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三菱電機、自動車機器事業を分社化する構造改革 漆間啓社長兼CEOがその狙いについて説明

2023年4月28日 発表

三菱電機株式会社 執行役社長 CEOの漆間啓氏

よりスピーディな事業運営を行なうため自動車機器事業を分社化

 三菱電機は4月24日、自動車機器事業を分社化する構造改革を発表。4月28日に行なった2022年度通期連結業績の発表会見で、三菱電機 執行役社長 CEOの漆間啓氏が、その狙いについて説明した。

 三菱電機の漆間社長兼CEOは、「CASEをはじめとして、産業構造が急速に転換するなか、意思決定プロセスを簡素化し、よりスピーディな事業運営を行なうため自動車機器事業の分社化を実施する。一段の事業運営の効率化と、事業ポートフォリオの再構築を図る」と述べた。

自動車機器事業の構造改革

 自動車機器事業の構造改革では、3つの取り組みが行なわれる。1つめは、電動化やADASなどのCASE関連事業において、事業の選択と集中を行ない、技術シナジーが見込めるパートナーとの協業を模索する点だ。

 漆間社長兼CEOは、「CASE関連事業は市場ポテンシャルはあるものの、巨額投資を必要とする。技術シナジーが見込める最適なパートナーとの協業を模索し、三菱電機の先端技術を活用しながら成長軌道に転換することを目指す」と述べた。

 2つめは、電動パワーステアリングシステム製品など三菱電機の強みが活かせる事業での改革で、漆間社長兼CEOは「コスト削減と効率化を推進するとともに、価格転嫁の加速などによる取引条件の見直し、不採算事業の削減を進めるほか、収益性の期待できるプロジェクトや機種にリソースを集中させる」と述べた。

 3つめが課題事業であるカーマルチメディアの早期事業終息である。漆間社長兼CEOは、「カーマルチメディアは収益改善が難しいと判断し、早期終息に取り組む」と発言。三菱電機 専務執行役 インダストリー・モビリティBAオーナーの加賀邦彦氏は、「カーマルチメディア事業は2000億円弱の事業規模を誇るが、数年間に渡り赤字体質から脱却できていない状況が続いている。2022年度から新たな商談を停止しており、不採算プロジェクトについては価格交渉を推進している」と述べ、「カーマルチメディアは、2023年度に一度黒字化した上で、プロジェクトごとに2~3年をかけて段階的に終息することを考えている。カーマルチメディア事業のエンジニアリングリソースは、他の自動車機器事業での活用と、FAシステムなどの成長領域への投入を図る」などとした。

 今回の自動車機器事業の構造改革は、今後、世界的な市場拡大が見込まれる自動車の電動化などに対応するため、事業体質を強化する狙いがある。

 漆間社長兼CEOは、「当初は自動車機器事業を重点成長事業の1つに位置付けていたが、急激な素材価格の高騰や物流費の増加など、コスト側の変動が想定以上となったことに加え、値上げの理解を得るまでにも時間がかかったため、損益が急速に悪化した。また、電動化の需要が当初計画ほど伸びていないことも影響した。重点成長事業の位置付けを一度見直す必要があると判断した。今後、構造改革を推進しながら必要なところに設備投資をしていくことになる。急速に市場が拡大することが想定される電動化に向けて、しっかりと対応できるように体質を強化していく」と語った。

 三菱電機が発表した2022年度業績によると、自動車機器事業の売上高は前年比15.9%増の8164億円となったものの、営業損益は146億円悪化し、マイナス465億円の赤字となった。2023年度には売上高は4.1%増の8500億円、営業利益は10億円と黒字転換を目指す。売上高8500億円のうち、CASE関連事業が約2000億円、電動パワーステアリングシステムなどの自動車機器事業が約4500億円、カーマルチメディア事業が約2000億円を想定する。

 漆間社長兼CEOは「2023年度の自動車機器事業全体で黒字化し、中期経営計画において収益をしっかりと出せる体制構築を目指す」としたほか、三菱電機 インダストリー・モビリティBAオーナーの加賀氏は「CASEの時代においても、三菱電機の価値を認めてもらい、利益が出せるところにまで戻せると考えている。かつて自動車機器事業部が達成していた7~8%の営業利益率は狙える。規模は追わずに利益確保を進めたい」と述べた。

三菱電機株式会社 専務執行役 インダストリー・モビリティBAオーナーの加賀邦彦氏

自動車機器事業においてはカーボンニュートラルへの貢献、快適な移動機会の提供、交通事故の撲滅の3点に取り組む

 一方で、自動車機器事業を含むインダストリー・モビリティBA(ビジネスエリア)の事業方針についても説明した。

 現在、三菱電機では2022年4月から「インフラ」「インダストリー・モビリティ」「ライフ」「ビジネス・プラットフォーム」の4つのBAで構成。BA単位での経営へ移行するとともに権限委譲を推進。事業ポートフォリオ戦略の強化に取り組んでいる。

