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ホンダと日本のファンの気持ちに後押しされたフェルスタッペン選手、ホンダのホームGPで2度目の戴冠に「特別な気持ち」
2022年10月10日 09:45
10月7日~9日の3日間にわたりF1第18戦日本グランプリが鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)において開催された。9日の14時から行なわれた決勝レースでは、マックス・フェルスタッペン選手(1号車 レッドブル・レーシング・RBPT)が優勝し、世界チャンピオンの獲得条件である2位に112点以上の差をつけるという条件を満たしたことで、2年連続の世界チャンピオンに輝いた。
レース後、トップ3インタビューを行なったジョニー・ハーバート氏の「シャルルに5秒ペナルティが出て3位に降格になった。マックス、君が2022年の世界チャンピオンだ」という音声がサーキットに流れると、雨による2時間以上の中断をレース再開まで待っていたファンは喜びを爆発させ、フェルスタッペン選手の2度目の戴冠をお祝いする声でサーキット全体が文字どおり「揺れた」。
フェルスタッペン選手はレース後の会見でホンダのホームGPで戴冠したことを「特別な気持ち。ホンダとともにこの数年戦ってきたし、今日もそうだ。そして日本のファンも本当に最高だ」と、ホンダと日本のファンに感謝の気持ちを述べた。
雨で2時間以上の中断、レース終盤にはルクレール選手とペレス選手の激しいレース
2022年のF1日本グランプリは、一言でいえば「雨多すぎ、混乱多すぎ、ドラマ多すぎ」というレースだった。レースのスタートは、まさに「雨多すぎ」というスタートになった。
決勝レースは14時にフォーメーションラップがスタート。雨は降ってきたものの、当初はさほど多くなく、十分スタンディングスタートができるという判断で、全車がインターミディエイトタイヤを履いてスーティンググリッドに着いた。ところがフォーメーションラップ中から雨脚が強まっていき、スタートするころにはフルウエット(エクストリームウェット)タイヤに履き替えてよいくらいの雨量になっていた。そしてこれが大きな混乱を呼ぶことになる。
混乱の1つ目は、ポールポジションのフェルスタッペン選手が、スタートに失敗し(後に行なわれた会見で「ひどいスタートだった」と説明したぐらいの失敗スタート)、2位からスタートしたシャルル・ルクレール選手に並びかけられ、もう少しでトップのポジションを失うところだったこと。しかし、1、2コーナーでアウトを大回りするという離れ業をやってみせ、S字に到達するころにはトップのポジションを維持することに成功した。
混乱の2つ目は、予選3位からスタートしたカルロス・サインツ選手(55号車 フェラーリ)が、やはりスタートに失敗し4位に下がり、ヘアピンの立ち上がりから200Rに向かう箇所でアクアプレーニングが原因と思われるスピンをしてタイヤバリアにクラッシュしてしまったこと。サインツ選手自身にはけがなどはなかったが、フェラーリが使えるカードは1枚になってしまい、レースの振り子は完全にレッドブル側に傾くことになった。
サインツ選手のクラッシュが引き金になり、セーフティカー、赤旗という展開に。その赤旗後は2時間以上にわたってレースが中断することになった。
長い中断後(そんな雨の中、熱心な日本のファンはじっと自分の席で待ち続けた)に再開されたレースは、フェルスタッペン選手のワンサイドゲームになった。2位のルクレール選手に大差をつけ、レース開始から3時間で迎えたチェッカーまで独走でチェッカーを迎えた。
だが、ドラマはそのチェッカーから20秒以上離されていたルクレール選手と、フェルスタッペン選手のチームメイトであるセルジオ・ペレス選手(11号車 レッドブル・レーシング・RBPT)による2位争いで起きた。
ルクレール選手は、レース再開して5、6周するとフロントタイヤの摩耗に苦しみ、フェルスタッペン選手についていけなくなり、3位のペレス選手に激しく追い上げられていたのだ。
レース後にルクレール選手にペナルティが出て、フェルスタッペン選手のチャンピオンが決まる
2人の争いに決定的な瞬間が訪れたのは、最終ラップ、最終コーナー(実際にはシケイン)。シケインで止まりきれなかったルクレール選手はシケインをショートカットしてしまったのだ。それがアドバンテージとなり、そのままの順位(2位 ルクレール選手、3位 ペレス選手)としてゴールした。
