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スーパー耐久でカーボンニュートラル燃料の改善に挑むトヨタとスバル マツダの参戦を歓迎

スーパー耐久SUGO戦から投入した新カーボンニュートラル燃料について語るTOYOTA GAZOO Racing Company GRパワトレ開発部 主査 小川輝氏

蒸留特性を改善したカーボンニュートラル燃料をスーパー耐久第3戦SUGOで投入

 スーパー耐久のST-Qクラスにおいて、トヨタ自動車がGR86 CNF Concept、スバルがBRZ CNF Conceptという次世代車を公開開発している。これはそれぞれの次期モデルという意味合いも含まれているが、いずれも同じカーボンニュートラル燃料を使って耐久レースを走行しており、カーボンニュートラル社会に向けたクルマ作り、燃料作りという意味もある。

 この2台のクルマに使われているカーボンニュートラル燃料はP1 Fuels製のもの。P1 Fuelsの燃料はWRC(世界ラリー選手権)でも使われており、トヨタにとっては、いろいろ話をしやすいメーカーであるとも言える。

P1 Fuels製のカーボンニュートラル燃料を使って走るGR86 CNF Concept

 この2台の戦いを通じて、カーボンニュートラル燃料での問題点として、オイル希釈などが挙げられていた。カーボンニュートラル燃料は、通常の化石由来のガソリン燃料と異なる特性を持つため、カーボンニュートラル燃料を使っているうちに、燃料がオイルに混ざってしまい、結果的にオイルの特性が悪化。エンジンの不具合につながってしまう。

 具体的には、シリンダー内に噴射した燃料が燃え残ってしまうことがあり、それがシーリングを通してオイルエリアに侵入、水っぽい燃料がどんどんオイルエリアに入ってくることで、オイルの潤滑能力が下がってしまっていた。

 その結果、摺動部での焼き付きが起きたり、オイルの圧力(油圧)を高めることができなかったという。

 さらに、シリンダー下のオイル部に燃料が入ってくるとオイルの油面が上昇し、不要なオイルをかき出す仕組みがあるため、どんどんオイルを外へはじき出してしまう。

 しっかり燃料が燃えないということはカーボンの発生にもつながり、結果、カーボンスラッジなど不必要な廃棄物も出てきてしまう。

 TOYOTA GAZOO Racing Company GRパワトレ開発部 主査 小川輝氏によると、スーパー耐久第3戦SUGOではその点を改良したカーボンニュートラル燃料をP1 Fuelsと開発。実際に走らせている中で、良好な特性を得ているという。

第4戦オートポリスからのマツダ参戦を歓迎

 では、どのような点を改良したのだろうか? 小川氏によると燃料について語るときに大切なのが「蒸留特性」だという。蒸留特性とは、ある温度のときにどれだけ気化するかという指標で、燃料は液体のため温度を上げるに従ってある割合が気体になっていく。

 その温度によって気体になる特性を、SUGOからのカーボンニュートラル燃料では、よりガソリン燃料に近い形に近づけてあるという。

 カーボンニュートラル燃料では、燃料の中に入っている成分が化石燃料とは異なりバイオ由来のものとなるので、特性はそう簡単にいじることはできなかった。トヨタとしてはスバルと一緒に、燃料の成分などを調べたりしながらP1 Fuels側にリクエスト。SUGO戦から新しいカーボンニュートラル燃料を使えるようになった。

 この新しいカーボンニュートラル燃料は、蒸留特性をカイゼンしてあるため、これまで210℃以上でないと100%気化しなかったものが、石油由来のガソリン燃料と同等まで引き下げられたほか、100%に至るまでの過渡特性も改善。結果として、燃焼もカイゼンされカーボンなど燃えかすも市販車の排ガス規制値以下に収まるようになってきているという。

 小川氏によると、トヨタは1.4リッター3気筒ターボというダウンサイジングエンジンを使っているため、狭い筒内に多くの燃料を吹いている形になる。そのため、燃料が気化して燃えずにべたっとなる部分もあり、それが下に流れて行ってしまっているため、オイル希釈の問題がスバルに比べて強く出ていたとのこと。

 スバルのエンジンは水平対向2.4リッター自然吸気なので、当初はそれほどオイル希釈は大変な問題ではないと考えていたが、シーズンを通してみるとやはりオイル希釈は潜在的な問題となっており、エンジン形式の違いが角度を変えての検討につながったとのことだ。

 ただ、スバルのエンジンは水平対向のため、自然吸気とはいえ燃料の噴射にスバル独自の工夫が多く組み込まれている。そのため、マツダがスーパー耐久第4戦オートポリスから投入する「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER CNF concept」には大きな期待をしているという。

 このロードスターは、クルマのエンジン形式で一般的な直列4気筒2.0リッター自然吸気のSKYACTIV-G 2.0を搭載するため、直列3気筒ターボエンジン、水平対向4気筒自然吸気エンジンと合わせて、カーボンニュートラル燃料に対するノウハウがより得やすくなるとのこと。

 今後のカーボンニュートラル社会を考えると、バッテリEVやFCEV(燃料電池)などゼロカーボンのクルマの開発も大切だが、すでに販売されている既販車のカーボンニュートラルを実現するカーボンニュートラル燃料の開発は欠かせない。トヨタ、スバル、マツダのST-Qクラスでの戦いが、通常のクルマにも使えるカーボンニュートラル燃料の開発に直結していることになる。