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トヨタの新体制方針テーマ「電動化・知能化・多様化」についてワークショップ開催 全固体電池を含む次世代バッテリEV、燃料電池車のロードマップとは

2023年6月13日 発表

新体制方針のテーマ「電動化・知能化・多様化」に沿った新技術に関するテクニカルワークショップを開催

 トヨタ自動車は、東富士研究所において新体制方針のテーマ「電動化・知能化・多様化」に沿った新技術に関するテクニカルワークショップ「TOYOTA TECHNICAL WORKSHOP 2023」を開催した。テクニカルワークショップには副社長である中嶋裕樹氏をはじめ、BEVファクトリー Presidentの加藤武郎氏、水素ファクトリー Presidentの山形光正氏など多くの技術者が参加して新技術についての解説を行なった。

 本稿では電動化を中心に紹介する。

 同社は2月の新体制発表会見で電動化・知能化・多様化に取り組んでいくとし、特に注目の集まる電動化では2026年を目標に電池やプラットフォーム、クルマの作り方など、全てをBEV最適で考えた「次世代のBEV」をレクサスブランドで開発していくことをアナウンス。

 また、5月には“クルマ屋ならではの次世代BEV”の開発と事業を加速させるため、専任組織として「BEVファクトリー」を新設するとともに、ダイムラートラック、三菱ふそうトラック・バス、日野自動車とグローバルで電動化や自動運転などのCASE技術開発・商用車事業の強化を通じたカーボンニュートラルの実現を目指すべく、4社で水素モビリティの普及を商用車から加速させていく考えを示した。加えて新興国など電力事情の厳しい地域ではハイブリッド車の導入を促進していくなど、多角的に電動化に取り組んでいることを発表している。

 知能化についてはソフトウェアプラットフォーム「Arene(アリーン)」による“クルマの知能化”をはじめ、リアルタイムな情報を基にした物流の最適化といった“サービスの知能化”、実証実験を行なっていくモビリティのためのテストコース「Woven City(ウーブン・シティ)」などの“社会の知能化”も合わせて進めていく。

 多様化においては、商品を軸にした経営でグローバルフルラインアップを実現した“クルマの多様化”、ワンタッチ車椅子固定装置など全ての人に移動の自由を提供する“移動の多様化”、作るという領域まで踏み込んだ“エネルギーの多様化”に取り組んでいるという。

 以下、電動化について項目ごとに紹介していくが、まずは当日行なわれたプレゼンテーションについて紹介する。

クルマと社会をつなげることで社会の未来自体を作っていきたい

トヨタ自動車株式会社 副社長の中嶋裕樹氏

 テクニカルワークショップの冒頭であいさつを行なった中嶋副社長は電動化・知能化・多様化について説明するとともに、「私はChief Technology Officerとして3つの軸でクルマ作りを進めたいと考えています。まず1つ目が、妥協なく安全・安心を追求することです。確かに安全技術が広がることで事故や被害に遭われる方は減ってきたと思います。ただ0ではありません。交通死亡事故者0を目指すことが何よりも大切だと思っています。技術は使っていただいて、広がって、生かされるものです。Toyota Safety Senseをさらに磨き、皆さまに安心・安全の技術をお届けしたい。2つ目は未来は皆で作るものということです。いくらわれわれの先行投資を増やしても、トヨタだけでは何ができるわけではありません。先日ダイムラートラック、三菱ふそうトラック・バス、日野自動車、トヨタでの協業を発表いたしました。私が社長を務めるCJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)での商用分野での脱炭素の取り組みやタイCPグループとの連携、またモータースポーツでの連携など、世界中の仲間とつながり、未来を作っていきたいと思います。そして3つ目は地域化の加速です。先日、中国 上海モーターショーに行きました。現地のエンジニアからは随時話は聞いておりましたが、お客さまがいかに精神的な価値観を求めているかを肌で感じることができ、現地での研究開発をさらに加速していこうと決めました。今後は、地域ごとのお客さまのニーズが一層異なってくるため、世界中にある研究開発拠点においてお客さまの元での開発を加速してまいります」。

「トヨタはこれまで、ハイブリッドの代名詞となったプリウスや燃料電池車のミライなど、難しいと思われたことを技術力で乗り越え、時代の先駆けとなるクルマを数多く開発し、未来を切り開いてきたと自負しております。これらの技術の力でお客さまを未来へと誘い、クルマと社会をつなげることで社会の未来自体を作っていきたいと考えています。そして何よりわれわれエンジニア自身が未来志向でワクワクしていく、クルマの未来を変えていこう。このスローガンのもとに一致団結して頑張っていきたいと思っています」と今後の方向性について語った。

BEVファクトリー Presidentの加藤武郎氏

 BEVファクトリー Presidentの加藤武郎氏、水素ファクトリー Presidentの山形光正氏によるプレゼンテーションも行なわれた。

 加藤氏からは、5月に次世代BEV開発のために全ての機能と権限を持つ戦略組織「BEVファクトリー」を発足し、「BEVで未来を変える」ことがアナウンスされた。ここでは「航続距離1000km」を目指し、次世代電池の採用と今まで経験のない音速技術の融合によって実現していくこと、AIを活用しながら高い空力性能とカッコいいデザインを両立すること、アリーンOSによるフルOTAでクルマの楽しさを無限に広げていくこと、フロント、センター、リアの3分割新モジュール構造を採用し、電池の進化を素早く取り込んでいくことなどが語られた。

