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トヨタ&スバル共同開発新型スポーツカー「GR 86」「BRZ」公開記念「いっしょにいいクルマつくろう!トークセッション」レポート

2021年4月5日 開催

いっしょにいいクルマつくろう!トークセッションが開催された

2005年に始まったトヨタとスバルの協業

 トヨタ自動車とスバルは4月5日、共同開発の新型「GR 86」と新型「BRZ」の公開に合わせて、「いっしょにいいクルマつくろう!トークセッション」と題したイベントをオンラインで開催した。

 イベント収録はSKC(スバル研究実験センター)で行なわれ、参加したのはTOYOTA GAZOO Racingから、Company Presidentの佐藤恒治氏、凄腕技能養成部 GXの平田泰男氏、GRデザイングループ グループ長の松本宏一氏、GRプロジェクト推進部 チーフエンジニアの末沢泰謙氏、スバルからはCTO(最高技術責任者)の藤貫哲郎氏、技術本部 車両運動開発部 車両研究実験第二課 課長の伊藤和広氏、商品企画本部 デザイン部 次長の河内敦氏、BRZ開発責任者 商品企画本部 PGM(プロジェクトゼネラルマネージャー)の井上正彦氏ら8名に加え、レーシングドライバー佐々木雅弘選手と井口卓人選手も参加した。また、トークセッションには、ゲストMCの自動車ジャーナリストの河口まなぶ氏と自動車研究家の山本シンヤ氏も参加した。

TOYOTA GAZOO Racing Company President 佐藤恒治氏
株式会社SUBARU 常務執行役員 CTO(最高技術責任者)技術本部長 兼 技術研究所長 藤貫哲郎氏

 冒頭でスバルの藤貫氏は、トヨタとスバルのアライアンス協業が始まったのは2005年で、2007年にスバルのアメリカ工場でカムリの生産を行ない、2012年には初めて「一緒にいいクルマを作ろう」と計画した86とBRZが登場。実は年末に試作車の制作を頼まれ、急ピッチで制作して翌年の5月連休を返上し、テスト走行させていたと、当時を振り返った。

 その後、2019年に「一緒にもっといいクルマを作ろうぜ!」とトヨタの豊田章男社長とスバルの中村知美社長の間で再度話が立ち上がり、当時は両社とも何となくまだ壁があるような感じがあり、本音を言っていなかったような雰囲気だったが、すべてをぶつけあい、仲よくケンカしながらお互いのレベルを上げてもっといいクルマを作ろうという環境になっていったという。また、TOYOTA GAZOO Racingの佐藤氏も、「まさに両社の意識が変わっていく中で作りあげたクルマなんです」と語った。

トヨタ自動車の豊田章男社長とスバルの中村知美社長が同乗している様子

進化とデザインと乗り味の違い

 続いてのトークセッションは「進化」「デザイン」「乗り味」の3本のテーマに沿って行なわれた。

 進化についてスバルの開発責任者である井上氏は、現行型が8年をかけて作りあげてきたことですでにバランスがよいが、これを2代目に進化させるには、バランスを含めて進化させる必要があると考えたと明かした。そのためにまずはエンジンを2.4リッターにしてスポーツカーらしくパワーアップさせ、そのパワーに合うシャシーまわりを作ることがベースにあったという。

 また、スバルの伊藤氏は、開発当初どこから手を付ければいいのか本当に悩んだと言い、どこか1か所をよくするのではなく、スポーツカーとしてのポテンシャルを1段階上げることを目標に定めたという。特にこだわったのが、キビキビとした軽快な走りができるスタビリティのアップで、さらに普段使いでも乗りやすいように雑味のないスッキリとした乗り味を目指したという。

TOYOTA GAZOO Racing 凄腕技能養成部 GX 平田康男氏
TOYOTA GAZOO Racing GRデザイングループ グループ長 松本宏一氏
TOYOTA GAZOO Racing GRプロジェクト推進部 チーフエンジニア 末沢泰謙氏

 そんな伊藤氏と走り込みをしてきたのはGAZOO Racingの平田氏で、北海道のテストコースやドイツのニュルブルクリンクなどを一緒に走り込んだ当時を振り返った。伊藤氏は「平田さんがなかなか“うん”と言ってくれなくて……」と当時の開発秘話を明かしつつ、「これを乗り越えればもっといいクルマになると信じてやってきた」と語った。

 スポーツカーなので「とにかく重量を重くしたくなかった」というGAZOO Racingの末沢氏は、エンジン自体の大きさは同じままで、エンジン内部の気筒を削って400cc分の排気量を稼いでいると紹介。「それで動力性能も0-100㎞/hで1秒近く縮めているのですから凄いことです」と解説した。続けてスバルの井上氏も、「旧モデルのエンジンはボア径とストローク量が偶然にも86mm×86mmでしたが、今回は86mm×94mmになっていますので、ナンバープレートは“86-94”がオススメです」と笑いを誘った。

