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トヨタ、バッテリEV用全固体電池やギガキャスト生産など「クルマの未来を変えていこう!」を実現する工場を現場公開
2023年9月19日 05:00
トヨタ自動車は、「クルマづくりの未来を変えていこう」をテーマとした「トヨタモノづくりワークショップ」を開催した。トヨタは「クルマの未来を変えていこう!」をタグラインとして、2026年に発売するバッテリEVへ向けての技術開発・生産工程開発を行なっている。すでにその一端を「トヨタテクニカルワークショップ 2023」として東富士研究所において技術公開したが、今回はそれを支えるもの作りの現場である工場を、「トヨタモノづくりワークショップ 2023」として報道公開した。
公開された工場は、スタートアップスタジオのある「貞宝工場」、モータースポーツ用エンジンなど匠の技で生産を行なう「明知工場」、マルチパスウェイであるバッテリEV、FCEV、PHEV、HEVなど、セダンからミニバンまでを生産する「元町工場」。いずれも愛知県にある工場であり、トヨタはこれらの工場を有機的に連携させながら、面での開発・群での生産を行なっている。
このモノづくりワークショップの開催に先立ち、トヨタ Chief Production Officerである新郷和晃氏があいさつ。「人中心のモノづくりで、工場の景色を変え、クルマの未来を変えていく」をテーマに工場を公開したとし、かつて豊田佐吉氏が「母の仕事を楽にしてあげたい」という思いのもとに豊田式自動織機を開発したように、「誰かの仕事を楽にしたい」「みんなの笑顔のために」という思いがトヨタの現場には創業期から息づいているという。
その思いをベースに、モノづくりの「高い技能と技術」が受け継がれ、トヨタには「人財を鍛える現場の力」があるという。この現場力がトヨタの1000万台生産を支えているとした。
未来に向けては、現場の力を活かし「トヨタの技で、モノづくりの未来を変えたい」といい、そのためには「技能/技術」と「デジタル・革新技術」の融合でモノづくりを進化し、そしてリードタイムを短縮して「すばやく、何度もチャレンジする」ことが必要と語る。
とくにリードタイム短縮は、TPS(Toyota Production System:トヨタ生産方式)という技があるといい、この技を使って、進化のスピードを高め、時代の変化に対応していくという。
新郷氏は、CPOとしての決意として「トヨタの持つ技とデジタル・革新技術で、工程1/2 を実現します。また開発と生産の垣根をなくし、新しいモビリティをすばやく提供します。そして工場カーボンニュートラルや物流などモノづくりの基盤の課題解決にも取り組んでいきます。人とテクノロジーがうまく助け合う、現場の力で実現していきます」と宣言。
あいさつの最後に、トヨタとして「人を中心に、誰かの笑顔のために仕事をする現場、『ありがとう』が自然に溢れ、イキイキと働ける工場をつくることで、新しい時代を切り拓き、幸せの量産を目指していきます」と語り、「トヨタの技で、クルマの未来を変えていこう!」との思いを熱く伝えた。
スタートアップスタジオ、全固体電池生産ラインのある貞宝工場
貞宝工場においては、スタートアップスタジオと名付けられたエリアを紹介。貞宝工場は無から有を生み出す工場と位置付けられ、これまでの世の中になかった製品の作り方や、どうすれば効率的に作ればよいのかなどが検討されている。
その一例として紹介されたのが、4代目プリウスで初採用されたステータの平角線。これまでは丸線を巻いて作っていたステータの磁束密度を上げるため角線化したいのだが、どのように作れば効率的かを匠の技を持つ人たちが、手作り試作で相談しながら検討。効率的な生産方法を作り上げたという。実際に平角線が初採用されたのは初代アクアになるが、4代目プリウスでは平角線の溶接部分を変更しており、そのような観点からも検討されたという。
この貞宝工場では、2027年~2028年の実用化を目指した全固体電池生産ラインもあり、精度よく効率的に生産できるかという試みがなされている。その中で報道公開されたのが、電池セル作りの「からくり」機構。全固体リチウムイオン電池では、これまでの液体浸潤リチウムイオン電池のように幕を巻く生産工程ではなく、電極を傷を付けることなく密着させて積みます工程で電池を作っていく。その傷を付けることなく積みます工程に同期制御を用いた「からくり」機構を採り入れ、実際に積み増しているところを公開。トヨタの生産技術の蓄積が活かされているところを示していた。
モータースポーツ用エンジンの高い鋳造技術がギガキャストに活かされる明知工場
明知工場では、トヨタの持つ高い鋳造技術と、未来へ向けたギガキャスト生産を紹介。トヨタの持つ高い鋳造技術は、モータースポーツ用エンジンの鋳造生産に見ることができるという。鋳造は、熱して溶けた鉄やアルミを砂型や金型に流し込んで製品を作り上げる生産方法だが、複雑な形状の場合、砂を使って中子と呼ばれるものを作り、それを組み込んで鋳造していく。
とくにモータースポーツ用エンジンでは、複雑な冷却水の水路などを薄く作り込む必要があり、中子の製造や組み合わせが大変なものとなる。実際記者も製造前の中子組み立てを体験させていただいたが、手を複雑にひねるなど中子の持ち方が複雑なものだった。しかしながら、中子のセット自体は適切なところにガイドやダボがあり、スムーズに行なえるもので、中子の設計の妙を感じることができた。
この高い鋳造技術を背景に行なわれているのが、ギガキャストの試作。4000トンの鋳造設備で、クルマのリアまわりを一体成形。2026年に発売するバッテリEVのキモの技術となるが、その製造設備を公開した。ただ現在は、試作や製造開発が行なわれている段階で、できた製品の形状や溶けたアルミの流れをさまざまな形で確認している状態。モータースポーツ用エンジンの高い鋳造技術を持つ明知工場の匠の技が、新世代のギガキャスト生産に活かされていた。
なんでも生産できる元町工場で進む、次世代バッテリEVの生産革命
最後に見たのは元町工場。初代クラウンから脈々とクラウン生産を行なう元町工場は、トヨタで最も歴史のある工場となる。高い生産技術を持ち、現在もFCEVの新型ミライ、バッテリEVのbz4X、HEVの新型クラウン、HEVのノア・ヴォクシー、パトカー(旧型クラウン)の製造が行なわれている。担当者によると、高い生産技能を持つため「なんでも生産できる元町工場」とのことで、FRやFFなど、同じラインで流して組み立てているという。
この元町工場で行なわれているのが、次世代バッテリEVの生産実証。トヨタは2026年に次世代バッテリEVを発売する予定だが、その次世代バッテリEVでは工程1/2、工場投資1/2、生産リードタイム1/2を実現するという。
そのために、前・中・後の3分割モジュール構造、自走生産、デジタルツインでの生産検討を実施。実際にラインを自走するbz4Xのテスト車両を見ることができた。
このバッテリEVが自走するラインもすごいが、さらにトヨタが取り組んでいるのがVLR(Vehicle Logistics Robot:車両搬送ロボット)による屋外作業の自働化。これはVLRという自動運転可能な搬送装置がクルマを運び、出荷のキャリアカーの待機列まで運んでいくというもの。キャリアカーへの自動積み込みこそ実現していないが、待機列までの作業を大幅に低減する。RTK-GNSSによりセンチメートルレベルでの測位を行なえ、すでに自動で運んでいたのが驚きだった。