レース終了後、すぐにレース審査委員会はルクレール選手のシケイン不通過は不当なアドバンテージを得たとして、最終結果に+5秒のペナルティを課すことを決定した。このペナルティにより、ペレス選手が2位、ルクレール選手が3位となったのだ。
その知らせは、勝者フェルスタッペン選手の会見が終わって、2位ルクレール選手のインタビューが始まろうとしたときにもたらされた。メインストレートにはファンが入ってきたタイミングでもあり、場内のビジョンにフェルスタッペン選手の2022年ドライバー選手権チャンピオンの表示が出ると、サーキットは割れるような歓声で大きく盛り上がった。
しかし、そう言われても当のチーム関係者もドライバーも顔に「?」と書いてあるような状況で、フェルスタッペン選手自身も「え、自分がチャンピオンなの?」と言いたげな表情だった。というのも、実は今回のレース周回数である28周は、元々の予定である58周の半分は超えているものの、フルポイントを与えられる75%に達していなかったため、シリーズチャンピオンが決まるほどのポイントは獲得できないと思っていたからだ。その時点で多くの関係者もそう考えていたはず。
だが、実はルールには、そうしたフルポイントが与えられず、距離に応じて与えられるポイントが減るのは、赤旗が出てレースが中断され、そのまま終わった場合に限るという注意書きがあった。今回のようにレースが再開されてチェッカーをきちんと受けた場合には適用されないというのが今のF1のルールなのだ。このため、1位フェルスタッペン選手には25点、2位ペレス選手には18点、3位ルクレール選手には15点という通常のポイントが与えられ、結果、フェルスタッペン選手のポイントは366、2位に上がったペレス選手が253となり、その点差は113点差。残りの4レースで取れるフルマークのポイント112点(優勝25×4+ファステストラップボーナス1×4+ブラジルでのスプリント予選優勝で8点)を超えているため、フェルスタッペン選手の2022年F1ワールドチャンピオンが確定したのだ。
ドラマチックで、劇的で、そして誰も本当のことが分からないというカオスな状況の中で、フェルスタッペン選手のチャンピオンは決定した。当初は困惑気味だったのも無理はないだろう。
ホンダF1/HRCの技術的な立役者であるHRC浅木常務がコンストラクター代表として表彰台へ
ポイントに関するレギュレーションへの理解が進むと、フェルスタッペン選手とチームは喜びを爆発させた。フェルスタッペン選手は、チーム関係者と、そして彼女のケリー・ピケさんと、レッドブル・レーシング チーム代表 クリスチャン・ホーナー氏と次々と抱擁し、喜びを分かち合った。表彰式、チームと多くのセレモニーをこなしたため、レース後に行なわれるFIAの記者会見も1時間程度ずれ込んで行なわれる形になったほどだ。
表彰式の表彰台(ポディウム)にコンストラクター代表として上がったのはホンダ・レーシング 常務取締役 四輪レース開発部 部長 浅木泰昭氏。
2021年末でF1活動から撤退し、参加していないはずのホンダだが、実際にはHRC(ホンダ・レーシング)が、RBPT(レッドブル・パワートレインズ)というレッドブルの子会社に対してF1用のパワーユニットを開発・供給して、レース現場で運用といったサービスも提供している。つまり、名前がホンダからレッドブルに変わっただけで、現場ではホンダ時代と変わらない運営がHRCにより行なわれていた。
このエンジンの開発(ルールで開発は2022年シーズンで凍結され、2025年まで凍結された状態で運用される)、供給、サービスをHRCが担当する仕組みは、2025年まで続けられることが、ホンダおよびレッドブルの双方からすでに発表されている。
そうした中、レッドブル側がホンダF1での昨年のドライバー選手権タイトル、そしてHRCのサービス下での、今年のタイトルをとても喜んでおり、HRCを代表する人として浅木氏を表彰台に上げたのは、レッドブル側からの感謝の意の表われであると同時に、ホンダ本体に対して2026年以降も一緒にやりませんか?という隠れたメッセージがあると考えることができるだろう。
レッドブルが2026年以降のパワーユニット供給に関して、ポルシェと話し合っていたことは公然の秘密だった。すでにその交渉が破談になったことは両者が認めている。