ビジネスエリアと事業本部の関係

 インダストリー・モビリティBAは、FAシステムと自動車機器事業で構成。パワーエレクトロニクス技術とモーター技術、制御駆動技術を強みに、付加価値が高いコアコンポーネントを提供。さらにデジタル技術と組み合わせることで、未来のモノづくりと快適な移動を支えることを目指している。

インダストリー・モビリティBAの実績
未来のモノづくりと快適な移動を支える

 自動車機器事業(モビリティ)においては、カーボンニュートラルへの貢献、快適な移動機会の提供、交通事故の撲滅の3点に取り組む方針を示し、「自動車機器事業の構造改革を推進しながら、CASE領域でのシナジー創出が見込めるパートナーとの成長、拡大を図る。また、環境変化に対応した事業ポートフォリオの見直しにより、強みが活かせる領域への事業集中によって競争力強化を図る」(三菱電機 専務執行役 インダストリー・モビリティBAオーナーの加賀邦彦氏)と述べた。

 また、「制御・駆動系のコア技術とこれを支える内製キーパーツを強みにしていく」と述べ、「自動車機器事業では、長年培ってきたモーター技術やインバーター技術を生かすほか、自動車の生産を支える高速自動化量産技術や小型化生産設計技術をグローバルに供給する体制を構築し、各種モーターの制御を行なうソフトウェア開発技術に強みがある点をより広く訴求していく。これによりグローバルでの価値提供を進める」などと語った。

強み・シナジー戦略

 さらに、自動車機器事業で培った高速自動化量産技術をFAシステムに展開する一方で、FAシステムのノウハウを活用して、自動車機器事業のモノづくり力を強化し、そこで得られた知見を再びFAシステムの提案力強化に活かすといったように、インダストリー・モビリティBA内でのシナジーを強化。「カーマルチメディアを通じて培ったソフトウェア技術をFAシステム領域にも活用し、デジタルツインの加速やソフトウェアのアドオン開発などを強化することで、多様化する顧客ニーズに対応していく」と述べた。

 一方、BA経営体制の進化に向けて、2023年4月に各BA内にBA推進室を設置したことを発表。BAオーナーのスピーディな意思決定を支援するという。BA推進室は、投資家視点を通じて経営改革や事業変革の実行組織と位置付け、BA内を俯瞰した資源の再配分による資産効率の最大化、技術やノウハウの融合などを通じて、事業本部の壁を越えたシナジーを発揮することで社会課題の解決を促進。ポートフォリオ戦略の立案実行や、BA内の各事業の特性に応じた最適な組織や体制の整備などを加速するほか、BAをまたがる人材や技術のダイナミックな連携、ソリューション事業の提供を推進することになる。

 さらに、ビジネス・プラットフォームBAの中にあった半導体・デバイス事業本部を社長直轄の組織として分離。「各事業のキーとなる半導体デバイスの供給を通じて、三菱電機全体としての競争力強化を図る。パワー半導体向けの戦略的投資も全社的視点で判断し、確実な成長を牽引していく」(漆間社長兼CEO)と語った。

 半導体・デバイス事業本部では、SiCパワー半導体事業を強化。「SiCパワー半導体は、電気自動車向け需要の拡大に伴い、急速な市場拡大が見込まれるとともに、さまざまな応用分野での市場拡大が見込まれる。パワー半導体における2021年度から2025年度までの累計設備投資を、従来計画の倍増となる約2600億円に引き上げ、今回の追加投資により2026年度以降のパワー半導体事業の成長をさらに加速させる」(漆間社長兼CEO)と述べた。

 熊本県泗水地区のSiCパワー半導体の新工場棟を2026年度から稼働。約1000億円を投じて8インチによるウェハーの大口径化を実現するとともに、省エネ性能と自動化を実現することで生産能力を増強する。さらに、福岡地区において100億円を投じて後工程の新工場を建設。生産開発から量産化までの一貫体制を強化し、開発効率の向上や生産体制の拡充などを進める。

SiCパワー半導体の設備投資について

 三菱電機は、2022年度連結業績で売上高が前年比11.8%増の5兆36億円と過去最高を更新。さらに2023年度は過去最高の売上高、利益を見込んでいるが、自動車機器事業は厳しい状況にある。新車販売台数の増加や、モーターやインバーターなどの電動化関連関連製品および自動車用電装品の需要増、円安がプラス効果となり、2022年度は受注高、売上高ともに前年度実績を上まわったものの、収益性には課題がある。構造改革を進めることで、CASE関連市場の立ち上がりが本格化するまでに、体質改善を進めることができるかが鍵になる。

部門別売上高・営業損益(業績見通し)