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ヤマハ、サス連動のアダプティブクルーズコントロール搭載車、「立ちゴケ」を防止する自立技術を披露

2022年11月11日 発表

ヤマハ発動機が安全運転を実現する技術、取り組みを紹介

 ヤマハ発動機は11月11日、「安全ビジョンおよび技術説明会」を開催し、二輪車の安全に向けた支援技術や活動について発表した。

 そのなかで、ミリ波レーダーと前後ブレーキ、サスペンションを連動させてクルーズコントロールを行なう「レーダー連携ユニファイドブレーキシステム」搭載車を2023年に発売すると明らかにしたほか、低速域における自立を可能にする技術、自動車と二輪車が無線通信するV2Xで安全性を高める取り組みなどを披露した。

発表会で登壇したヤマハ発動機株式会社 代表取締役社長の日髙祥博氏(左)と技術・研究本部長の丸山平二氏(右)

危険予期時にブレーキをアシストし、同時にサス減衰を最適化

 2023年に発売されるのは、「マルチロールファイター」と同社が呼称するツアラー「TRACER9 GT+」。排気量888ccの大型二輪で、ミリ波レーダーによって前車との距離を把握し、車速などの制御を行なう「アダプティブクルーズコントロール(ACC)」機能を搭載する。

2023年発売予定の「TRACER9 GT+」
下段のヘッドライトの間にある黒いボックスの奥にミリ波レーダーがある
ハンドル左側にあるボタンを押すとアダプティブクルーズコントロールが有効に
稼働状態はディスプレイに表示される。30~160km/hで有効になり、ライダーが車速に合わせてシフトチェンジしやすい新型のクイックシフターも備える

 それと合わせて、「レーダー連携ユニファイドブレーキシステム」も搭載する。ACCが稼働中に前車が急減速するなどして、「このままでは接近しすぎる」と予測される場合、システムがメーターパネルを兼ねるディスプレイ上でライダーに警告表示し、ライダー自身にブレーキ操作を促す。それでも制動力が不足していると判断されたときには、システムが最適な前後ブレーキバランスを考慮したうえでさらにブレーキをアシストして減速力を高める。

ミリ波レーダーとブレーキが連携
さらにサスペンションも制御し、姿勢変化を感じにくくする

 シートベルトで体がシートにほぼ固定されている四輪車と違い、二輪車はシステム側の自動ブレーキが不意に介入した際、ライダーが違和感を覚えたり、かえって危険性が増したりする可能性がある。そのため、ライダー自身のブレーキ操作をアシストする形で制動力を高め、さらにサスペンションの減衰力も同時に制御して、二輪車自体の姿勢変化も最小限にすることで違和感を抑えているのが、「レーダー連携ユニファイドブレーキシステム」のポイントとなっている。

「立ちゴケ」も防止する「二輪安定化支援システム」

 同社代表取締役社長の日髙氏によると、世界の交通事故による死者数は、四輪車はここしばらく減少傾向にあるものの、二輪車については横ばいか微増という状況。また、欧州主要5か国の二輪車の交通事故においては、全体の7割がそのきっかけから2秒以内に事故に至るというデータもあり、認知してからの回避操作が困難という特徴もある。そうした背景から「ヤマハ発動機は、技術・技量・つながる、これらを軸に(中略)お客さまとともに事故のない社会を目指します」(同氏)と語り、3つの領域それぞれにおける同社の具体的な取り組みを紹介した。

「お客さまとともに事故のない社会を目指します」と語った日髙氏
四輪車の死亡事故は減っているが、二輪車は横ばい、もしくは微増
きっかけから2秒以内に事故に至ることが多いため、実際には回避が困難なのが二輪車事故の特徴

「技術」のコンセプトとして披露した1つが「二輪安定化支援システム」と呼ばれるもの。前輪および操舵部分に搭載したアクチュエータと、6軸センサーユニットを組み合わせた電子制御システムにより、5km/h以下での極低速域での自立を可能にしている。2015年に発表した人型自律ライディングロボ「MOTOBOT」や、AIにより自立して走行する「MOTOROiD」といった過去の技術で蓄積された知見も活かした技術で、いわゆる「立ちゴケ」の対策にも有効とのこと。市販化にはシステムのさらなる小型化や低価格化が必須であるとしながらも、二輪車のフレームを変更することなく、既存のモデルにも比較的容易に適用できる構造としたのが特徴だという。

「二輪安定化支援システム」を搭載したテスト車両
前輪とステアリングにアクチュエータなどを搭載している
ハの字のバンパーは検証中の転倒を防ぐためのもので、自立にあたっては不要な部品
ライダーなしで、低速で自立している様子
二輪安定化支援システム/Advanced Motorcycle Stability Assist System

 また、他の自動車と無線通信するV2Xによって衝突回避を図り安全性を高める「協調型高度道路交通システム」に取り組んでいることも明らかにした。本田技研工業、BMW Motorradといった二輪車メーカー、大学、業界・ユーザー団体などが加盟する「Connected Motorcycle Consortium」を2016年に設立し、二輪車を含むV2Xを実現するための車載システムの仕様検討、標準規格に対する二輪車に求められる要件などの提案を進めているとした。

車両間で相互通信するV2Xによって互いの情報をやりとりする「協調型高度道路交通システム」
四輪車側のディスプレイに、他の車両の陰になって見えない二輪車が近づいていることを警告表示する

「技量」面の取り組みは、同社が1969年から実施している安全運転講習を挙げた。現在は「ヤマハライディングアカデミー」という名称で一般ライダー向けにライディングスクールを継続的に開催し、直近10年余りで累計134万人以上が受講している。近年は、二輪車に特殊なデバイスを装着することで加減速や旋回状態をデータ化して分析可能な「Yamaha Riding Feedback System」も開発。ライディングの質や技量を客観的に評価する仕組みによってライダーの技術向上を支援しているという。

1969年から始まったという歴史の長い安全運転講習。ライディングをデータ分析できる仕組みも取り入れている

 加えて、2021年からは主に海外において、オンラインで学べるオンデマンド型の安全運転教室の提供を開始している。スマートフォンなどで視聴可能な安全運転につながる動画コンテンツを取りそろえており、今後は日本向けを含めコンテンツを大幅に拡充していく計画。担当者によれば、何度も繰り返し視聴してもらえるコンテンツ作りを目指すとしており、一定以上学んだ人には何らかの特典を与える、といったようなユーザーメリットを訴求していくことも将来的には考えられるとした。

短い動画コンテンツで学べるオンデマンド型の安全運転教室

「つながる」という側面では、スマートフォンアプリ「Y-Connect」によって、スマートフォンの通知を二輪車のメーターディスプレイに表示できるほか、燃費履歴の表示、二輪の故障・メンテナンス推奨時期のお知らせ、といった連携機能をすでに実装している。同社技術・研究本部長の丸山氏は、今後さらに「人の状態推定、気象状況、道路状況などのデータを集積・分析し、ライダーにフィードバックすることで、ヒューマンエラーや環境起因の事故の予防をアシストする機能の実現も目指す」とした。

スマートフォンアプリ「Y-Connect」などを活用して、「つながる」という側面からの安全支援を目指す
「ヒューマンエラーや環境起因の事故も防げるようにしたい」と話した技術・研究本部長の丸山平二氏