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マツダ、スバル、ヤマハ、カワサキ、トヨタの社長が脱炭素へ向け岡山に集合 「意思ある情熱と行動で、10年後20年後の姿が変わってくる」と豊田章男自工会会長
2021年11月14日 06:00
11月13日、スーパー耐久最終戦岡山が開催されている岡山国際サーキットにトヨタ自動車 豊田章男社長、マツダ 丸本明社長、スバル 中村知美社長、川崎重工業 橋本康彦社長、ヤマハ発動機 日髙祥博社長が集まり記者会見を行なった。会見の骨子はマツダがバイオディーゼル使用のデミオで、スバルが合成燃料使用のBRZで2022年のST-Qクラスに参戦すること(デミオは最終戦にもスポット参戦)になる。そして、カワサキとヤマハは水素燃焼エンジン搭載バイクの開発で協業していくという。
トヨタ自動車 豊田章男社長は、モリゾウ選手として水素カローラでレースに参戦しているためルーキーレーシングのレーシングスーツ姿で会見。会見の冒頭、2輪メーカー、4輪メーカーが参加していることから日本自動車工業 会長としての発言を行なった。豊田会長はスーパー耐久を運営するSTOの桑山晴美代表にお礼を述べたほか、水素ステーションの設置に協力してくれた各サーキット、関係者らへのお礼を述べ、5社の社長が集まってのあいさつを行なった。
豊田会長は、「エネルギーの選択肢の幅を広げたことにより、使う側での仲間がさらに増えた状況で、自動車工業会の会見を岡山国際サーキットで行なっているような状況」と5社による会見を紹介。その上で、「自工会会長だけが、なんか変な格好をしているな」とレーシングスーツにも触れ、会場の空気を和らげた。
豊田会長はマツダがバイオディーゼルで参戦することや、スバルがトヨタとともにカーボンニュートラル燃料で走ることを紹介。ヤマハとは2016年から一緒に水素エンジンを開発してきたことを初めて明らかにし、そのヤマハがカワサキと水素燃焼エンジンを搭載するバイクで協業することについては、「五感でモビリティを感じる一人の人間としてとても楽しみにしている」と喜びを示した。
水素カローラの進捗についても報告が行なわれ、福島県浪江町やトヨタ自動車九州で製造した水素に加え、新たに福岡市の下水由来の水素を使うことや、今回はその水素タンクの輸送にユーグレナのバイオ燃料を使用したバイオディーゼルトラックを使用していることを伝えた。水素充填スピードも水素カローラにとって初戦の富士スピードウェイでが約4分半であったのに対し、オートポリスは約2分半、鈴鹿は約2分20秒、そして今回の岡山では1分50秒にまで短縮。着実に進歩しているという。
カーボンニュートラル社会の構築には各社いずれも未完成の技術だが、それがモータースポーツという場に持ち寄られ、急速に進化していることを数字で示した形だ。
豊田会長はそのような状況を、「意思ある情熱と行動で、10年後20年後の姿が変わってくる」と表現。豊田会長が4月22日の自工会オンライン会見で「私たちのゴールはカーボンニュートラルであり、その道は1つではない」と宣言してから7か月、水素の「つかう」「つくる」「はこぶ」をレースごとに見せることで、無謀とも思われた挑戦に多くの仲間が確実に増えてきたと言える。
自工会 豊田章男会長、「私たちのゴールはカーボンニュートラルであり、その道は1つではない」とeフューエルや複合技術活用を語る
新たに仲間に加わった、マツダとスバル
マツダは、ユーグレナが製造する100%カーボンニュートラルなバイオディーゼル燃料「サステオ」を使用する「デミオ」で参戦を決めた。その理由についてマツダ 丸本明社長は、「カーボンニュートラル社会に向けて、メーカーの枠を超えて新たなモータースポーツのあり方を考えようという呼び掛けに共感して参戦した」と語る。
マツダは、多くの自動車メーカーがあきらめたロータリーエンジンを搭載したクルマの量産化に世界で初めて成功したメーカーであり、そのロータリーエンジンを搭載したレーシングマシンで日本で初めてル・マン24時間レースに優勝したメーカーである。近年はSKYACTIVテクノロジで、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの革新を起こしているメーカーでもある。カーボンニュートラルの選択肢を広げるため、燃焼技術に優れたメーカーであるマツダは、水素カローラとの戦いにバイオディーゼルを選んだことになる。
