ニュース

トヨタ、スバル、マツダ、ホンダの開発者がレース現場の会議を公開 ワイワイガヤガヤと語り合う

トヨタ、スバル、マツダ、ホンダの開発者がモータースポーツや車両開発を語り合う会議を公開

 10月15日、スーパー耐久第6戦を開催中の岡山国際サーキット(岡山県美作市)において、スーパー耐久に参戦中のTOYOTA GAZOO Racing(トヨタ自動車)、スバル、マツダ、本田技研工業による会議が報道公開された。

 スーパー耐久に参戦中の4者ではレースにおける車両開発の改善点などをレースごとに話し合っており、その話し合いが公開されたもの。もちろんオープンにできないものもあるが、例えば将来へ向けてのカーボンニュートラル燃料のあり方などレースのデータを持ち寄って話し合える部分も多い。また、自動車メーカー参戦において感じている部分を開発者同士が話し合うことで、単に勝ち負けではない気づきを得ているものと思われる。

会議風景

 報道公開された岡山の会議は、報道陣に公開するということもあって岡山のレースでのクルマの工夫点のほか、将来のレースにおけるあり方、モータースポーツファンの裾野をどう広げていくかなど、大きな話題がざっくばらんに話し合われていた。さらに、報道公開の方法も各社の近くに報道陣が座り、報道陣にも意見を求めるもの。オープンな形で各社の取り組みを見せたいという意図が強く出ているものだった。

 ちなみに、この話し合い形式の会議に正式な名称はなく、本記事では単に会議と記す。最終戦の鈴鹿では正式な名称を決めるとの合意は、本会議においてなされていた。

 各メーカーの出席者は、参加チームの代表格に加え若手開発者など。チームの代表格もレース参戦を通じて開発を行なっている人たちで、レース現場でクルマの開発における自由な意見交換をしているという印象だ。

TOYOTA GAZOO Racing
スバル
マツダ
ホンダ

 たとえば、同じカーボンニュートラル燃料を搭載してガチンコで公開開発している28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptと61号車 Team SDA Engineering BRZ CNF Conceptだが、前戦もてぎでの決勝では28号車が61号車を上回り、ガチンコ対決に勝利。それをくやしく思ったスバルは、前戦でテスト投入したアイサイトを取り外したほか、徹底的に軽量化。60kgの軽量化を行ない、エンジン出力も8馬力ほどアップさせてきたことが明かされた。

 その結果、今回の岡山の予選ではスバルが勝利。会議の中でTOYOTA GAZOO Racingの開発陣が本気でくやしがっており、決勝や次戦での巻き返しのためのジャブを放っていた。

 また、同じST-Qクラスに参戦するマツダは、バイオディーゼル燃料「サステオ」を使用して走らせているMAZDA2の戦闘力を上げつつあるものの、限界が見えているようで、次の鈴鹿には新しい車両を投入したいと発言。まだ投入できることが確定していないとのことだが、トヨタとスバルの争いに割って入ろうとしている。

 ホンダは、最終戦鈴鹿において新型「シビック TYPE R」を投入することを正式発表しているが、このように新型車をすぐに投入できるようになったのも各メーカーの正式参戦があったから。スーパー耐久に参戦した経緯としてはホンダが一番早かったものの、自己啓発活動としての社員有志によるクラブ活動のような参戦だった。それが、2021年の富士24時間から水素カローラが参戦し、2022年はGR86やBRZ、MAZDA2がフル参戦してきた。そのため、ホンダとしても自己啓発活動にちょとだけ会社としての予算が付き、新型車両による参戦、TYPE Rの若手開発者参加など参戦規模が拡大してきた。

 会議においてはTYPE Rの若手開発者の堂々とした意見に、TOYOTA GAZOO Racing開発陣がのけぞるなどの風景も見られ、なごやかな雰囲気の中にもバチバチ感は漂うものだった。

 バチバチ感は随所にあったが、4者が一致していたのはモータースポーツをどうやってもっと広げていこうかというもの。マツダはST-5クラスに倶楽部 MAZDA SPIRIT RACING ROADSTERを参戦させ、パーティレース出身者のステップアップの道を作り上げようとしている。ホンダからは岡山でも併催されているN ONEレースの次のステップをという意見が出る。そして、TOYOTA GAZOO Racingとスバルからは、GR86/BRZレースの次についての意見が出るといった具合に、各社ともなにができるかが話し合われていた。

 また、レース活動と市販車をもっとつなげていくための意見も出ていた。スーパー耐久シリーズのよさはレース向けの特殊車両ではなく、市販車がベースとなっている部分がある。レースで活躍するクルマを応援しやすいし、レースによってオプションパーツなどが開発されてもいる。もちろん自動車メーカーは、もっと大きな視野での開発をスーパー耐久で行なっているが、会議に参加した報道陣からは開発を市販車へ明確につなげるなどの取り組みがほしいとの意見も出ていた。

 とくに、なにか完全な結論を求める会議ではないが、現状の問題点、将来の改善点、やりたことやできないことをオープンにしていくことで、現状改善の気づきを各社が得ているように見えた。1社ではできないことも、4社であればできるかもしれないという可能性も見えていた。

 さらに特筆すべきは、自動車開発の次代を担う若手開発者の楽しそうな顔が印象的だったことだ。他社の開発リーダーに対して直接疑問点をぶつけることができたり、レースでの実績をもとに勝負をもちかけることもできる。高度になったため、専門領域だけでの開発になりがちな現代の自動車開発において、さまざまな試みをすぐに実行でき、その結果の立ち位置も分かる。他社のベテラン開発者、若手開発者との交流もでき、新たな知見も広がっているようだ。

 スーパー耐久というモータースポーツの場から、何かが生まれつつあることを実感できた公開会議だった。