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ルノーの新型「カングー」をいち早く体感! ガソリンモデルとディーゼルモデルに最速試乗
2023年2月24日 08:00
先代のいいところはそのままに、デザインや使い勝手を一新
もともとはLCV(商用車)として生まれたカングーを、日本ほど“乗用車”として愛し、思い思いのカングーライフを楽しんでいる国民はほかにいない。というのはフランス本国も認めるところで、その様子を何度も本社から視察にきていたと聞いている。それが影響したのかどうなのか、これまでのカングーはLCVの要素に乗用車の要素を少しプラスした構成だったのが、新型はLCVとしての基本性能を大幅に進化させた上で、乗用車としての快適性、上質感を何倍にもアップして完成させたという。
ただ、そう聞いてもなんとなく手放しで喜べないというか、モヤモヤしている自分がいた。往年のカングーファンなら同意してくださる人も多いかもしれないが、カングーの魅力はどこか肩の力を抜いたような素朴さだったり、ちょっとくらい使いにくいところがあっても許せちゃう愛らしさだったり、自分好みに仕上げていく楽しみが残っているところだったり、国産ミニバンのように「先進の」とか「プレミアムな」という言葉とは縁遠い雰囲気がよかったところもあると思っている。新型になって、それがまったく失われていたらどうしよう。そんな気持ちがモヤモヤの正体だった。
まず、写真で見たときにはほとんど先代の面影がなくなってしまったかに思えたエクステリアデザイン。実車を遠目に見た瞬間に、ああやっぱりカングーだと感じてホッとひと息。確かに先代までのホンワカ癒し系ではないかもしれないが、フロントマスクからフェンダーに続く盛り上がったフォルムや、なによりリアのダブルバックドアといった、カングーのアイコンとも言える要素は引き継がれ、ブラックバンパー仕様が日本専用に用意されているのが嬉しい。
そして、先代よりも薄くなったグラスエリアや、大きく傾斜したAピラーが安定感とダイナミックさを表現しつつ、ショルダーラインが躍動感をプラス。リアは少しRのついたバックドアで、ドッシリと地に踏ん張るような頼もしさが感じられる。さらに、流線型のフォルムは空力にも貢献し、フロントバンパー両端に装備されるエアディフレクターが、ホイールから発生する乱気流を抑える役割を果たし、燃費がアップ。フルLEDライトとなって夜間の照射範囲も拡大するといった、機能性もしっかり進化しているのが新型カングーのデザインだ。
ボディサイズは全長が210mm拡大したが、初代から2代目になったときほどは大きくなった印象はなかった。それでもインテリアを見れば室内空間が広がったことを実感し、形状が見直されたシートはたっぷりとしたサイズとサポート性を手にしている。後席も3座独立の座面にゆとりがあり、足下のフロアはすっきりとフラット。身長165cmで頭上も足下も拳4個分のスペースが生まれるので、のびのびと過ごせる空間となっている。
劇的に変わったのはインパネのデザインだ。水平基調のダッシュボードにはスマートフォンとリンクできる8インチマルチメディア イージーリンクが置かれ、クロームで縁取られたダイヤル、フローティングしたセンターパネルにシフトレバーと電動パーキングブレーキがすっきりと配置された。本国では郵便配達車として活躍するカングーは、1日に何度もパーキングブレーキを操作することを考慮して、横長のバーを引き上げるタイプのパーキングブレーキがアイコンとなっていたが、それはついに姿を消した。
その代わりに、ちょっと使いにくかったドリンクホルダーは運転席と助手席で仲良く使える実用的なものへと進化。収納スペースもドアポケットやダッシュボード上のトレイなど、たっぷり確保されている。特に運転席前に備わるリッド付きのアッパーボックス内には、USBポートが2個と電源ソケットがあり、両側に1つずつスマートフォンホルダーをセットできるのがユニーク。また、これまで親しまれてきたチャイルドミラーはくるりと回転すると現れるようになり、おなじみのオーバーヘッドコンソールも引き継がれている。後席用のオーバーヘッドコンソールはなくなってしまったが、折り畳みテーブルは装備されており、十分に使い勝手のいい室内空間となっているはずだ。
そして、気になるラゲッジスペースがこれまたすごい。容量は5名乗車時でも先代比115Lプラスとなる775L、床面長が100mmプラスの1020mmを実現。後席は6:4分割で折り畳むことができ、全て畳むと132Lプラスの2800Lにもなる。出っ張りがほとんどないスクエアな形状で、フロア地上高が594mmと低く抑えられているため、効率よく荷物が積めるのもカングーの美点だ。
ダブルバックドアの使い勝手も受け継がれており、右ドア、左ドアをまずは90度まで開き、必要であればロックを外せば180度まで開くことも可能。昔はフリーマーケットでカングーが出店していると、左右のドアにもディスプレイしてあって抜群にオシャレだなと思ったものだった。アウトドアブームの今なら、もっとこのバックドアの活用法はアイディア次第で広がることだろう。
また、現役カングーオーナーならきっと羨ましがるのではと思ったのが、ハンズフリーカードキーの使いやすさと、軽く滑らかに開閉するスライドドア。キーを身につけていれば、ドアから離れるとロックし、近づくとアンロックするから、もう何度もキーのスイッチを押さなくてもいい。ヨイショ、と力いっぱいドアを引くこともなくなるはずだ。
新型カングーは1.2リッターから1.3リッターへ排気量アップしたガソリンターボモデルと、1.5リッターのディーゼルターボモデルが用意され、トランスミッションはどちらも乾式6速から湿式7速となったデュアルクラッチを備えるEDC。プラットフォームはミドルクラス向けのCMF-C/Dを採用し、基本性能から大きく進化しているという。
新型カングーの走行性能に驚き!
