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トヨタ第3の製造拠点、東北の宮城大衡工場をラリーツーリズムで公開 震災対応を盛り込んだトヨタの製造工場

トヨタ自動車東日本 宮城大衡工場に展示されている、生産車種のヤリスクロス

ラリーチャレンジと合わせて開催されたラリーツーリズムイベント

 トヨタ自動車は、初心者やアマチュアでも参加可能なグラスルーツモータースポーツとしてTOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジを、全国各地で開催している。7月23日には、宮城県利府町で第6戦となるラリーチャレンジ利府がグランディ・21(宮城県総合運動公園)をベースに開催された。

 このラリチャレ利府に合わせて行なわれたのが、同じ宮城県に位置するトヨタ自動車東日本の宮城大衡工場の公開。TOYOTA GAZOO Racingは、参加型ラリーであるラリチャレに合わせて、ラリー開催地を広域で楽しむラリーツーリズムを訴求しており、宮城大衡工場の特別見学や松島の宿泊などが旅行商品として用意されていた。

トヨタが震災復興の後押しとして設立したトヨタ自動車東日本。宮城大衡工場内に本社もある

 今回、この宮城大衡工場の特別見学に同行。トヨタ本社のお膝元である中京地区、レクサスの高品質なクルマ作りを支える九州地区(トヨタ自動車九州 宮田工場など)に続く、トヨタ第3の国内製造拠点となった東北の主力工場を訪ねてみた。

震災からの復興を後押しした、トヨタ自動車東日本の設立

 よく知られているように、トヨタ自動車東日本は2011年3月11日に発生した東日本大震災の復興を後押しするために、トヨタ自動車が設立した自動車製造会社になる。とくに当時社長であった豊田章男会長の強い思いによって設立されており、震災対応として寄付をするのではなくトヨタ自動車としては自動車産業を東北の地に根付かせることを選んだ。

 豊田章男会長は、トヨタ自動車東日本稼働10周年となる2022年のラリチャレ利府で行なったデモランのときにその思いを「あのとき(東日本大震災のとき)日本の半分が壊れてしまった。それに対して寄付などをするという方法もあったが、トヨタ自動車としては自動車産業をこの地に興すことを決断した。雇用を生み、利潤を生み、税金を納める、税金を払い続ける方法での社会貢献を決断しました。トヨタ自動車は愛知が第1の拠点、九州が第2の拠点。ここは第3の拠点と位置づけました。そのとき、自動車の出荷額は愛知が5兆円、九州が5000億円。東北は500億円だった。それが10年経って5000億円になった。サプライヤーとの協力基盤も上がってきた。宮城県や岩手県との協力など。自動車産業はこんなに大きな力を発揮するんだと。そこをもうちょっと考えてね、応援していただけたら」と語っており、常々語っている「地域のみなさまから愛され、頼りにされる、この町いちばんの会社になりたい」という思いが込められた会社になる。

7月に開催されたスーパー耐久SUGOに参戦したモリゾウ選手(豊田章男会長)に旗を振るトヨタ自動車東日本の応援スタッフ

 トヨタ自動車東日本は、本社・宮城大衡工場で「シエンタ」「ヤリスクロス」「ジャパンタクシー」「カローラ」(ビジネスパッケージとなる前プラットフォーム)の5車種を製造。宮城大和工場でエンジンなどを製造している。また、岩手工場では「アクア」「ヤリス」を製造するほか、宮城大衡工場にはトヨタ東日本学園も併設しており、設立当初にかかげた「コンパクト車づくり基盤構築」「地域と一体となったモノづくり」「中長期を見据えた人づくり」が行なわれている。

トヨタの最新の試みが取り入れられた宮城大衡工場

ヤリスクロスのホワイトボディと溶接ロボットの展示

 ラリーツーリズムで訪れた宮城大衡工場の生産能力は年間14万7000台。タクトタイムは87秒で動いているという。ただ、今回訪れた日はラリチャレ利府の前日となる7月22日の土曜日であるため、工場はお休みの日となっていた。

 工場がお休みの日であると、生産ラインが動いておらず、一般に見学としてはダイナミックさに欠ける部分ができてしまう。ところが、大衡工場ではラインが動いていないところを逆に利用して、通常工場が稼働していると入ることが不可能な部分までを公開。さらに、見学者の満足度を上げるために、車体のプレス工程や、溶接工程、組み立て工程を一部稼働。とくにロボットによる自動溶接工程は、2階に上がってラインを見下ろす形で実施しており、間近でクルマ作りを体感できるようになっていた。

 記者自身も取材のためいくつかの国内外の工場を見てきたが、お休み日の工場見学は初めて。ラインのすぐそばに行けたり、AGV(自動搬送機)が走り回っていないのでゆっくり見られたり、さらに説明もゆっくり聞くことができた。また、休みの日のため対応は部長やライン長など役職者が中心となっており、石川洋之社長もあいさつを行ない、最後の質疑応答は各部長が詳細に応えるなど参加者の満足度は高かったように思えた。

 大衡工場の生産ラインの特徴は、東日本大震災の経験が活かされていることにあり、ユレに対する部品のストッパーがからくりで組み込まれていたりする。エンジンの組み付けや、リアサスペンションの組み付けラインは、通常の縦並びラインではなく、クルマがラインの進行方向に対して直角となる横並びライン。横並びラインとすることでライン工程を35%抑制でき、ライン投資も抑制できる。つまり、より低コストで生産できることになる。

 また、その際の車体の支え方も、天吊りではなく下から支える方式となっており、こちらのほうが揺れに対して強いのだという。実際、ある工場では震災の際に数十台のクルマが落ちるなり外れるなりしたが、下から支える方式は現状そのようなことは1台も起きていないという。

 この下支えのメリットはほかにもあり、天吊りの際に必要となる強化したはりなどが不必要となること。はりの数が減ることで天窓からの光が入りやすくなり、結果的に工場が明るくなる。もちろん照明費などコスト的なメリットもあるのは間違いない。

 このような新しい取り組みが大衡工場でされているのは、トヨタとしても新しい工場となるため。実際、生産ラインを見てみても、固定式のラインというよりモジュールを組み合わせたようなラインとなっている。さらに、AGVを積極的に活用しており、ラインの折り返しなどは多くの場合AGVが担っていた。

 これらの生産ラインは、撮影不可、録音不可のため写真などで紹介することはできないが、トヨタの最新ラインの取り組みが分かるものだった。唯一撮影可能なスペースである結ギャラリーには、ヤリスクロスの実車がカットモデルで飾ってあり、大衡工場で行なっているプレス工程や塗装工程、溶接工程が分かりやすく展示されていた。

 特別見学の最後には前述のように工場幹部による質疑応答があり、詳細な質問に対し真摯に応えていたのが印象的だった。とくに、工場の自動化についての質問については、溶接工程は100%自動化を行なっているが、検査工程にはしっかり人のチェックを残しているとし、その理由として「クルマの味は人の評価が必要」というのを挙げていた。大衡工場はトヨタの新しい工場でありながら、最後は匠(たくみ)など人の手による検査・確認を重視している工場であった。