ニュース

マツダ独自の塗装技術「匠塗(TAKUMINURI)」とは? 進化し続ける塗装の秘密に迫る

匠塗についてデザイン本部と塗装技術グループのスタッフによる説明が行なわれた

開発から10年が経過した今も着実に進化し続けている塗装技術

 マツダは、プロポーションは造形につかさどられ、造形は色を引き立てる一部であるとの考えから「カラーも造形の一部である」という思想を生み出し、デザインテーマ「魂動(こどう)-Soul of Motion」のダイナミックかつ繊細な面構成を際立たせるカラーの開発に力を入れてきた。

 そして、熟練の塗装職人が手塗りしたような精緻で高品質な塗装を量産ラインで実現したマツダの独自の塗装技術「匠塗(TAKUMINURI)」を2012年に完成。第1弾となる「Soul Red Premium Matallic(ソウルレッドプレミアムメタリック)」を発表し、マツダプロダクトを象徴するカラーとして位置づけた。

マツダのカラーデザインには「カラーも造形の一部である」という思想が根底にある

 今回その「匠塗(TAKUMINURI)」が10周年を迎えたことと、新たに第4弾となる新色が完成したことをうけ、報道陣向けの説明会が実施された。会場となったのは、黒を基調にしたシックなデザインで、外観を立体的なルーバーで覆うことによってマツダのデザインテーマ「魂動」の特徴である曲線の美しさやダイナミックな動きを表現している関東マツダの高田馬場店。

こだわりの外観をもつ関東マツダ 高田馬場店。昼間と夜間で異なる表情を浮かびだす

 この日は、マツダ デザイン本部 本部長の中山雅氏、同じくデザイン本部 シニアクリエイティブエキスパートの岡本圭一氏、さらに技術本部車両技術部 塗装技術Gr.マネージャーの河瀬英一氏の3名が登壇し、マツダのカラーデザインに関する説明を行なった。

マツダ株式会社 デザイン本部 本部長 中山雅氏

 中山氏は、2010年にデザインテーマ「魂動-Soul of Motion」を発表すると同時に、その「魂動」を体現したデザインコンセプトカー「靭(SHINARI)」を発表したことを改めて紹介。その鼓動デザインが最初に生かされた市販モデルが、2011年に登場した「CX-5」で、翌2012年に「アテンザ」に匠塗の第1弾となる「Soul Red Premium Matallic(ソウルレッドプレミアムメタリック)」が採用されたと説明。このソウルレッドプレミアムメタリックは、マツダのプロダクトを象徴するカラーになったという。

鼓動デザインとデザインコンセプトカー「靭(SHINARI)」
匠塗(TAKUMINURI)の第1弾となる「ソウルレッドプレミアムメタリック」は、マツダのプロダクトを象徴するカラーとなった

 そして、匠塗の第2弾となる「Machine Gray Premium Metallic(マシングレープレミアムメタリック)」は、「マシンの美学」を表現するカラーとして、2015年末に北米市場へ投入された「CX-9」に初採用。翌2016年に「アクセラ」「アテンザ」に採用することで日本市場へも導入された。

2015年に匠塗の第2弾マシングレープレミアムメタリックが登場
日本国内には2016年に導入された

 また、第1弾のソウルレッドプレミアムメタリック誕生から5年後となる2017年には「Soul Red Crystal Matallic(ソウルレッドクリスタルメタリック)」へと進化させ、新型「CX-5」に採用することで日本市場へ投入。「情熱・スポーティ・エモーショナル」を具現化する赤系統のカラーに、さらなる鮮やかさと深みのある赤に仕上げた。

進化した赤系統色「ソウルレッドクリスタルメタリック」が新型「CX-5」に導入された

 続いて2022年3月、「引き算の美学」を表現するカラーリングとして、第3弾の匠塗となる「Rhodium White Premium Metallic(ロジウムホワイトプレミアムメタリック)」を、欧州にて新型「CX-60」で初採用することで市場へ導入。白さと金属の輝きを両立させる技術を開発したことで完成したという。

新型「CX-60」で初採用された匠塗の第3弾ロジウムホワイトプレミアムメタリック

 そして今回、新たにラージ商品群向けに開発した匠塗第4弾となる「Artisan Red Premium Metallic(アーティザンレッドプレミアムメタリック)」を、「MAZDA6」の商品改良に合わせて導入する特別仕様車「20th アニバーサリー エディション」の専用色として初採用。アーティザンレッドプレミアムメタリックは「熟練した職人によって創り上げられた赤」という意味で、デザインイメージは「最高峰の職人技で生み出される熟成されたワインのような赤」。

 光が当たるハイライト部は、きめ細かく透明感のある赤が鮮やかに光り、基調となるシェード部では、深みと濃厚さをしっかりと演出するハイコントラストで造形の強さと美しさを際立たせ、上質で成熟した大人の世界観を表現した。

匠塗第4弾となる「アーティザンレッドプレミアムメタリック」を採用したMAZDA6の20周年記念モデル

カラー販売比率はマツダならではの特色がでている

マツダ株式会社 デザイン本部 シニアクリエイティブエキスパート 岡本圭一氏

 岡本氏によると、「グローバルでのカラー販売比率は2018年~2019年調べで、ソウルレッドプレミアムメタリック、マシングレープレミアムメタリックの匠塗2色で全体の40%を占めていて、日本国内でも白系統の比率が高いのは市場全体もマツダも同じだが、赤系統の比率については市場全体では低め(塗料メーカー情報)にも関わらず、マツダでは白系統と同等の販売比率を誇り、マツダを象徴するカラーとして定着している」と市場の分析結果を紹介。