レッドブル・パワートレインズで自分たちのパワーユニットの開発を始めているとレッドブルは説明しているが、現在パートナーとして安定して、強力なパワーユニットを供給してくれているのだから、2026年以降も継続したいと考えるのは不自然ではない。浅木氏の表彰台登壇は、レッドブル側の「もう一度一緒にやってほしい」という気持ちの表われだと考えるのは不自然ではないと思う(無論レッドブル側はそういうことは一言も言っていない、あくまで推測での話だ)。
HRCロゴが「HONDA」に変わっているのは前向きな変化、次の焦点はアメリカGPでのコンストラクタータイトル獲得
折しも今回の日本GPからは、従来は「HRC」表示だったロゴは「HONDA」に変更されている。もちろん「だったらなぜ撤退するのだ」という意見があることも承知しているが、ホンダに対してF1に復帰してほしいと願っている日本のファンにとっては前向きな変化だと言える。
ホンダがF1撤退を決めたときに理由として挙げた「カーボンニュートラルの実現」に対しては、F1自身も2030年までに「Net Zero(総量ゼロ、2030年までにカーボンニュートラルを実現するという意味)」を実現することをコミットメントとしており、ホンダとF1が向いている方向性に違いはなくなっている。
そうしたホンダや日本のファンに関してフェルスタッペン選手は「この日本グランプリでチャンピオンになれたことは、ホンダや日本ファンのためにも特別なことだと感じている。今日はホンダとともに走った、彼らとはこの何年も一緒に戦ってきたのだ。そして日本のファンは最高だ。日本に来ると、どこにいってもファンが僕らのことを待ち構えてくれている。彼らは僕らを待ち続け、夜になると車中泊して、そしてまた僕らを待つために駆けつけてくれる。本当に3年間もここに来ることができなかったなんて長過ぎだった」と述べ、ホンダと日本のファンに特別な感謝の気持ちを表明している。
そうしたファンの「想い」がレッドブルやホンダに届いているからこそ、HRCロゴが「HONDA」に変わったりするのだろうし、フェルスタッペン選手のレッドブル側を代表してのホンダや日本のファンへの感謝の表明なのだと思う。もちろんホンダからは何の発表もないし、今後もすぐにそうした状況に変化があるとは思わないが、少なくとも前向きな方向に変わりつつある、そういうことを感じられたのが、フェルスタッペン選手の日本グランプリでの戴冠だったといっても言いすぎではない。
次戦は2週間後のアメリカグランプリ。ホンダにとってアメリカ市場は日本に次ぐ重要な市場になっている。特に最近のアメリカにおけるF1人気は高まるばかりで、2023年はラスベガスグランプリを加えて年間3戦も行なわれる。アメリカグランプリでの焦点は、コンストラクター(製造者)選手権でのレッドブルの戴冠だろう。すでにレッドブルはアメリカグランプリ後に1-2フィニッシュ、ファステストラップボーナス、スプリントでの1-2で獲得できる最大ポイント147を上回る165のリードを2位のフェラーリに対して築いている。つまり次戦のアメリカグランプリで、リタイアなどをしない限りは、昨年は取れなかったコンストラクター選手権の方も決定できる状況にある。
F1第18戦日本グランプリ 決勝結果
順位 | 号車 | ドライバー | 車両 | 周回数 | タイム | ポイント |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | マックス・フェルスタッペン | レッドブル・レーシング RBPT | 28 | 3時間01分44秒004 | 25 |
2 | 11 | セルジオ・ペレス | レッドブル・レーシング RBPT | 28 | +27.066秒 | 18 |
3 | 16 | シャルル・ルクレール | フェラーリ | 28 | +31.763秒 | 15 |
4 | 31 | エステバン・オコン | アルピーヌ・ルノー | 28 | +39.685秒 | 12 |
5 | 44 | ルイス・ハミルトン | メルセデス | 28 | +40.326秒 | 10 |
6 | 5 | セバスチャン・ベッテル | アストンマーティン・アラムコ・メルセデス | 28 | +46.358秒 | 8 |
7 | 14 | フェルナンド・アロンソ | アルピーヌ・ルノー | 28 | +46.369秒 | 6 |
8 | 63 | ジョージ・ラッセル | メルセデス | 28 | +47.661秒 | 4 |
9 | 6 | ニコラス・ラティフィ | ウイリアムズ・メルセデス | 28 | +70.143秒 | 2 |