 開発ドライバーも務めるレーシングドライバーの佐々木選手は、今回の進化のポイントを、低重心でFRという素晴らしいパッケージングですが、実は開発当初は「え? これが86か?」と思った点もあったと明かした。しかし、パワーやトルクのもの足りなさが解消され、ボディもしっかりと剛性がアップされたことで、最終的には誰にでも喜んでもらえるレベルに仕上がったといい、「自分もカスタマイズが大好きだけど、このクルマは、しばらくはノーマルをしっかりと味わってほしい。買ってもすぐにはカスタマイズしないでほしい」と持論を展開した。

 同じくレーシングドライバーの井口選手も自身がオーナーであると明かしつつ、「同じようなパッケージングのまま仕上がっていることが嬉しい。ワインディングや街乗りで楽しんでほしい」と語った。

佐々木雅弘選手
井口卓人選手

 デザインに関してGAZOO Racingの松本氏は、キャビン後半を絞り込むデザインにすることで「意のままの走りを実現するための凝縮感」、サイドシルに設けた空力アイテムをキレイに仕上たことによる「機能をしっかり形で表現する機能美」、フロントピラーからフェンダーまでのラインなどにこだわり「独自のFRプロポーションをカッコよく見せる」といった3点に注力したという。

 スバルの河内氏は、群馬にあるスバルのスタジオを中心に約1年2か月くらいかけて一緒に仕上げてきたという。初代はスバルの開発陣がトヨタのスタジオに通っていたというが、今回は逆にトヨタの開発陣が群馬へ足を伸ばし、前回とはまったく異なる環境だったという。また、トヨタとスバルでは方向性は同じでも、開発の仕方が異なるため議論がよく交わされたとも明かされた。

 フロントバンパーサイドにある空力テクスチャーに関しては、新型BRZはコーナリングの入口で効果を発揮するように20度の角度が設けられているが、GR 86は直進安定性を考慮して水平となっている。また、ヘッドライトに関しては、GR 86はスープラなどと同じシグネーチャーライトを採用しているが、BRZではCシェイプデザインを採用するなど、デザインも味付けの方向性が異なるという。テールランプに関しては両車共通形状となるが、GAZOO Racingの松本氏はこれを「両社のデザインがうまく融合した部分」と表現した。

 インテリアに関しても、GR 86は運転に集中することを優先して、ドアノブやウィンドウスイッチはブラックアウトされていてると解説。一方のBRZは、運転中でも目に入り操作がしやすいようにとシルバーの加飾を施していると紹介した。

 レーシングドライバーの佐々木選手は、「特にメーターのオープニングがカッコいい」と絶賛。また、「走行モードを変えるとレーシングカーのような表示画面もあり、スイッチ1つでドライバーの気持ちまで切り替えてくれる感じがする」とべた褒めだった。

株式会社SUBARU 技術本部 車両運動開発部 車両研究実験第二課 課長 伊藤和広氏
株式会社SUBARU 商品企画本部 デザイン部 次長 河内敦氏
株式会社SUBARU 新型SUBARU BRZ開発責任者 商品企画本部 PGM 井上正彦氏

 乗り味についてスバルの伊藤氏は、「誰でも安心して楽しく走れることを目指して、やっぱりスバルなので雪道での乗り味もこだわって開発したし、コントロールする楽しさも残してある。最後は安全デバイスが止めてくれるようにもなっている」と紹介。GAZOO Racingの平田氏は、「基本的には同じだったが、86ファンの1人であるモリゾウさんから『86だったらいいけど、これはGR 86だぞ』と言われ、最終的にオーナーがスポーツカーに乗っている満足感や所有感を出せるように、尖った部分は尖らせるような味付けをした」と明かした。

 GAZOO Racing佐藤氏はモリゾウさんから最後の最後に出た“いろいろ”についても言及。「オーナーが本当に笑顔になれるクルマか?」と問われている気がして、再度スバルの藤貫氏に相談。そこでスプリング交換の提案が出て、ギリギリのタイミングで急遽やり直しの作業が発生したという。しかし、その結果が今ここにいる開発陣の満面の笑みにも表れている通り、満足のいくものになったと表現した。

開発陣の笑顔が完成度を表していると表現した

 ジャーナリストからの「2台を乗り比べができるイベントを開催してほしい」というリクエストに対してGAZOO Racingの佐藤氏は「分かりました。やりましょう。今決めました。開催します!」と宣言。また新型「GR 86」と新型「BRZ」は、SUPER GT 第1戦の岡山、第2戦の富士、第3戦の鈴鹿に展示されることも発表された。

 最後にGAZOO Racingの佐藤氏は、「今後もスポーツカーを愛してくれるファンとの一体感と笑顔につながるようなクルマをこれからも作ってきたい」と言い、スバルの藤貫氏は、「86はクルマが『もっといけ、もっといけ』と言ってくるような感じのクルマ、BRZはドライバーがしかけていけばそれに応えてくれるクルマ。できれば2台両方乗ってほしいです」と締めくくった。

いっしょにいいクルマつくろう!トークセッション(1時間6分)