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NVIDIAとMediaTek、自動車向け半導体で協業 Dimensity AutoにNVIDIAのGPUを統合

MediaTekとNVIDIAが目指すデジタルコクピットのイメージ

NVIDIAとMediaTekが協業

 半導体メーカーのNVIDIAと、同じく半導体メーカーのMediaTek(メディアテック)は、5月30日から台湾・台北市で開催されるCOMPUTEX TAIPEIに合わせて報道発表を行なった。NVIDIAとMediaTekが自動車向けの半導体であるSoC開発で協業し、NVIDIAの技術を応用したSoCをMediaTekが自動車メーカーやティアワンサプライヤーに提供していく計画を明らかにした。

 具体的には、今後MediaTekが自動車メーカーなどに提供する自動車向けSoC「Dimensity Auto」(ダイメンシティオート)に、NVIDIAがGPUのIP(知的所有権)を供与し、NVIDIAの技術を組み込んで出荷する計画となる。

MediaTekのDimensity AutoにNVIDIAのGPUを統合

 MediaTekの強みであるスマートフォンの技術をデジタルコクピットやIVI(車載情報システム)へ、NVIDIAの強みであるAI技術をADASや自動運転へ、2社の強みを1つのSoCで実現することが可能になる。2社の技術を合わせることで、先行するQualcommをキャッチアップする狙いがあるものと考えられている。

スマホ由来の技術を持つMediaTekと自動車向けのソフトウエア資産を持つNVIDIA

 今回NVIDIAとMediaTekが発表したのは、両社の強みを持ち寄り、最強の自動車向けSoCを作り上げるという協業について。両社が協業を行なう背景には、自動車向けのSoCでスマートフォン由来の製品が市場の主流になりつつあり、スマートフォンSoCで強みがあるQualcommの存在感が高まっていることがある。

 自動車向けの半導体としては、元はスマートフォン向けだったものが、車載用としても注目を集めている。スマートフォン向けのシェアでは2位のシェアを持ち、自動車向けにもビジネスを展開しているQualcommが代表的だ。

 Qualcommは元々スマートフォン向けとしていたSoCを車載グレードにして、自動車向けに展開するという形で製品の展開を行なっている。5Gや4Gなどの携帯電話回線を利用したデータ通信に必要なモデムも付属するとあって、自動車メーカーやティアワンサプライヤーにとって強力な選択肢になっている。すでにIVI向けでは携帯電話回線への対応は不可欠になりつつあり、そのトップベンダーであるQualcomm製品をIVIのSoCとして選択するというのは自然な展開と言える。

 それに対してNVIDIAは、スマートフォン向けSoCからはすでに撤退しており、携帯電話モデム事業も他社に売却するなどしているため、スマートフォン向けのSoCを車載向けに横展開するということができないのが現状だ。

 Qualcommに対抗できるスマートフォン向けSoCを持っているベンダーはないのだろうか? 実はある。Qualcommを抜いて、現在スマートフォン向けSoCの市場シェアでトップとなっている台湾のMediaTekだ。

 MediaTekはコロナ禍の間に出荷数を増やし、Qualcommを抜いてスマートフォン向けSoCでトップシェアになっている。だが、MediaTekはこれまで、車載向けの製品を出してこなかった。このため、Qualcommのようにスマートフォン向けのSoCを自動車に展開できていなかった。

 しかし、2023年4月に行なわれた上海モーターショーで、MediaTekは「Dimensity Auto」という自動車向けグレードのSoCを発表した。これは、MediaTekがフラグシップないしはプレミアムスマートフォンなどと呼ばれる高付加価値のスマートフォン向けにリリースしているDimensityシリーズのSoCを車載グレードにしたもので、今後自動車メーカーなどに展開を図っていく製品となる。

 参入を発表したのが4月ということからも分かるように、NVIDIA、Qualcomm、ルネサス エレクトロニクスなど競合がすでに市場シェアを持っている自動車向けに参入するのは決して簡単ではない。最大の課題は、最後発であるためソフトウエア資産がまったくと言ってよいほどないことだ。

 例えば、NVIDIAであればここ10年にわたって車載向けに取り組んできたため、ユーザーの元にはNVIDIAのGPUで動くAIチャットボットやAIを利用したADAS/自動運転のソフトウエアを作るためのコードがすでにあり、それを元に今後の製品を発展させていくことができる。

 NVIDIAはスマートフォン由来の技術が足りていないが、AIやADAS/自動運転のソフトウエア資産がすでにある。その逆にMediaTekには5Gモデムなどスマートフォン由来の技術はあるが、AIやADAS/自動運転のソフトウエア資産はない状況にあるので、それぞれの強みを持ち寄って、より強力な製品を作って自動車メーカーに売り込みたい、それが狙いの提携と言える。

MediaTekのSoCに、NVIDIA GPUをチップレット技術を応用してパッケージ

 今回発表された両社の提携は、MediaTekが今後自動車メーカーやティアワンサプライヤーに提供するDimensity Autoのパッケージ上に、NVIDIAのGPUをチップレットと呼ばれる技術を利用して組み込む。

 これにより、チップがパッケージ上で統合されるが、パッケージレベルでは1つのSoCとして機能するようになる。なお、MediaTekが製造するメインチップとNVIDIA GPUは、超高速な独自方式のインターコネクトで接続される。

 こうした形をとることで、NVIDIA GPU技術を統合したDimensity Autoは、NVIDIAのDRIVE OS、DRIVE IXなどを利用することが可能になるほか、CUDAやTensorRTなどのNVIDIAのソフトウエア開発キットを活用してAIやADAS/自動運転向けソフトを作ることができる。

 すでにNVIDIAの製品向けにソフトを持っている自動車メーカーであれば、それを少し変えるだけで、このNVIDIA GPU入りDimensity Autoを動かすことが可能になる。

 MediaTekによれば、このNVIDIA GPUを搭載したDimensity Autoは、2026年末から2027年にかけて市販されるような自動車をターゲットに開発が進められている。ラグジュアリークラスから、普及価格クラスまで柔軟にカバーすることが可能になると説明している。