10 | 4 | ランド・ノリス | マクラーレン・メルセデス | 28 | +70.782秒 | 1 |
11 | 3 | ダニエル・リカルド | マクラーレン・メルセデス | 28 | +72.877秒 | 0 |
12 | 18 | ランス・ストロール | アストンマーティン・アラムコ・メルセデス | 28 | +73.904秒 | 0 |
13 | 22 | 角田裕毅 | アルファタウリ RBPT | 28 | +75.599秒 | 0 |
14 | 20 | ケビン・マグネッセン | ハース・フェラーリ | 28 | +86.016秒 | 0 |
15 | 77 | バルテリ・ボッタス | アルファロメオ・フェラーリ | 28 | +86.496秒 | 0 |
16 | 24 | ジョウ・グアンユー | アルファロメオ・フェラーリ | 28 | +87.043秒 | 0 |
17 | 10 | ピエール・ガスリー | アルファタウリ RBPT | 28 | +88.091秒 | 0 |
18 | 47 | ミック・シューマッハ | ハース・フェラーリ | 28 | +92.523秒 | 0 |
NC | 55 | カルロス・サインツ | フェラーリ | 0 | DNF | 0 |
NC | 23 | アレクサンダー・アルボン | ウイリアムズ・メルセデス | 0 | DNF | 0 |
シャルル・ルクレール選手はゴール後、+5秒のタイムペナルティ
ドライバー選手権(F1第18戦日本グランプリ終了時点)
順位 | ドライバー | 国 | 車両 | ポイント |
---|---|---|---|---|
1 | マックス・フェルスタッペン | NED | レッドブル・レーシング RBPT | 366 |
2 | セルジオ・ペレス | MEX | レッドブル・レーシング RBPT | 253 |
3 | シャルル・ルクレール | MON | フェラーリ | 252 |
4 | ジョージ・ラッセル | GBR | メルセデス | 207 |
5 | カルロス・サインツ | ESP | フェラーリ | 202 |
6 | ルイス・ハミルトン | GBR | メルセデス | 180 |
7 | ランド・ノリス | GBR | マクラーレン・メルセデス | 101 |
8 | エステバン・オコン | FRA | アルピーヌ・ルノー | 78 |
9 | フェルナンド・アロンソ | ESP | アルピーヌ・ルノー | 65 |
10 | バルテリ・ボッタス | FIN | アルファロメオ・フェラーリ | 46 |
11 | セバスチャン・ベッテル | GER | アストンマーティン・アラムコ・メルセデス | 32 |
12 | ダニエル・リカルド | AUS | マクラーレン・メルセデス | 29 |
13 | ピエール・ガスリー | FRA | アルファタウリ RBPT | 23 |
14 | ケビン・マグネッセン | DEN | ハース・フェラーリ | 22 |
15 | ランス・ストロール | CAN | アストンマーティン・アラムコ・メルセデス | 13 |
16 | ミック・シューマッハ | GER | ハース・フェラーリ | 12 |
17 | 角田裕毅 | JPN | アルファタウリ RBPT | 11 |
18 | ジョウ・グアンユー | CHN | アルファロメオ・フェラーリ | 6 |
19 | アレクサンダー・アルボン | THA | ウイリアムズ・メルセデス | 4 |
20 | ニコラス・ラティフィ | CAN | ウイリアムズ・メルセデス | 2 |
21 | ニック・デ・ブリーズ | NED | ウイリアムズ・メルセデス | 2 |
22 | ニコ・ヒュルケンベルグ | GER | アストンマーティン・アラムコ・メルセデス | 0 |
コンストラクター選手権(F1第18戦日本グランプリ終了時点)
順位 | チーム | ポイント |
---|---|---|
1 | レッドブル・レーシング RBPT | 619 |
2 | フェラーリ | 454 |
3 | メルセデス | 387 |
4 | アルピーヌ・ルノー | 143 |
5 | マクラーレン・メルセデス | 130 |
6 | アルファロメオ・フェラーリ | 52 |
7 | アストンマーティン・アラムコ・メルセデス | 45 |
8 | ハース・フェラーリ | 34 |
9 | アルファタウリ RBPT | 34 |
10 | ウイリアムズ・メルセデス | 8 |