試乗レポート
400台限定のルノー「カングー リミテッド ディーゼル MT」、1.5リッターディーゼルターボ+6速MTの魅力に触れてきた
2021年7月12日 12:58
日本導入に向けてスペシャル・チームを組織して開発
ついに現行「カングー」とのお別れがカウントダウンに入ってきた。初代が1998年、現行モデルが2009年に日本導入されてから、じつに23年という長い間に、日本は本国フランスのルノー関係者も驚くほどにカングー愛に溢れた特別な国となっている。メインとなるファミリーはもちろん、花屋、クリーニング店、フォトグラファーやスタイリストなど、ビジネスの相棒としても大活躍。年に一度のカングーのお祭り「カングージャンボリー」には、全国から1700台以上が集結するまでになった。多彩なボディカラーやさまざまなブランドとのコラボなど、限定となる特別仕様車が数多く登場したことも、バラエティ豊かなカングーが走りまわる所以だ。
今回は、そんな日本へのフランスからの贈り物なのだろうか。最後を飾るにふさわしい限定車として海を渡ってきたのは、なんとルノー・ジャポン初のディーゼルモデルともなる「カングー リミテッド ディーゼル」。しかもMT車というオマケ付きである。
リミテッド ディーゼルは外観からしてスペシャルだ。本国では商用車としても支持されるカングーだが、現行モデルの開発にあたってさまざまな意見を提供したとされるのが郵便局、ラ・ポスト。そのフランスを走りまわる郵便配達車がつけているような、フロントとリアがまるっと覆われるブラックバンパーがリミテッド ディーゼルの大きな特徴となっていて、それだけでグッと雰囲気がタフになる。足下にはブラックスチールホイールとブラックセンターキャップ、ブラックホイールボルトカバーも合わせられて、道具感がプンプン。ロアバンパーにはキラリと光るLEDデイタイムランプも埋め込まれ、いつになくワイルドな顔つきとなっている。
もともとカングーは商用という需要を満たしながらも、乗用車として使われることを当初からしっかりと意識しつつ開発されており、だからこそ実用性、耐久性、長距離走行の快適性が共存した希少な「ルドスパス(遊びの空間)」として多くの乗用ユーザーを獲得した。近年ではアウトドアレジャーにカングーを連れ出す人も多いが、まさにそうしたシーンに似合いそうな外観となっている。両サイドのフロントフェンダーには、400台限定の証である「LIMITED」のエンブレムも配される。
インテリアでは特別な装飾や装備のアナウンスはないが、初期のころにはなかったUSBジャックやETC車載器が自然とセンターパネルに収まり、小さいながらもナビがダッシュボード中央の一等地に置かれていた。オーディオ操作もそこで行なうため、インパネには余計なスイッチがなく、スッキリとした印象を受ける。ちょっと運転席からはナビ画面が遠く、手を思いっきり伸ばさないとスイッチが押しにくいところはご愛嬌。フロントもサイドもめいっぱいガラス面積がとられた広大な視界と、日本のMクラスミニバンと同等程度の天井の高さを誇る開放的な空間が、とてもリラックスさせてくれるのがカングーだ。
そして搭載されたクリーンディーゼルエンジンは、直列4気筒1.5リッターターボ。「K9K」という型式を見る限り、日産自動車との共同開発によってクリオ(ルーテシア)やメガーヌ、提携しているメルセデス・ベンツのAクラスなどに早くから搭載されてきたパワーユニットだ。今回は最新のコモンレールシステムに加え、尿素SCRとDPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)による排ガスシステムを採用し、最高出力116PS/最大トルク260Nmを発生。このエンジン専用にギヤ比がチューニングされた6速MTを搭載している。
ルノー・ジャポンによれば、日本の排ガス規制をクリアすべく、本国ルノーのエンジニアたちによるスペシャル・チームが組織され、細かな調整が開始されたのは数年前のこと。本来はもっと早く導入したかったのだが、納得のいく仕上がりを追求するあまり、予想以上に時間がかかってしまったという。それなのに400台しか売らないのはなんとももったいない、というのが正直な感想だが、本国としてもジャポンとしても、かなりの自信作だということが伝わってきた。
長距離ドライブにもピッタリ
期待に胸を膨らませ、いざキーを差し込んでディーゼルエンジンを始動。車外で聞いているといかにもディーゼルらしい音だが、運転席では想像よりずっと控えめで、ガソリンモデルと遜色ないほどに振動も小さい。ほどよい重みと深さのあるクラッチペダルを踏み込み、センターパネル下方から斜めに生えたシフトレバーを1速に入れ、アクセルペダルを踏み込みながらクラッチをつないでいくと、出足こそ穏やかなものの、すぐに2速につなげば大きな波のようにトルクが湧き出し、押し流されるようにたっぷりと余裕のある加速フィールが充満する。
シフトフィールはかなりおおらかで、のんびりとした操作でも拒絶されない感覚はちょっと懐かしさを覚えるほど。でも、市街地でのピックアップはもしかしたらガソリンモデルのMTより速いと感じるくらいで、頻繁なストップ&ゴーもまったく苦にならない。
ただ、なぜかEDC(2ペダルMT)には搭載されないアイドルストップがこのディーゼル/MTには搭載されており、けっこう頻繁にエンジン休止をするので、最初はちょっと戸惑った。でも慣れてくるとタイミングが掴めるようになり、カングーと呼吸を合わせて操作する感覚さえ楽しくなってくる。
高速道路に入ると、さすがにノイズは大きくなるものの、それがまったく不快に感じないのはなぜだろう。ETCゲートをくぐってからの緩やかな上り坂もなんのその、ドドドドッという突撃感を伴って力強く加速していく感覚が、なんとも言えずカングーのキャラクターにドンピシャだ。車両重量は1.2リッターガソリンモデルのMTより90kgほど増加する1520kgということで、高速道路のJCT(ジャンクション)などの急なカーブや、直進でも路面の荒れたシーンなどでは、ボディの沈み込みがやや大きめだったり、多少はドタバタすることもある。
でもそこで慌てずドンと構えていると、ステアリングのゆるく遊びを持たせたフィーリングがピタッと止まるところがあり、それに合わせて沈み込みやドタバタも収束するという、なんとも劇場型の乗り味にすっかり引き込まれていることに気づく。追い越し加速はグイグイと出せるし、ひとたびクルージングに入れば車内は和やかな時間が流れ、快適そのもの。決して豪華ではないが、シートの座り心地はさすがのひと言で、長距離ドライブにもピッタリだと感じた。
最後に後席にも座って試乗してみると、3人がけの後席は1席分ごとに座面の両サイドにちょっとしたクッションの盛り上がりがあり、これがカーブなどで絶妙に身体を支えてくれていると感じる。圧迫感のかけらもない視界のよさ、前席と遜色ない静粛性と相まって、リラックスして過ごすことができた。
こうして見てくると、カングー リミテッド ディーゼルは素朴で気取らず、タフで働き者のフランス風味が貫かれた、カングーの標本のような1台だと感じる。フランス本国では当たり前に走っているディーゼルのMTモデルを和風に味付けするのではなく、「これぞカングー」という味を堪能してもらいたいという想いが伝わり、その世界観を存分に楽しませてもらったのだった。
なので、ディーゼル+MTにたまらず飛びつく新規ユーザーや、大変身する次期型が出る前に手に入れたいファンだけでなく、現カングーオーナーが買い替えるというパターンが多いのではないかと予想する。ただすでに、販売店には注文が殺到しているとのことで、気になる人は今すぐ問い合わせをしてみてほしい。