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ドライビングの基礎から学べる「YOKOHAMA&PROSPEC Autumn Driving Park 2018」に参加してみた
小まめにアドバイスがもらえるメリットを実感
2018年11月2日 00:00
- 2018年10月28日 開催
運転のイロハが学べるYOKOHAMA&PROSPEC Driving Park
モータージャーナリストの日下部保雄氏が開催しているドライビング練習会「YOKOHAMA&PROSPEC Autumn Driving Park 2018(以下「YOKOHAMA&PROSPEC Driving Park」)が、10月28日に千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催された。
サーキットを使うと言っても、この練習会はサーキットを速く走るための技術を教えるものではない。通勤や買い物、それにドライブといった“普段の運転”を安全に、そして上手に走りたいと思っている人や、長年運転をしてきたが、もう1度自分のドライビングを見直してみたいと考えている人などに向けたものとなっているのが特徴だ。スクールと呼ばないのは、日下部氏が若いころに自ら経験してきた「みんなで楽しみながら運転を覚えていく」ということがあってのこと。そこであえて「Park」と名付けているということだ。
用意されている練習メニューは、スラロームや定常円旋回、フルブレーキ、サーキットコースを使ったコーナーのライン取り練習など。スポーツドライブにおいての基本的なことが中心となるが、ただ走るだけでなく、これらの走行時に起こるクルマの挙動を元にしたタイヤやサスペンションの働きの解説や、それらの性能を使うためにはどうドライブしていけばいいかをレクチャーしてくれるというもの。そして参加者は、練習走行を通じて「自分が運転するクルマの挙動」と講義で聞いた「そうなる理由」を照らし合わせて、正しいドライビングへの理解度を高めていくのだ。
そんなYOKOHAMA&PROSPEC Driving Parkに半分取材、半分参加というカタチでCar Watchの取材班がお邪魔してきたので、当日の模様と感想を含めて内容を紹介していこう。
YOKOHAMA&PROSPEC Driving Parkには日下部氏のほかにもインストラクターがいて、今回は5名が参加。メンバーはWRCなど海外ラリーで活動し、結果も残しているラリードライバーの片岡良宏選手。レーシングドライバーの経験を持ち、モータースポーツ関連会社の代表を務める岸剛之氏。ジムカーナドライバーで2018年のJAF全日本ジムカーナ選手権でPN1クラスでタイトル奪取が確定している斉藤邦夫選手。そしてスーパー耐久シリーズではシリーズチャンピオンを獲得している廣川和希選手。さらにCar Watchでもおなじみの交通コメンテーター 西村直人氏という布陣だ。
全員、ドライビングテクニックに長けていることはもちろんのこと、YOKOHAMA&PROSPEC Driving Parkの趣旨をしっかり理解できていて、分かりやすいレクチャーができるインストラクターである。
まずは講義から
当日は8時30分~9時に開会式が行なわれ、続いて各インストラクターが自分が受け持つカリキュラムの説明を行なう。
そしていよいよ講義だが、冒頭にマイクを取った日下部氏は「全体的なテーマはコーナリングですが、このコーナリングにはクルマを運転するための要素がたくさん入ってます。ハンドルの切り方に、切るタイミング、そしてコーナリングラインの取り方もあります。今のクルマはコーナーにどう入ってもそれなりに曲がっていきますが、今回はドライバー自身でスムーズに曲がれるコーナリングラインを探ってもらいます。普段の走行ではそんなこと関係ないのでは?と思ったりもするでしょうが、実はタイヤ1本分のラインの違いでもコーナーは違った顔を見せますので、安全に走るためにもここは覚えていただきたいと思います」と語った。
この話を聞く限り、教わる内容は確かに速さを狙ったものではない。しかし「コーナーをスムーズに曲がれる」という言葉と「タイヤ1本分のラインの違いでもコーナーは違う顔を見せる」という言葉は、なんだか猛烈に「覚えたい欲」をかき立てるものだった。クルマの運転が好きな人にとって、コーナーをスムーズに曲がることは永遠の課題である。真剣に走った割に、イメージ通りに曲がれなかったことを経験した方もいるだろう。そんなところから、運転歴は長くても自分で上手いという感覚がない筆者は興味がグッと高まった。
テーマを話した後、日下部氏が教室にあるホワイトボードに書いたのはタイヤのグリップ限界を解説するための図。これは摩擦円という概念的なもの。要は円の外周がグリップの限界点と思ってほしい。この図を元に日下部氏が話したことは、グリップの限界点を越えない走り方をすることについてだ。タイヤは円の外周を越える走りをすると横滑りを起こしたり、アクセルを踏んでも前へ進まなくなったりする。この領域でもクルマを走らせられる人はいるが、それは特殊な例なのでYOKOHAMA&PROSPEC Driving Parkでは摩擦円を越えない走りを覚えていくという。
では、どういうときに限界を超えるかというと、スピードが高すぎるのはもちろん、ステアリング操作やアクセルワークが急だったときなどだが、ここで慌てずにアクセルを踏みすぎていたのならアクセルを少し戻す。これでタイヤへの負担が減らせるので、状況を摩擦円の中に戻すことができる。また、ステアリングを切りすぎたことが原因の滑りなら、蛇角を戻すことで同様の対処が可能となることが解説された。
