試乗レポート

新型「GR 86」「BRZ」(プロトタイプ)の違いはどこだ? 86を3台乗り継いだ橋本洋平のサーキット全開チェック!!

Car Watch誌上で7年にわたって86/BRZレースの連載を執筆。2019年には「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなど、86/BRZに対する理解が深い橋本洋平氏

新型86とBRZ、その進化点を見る

 ようやく新型「GR 86」「BRZ」の試乗ができた。インターネットや動画などではすでにいろいろと出回っているため、その内容をご存じの方々も多いだろう。基本コンポーネントは旧型を踏襲しながら、けれども排気量を2.0リッターから2.4リッターへと拡大。さらにボディはインナーフレーム化するなど、今までとはちょっと違いそうな新型。Car Watchでは7年にわたりワンメイクレースの連載をさせていただき、その間に3台乗り継いだ元オーナー目線で、じっくりと新型を見てみたいと思う。

 まず注目したいのはFA20からFA24へと改められたエンジンだ。2.4リッターとすることで従来よりも出力で28PS、トルクで38Nmアップ。FA型としては初めて平割のコンロッドを使用しているところがポイントだ。ボアアップしてボア×ストロークは94.0×86.0となった。ピストン径をアップすることで56g重くなっている。その状態で上死点までピストンがいった場合、コンロッド付け根に対する重圧面積が斜め割だと潤滑が足らないということで平割コンロッドへと改められたとのこと。結果としてエンジンにサービスホールを備える必要があるなど、組み立て面でもかなり面倒なことになるらしいが、そこまでしてもボアアップして7500rpmまで回せる環境を整えたことは期待できる部分だ。

 SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)の要素を多く採り入れて作り直したというシャシーやボディは、「レヴォーグ」と同じく骨格を強固に製作してから外板パネルを上乗せするインナーフレーム化などを行なった。これによりフロントストラット軸曲げ剛性は+60%、車体ねじり剛性は+50%、リアサブフレーム剛性は+70%も引き上げられたという。かつて乗っていた1台目のワンメイクレースカーは、4年使用後にルーフの両側が波打つまでに劣化したことがあるが、今度の作りならそんな心配はないかもしれない。

新型GR 86とBRZは水平対向4気筒DOHC 2.4リッター「FA24」型エンジンを搭載し、最高出力は173kW(235PS)/7000rpm、最大トルクは250Nm(25.5kgfm)/3700rpmを発生

レーシングカー並の軽量化努力? 安全性を高めた上で本気の作り込み

 ハコに対する改良はそれだけでは終わらない。今回は安全性やエンジンの変更などの商品性向上による対策で、従来より75kg重たくなってしまったという。そこを何とか削ろうと涙ぐましい努力が行なわれている。高張力鋼板の採用や材料置換を行なったことで、その75kg増を吸収したというのだ。

 具体的な対策として各部のアルミ化がある。フロントフェンダー、フロントハウジング(ナックルと言ったほうが伝わりやすいか? ちなみにこれはBRZのみ)、フロントスタビライザー中空化(BRZのみ)、そしてルーフまでもがアルミに変更されている。また、マフラー、シート、プロペラシャフトも軽量化したという。さらには全高を10mm下げ、カップルディスタンスは-7.4mm、ヒップポイントは5mm下げるなど、重たいものや人をできるだけクルマの中心に寄せた設計が行なわれているところも面白い。実はドライバーズシートに座ると、従来よりたしかに左側に座ることになるため、ステアリング中心と身体の中心のズレが感じられる。旧型に慣れ切った感覚だと少し違和感がある。長年連れ添えば消えるのかもしれないが。だが、レーシングカーを作っている? そんな本気の意気込みが感じられる。

フロントハウジングはBRZ(左)がアルミ、GR 86(右)が鋳鉄を採用

 さらに空力についても改められ、フロントフェンダー後部にはエアアウトレットを装着。さらに、フロントグリルにはサメ肌のような空力テクスチャを装着することで、操縦安定性を向上させるなどの対策を新たに行なっている。また、タイヤは18インチ装着車にミシュラン「パイロットスポーツ4」を採用。標準状態でもシッカリとしたグリップを生み出すように改められた。ちなみに17インチは「プライマシーHP」を従来どおり採用。16インチ仕様は消滅するようだ。