グローバルにおけるカラー比率
マツダの国内でのカラー比率
新型SUV「CX-60」のカラー比率

 また、匠塗第3弾となるロジウムホワイトプレミアムメタリックについては、先行予約の段階で40%を超えるなど、圧倒的な支持と存在感が高まってることを説明した。

CX-60の国内累計販売比率では匠塗第3弾の割合が圧倒的に高くなっている

匠塗(TAKUMINURI)とは、どういったことが特殊なのか? 何が難しいのか?

マツダ株式会社 技術本部車両技術部 塗装技術Gr.マネージャー 河瀬英一氏

 河瀬氏からは匠塗についての技術的な解説が行なわれた。そもそも10年前に登場した匠塗は、「熟練の塗装職人が手塗りしたような精緻で高品質な塗装を、通常の量産ラインで実現できないか?という考えから開発がスタートした」という。

タスクチームによる共創活動で実現した匠塗(TAKUMINURI)

 そこでマツダは、従来の部署ごとや社外メーカーを切り離した進め方では達成できないと考え、タスクチームによる共創活動を開始。机上の打ち合わせ段階から同じテーブルについて意見を出し合い、デザイン部の理想、塗装機械の技術的な理想、生産ラインから見た理想、塗料を作るメーカー側の理想、予算的な理想など、関係部門の理想を同時に吸い上げながら、どのようにすれば匠塗を実現できるかを徹底的に話し合うことで解決策を導き出した。

 また、自動車と同じく塗装に関しても、技術を応用しながら新たな技術を開発するといった段階的に進めていくビルディングブロック構想を採用。塗料やアルミフレークといった塗料から、実際にアルミフレークの入った塗料を職人と同じレベルで塗装する機械まで、材料と設備をセットで考えながら進化させている。

塗装のモノ造りビルディングブロック

 第1弾のソウルレッドプレミアムメタリックでは、従来はカラー層の上に塗っていた反射層を下地に塗ることを考案。同時にカラー層にアルミを織り交ぜ光を反射させる構造にした。その上にカラー層を透過層として重ねることで、反射した光が透過層のカラーをよりきれいに浮かび上がらせることに成功した。もちろん、カラー層に入れるアルミを光を反射しやすい向きに並べるなど新たな技術も開発された。

 また第2弾のマシングレープレミアムメタリックでは、塗装の乾燥時の体積収縮を利用して、極小で平滑なアルミを平行に並べることを可能とし、面で反射する新技術を確立。「金属の質感を表現しつつ、陰影感を両立させることに成功した」と河瀬氏はいう。

ソウルレッドプレミアムメタリックの技術
マシングレープレミアムメタリックの技術

 その第2弾の開発で得た技術と、新たに人間がもっとも赤く感じる波長を追求した顔料のナノサイズ制御技術を合わせることで、新たにソウルレッドプレミアムメタリックを進化させたソウルレッドクリスタルメタリックの開発に成功。この時点でソウルレッドは「プレミアムメタリック」から「クリスタルメタリック」へと切り替えられた。

 同じくそのアルミ配向技術と、極薄アルミ層を同一面上できれいに並べる技術を白系統へ応用することで、白さと金属の輝きを両立した「ロジウムホワイトプレミアムメタリック」の開発に成功。これを匠塗第3弾とした。

ソウルレッドクリスタルメタリックの技術
ロジウムホワイトプレミアムメタリックの技術

 そして、これまでの匠塗で培ってきた技術すべてを活用して完成させたのが、第4弾となるアーティザンレッドプレミアムメタリックで、光吸収フレークと漆黒顔料で反射光以外は徹底して吸収しつつ、アルミの平行度を高めることで正反射を強化。光のあたる赤い部分はより赤く、光の当たらない部分はより黒く見え、鮮やかさと陰影感のさらなる深化が特徴となる。

アーティシャンレッドプレミアムメタリックの技術
光のあたる赤い部分はより赤く、光の当たらない部分はより黒く見えるアーティシャンレッドプレミアムメタリック

 マツダは、今後も新しいカラー表現やそれを実現する塗装技術を追求するとしていて、第5弾の匠塗(TAKUMINURI)の登場に期待したい。

マツダのカラー技術の進化は現在進行形である
ソウルレッドクリスタルメタリック
グレープレミアムメタリック
ロジウムホワイトプレミアムメタリック
アーティシャンレッドプレミアムメタリック

サスティナブルにも貢献している匠塗(TAKUMINURI)

環境にやさしい塗装技術の追求

 そのほかにも、マツダは塗装の技術を進化させる中で、サスティナブルにも配慮。一般的な塗装工程では下地を塗ったあとと、本塗装をした後と2回の乾燥工程があるが、乾燥は大きなオーブンのようなもので行なうため、火力によりCO2の排出も多く伴うという。ただし現在の塗装は、塗膜を乾燥させずに重ね塗りする技術を確立したことにより、乾燥工程が1回で済むようになっている。これによりCO2排出低減を実現しているという。