この理屈は十分理解できるのだが、この手の挙動の変化は一度体感しておくと、ドライブ中にそうなったときの対応に違いが出るので、実際にタイヤが滑る(滑るまで速度を上げる)状況をインストラクターがいるサーキットで体験しておくことは、いざというときに知識を生かすためにも必要なことだろう。
ただ、路面状況によって摩擦円の外周サイズ(グリップ限界)は変わってくるので、運転中はそこにも気を配ることが必要となる。ここで教えてもらったのが「路面の色」を見ることだ。普段、道を走っていると進むごとに舗装の色が違うことに気がつくはず。この見え方の差は主に路面のざらざら感の違いでもある。路面状態が異なれば路面のグリップ感も変わるので、進行方向に色の違う路面が見えたら注意しておくことが必要とのことだった。
もう1つ、タイヤのグリップに関して紹介しておきたいのがタイヤの空気圧について。日下部氏の解説によると、空気圧はタイヤのカタチを適正に保つのに重要な要素という。例えば空気圧が低ければタイヤの張りが弱くなるので、グリップ力も最初からダラダラとした出方になる。また、コーナリング中も腰砕け感が出たり、ステアリング操作に対するクルマの応答が鈍いなどの動きになってしまう。反対に入れすぎるのもよくないという。このような状態ではタイヤ本来の摩擦円を維持できないので、空気圧はひと月に1回チェックすることが大事だという。
講義ではタメになる話がほかにもいろいろあったが、そこはぜひ実際に参加して聞いてもらいたい。
“できる気になっていた”
さて、講義が終わるといよいよ走行だが、YOKOHAMA&PROSPEC Driving Parkは生徒数を少数に絞っているので、今回は4台ずつ4つのクラスに分かれての走行となった。
用意されていたメニューを紹介すると、まずパドック内に設定されたパイロンコースでのスラロームなどジムカーナ的な走行。このスラロームは荷重移動やアクセルワークを同時に学ぶもので、円旋回はステアリングの蛇角を保ちつつ、アクセルワークで一定の円を描いて回れるよう走る練習となる。今回はより挙動変化を体感しやすくするため、円旋回のコースに水を撒き、アンダーステアやオーバーステアが出やすい状況にしていた。
本コース上では、ブレーキング練習と複合コーナーでのハンドリング、ライン取り練習が行なわれた。このブレーキング練習は、ABSが作動するようなフルブレーキではなく、踏み始めから8割程度の効きまで上げたあと、その力を保って目標ポイントでクルマを停めることを練習する。一定の踏力を保って減速ができると、同乗者が感じる減速Gが一定の連続したものになるので、感覚として「スマートな運転をしている」となるのだ。
ハンドリングのお題は「スムーズにコーナーを走ること」。ここでポイントになるのがライン取りだ。コーナーでのライン取りについて、現在はいろいろな情報があるが、基本は以前から言われている「アウト・イン・アウト」のライン。そこでYOKOHAMA&PROSPEC Driving Parkでは、基本のアウト・イン・アウトを練習する。
練習方法は、まずインストラクターが参加者のクルマを運転してお手本を見せてから交代。1~2回ほど1人で走ったあとに、インストラクターが助手席に乗りこみ、上手くいかない点や疑問点を聞きながら反復練習をするというもの。
午後のカリキュラムは午前にやったことのおさらいだが、ここでは2台ずつのコースインとなる。前走車はインストラクターがステアリングを握ってお手本と解説を行ない、後ろのクルマは教わった操作やライン取りを前走車に付いていきながら練習。そして最後はフルコースを使うが、ここも2台ずつのペアで同様に「教わる+試す」という練習を行なう。
さて、取材担当者がレッスンを受けた感想だが、撮影と平行しての参加だったのですべての練習を受けるのは時間的に無理。そこでハンドリングと本コース走行に参加させてもらった。
この業界には長くいるので知識だけはあるのだが、運転に関しての知識は実践しないまま蓄積していくと「なんか色々こじらせるだけ」ということを痛感。「自分の思うように走ってみて下さい」というインストラクターの声に従い、複合コーナーでのハンドリングを試してみると、インストラクターが走らせたときとは明らかに通るラインが違ってしまう。
とはいえ、具体的に何がわるいのか自分では分からないので、とりあえず「まずい顔」をしているとインストラクターは的確に問題点を指示してくれる。自分の場合、最初に言われたことが「わざわざコーナーをきつく曲がっている」と言うこと。つまり、きちんとアウト・イン・アウトができていないとのことで、自分ではそれなりのつもりで走っていても、まだまだなのだ。
そこで次は少しペースを落としてインストラクターの指示すると通りに曲がるとすんなり。「あ、これか」と理解できる。だが、分かった気になってペースを上げてみると、今度は出口がきつくなった。また、まずい顔でごまかしていると「ハンドルを切るのが遅いです」とひと言。もちろんその自覚はないので「あれでもかぁ」などと取り繕う考えをして、ひと呼吸置いて……。
次はペースを緩めずハンドルは早めに切ってみると、インストラクターの手本どおり……いや、「手本もどき」くらいのレベルでクリアできた。ポイントを決めて練習でき、そこで小まめにアドバイスがもらえる環境のメリットは大きい。ドライビングはこうやって教えてもらうのが理想じゃないかと本当に思った。