ニュース

日本スマートドライビング教育協会が提唱する「上手な運転」「心地よい運転」とは? 初開催の講習会に参加してみた

2022年12月9日 開催

日常運転のレベル向上を目指す日本スマートドライビング教育協会が主催する「SMART DRIVING LABO 一般ドライバー向け講習会」が開催された

速く走るのではなく「スマートな運転」を目指す講習会

 1日中仕事で運転する人、たまに通勤や営業で運転する人、毎日送り迎えで運転する人、たまにしか運転しない人……。免許取得歴や運転経験値で個々の技量はさまざまなのは当然だけど、日常運転における「上手な運転」「心地よい運転」とはいったいどんな運転なのだろう?

 去る12月9日に、千葉県にあるサーキット「袖ケ浦フォレストレースウェイ」のパドックと一般公道を使い、日常運転における基礎をレクチャーする「SMART DRIVING LABO 一般ドライバー向け講習会」が開催されたので参加してみた。

日本スマートドライビング教育協会 共同代表理事 田口幸宏氏

 主催したのは「日本スマートドライビング教育協会」で、共同代表理事を務める田口幸宏氏は、「実はこの講習会は4年ほど前から構想を練っていました。発端は自動車ディーラーで試乗のサポートをしている際、予想以上にスマートな運転ができない人が多いことに気がついたからです。その原因を考えた結果、大半の人は教習所を出たあとは誰かに運転を教わることもなく、どんどん自己流になっていしまい、なかには誤った癖がついてしまっている人もいる。そこで重要になるのが、正しい運転がどんなものなのかを知るということで、それを知れば誰でも修正できます。そのための講習会ですので誤った癖やスマートな運転に気づいていただければと思います」と、この講習会を開催した主旨を説明してくれた。

本誌でもお馴染みのモータージャーナリスト日下部保雄氏もオブザーバー兼講師として参加していた

 また、日本スマートドライビング教育協会のオブザーバーを務めるのが、何十年にもわたり氷上ドライビングスクールやサーキットレッスンを数々催してきた実績があり、本誌でもお馴染みのモータージャーナリスト日下部保雄氏。日下部氏は「これまでサーキットを速く走るためのレッスンもたくさんしてきましたが、本当に伝えたいのは、上手な運転、綺麗な運転。家族や同乗者が安心して乗っていられる。今日のドライブは楽しかったねと言われる丁寧な運転を伝えていきたいと考えていたので会の趣旨に賛同しました」とあいさつ。

 この日の講師陣は、共同理事の田口氏、同じく共同理事の實方(さねかた)一世氏、オブザーバーの日下部氏、レーシングドライバーの大村豊氏、石澤浩紀氏、廣川和希氏の計6名。受講者は9時~12時の午前の部と13時30分~16時30分の午後の部と、それぞれ8人ずつの枠。参加費は3000円(イベント保険込み)だったが、今回は第1回目のため運営スタッフの練習や流れの確認も含めたお試し価格となっていて、今後はもう少し高くなるとのことだがカリキュラムをいくつか組み立てて、講習レベルや内容も幅を拡げていくという。

第1回「SMART DRIVING LABO 一般ドライバー向け講習会」のスタッフの皆さん

 筆者は午前の部に参加していた戸田さんを取材しながら一緒に参加。戸田さんは、この講習会の募集をたまたまインターネットで見て応募したといい、ドライブが好きでこれまでにも筑波サーキットで開催されていたドライビングレッスンを受けたことがあるというレッスン経験者。愛車はルノーの「ルーテシア R.S.」で、乗りやすいことから今の愛車で2台目だという。戸田さんは「自分でもっとコントロールできるように、日々スキルアップを目指している」とのこと。

講習会に参加していた戸田さん。60歳を機に何か始めようと考え、大好きな運転がもっと上手くなればいいなと思い、ドライビングレッスンに参加するようになったという

座学で正しい運転について学ぶ

 まずは約20分の座学からスタート。講師は共同理事でレースアナウンサーの仕事もしている實方氏。冒頭で田口理事が話したように、運転がスマートにならない原因として、自己流で癖がついてしまっていることを挙げ、「料理は料理教室があり、スキーはスキー教室があるように、クルマの運転も同じようにプロから正しい理論や操作を教わることが大事で、それを知ることで自己流でついてしまった癖も修正していけます」と説明。

 また、スマートな運転については同乗者が危険や恐怖を感じたり、止まるときにブレーキで体がカックンとなったり、コーナリングで体が左右に揺さぶられたりしない。いかに精神的にも身体的にもストレスを感じないか、また車酔いしないことが挙げられるという。さらに「周囲の状況を俯瞰でみる能力と、余裕を持った運転操作で、周囲の交通を乱さないこともポイント」と實方氏は解説してくれた。

座学ではスライドを使って講習が行なわれた

 では一般的なドライバーとインストラクター(レーシングドライバー)の運転は何が違うのか? 實方氏いわく「レーシングドライバーは常に考えながら走っている」といい、「年間何万km走ろうが何も考えないで走っていたら運転がスマートになることはない」という。

 もちろん理論だけでも足りなくて、それらを実践するための正しいドライビングポジション、正しい目線、正しい操作がともなって初めてスマートな運転が完成する。続いて實方氏からは、アクセルやステアリング、ブレーキ操作についての理論解説が行なわれた。

