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三菱電機、あいまいな命令を理解する「コンパクトな知識処理に基づくHMI制御技術」技術説明会

あいまいな命令を機器単体で処理して素早く応答、カーナビなどに搭載

2020年1月28日 開催

「コンパクトな知識処理に基づくHMI制御技術」で開発した「知識グラフ」のイメージ

 三菱電機は1月28日、あいまいな命令を理解する「コンパクトな知識処理に基づくHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)制御技術」を開発したと発表した。音声などよるユーザーのあいまいな命令を、AI(人工知能)が不足情報を自動で補完して理解するもので、クラウドによらず機器単体で素早く応答することが特徴。

 家電製品や車載情報機器などでの使用を想定しており、今後、さらに開発を進めて商用化は2022年以降となる。同日、三菱電機本社において開発した技術の説明会を開催した。

同じ音声命令でも、時間や状況を付け加えて処理

「コンパクトな知識処理に基づくHMI制御技術」によって、録画予約と再生をするイメージ

 コンパクトな知識処理に基づくHMI制御技術を使うと、例えば、レコーダーによるTV放送録画の予約を指示する際、俳優の名前を付けて「俳優Aよろしく」と音声指示すると、朝ならば俳優Aが出演するTV番組の録画予約が実行され、その日の夜、録画後に同じく「俳優Aよろしく」と命令すれば、録画した番組の再生が行なわれるというもの。

「俳優Aよろしく」のようなあいまいな命令には、述語や目的語が入っていないが、AIが自動で補完して命令を理解する。朝ならば、命令者の行動パターンなどから録画予約と判断し、夜ならば、録画や再生状況などを見て録画番組の再生と判断する。処理時間は、命令に不要な情報を削除する知識処理のコンパクト化によって機器単体で1秒以内に理解し、応答するという。

 命令を補完するまでにはAIによる学習が必要となるが、例に挙げたTV番組の録画予約や再生なら1週間くらいの学習で実現できることを想定。情報の関連性を表現したデーターベース「知識グラフ」で推論する。

 必要とするハードウェアのスペックは応答の正確さの必要度合いや、要求される応答処理時間によっても異なる。例えばカーナビで利用する場合、ドライバーを迷わせないために正確な情報が必要で、かつ、必要な場所を通り過ぎる前に正確な情報を提供する必要があるため、TV番組予約に比べれば高い性能が求められるという。それでも、もともと比較的高性能なプロセッサーを搭載しているため、一般的なカーナビに搭載されるプロセッサーで対応できる見込みという。

人が機器に合わせるのではなく、機器が人に合わせる

 コンパクトな知識処理に基づくHMI制御技術については、情報技術総合研究所 知識情報処理技術部長の虻川雅浩氏が解説、主なポイントとして「ユーザーの曖昧な命令を、AIが状況に応じて不足情報を自動補完して理解」「知識処理のコンパクト化により、エッジ機器単体でユーザーの要求に素早く応答」の2つを挙げ、曖昧な命令に対して素早く応答できるHMIを実現したという。

三菱電機株式会社 情報技術総合研究所 知識情報処理技術部長 虻川雅浩氏

 開発の背景としては、人が機器に合わせるのではなく、機器が人に合わせるようにすれば、多様化、複雑化する機器を使いやすくなるとした。

 例に挙げたTV録画では、音声認識ができる録画機器があったとしても、音声コマンドを覚えてないと録画予約ができない。この技術を使えば、ユーザーのやりたいことを、あいまいな命令からでも機器が理解してくれるとした。

開発の成果
開発の背景
課題と開発技術

 この例では、AIが補完する不足情報は、番組情報、番組状態、機器情報、個人情報などを加えた「知識グラフ」から推論、決定していく。その際、関連性の強さで絞り込み、演算量とメモリー量を削減し、エッジにおいても実現可能とした。

開発成果の詳細
不足情報を自動補完する
知識処理をコンパクト化し、処理する知識情報を絞り込んだ

 この技術の商用化は、技術適用を検証してから2022年の商用化を目指す。また、家電製品や車載機器のほか、問い合わせ業務に対して「見積もり事例の検索、不具合対処方法の検索」など、ビジネス現場への適用も考えられるという。

デモを解説する三菱電機株式会社 情報技術総合研究所 知識情報処理技術部 推論技術グループマネージャー 田口進也氏

 説明会で行なったコンセプトデモでは、「須藤英太をよろしく」とだけしゃべることで、ダミーデータから架空の俳優「須藤英太」が出演しているドラマを予約する様子を見せたほか、検索に該当がない場合、間違いの可能性を指摘して代わりの案を提案したほか、多い場合は絞り込み条件を推薦することも実現してみせた。

朝に「須藤英太をよろしく」とだけ命令した場合。知識グラフから情報が絞り込まれたイメージ
帰宅後、「須藤英太をよろしく」とだけ命令して、知識グラフから情報が絞り込まれたイメージ
録画した番組の再生が選ばれた
別の音声コマンドを発し、検索に該当がない場合、間違いの可能性を指摘して提案している

三菱電機のAI技術ブランド「Maisart」を用いた技術

 三菱電機の人工知能の取り組みについては、情報技術総合研究所長の楠和浩氏が説明した。今回の開発については、「機器、エッジのスマート化をして、お客さまに、効率化、快適性、安全・安心という価値を提供していきたい」と目的を語った。

三菱電機株式会社 情報技術総合研究所長 楠和浩氏

 楠氏は三菱電機の掲げるAI技術ブランド「Maisart(マイサート)」についても触れ、「コンパクトな人工知能の技術を核として、データの発生源に近いところで使用できるところが大きな特徴」とし、クラウドではなくより末端に近い、機器やエッジの領域に適用できるとした。

三菱電機のIoTを活用した開発戦略
AI技術ブランド「Maisart」、文字を並べ替えると「SmartAI」にもなる
AI技術の開発戦略

 なお、今回の技術を搭載した製品の登場は製品を開発する事業部が行なうとし、具体的な製品のイメージについては明らかにされなかった。

今後の展開