バッテリEVであるソルテラを世界初公開した直後に参戦発表するスバル
一方、スバルは会見の2日前に、バッテリEVの新型車「ソルテラ」を世界初公開したばかり。バッテリEVの新型車の発表直後にスバル 中村知美社長は岡山へ移動したことになる。
中村社長は、COP26の自動車関連の採択があった翌日がソルテラの発表日だったため、「スバルとしての電動化へのシフトは?」「このままEVに突き進むのですか?」といった質問を多く受けたという。「そのときにお答えしたのは本当にバッテリEVだけが選択肢なのでしょうか? まだまだほかの技術にチャレンジしていく必要があるのではないでしょうかということです。今日のこの場か2日後に迫っていたもんですから、ちょっとモゴモゴした対応とさせていただいた。そういう意味で今日はかなりすっきりしてお話させていただくということになります」と語る。
中村社長はスバルとして参戦することになったきっかけを紹介。「トヨタ自動車さんとアライアンスの協議を進めている中で、トヨタさんからモータースポーツの現場でカーボンニュートラル燃料を使った内燃機関の対応、モータースポーツで一緒に技術開発をやっていきませんかという、こういうお声がけをいただきました。われわれとしては先ほど申し上げたとおり、選択肢を狭めない、バッテリEVだけでなく内燃機関を活用した道にチャレンジしたいという思いがありました。そこはまったくトヨタさんと一緒でした。こういった場で技術を育て、エンジニアを育てていくということにもしっかりとつながると考えましたので、すぐに賛同させていただき、一緒にやらせていただきたいということで、今回この場にいるというふうにご理解いただきたいと思います」と、スバルとしての参戦の思いを語った。
スバルとしては、カーボンニュートラル燃料であるバイオマスを由来とした合成燃料に対する知見は少ないものの、長年つちかってきた内燃機関エンジンで実証実験をしていきたいと考えているという。この会見では語られなかったが、STI(スバルテクニカインターナショナル)ではなくスバルとしての参戦になるようで、WRC以来のスバルワークスチームがレーシングフィールドに戻ってくる。その背景としてはカーボンニュートラルへ急速にシフトする時代に、技術の選択肢を広げるために技術者を育てたいという気持ちがあるようだ。
ただ、スバルとしては「出るからにはがんばってガチンコ勝負を挑みたい」と中村社長は語り、水素カローラ、そして同じ合成燃料で参戦するGR86へのライバル意識を見せていた。
100年に一度の変革期に水素タンクを背負って走るモリゾウ選手
豊田章男氏は世界有数の自動車会社社長であるほか、日本の基幹産業である自動車産業を代表する自工会の会長でもあり、モリゾウ選手としてジェントルマンレーサーである一人のカーガイでもある。その見分け方として、スーツであれば豊田社長か豊田会長、レーシングスーツであればモリゾウ選手、普段着であればカーガイの豊田章男氏と以前書いたことがあるが、2021年シーズンはレーシングスーツを着ながら社長・会長として「敵は炭素」といった発言が多くなっている。レーシングスーツをカーボンニュートラル社会への選択肢を切り開くためのビジネススーツに位置づけているようにも見える。
かつてはレーシングスーツを着ることでカーガイのモリゾウ選手でいられた豊田章男氏だが、トヨタ単独ではカーボンニュートラル社会への変革を成し遂げられない時代となり、クルマ好きだったモリゾウ選手の時間も100年に一度の変革のために差し出している。自ら水素タンクを背負って走り、水素燃焼エンジンを確実に進化させ、その実績を持って仲間作りを呼びかけている。
会見の中で豊田会長は「中村社長になんだったらモリゾウをスバルチームで使ってくださいと提案しているのですが、なんか全然相手にはしていただけない」と語り、会見場を笑いに包んでいた。ただのクルマ好きのモリゾウ選手にもどってレースに臨みたいというのは、案外本音なのかもしれないなと思ったが、それを許さないとほどの変革が迫っていると言える。モリゾウ選手は水素カローラの進化を見せるために、土曜日は自工会会長としての会見を行ない、日曜日はドライバー仲間と決勝レースに挑んでいく。