新型GR 86とBRZのボディサイズ(開発目標値)は4265×1775×1310mm(全高はルーフアンテナ含む。ルーフ高は1280mm)、ホイールベースは2575mm
フロントフェンダー後部のエアアウトレット
フロントグリルまわりにはサメ肌のような空力テクスチャを装着
18インチ装着車はミシュラン「パイロットスポーツ4」(215/40 R18)を採用
17インチ装着車はミシュラン「プライマシーHP」(215/45 R17)を採用

 以上が基本的な進化の部分だが、今回はそれだけでは終わらない。GR 86とBRZとでかなり異なったセッティングが施されているというのだ。その際たるものがフロントのナックルの材質を変えたところだ。GR 86は従来どおり鋳鉄品、BRZはアルミ製としている。従来どおりの応答性を求めた結果、鋳鉄を採用したトヨタ。片側1.5kgの軽量化につながるということでアルミ化にこだわったスバル。走りの違いがどう出るかが興味深い。

 また、足まわりについても設定が異なる。GR 86はフロント28N/mm、リア39N/mmのスプリングを採用。フロントスタビライザーは中実φ18。リアスタビライザーはφ15となり、サスペンションメンバーに取り付けられる。対してBRZはフロント30N/mm、リア35N/mmのスプリングを採用。フロントスタビライザーは中空φ18.3。リアスタビライザーはφ15となり、リアサポートサブフレームを介してボディに直に取り付けられている。ここでもスバルは軽量化にこだわったわけだ。ちなみにリアのトレーリングアームブッシュは、GR 86は従来品、BRZはアライメント変化を嫌って硬度をアップさせている。

 さらに、これはGR 86とBRZ共通だが、前後のサスペンションメンバーも改良が行なわれている。フロントは樹脂だったマウントブラケットがレヴォーグ同様のアルミ製となり、それを止めるボルトを太くしている。これによって固有振動値を高いところに持っていくことが可能となり、共振を逃がすことが可能になったとのこと。リアは板厚アップなどでトルクアップに対する対策が行なわれているが、骨太になり、3kgほど重くなってしまったらしい。

GR 86とBRZで足まわりの設定が異なる

 そしてサーキットで懸案事項だった燃料の偏りについても対策が行なわれた。このクルマの燃料タンクはドライブシャフトを避けるように左右に樽があり、それがつながっている形状をしているのだが、燃料を吸うポンプは車体左側にある。右側にあった燃料はジェットポンプと呼ばれるもので左側へと吸い上げられるが、その特性をより多くガソリンが吸えるように変更するとともに、左右をつなぐチューブの径も拡大。

 さらには右側の吸い口の圧力損失を減らすために、スリットが入ったものに変更しているそうだ。旧型ではレースの際に燃料を50%くらい入れた状況でも燃料の偏りが起きて、特に鈴鹿サーキットや岡山国際サーキットでガス欠症状が発生していた。ともに左旋回が長く続くことで発生していた事案だったのだが、そんなマニアックなことにもきちんとした回答を出してくれたことはうれしい。予選でそれが発生して2度もレースを失ったのだから……。

 さらに、もう1つの懸案事項だったマニュアルミッションについても改善が行なわれた。これまで4速ギヤにはシンクロがなかったが、新型ではカーボンシンクロを投入。2-3などの斜めシフトでもスムーズに動くように各部の形状を見直したという。フォーク自体はアルミ製と変わらずだったが、ギヤとフォークが当たる部分には樹脂材を追加することで、適切にフォークに荷重がかかるようになり折れにくくなったとのこと。また、オイルの低粘度化を進め、日常域の入りのよさにもこだわっているらしい。

 シフトしたときに従来モデルであったゴリゴリとした感覚がなくなり、吸い込まれるように各ギヤにシフトノブが動く。特に3速から4速へのシフトアップは全く別のトランスミッションになったかのような感覚だ。

サーキットで全開走行 プロトタイプで分かった違いとその方向性

現行のBRZに試乗した後、新型BRZからサーキット試乗を始めた

 こうして大改良された新型GR 86&BRZを、いよいよ袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗する。まずは肩慣らしとばかりに旧型BRZで走り始め、その感触を基に新型BRZに乗り換える。ピットで新型をエンジン始動させると、アイドリングからかなり元気がよさそうになったことが伝わってくる。まるで武者震いするかのようなブルブルとした感覚だ。後に聞くと狙ったものではなく、2.4リッター化に従い燃焼爆発力がアップしたことで、多少振動が増えてしまっているとのこと。エンジンマウントブラケットを樹脂製からアルミ製に変更していなかったら、もっと大きくなってしまっていたそうだ。