まず試乗したガソリンモデルは、出足から軽やかでスルスルと伸びていく加速フィールが爽快。ボディが大きくなったことなどまるで感じさせない余裕があり、しっかりとした接地感があるのはやはり空力を味方につけているからだろうか。加減速のコントロールがしやすく、減速時にもまったく前のめりになる感覚がない。これは新設計のフロントブレーキキャリパーを採用した恩恵だけでなく、専用に開発されたリアトーションビーム、改良されたフロントメンバーやエスパスと共用となるサスペンションメンバーなどによって、剛性や操縦安定性が向上したことによるものだ。特に高速道路での抜群の安定感や、きれいに弧を描くコーナリングは全高1810mmにもなるクルマとは思えないほどで、サスペンションのストローク量を変えずにロールを抑えたという開発手法に脱帽。もちろんそれは、乗り心地のよさを損なわないためで、高速道路でのギャップのいなし方にも感心したのだった。
そしてダッシュボードに3層構造の防音材、エンジンルームや前後ドアにも防音材が追加され、全ガラスの厚みが増して可聴音声周波数が10%向上したという通り、室内の静粛性も大きくアップしていると感じた。高速道路では、アダプティブクルーズコントロールとレーンセンタリングアシストを組み合わせ、ハンドル、アクセル、ブレーキをサポートしてくれる「ハイウェイ&トラフィックジャムアシスト」を試したが、どの国産ミニバンよりも落ち着いた挙動で安定した作動フィールだと感じたのも、基本性能がしっかりと進化している証だろう。
カングーはこれまでも、欧州車らしい走りのよさが魅力の1つだったから、さらによくなっているだろうと思っていたが、新型カングーのガソリンモデルはその予想の斜め上まで飛び越えている印象だ。
続いてディーゼルモデルに乗り換えると、こちらはやや出足のおっとり感があり、エンジン音も少しだけ独特の響きを室内に届けてくる。でもすぐにモリモリとした力強さで、中速域から一気に盛り上がってグイグイと高速域に押し上げる加速フィールが頼もしい。坂道でも余裕たっぷりにのぼり、追い越し加速も思いのままだ。乗り心地にも落ち着きがありつつ、ギャップを越えるときに少しだけドスンというような感覚があるのは、車重が90kgほどガソリンモデルより重いせいでもあるだろうか。どの速度域でも穏やかに走れる懐の深い感じが、どことなく先代カングーに近いと思わせるのがディーゼルモデルだ。
こうして試乗してみると、新型カングーは目に見えて変わった部分以上に、目に見えないところで変わった部分が大きいのだと感じる。本国ではもちろんLCVとしてもNo.1の座を守るべく、地球150周分にも相当する過酷な走行テストに加え、数字は秘密だが数百万回に及ぶドア開閉耐久テストなどもこなしたと聞くと、新型カングーのスマートなデザインからタフな一面がにじみ出て、やっぱり唯一無二の「ルドスパス=遊びの空間」ここにアリと納得。モヤモヤはスッキリと晴れたのだった。ルノー車初搭載の機能を含め、安全運転・駐車システムもしっかり装備されているから、これまでそこで躊躇していたファミリーにもおすすめしたい1台だ。