが短いのだ。ちなみにN-VANのラゲッジスペースは約1500~約2600mm(助手席折りたたみ時)で、アトレーは約1800mmもある(その分運転席は狭い印象)。
そんなサイズなので一見すると使い勝手が今ひとつにも思えるけれど、実はそうでもない。スペーシア ベースは荷物の配達用ではなく、趣味のためのクルマだから、ラゲッジスペースに積むのはほぼ趣味の道具。最近だとキャンプに乗って行くためにスペーシア ベースを選ぶ人もいるはずだ。
筆者もN-VANにキャンプ道具を積むのだが、たいていのものはアウトドア向けの収納ボックスに入れてからクルマに積む。こうして道具を箱に入れて運ぶことはキャンプに限ったことでなく一般的なことだろうが、このときに使用する収納ボックスにも流行があって、イマドキだと長さが80cm、幅が約35cmで容量が70Lサイズのものが主流だと思う。そしてこのサイズのボックスであればスペーシア ベースのラゲッジスペースでも3つ並べて置けるのだ。
70Lサイズのボックスはけっこう収納力がある。だからこのサイズの収納ボックスを3つも用意するとソロキャンプだと多すぎる。2人分のキャンプ道具を入れるとしてもちょっと多いと思うので、実際に積み込むのは1つか2つとなる(マットやシュラフなどは別)。
つまり他と比べると数値的に狭いのは事実だが、実際に積むものはそれほど大きくなく、数も多くないと思うのでスペーシア ベースのラゲッジスペースで十分だったりする。スペースの話になると数値が気になるが、積むもののサイズから考えてみると具体的にスペースが足りるかが見えてくるので、スペーシア ベースのラゲッジスペースが「どう使えるか」はそれぞれのやりたいことから積む荷物を想像して考えてほしい。
クルマテントや車中泊のときはどうする?
キャンプと言えばクルマをテント代わりに使う一種のオートキャンプスタイルもある。N-VANなら助手席をダイブダウンさせれば前後に余裕の就寝スペースが作れるし、純正アクセサリーを含めてベッドキットもいくつか販売されている。アトレーに関してはリアスペースが特に広いので身長が170cm台であれば床にマットを敷くだけで就寝OKだ。
それに対してスペーシア ベースはスペースの長さが約1.3mなので、床に寝るのはどう考えても無理だ。そこで使用するのが標準装備されている「マルチボード」。これを下段にセット。合わせて、フロントシートのリクライニングを利用すれば大人2人分の就寝スペースが作れるのだ。
ただ、フロントシートの部分は段差ができてしまうので、クッションなどを入れて面を整える必要はあるだろう。ちなみに純正アクセサリーには車中泊用に「リラックスクッション」というアイテムがある。
なお、室内が広くない軽バンでのクルマテントや車中泊では、着替えなど小物置き場も考えなくてはいけないけれど、マルチボードの下に着替えやシュラフ収納袋など散らかりがちなものをしまえるのは便利だと思う。
スペーシア ベースでの車中泊はN-VANやアトレー、エブリィと比べると寝床の準備に少々手間がかかりそうではあるが、何度かやれば慣れるだろう。それに、車中泊やキャンプは「ある程度の手間」も楽しみの1つでもある。だからこのあたりの使い勝手に関してはネガティブに考えることでもないし、そもそもスペースに限りがある軽バンなのだから、スペースを作るための準備や使い勝手のいい寝床を作るためのアイデア出しなども、楽しみの1つという気持ちでいたい。
リアまわりの使い勝手について、もう少し印象をお伝えしよう。スペーシア ベースは右側のみワンアクションパワースライドドアで左は手動となる。
この点について「どうせなら左もワンタッチパワースライドドアにしてほしい」と思うだろうが、キャンプや車中泊のときのサイトは夜になると静かなので、ドアの開閉ブザー音が鳴らないほうがむしろ具合がいいのだ。なお、実際に操作してみると手動の左スライドドアは軽い力で開け閉めできるので、音が響かないよう「そっと」操作するのも容易だと感じた。しかも、XFは半ドアの位置まで閉めるとドアを自動で全閉するスライドドアクローザーが搭載されるので、より静かな開閉ができるだろう。
信号スタートでは不足なし! 追い越しはタイミングに慣れるべし!
撮影のあとに少し試乗する時間があったのでその印象もお伝えしよう。まずは誰もが気になるエンジンの力について。スペーシア ベースのコンセプトは気になるけれど、ターボの設定がないことがひっかかっている人もいると思う。
では、実際に運転してみてどう感じたかというと、信号など停止した状態からのスタートに関してはターボ付きのN-VANと比べても力不足と思わない。そこからまわりの流れに乗るのもスムーズだ。「NAの軽バンだと加速が鈍くないかな」という心配は皆無だろう。
ただ、一定の速度からさらに加速するときはわずかに非力さが出る。加速しないというわけではないけど速度の伸びはゆっくりになるから、高速道路などで追い越しをかけるときはターボ付きとは違うタイミング、間合いの取り方を考えたほうがよさそう。でも、ターボ付きでも軽バンは80km/h~100km/hあたりで巡航するのが車体的にも燃費的にもいいし、ACCを使うと思うので頻繁な追い越しの機会はあまりないはず。それに、試乗時や乗り始めは加速感について必要以上に興味が出ているので急なアクセル操作をしがちだけれど、慣れてくるとそういった踏み方はしなくなると思う。発進加速が十分にいいのでなおさらだろう。
もちろんこの点の感じ方には個人差があるけど、そもそもNAエンジン車しかないスペーシア ベースを「いいな~」と感じた人ならば、走りについても受けいれられる走り味なんじゃないかと思う。
という感じのスペーシア ベース。トータル的にはいいクルマだという印象だけど、そこは軽自動車だし、NAエンジン車だし、軽バンなので「足りない」と思う部分は誰にも必ずあるだろう。
だけどこの先、まだまだいろんなクルマに乗るチャンスはあるだけに、いま軽バンが気になったのなら乗ってみるのもわるくないだろう。
また、クルマはそれ自体も趣味になるけれど、趣味を楽しむための道具でもある。そうした見方をすれば、速さはないがコンセプトや装備が凝っているスペーシア ベースはクルマ趣味の視点でもアリだし、クルマ以外の趣味をやっている人ならそれにも活かせる。クルマもその他の趣味も合わせて楽しみたいと言うことにも対応できるのだ。
車種は違うが「遊べる軽バン」に乗ったことで楽しみが増えたと感じている筆者としては、この手のクルマは一度乗ってほしいと思うのだ。