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なぜ“日下部ドラスク”はリピーター続出なのか? その魅力を参加者に聞いてみた

遠方から前泊で参加するユーザー多数。参加は抽選になることも

2020年9月11日 開催

20年以上前から積極的にドライビングスクールを開催している日下部保雄氏。「ブレーキ」「荷重移動」「アクセルワーク」の3つの連続した動作がとても重要だと説く

 ドライビングスクールは、自動車メーカーやサーキット、レーシングドライバーが主催するものや、内容に関してもモータースポーツの頂点を目指すものから、基礎的な技術の向上を目指すものまで、さまざまな形態のものが開催されている。

 その中で、参加者のリピート率が高く、参加したくても応募多数で抽選となってしまうことが多々あるという「YOKOHAMA&PROSPEC Summer Driving Park 2020」通称“日下部ドラスク”が9月11日に千葉県にあるサーキット「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」にて開催された。日下部氏は本誌で新車の試乗記やコラムなどを執筆しているラリードライバー出身のモータージャーナリストで、今も自動車メーカーやタイヤメーカーからアドバイスを求められる存在で、このスクールも横浜ゴムの後援により開催している。

 この日の講師は日下部氏を筆頭に、モータースポーツ経験者が全部で5人。スクール参加者は19人で、参加者が多いと指導が煩雑になってしまうことから、いつも少人数制で開催しているという。それでも、福岡、大阪、岐阜、京都などから前泊で参加しているリピーターもいることからも、その人気の高さがうかがい知れる。その人気の秘密とは何なのか? 実際にスクール参加者に話を聞いてみた。

片岡良宏講師
大村豊講師
廣川和希講師
實方一誠講師

 コロナ禍での開催だけに感染対策はしっかりと行なわれていて、開会式や走行説明を屋外で行なったり、昼食は各自のクルマの中や、レストラン、ミーティングルームなど、適切な距離が取れる場所で食べるように促していた。

 その他にも、これまで行なっていた同乗走行はせずに、無線による車外からのアドバイスと変更し、密にならない対策が施されていた。こういったスタイルは今後、ドライビングスクールの新様式の1つとなるのかもしれない。

 この日のカリキュラムは、座学、パドック内でのハンドリングとアクセルワークの教習、サーキットのコースを使ったライン取りなどの勉強で、全体を2つのグループに分けて進行。日下部ドラスクの特徴は「徹底的に基礎を繰り返す」こと。サーキットでコンマ1秒を縮めるためのレッスンではなく、クルマが停止するときに助手席の同乗者がふらつかない。交差点を曲がるときにステアリングの切り足し切り戻しをしないなど、日頃の運転がスマートになるレッスン。もちろんこの基礎をしっかりマスターすれば、自然とサーキットのタイムも速くなるという。

序盤に行なわれた座学では、タイヤに配合されているシリカや雨の日のタイヤの性能について、横浜ゴムが製作している動画を使って学んだ
サーキット本コースの走行は講師の先導走行となる。徐々にスピードレンジを上げていく
コースは1周が2436mで、コーナー数は14個。日本自動車連盟(JAF)公認レーシングコース

 パドックではパイロンで急制動ゾーンや大回りと小回りのハンドリングセクション、水が撒かれて低μ路になった定常円が作られていた。定常円ではテールスライドを学ぶのではなく、ステアリングを一定に保ち、アクセルワークだけでクルマがどのように動くのかを体に覚えさせる。レッスンの後半では、すべてをつなげたコースに変更され、前半で習った技術を連動させる応用編となった。

2020年9月11日「YOKOHAMA&PROSPEC Summer Driving Park 2020」@袖ヶ浦フォレストレースウェイ。パドックでのレッスンの模様(1分30秒)

 レッスンの最後は、フロントガラスに半球のGカップ(荷重を可視化する装置)を装着し、200ccの水を入れた状態でパドック内の特設コースをタイムアタック。10ccこぼすとプラス2秒、パイロンタッチはプラス5秒が課せられるため、いかに水をこぼさずに速く正確に走れるかを競うゲーム性のある大会が開かれた。

Gカップに約3分の1の容量となる200ccの水を入れて走行
タイムもきっちり計測

 今回が2度目の参加という徳永夫妻と、初参加となる永島さんに日下部ドラスクの感想を伺ってみた。

フェアレディZ NISMOとS2000に乗るスポーツカー夫婦

 旦那さまはZ34型のフェアレディZNISMOに、奥さまはS2000に乗る徳永夫妻。2016年ごろにスポーツドライビングに目覚め、それから年に数回いろいろなドライビングスクールに参加。そして2018年にたまたま本誌の記事を読んで日下部ドラスクに参加したという。

 2人は「普段の運転をもっとスムーズで滑らかにしたい。日常では体験することが難しい急ブレーキなども貴重な体験だし、クルマの性能や基本的なテクニックからサーキット走行まで、いろいろな種類の練習をできるのが楽しかったので、今回も参加を決めました」と参加の動機を話してくれた。

