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三菱電機、新中期経営計画で電動化/ADASを重点成長事業の1つに

2021年6月4日 発売

三菱電機株式会社 執行役社長の杉山武史氏

 三菱電機は、2025年度を最終年度とした中期経営計画を発表。そのなかで、重点成長事業の1つに、自動車機器事業本部が担当する「電動化/ADAS(先進運転支援システム)」を位置付けた。

 三菱電機の杉山武史社長は、「重点成長事業は、今後も成長していく市場において、グローバルトップとなるポテンシャルを有し、社会課題解決に貢献するイノベーション事業であり、三菱電機の成長ドライバーになる」と定義。「電動化は環境負荷を下げ、ADASは交通事故ゼロ社会を支えることになる」と語った。

 今回、三菱電機が打ち出した新たな中期経営計画では、2025年度に売上高5兆円、営業利益率10%、ROE10%、キャッシュジェネレーション(調整後営業キャッシュフロー)は5年間で3兆4000億円という財務目標を掲げた。

2025年度に売上高5兆円、営業利益率10%、ROE10%、キャッシュジェネレーション(調整後営業キャッシュフロー)は5年間で3兆4000億円という財務目標を掲げた

 その上で、三菱電機が持つ事業でそれぞれの特性と、収益性、成長性をもとに、重点成長事業、レジリエント事業、育成事業/新規事業、価値再獲得事業の4つの象限に分類し、強弱をつけて経営資源を投入する考えを示した。

 杉山社長は、「重点成長事業は、2025年度の財務目標を達成する上で、全社を牽引するものになる。集中的な成長投資を行ない、売り上げ規模や収益性を向上させる」とし、「すべての事業を満遍なく成長させるのではなく、メリハリをはっきりさせた事業オペレーションを行なう」と語る。

 この姿勢を打ち出した背景には、2020年度までの前中期経営計画の反省がある。2020年度を最終年度とした中期経営計画では売上高5兆円、営業利益率8%を掲げたが、売上高は4兆1914億円、営業利益率は5.5%と、いずれも目標には到達しなかった。

「従来は8つの成長牽引事業があり、そこに成長投資をしていたが、結果としてうまく伸びきれなかった。要因と言えるのが、8つの成長牽引事業で売上高の80%を占め、成長性が高いものと、低いものが混在していたこと。その反省を踏まえて、今回の中期経営計画では、三菱電機が取り組む多くの事業を、成長性という点でどう分類するか、成長性が高い事業のなかで、グローバルトップとして戦っていける力があるものはなにか、事業の成果として、社会課題解決につながるものはなにかという点で精査し、より重点的にリソース配分をしていくことになる。それが重点成長事業に定めた5つの事業になる」と位置付けた。

重点成長事業に定めたのは、FA制御システム、空調冷熱システム、ビルシステム、電動化/ADASと、これらの事業を支えるパワーデバイスの5つの事業

 重点成長事業に定めたのは、FA制御システム、空調冷熱システム、ビルシステム、電動化/ADASと、これらの事業を支えるパワーデバイスの5つの事業である。重点成長事業の売上高は2兆6000億円(2020年度実績は1兆8000億円)、5年間の年平均成長率は8%。営業利益率は13%(同6%強)を目指す。

 電動化/ADASでは、2020年度に1000億円だった売上高を、20205年度には3000億円以上と、3倍にも拡大させる計画だ。5つの重点成長事業のなかで、最も高い成長を遂げる事業となる。

 杉山社長は、2025年の売上高3000億円以上のうち、約2300億円が電動化、約900億円がADASの領域になるとし、自動車機器事業の主要生産拠点である兵庫県姫路市の姫路製作所、兵庫県三田市の三田製作所での生産規模の拡大や、開発人員の増員も必要だとした。

 三菱電機 自動車機器事業本部長の藪重洋常務執行役は、「自動車の電動化やADASは、今後需要の急拡大が見込まれる。電動化においては、三菱電機が得意とするパワーデバイス、冷却技術、モーターの高密度巻線技術を活かす一方、ADASでは、高精度測位技術、ミリ波技術、画像認識技術を活かした商品開発と価値提案により、地球環境と安心、安全に貢献したい」と述べた。

三菱電機株式会社 自動車機器事業本部長の藪重洋常務執行役

 成長戦略として、電動化においては、地域環境やカーメーカーの電動化ポートフォリオニーズを踏まえ、マイルドHEVからバッテリーEVまで、三菱電機のコア技術を活かした高効率な電動化部品ラインアップを拡充し、採用実績を広げることを目指す。ADASでは、三菱電機が持つ独自の高速演算機能や人工知能を組み込んだ、スムーズで安定した車両制御に、高精度測位やミリ波、画像認識といった強み技術や、他社連携した灯火制御を組み合わせた新たな付加価値を持ったADASシステムを提案することを打ち出した。

