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トヨタ 中嶋裕樹副社長、水素を燃料としたFCごみ収集車を紹介 「グローバルで引き合いがある」
2023年7月30日 06:04
質量エネルギー密度に優れる水素
スーパー耐久第4戦オートポリスが、7月29日~30日の2日間にわたってオートポリス(大分県日田市)で開催されている。この第4戦オートポリスには、マイナス253℃の液体水素を燃料とする世界初のレーシングカーである液体水素カローラが参戦しているが、イベント広場においても水素関連の技術展示が数多く行なわれている。
カーボンニュートラルは世界的に向かうべき方向性として定められており、その実現として自然エネルギーや再生可能エネルギーなどさまざまな手段が研究されている。移動体であるモビリティにおいては、なんらかの蓄積エネルギーが必要となり、効率を上げつつあるリチウムイオンバッテリを使うバッテリEVなどが選択肢の1つとして選ばれている。
ただ、体積エネルギー密度や質量エネルギー密度の点から見ると、リチウムイオンバッテリはまだまだ進化の過程にあり、とくに質量エネルギー密度においてはガソリン系に大きく劣ることから、トラックなどの大型車両の場合は荷物を運んでいるのか、バッテリを運んでいるのか分からないという難しいバランスになってしまう。
体積エネルギー密度
高圧気体水素(35MPa):767Wh/L
高圧気体水素(70MPa):1290Wh/L
常圧液体水素(LH2):2330Wh/L
石油系(ガソリンなど):約9600Wh/L
リチウムイオンバッテリ系:約700~600Wh/L
質量エネルギー密度
高圧気体水素(35MPa):39,400Wh/kg
高圧気体水素(70MPa):39,400Wh/kg
常圧液体水素(LH2):39,400Wh/kg(気体にして使用するため、高圧気体水素と同じ)
石油系(ガソリンなど):約12,800Wh/kg
リチウムイオンバッテリ系:約250Wh/kg
(参考文献:GSユアサ 再生可能エネルギーの大規模導入に対応するためのエネルギー貯蔵・輸送技術[PDF])
そこで有力視されているのが、体積エネルギー密度や質量エネルギー密度に優れる水素を使用するモビリティ。とくに70MPaの高圧気体水素を燃料に使い、FC(燃料電池)を使用するFCEVは、トヨタ「MIRAI(ミライ)」が2世代目に入るなど技術的背景が確立している。とくに、トラックなどであればボディの大きさから70MPaの高圧気体水素燃料タンクを搭載しやすく、カーボンニュートラル車両として成立しやすい。
難点は水素ステーションの数が少ないという問題があるのだが、ルートを走る商用車であれば解決しやすく、適切なスケジューリングなど一定の需要を作ることができれば、商業的にも解決しやすい部分でもある。
FCEVの持つ可能性を示したFCごみ収集車
今回、トヨタ自動車 CTO(Chief Technology Officer)でもあり副社長でもある中嶋裕樹氏がオートポリスで披露したのが70MPaの高圧水素を燃料にした小型トラックFCEV「FCごみ収集車(技術検討試作車)」。
通常の小型トラックのシャシーをベースにFCEVコンバージョンしたもので、FC(燃料電池)と70MPaの高圧水素タンク、駆動用モーターを搭載して走る。
特徴は、塵芥車ならではのごみ収集部の駆動エネルギーも水素由来としたことで、水素からFCで発電、その電気でごみ収集部の油圧機構に必要な油圧を別のモーターで作り出している。
これは、新たに架装部を作り直すことなく従来の油圧機構を利用、ディーゼルエンジン由来の油圧機構ではなく、水素由来の電動モーターとすることでカーボンニュートラルエネルギーを利用した静かな架装構造を実現している。
展示されていたのは福岡市と一緒に検証を行なっているFCごみ収集車だったが、これは福岡市のごみ収集時刻が夜でもあり、とくに静かなごみ収集車が求められているため。電動で走り、電動でごみ収集部を駆動するFCごみ収集車であれば、静かな住宅地においても使い勝手はよい。
デモは中嶋裕樹氏が社長を務めるCJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)の太田博文氏が実施。中嶋氏によると太田氏はこのFCごみ収集車での世界普及を狙っているとのことだが、それはFCごみ収集車の持つ大きな可能性にあるという。
先述したような静かな移動、静かな架装部の駆動ももちろんだが、同様な機構をバッテリEVで実現しようとすると、架装部の駆動電力で航続距離が削られていってしまいがちになるという。対応策としてバッテリをどんどん積んでしまうと、今度はどんどん重くなってしまい、ごみを運びたいのか、バッテリを運びたいのかというバランスのわるいところに入ってしまう。一方、水素であれば高圧水素タンクは必要とはいえ、質量エネルギー密度に優れるため、駆動電力の余裕もできるとのこと。
とくに強く訴求はされていなかったが、FCEVであればバッテリEVよりも有利なのが低温下での発電能力もあるだろう。一般的にリチウムイオン電池は低温下で特性が劣化するため、寒い地域での放電力が弱くなる。一方FCは理論的に低温下のほうが発電効率がよくなるため、とくに温度の低い地域では得失の差が開いてくることになる。
つまり、寒い地域で架装部の駆動電力を得るには、BEVよりもFCEVのほうが有利になる可能性が高いということになる。この辺りは今後のFCごみ収集車の利用を通じてデータが集まってくる部分になるだろう。
中嶋氏はこのFCごみ収集車について「グローバルで引き合いがある」と語っており、海外展開の可能性についても言及していた。
水素による「九州 B to G」構想
また、中嶋氏はFCごみ収集車のほか、水素による「九州 B to G」構想も紹介。B to GとはBusiness to Governmentのことで、自治体に水素の利用網を築いてもらおうというもの。FCごみ収集車のほか、水素物流トラック、水素電源車、水素給食配給車、水素救急車などのFCEVを導入してもらい、市役所や県庁には水素ステーションを設置。さらに公共交通やBRT(Bus Rapid Transit)にもFCEVを導入することで、水素の利用網を構築してもらおうというもの。
福岡市では下水バイオガスから水素を製造しており、福岡県にあるトヨタ自動車九州でも太陽光から水素を製造、大林組は地熱から水素を製造しており、そうしたクリーンエネルギーからの水素を九州で作り、九州でしっかり消費してもらうという構想を示した。
もちろんトヨタの副社長らしく、「FCEVのクラウンも出るので、公用車とのしての購入もしてもらって」と、新型車のアピールも忘れなかった。
さらに中嶋氏が、新しい種類のクルマとして示したのが「簡易給水素車」。水素で動くクルマが普及すると、ガス欠ならぬ“水素欠”というのが社会的な問題になるかもしれず、それに対応して水素を運んで給水素するクルマが必要になるというのだ。そのための開発をすでに行なっており、そのイラストにはJAFのマークが描かれていた。この世界初の簡易給水素車については、スーパー耐久のもてぎ戦で披露することを予定しているとのことだ。
そのほか、2023年8月28日開業予定の「BRTひこぼしライン」を紹介。このBRTひこぼしラインに、FCEVのトヨタ「コースター」が車両として使われるということも発表した。