2年ぶりに走った袖ヶ浦フォレストレースウェイ
パドックでのレッスン

 さすがに2年ぶりだったので、サーキットコースは少しずつ思い出しながら走ったという夫妻。また、パドックでのスラローム走行レッスンについて片岡講師から「アクセルをOFFにしたらクルマが前荷重になるのでハンドルを切る、アクセルをONにしたときは後荷重になるのでハンドルはあまり切らないで加速に集中。そうやってメリハリをつけるともっと曲がりやすくなりますよ」とアドバイスをもらったという。

 奥さまが定常円で「右回りと左回りで難しさが違う」と相談すると、實方講師は「最初は得意な向きと苦手な向きがあるので、練習して慣らしていくしかない。また、この定常円は実は少しだけ斜めになっているので、下り方向のときは車重で弧が大きくなりがちなので、そこも加味して早めにアクセルコントロールしましょう」とアドバイス。

 定常円レッスンを終えて2人とも「難しいとかではなく、分かった! って感じです。講師から無線でリアルタイムで指示が入るので、とても分かりやすかったし、勉強になりました。速度をもっと上げていくと難しくなるのかなぁ」と笑顔で語ってくれた。

走る前に解説があり、走った直後にアドバイスをもらえるので分かりやすいという

 旦那さまは「日下部さんのドラスクは同じことを反復してやってくれるのでありがたいですね。他のレッスンだと3回とか決められている回数をこなすと、すぐに次のレッスンに進んでしまって、自分的にしっくりきていないまま終わってしまうことが多い。このスクールは、少人数なのでパドックの練習は順番がすぐに回ってくるし、休憩時間も短すぎずちゃんと休める。サーキットの先導走行も講師の後ろを交代制で順番に走るので、ライン取りなどとても勉強になりました」と参加2回目の感想を話した。また、奥さまも「サーキットをただ速く走るのではなく、ちゃんとした基礎テクニックを学べて、一般道でも安全に走れて、結果的にサーキットでも速く走れるというカリキュラムなので、女性でも安心して参加できるのがいいですね」とお薦めポイントを教えてくれた。

最後のGカップを使ったゲーム大会では、なんとS2000を駆る奥さまが全体で2位という好成績を収めて、旦那さまもビックリしていた

レースゲームの達人である永島さんが実車での挙動を体験

 今回初めて参加した永島さんはレースゲームが得意で、この日はレースゲーム仲間の友達に誘われて参加。ゲームでは体験できないG(荷重)だったり、普段の街乗りではフルに使いきることがない愛車BMW M340iの性能を体感したいと思ったのが参加のきっかけ。

 サーキットでスポーツ走行する際はヘルメット必着となるが、日下部ドラスクではヘルメットを無料レンタルできるので、本格的に始める前のお試し参加のユーザーにはありがたい。永島さんもこの日はヘルメットをレンタルしていた。

「講師からは、もう少し舵角を減らしてとか、もっとパイロンに寄せてなどのアドバイスをもらいましたが、繰り返して走行することで、少しずつ慣れてきて上達していることが分かりました。急制動はABSが効くか効かないかくらいの踏力です。クルマ自体のブレーキがよく効きますから。難しかったのは最後の小回りターン。リズムも大事ですが、最初に大きく回ってしまうと、最後の方がきつくなるんです。速度を上げていくとフロントが外側に逃げていくのですが、実際に公道でフロントが逃げていくような走り方はできないので、とても貴重な体験でした」と永島さん。

袖ヶ浦フォレストレースウェイはゲームで走ったことがあるけれど実際のコースは初めて

 水の撒かれた定常円は半径9m、直径18mに設定。徐々にペースを上げていき、だんだん広がっていくラインをアクセルワークだけで戻していく練習をする。最後はアクセルコントロールで綺麗に回れるようになることが目標。だいたい40~50km/hくらいからスタートして、目線を先へ先へ、とにかく先を見るようにするのがコツ。レースの世界でも、クリッピングポイントあたりで「バランススロットル」といってアクセルワークで向きを変えるテクニックを使っているという。

 永島さんは「サーキットのスポーツ走行枠でくると先導はないし、通常はパドックでスラロームを並べてクルクル走る反復練習もできないですから、すでに自己流でサーキットを走っている人にも新しい発見があると思います。スポーツ走行をやってみたいけど、ちょっと怖いなって思っている人にはちょうどいいと思います。本当に初心者の入口のようなスクールです。それとサーキットって実際に走ってみると広いですね。講師が乗る先導車がタイヤのスキール音が鳴るか鳴らないかの、スポーツ走行はしているけど、怖くないちょうどいいレベルで走ってくれるのが勉強になりました」と感想を教えてくれた。

 閉会式では講師陣が「レッスンを進めるうちに、運転技術が向上していることはもちろんだけど、みんながどんどん笑顔になっていくのがとても嬉しかった。ぜひまた機会があったら参加してください」と締めくくった。

ランチ後の記念撮影

その他の参加者の皆さま