 トルクが増大したことに対応したために、やや重めになったクラッチを踏み込みギヤを1速に入れる。ここから試しに1コーナーまで全開加速を続けてみると、低中速のピックアップは明らかに向上。中間にあったトルクの谷も気にならなくなった。そして何より驚いたのは7500rpmまでストレスなく吹け上がることだった。スペックを見ると中間トルクが太いばかりなのかと想像していたのだが、高回転まですっきりしている感覚が心地いい。それを後押ししているのがアクティブサウンドコントロールの存在だ。200Hz~400Hzの中回転域の力強さと600Hz以上の高回転の力強さを、雑味を取った上でスピーカーから聞かせるこのシステムは、メーカーは違うがまるでロータリーエンジンかと思うほどのビートの効いたサウンドを展開してくれるから面白い。

 1コーナーを駆け抜けてまず感心したのは、ステアリングに対するリアの追従のよさだ。ステアしてからリアが追従するタイムラグが旧型からすれば排除されたかのようだ。リニアにクルマ全体がジワリと動く感覚はなかなか。レヴォーグが登場したときに感じたハコの強さをBRZでも感じたのだ。

 コーナーリングを続けていくと、ドッシリとした安定感が生み出されている。リアはなかなか破綻せず、どこまでも路面を離さない。ノーズの入りはあくまでも穏やかで、ドライビングはかなりイージーだ。そこからペースを上げていくと、リアが流れ出すようなシーンも見えてくるが、その際の滑り出しもジワリとあくまで穏やか。リアのトー変化が小さいせいか? スライドコントロールはスロットル特性がリニアであるため扱いやすい。ただし、ノーズがやや入りにくい感覚があり、それがきっかけで操舵角が増え、アンダーオーバーとなるパターンがやや気になるが、あくまでも安定志向を続けようというAWD由来のスバルらしい仕上がりのようにも感じる。

GR 86

 そこからGR 86に乗り換えると、まったく違う走り味が宿っていることに驚いた。ステアリングは微小操舵角から即座に反応を始める感覚があり、結果的に操舵角をそれほど必要とせずにコーナーを駆け抜けていく感覚がある。これがナックルを鋳鉄製にとこだわった部分なのだろう。サスセッティングもフロントがスッと沈み込んでノーズがインを突くような感覚に優れているし、リアはスロットルを開ければ即座にトラクションが得られる感覚だ。

 ただし、ちょっとフロントは重さを感じるようなダルさがあることが気になった。スプリングレートを弱めた結果がそこにあるのかもしれない。しかし、ノーズの入りがすこぶるよいため、ドリフトのきっかけを作りやすいというメリットもある。テールは限界ギリギリまでこらえたところから一気に振り出すイメージがあり、滑り出しはナーバスに感じるところもあるが、手の内に収めやすい。応答性が高められたスロットル特性は、元気溢れていいがビギナーには難しいか? 全体的にシャープに仕立てられた、それがGR 86ならではの特性だ。

 実はこのセッティングを担当したレーシングドライバーは、かつて筆者の師匠としてCar Watchに幾度となく登場してくれた佐々木雅弘選手。筆者のクルマもよくセッティングしてもらったが、あのころの味が蘇るようだった。きちんと減速してシッカリとステアリングを切り込み、一気にクルマの向きを変えて強烈なトラクションを与えてコーナーを全開で脱出していく……。当時のレースカーと紛れもなく同一線上にある仕上がりだ。

 きちんと走れば即座にタイムに跳ね返ってくるし、間違った操作をすればクルマは簡単に破綻していく。まるでドライビング矯正ギブスかと思えるマニアックな作り込みがそこにあるのだ。

 そこからBRZを改めて見ると、今回のクルマはあくまでストリートに向けた仕上げだと感じる。どちらがいいわるいじゃない。明らかに向いている方向性が異なるといえるだろう。今後、公道試乗も行なう機会があるだろうが、すべての判断はそこからだろう。ただ、現時点での感想はサーキットならGR 86。ストリートはBRZがマッチするのでは? という予測だ。

【お詫びと訂正】記事初出時、スプリングレートの単位表記に間違いがありました。お詫びして訂正いたします。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学