重点成長事業

 また、統合ソリューションの提供にも力を注ぐ。三菱電機の統合ソリューションは、同社が持つ強いコアコンポーネントと、長い事業経験で獲得した豊富なフィールドナレッジ、AIやIoTなどを含めた先進的デジタル技術を組み合わせて提案。「さまざまな機器やシステムのデータを連携、分析し、顧客に最適なソリューションを提供するのが三菱電機の統合ソリューションとなる」(三菱電機・杉山社長)とする。

重点成長事業

 2020年4月には、ビジネスイノベーション本部を設置。統合ソリューションへの取り組みを本格化させており、ライフ、インダストリー、インフラ、モビリティの4つの領域において、グループ内外の力を結集した統合ソリューションを提供することになる。

 すでに、同社独自のコンパクトなAI技術と位置付ける「Maisart」を活用し、レーダーによる津波の浸水深予測AIを開発。レーダーで収集したデータをもとに、AIを活用して、津波検出とほぼ同時に、陸地での津波浸水深を高精度に予測し、迅速な避難計画の策定を支援。沿岸地域での防災や減災に貢献している。

 自動車機器事業における統合ソリューションの取り組みでは、ADAS/自動運転技術を活用したMaaS領域での新事業創出を目指す。具体的には、高付加価値位置情報提供サービスや大型施設内の自動搬送システムなどを想定している。また、三菱電機が保有するインフラ機能や、路側センサーや管制システム、衛星測位などのサービスなどと協調した狭域自動運転システムの提案も行なう。

「ADASや自動運転技術を転用し、道路の劣化状況の品質など高付加価値位置情報提供サービスや、病院や大型施設での自動搬送など、ラストワンマイルの領域でのソリューションを提供する。また、自動車側の自律型ADASシステムに、路側センサーや管制システムといったインフラ技術を組み合わせることで、狭域での自動運転システムが可能になる」としたほか、「高効率な電動化部品の拡充により、脱炭素への貢献を果たしたい。また、ADAS/自動運転事業は、交通事故を減らし、安心、安全な社会の実現に貢献できる。さらに、病院や大型施設内の自動搬送システムや狭域自動運転システムの提供による労働者不足、高齢化などの社会課題解決へも貢献できる」とした。

 なお、そのほかの重点成長領域では、FA制御システムは、2020年度には2650億円だった売上高を、2025年度には3500億円以上に拡大。空調冷熱システムは8100億円から1兆1000億円以上に、ビルシステムは5000億円から6500億円以上に、パワーデバイスは1500億円から2400億円以上に、それぞれ拡大させる。中でもパワーデバイスは三菱電機のさまざまなソリューションのキーデバイスとして、脱炭素社会の実現に貢献する事業としており、自動車機器事業にも関連する。

 三菱電機 半導体・デバイス事業本部長の齊藤譲常務執行役は、「事業シナジーで培ったIGBT(絶縁型ゲート型バイポーラトランジスタ)や、SiC(Silicon Carbide)で、高成長が見込まれる自動車および民生分野に注力し、成長を目指す。自動車分野では、これまで培った顧客との関係性、豊富な実績、高効率および小型化などのトップクラスの技術力を活かし、三菱電機が得意とするIGBTやSiCを展開することにより、製品ラインアップを強化し、拡大が見込まれる電動化需要に対応していく」と述べた。

 三菱電機の杉山社長は、「今回の中期経営計画は、事業ポートフォリオ戦略の強化、統合ソリューションの提供拡大、経営基盤の強化に加え、脱炭素化の対応を含むサステナビリティへの取り組みも織り込んだ。2021年2月1日に、創立100周年を迎えた三菱電機が、この5年間でどう変わろうとしているかを示すものになる」と位置付けており、成長事業として、自動車機器事業が果たす役割は大きい。

 同社では、中期経営計画の期間中に2兆8000億円の資源を投入する考えを明らかにし、そのうち、重点成長事業に約60%を配分し、「伸ばすべき事業を確実に伸ばす」(三菱電機の杉山社長)としている。

 一方で、レジリエント事業は、安定的な需要を有し、市況変動時においても、弾力性を持った経営に貢献する事業群とし、「重点成長事業とレジリエント事業が両輪となって、成長を続けながら、景気変動への業績への影響を最小限に抑える」としたほか、育成事業/新規事業は、現在の規模は小さいが、次の重点成長事業になる可能性を持った事業、価値再獲得事業は、開発や製造の価値が、現時点では十分に認められていない事業とし、一定期間を経て、収益性の改善が見られない事業については、課題事業に位置付け、売却や撤退も検討する姿勢も示した。

 なお、三菱電機では、創業100周年を迎えたのに合わせて、企業理念体系を改定。企業理念を、「私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します」とした。また、7つの行動指針を「私たちの価値観」として見直し、新たに人を加えて、信頼、品質、技術、倫理・遵法、人、環境、社会と定めた。さらに、コーポレートステートメントの『Change for the Better』はコミットメントに見直した。