 ドライビングポジションについては、各自の愛車でレクチャーを実施。実際に座った状態で、シートの前後位置や背もたれの角度などをチェックしてもらえるので、その場で修正が可能。戸田さんはシート位置がやや後なのと背もたれを寝かせすぎていると日下部氏よりアドバイスがあり修正。その結果、ブレーキペダルをしっかり奥まで踏める位置と、ステアリングを180°切っても肩が浮かない位置に修正した。戸田さんは「自分が思っているよりもだいぶ前になりました」と驚いていた。

日下部氏によるドライビングポジションのアドバイス

サーキットのパドックを使って基本的な操作をレッスン

 続いてパドックでは、助手席にインストラクターが乗り、直径30mと25mの定常円を使ってアクセルワークによるクルマの動きを勉強。最初はステアリングの舵角もアクセル開度も一定のまま走れるかの確認。

直径30mの円をぐるぐる回るのは、普段の走行シーンではなかなかできない貴重な体験

 大きい円は25~30km/hぐらい、小さい円は20~25km/hぐらいで走り、途中からアクセルの踏み足しと戻すことで、クルマが外側に膨らんでいったり、内側に戻る感覚を学ぶ。また、停止するときにカックンとならないための急制動も練習。ある程度スピードを出して、急ブレーキから定速で目標のパイロンのところで優しく止めることが求められる。

 前半の最後は2つの定常円を使った8の字走行。円と直線の連続となるため、ちゃんと加速して、しっかり定速で曲がれる速度までブレーキを行なうといった複合的な操作の練習。速度は助手席にいるインストラクターと相談しながら決めていく。そして最後はまた、目標のパイロンで素早く優しく停止させて完了。

今回は助手席にインストラクターが直接乗ったが、参加人数やカリキュラムによっては無線で行なう場合もある
ステアリングは一定のままアクセル操作でクルマをコントロール
急ブレーキでも助手席の人がカックンとならないように丁寧に止まる練習

一般道のレクチャーと簡単なドライビングゲームで総仕上げ

 後半は一般道でのレッスンと、再びパドック内でフロントガラスに半球体のプラスチック容器を貼りつけ、そこに水を入れてこぼさないように走るゲーム的なカリキュラムが用意されていた。

 一般道へ出る前にインストラクターの廣川氏が、実際に走るコースの写真を見ながら目線を送るべき位置や認識するべき目標物、そこから推測するべき情報などのレクチャーを実施。事前に頭で考えることが、次の正しい操作へとつながるという。

交差点をはじめ見通しのわるいカーブや坂道など、さまざまな状況に合わせた対応が求められる

 袖ケ浦フォレストレースウェイの近くには見通しのわるいコーナーがあるうえ、トラックなどの大きな車両も通行するため、早め早めに正しい目線を使って情報を把握。丁寧で正しい操作をすることで、周囲の交通にも配慮したスマートな運転ができるようになった。

 最後は半球体のプラスチック容器(G-CUP)をフロントガラスに貼り付け、そこに水を300ml入れて、できる限りこぼさないように8の字走行をするゲーム。急発進や急ブレーキ、急ハンドルなど強いG(荷重)がかかる操作はご法度。丁寧なアクセル操作とステアリング操作が要求される。

300mlは器のちょうど半分くらいだがクルマの振動だと直ぐにギリギリまで水面が傾いてしまう

 走行は2回行ないタイム計測も実施。こぼした水の量に合わせてタイムが加算される。もちろん速さを競う講習会ではないので、タイム計測はあくまで目安。特に景品が用意されるワケではなく、自身の1本目のタイムと2本目との違いを確認するためのものだ。

 G-CUPは助手席側に取り付けるので、あまり容器の水面に意識が行きすぎると運転操作がおろそかになってしまうし、8の字のパイロンが見えなくなってしまう。あくまで広い視野とクルマにかかっているGを感じながら、ゆっくりとなるべく速く走らなければならない。このゲームの難しいところは、8の字の切り替えしでGが左右入れ替わるタイミング。それほどスピードは出していないものの、一気に水が逆側に移動するので筆者は数ccこぼれてしまった。戸田さんも1回目は少しこぼしてしまったが、2回目の走行では1滴もこぼさず最速タイムでゴールしていた。

タイム計測があるものの、みんな笑顔で走っていた

 この日の午前の部の参加者は、戸田さんと筆者も入れて7名。年齢の住まいも性別も異なるけれど、みんな真剣にレクチャーを受けていて「運転が上手になりたい」という気持ちがヒシヒシと伝わってきた。また、閉会式では参加者に「SMART DRIVING LABO 基礎講習」の修了証が配付された。

ホンダ シビック
日産 シルビア
スバル レガシィ
三菱 ランサーエボリューションX
ポルシェ
日産 エクストレイル(筆者)

 修了証を受け取った戸田さんは「定常円の練習など本で読んだことはあるけれど、実際にやってみて分かることがあったので、今後はこの経験をベースに練習します。また、自分が思っていたよりも手前からステアリングを切り始めると分かって驚きました。もっともっと練習してコーナリング中にステアリングを切り足したりしないような運転ができるようになりたいと思います。楽しかったし課題もたくさん見つかりました。自分ひとりで乗っていても絶対に気が付けないですが、プロに教えてもらったのがすごくためになりました。ぜひ、また参加したいですね」と感想を教えてくれた。

 来年の開催スケジュールはまだ決まっていないが、日本スマートドライビング教育協会のホームページに決まり次第、募集が告知されるので、ぜひこの機会に運転を見直してみたいなという方は参加してみてほしい。

少人数制なので分からないことや疑問はすぐにインストラクターに質問して確認できるのもありがたかった