 BEVファクトリーについては、「ワンリーダーのもとウーブン・バイ・トヨタ(トヨタのモビリティ技術を開発する子会社)、外部パートナーなどクルマ屋の枠組みを超えた全ての機能と地域が集まるオールインワンのチームです。私たちはこのワンチームの中で仕事の仕方を変えたいと思っております。このワンチームの皆が同じ場所で、同じ現場で、同じ問題意識を持つことで素早い意識決定と初動を起こすことができます。まだまだ新組織が立ち上がり動き出したばかりですけれども、実際に私はそれを実感しています」と述べるとともに、次世代BEVについて「2026年から市場投入をはじめ、2030年には(グローバルで350万台のBEVを販売する目標のうち)170万台をBEVファクトリーから提供したいと考えています。次世代BEVは次世代バッテリを採用し、電気は世界トップにこだわります。それで稼いだ原資でお客さまの期待を超える商品力向上を図り、その上で収益を確保いたします。BEVで未来を変えていこう。次世代BEVでは新しい取り組み、そしてチャレンジが満載です。ぜひクルマ屋が作る心揺さぶるBEVにご期待をいただきたいと思います」と意欲を見せた。

水素ファクトリー Presidentの山形光正氏

 一方の山形氏からは、専任組織として新設される水素ファクトリーの今後の取り組みについて語られた。山形氏は水素市場の規模(2030年の予測値)についてヨーロッパ、中国、北米が圧倒的に大きな規模になっていくとし、燃料電池市場は2030年に向けて一気にマーケットが広がっていき、その規模は年間5兆円に上るという。その内訳は中・大型のトラック、バス、小型商用車で、大半は商用車になると目される。

 山形氏は「マーケットが今、急激に変化しております。これに対応するため、われわれはこの7月から新たに水素ファクトリーという組織を設置し、営業、開発、生産まで一括でワンリーダーの下で即断即決できる組織を立ち上げます」とし、水素ファクトリーではマーケットのある国で開発と生産を行なっていくこと、有力なパートナーとの連携を強化していくこと、そして次世代セル技術やFCシステムといった次世代技術の革新的進化に向けた競争力という3点が事業の軸になっていくと説明する。

 これらの取り組みを進めつつ、本格的な事業化に取り組んでいくとしており、「次世代のシステムでは技術進化、量産効果、現地化により、37%の原価低減を実現。さらに、先ほどのパートナーである皆さまとの連携により、仮に2030年に20万台のオファーをいただけた場合、50%まで原価低減が可能になってきます。多くのお客さまや各国政府のご期待にお応えしながら、しっかりと利益を出すことができるようになってまいります。われわれはこの目標に向けて、開発、生産、販売一丸となって進めてまいります」と山形氏は語った。

全固体電池を含むバッテリについて

公開された新バッテリ群

 トヨタでは、2026年に次世代BEVを導入することを目指しており、バッテリについても新技術を駆使して進化させる構え。会場では2026年に搭載する予定のパフォーマンス版バッテリ、2026年~2027年の実用化にチャレンジする普及版バッテリ、2027年~2028年の実用化にチャレンジするハイパフォーマンス版バッテリ、さらに全固体電池が披露された。

 2026年に搭載予定のパフォーマンス版バッテリについては、電池の高エネルギー密度化と空力などの車両効率の向上によりbZ4X比で航続距離は2倍となる1000km、コストは20%減、急速充電時間は20分以内を目標としている。

 2026年~2027年の実用化にチャレンジする普及版バッテリでは、HEVのニッケル水素電池で採用実績のあるバイポーラ構造をBEV電池にも適用。航続距離は従来型の20%増となり、急速充電は同じく30分以内にとどまるものの、部品点数を4分の1~5分の1程度に抑えられるためコストは40%減を見込む。

 この2つの次世代電池のいいとこどりをしたのが2027年~2028年の実用化にチャレンジするハイパフォーマンス版で、正極にハイニッケル系素材を採用し、バイポーラ構造と組み合わせる。これによりパフォーマンス版との比較で航続距離は10%増え、急速充電は20分以下としつつ、コストは10%減らせる見込みとしている。

全固体電池については2027~2028年の実用化にチャレンジすることが発表された

 そして全固体電池については現在量産に向けた工法を開発中で、2027~2028年の実用化にチャレンジすることが発表された。課題であった電池の耐久性を克服する技術的ブレイクスルーを発見したとしており、従来のHEVへの導入を見直し、BEV用電池として開発を加速させるという。パフォーマンス版角形電池と比べても航続距離は20%向上(空力や軽量化などの車両効率向上分を含む)し、コストは精査中とするものの急速充電時間は10分以下を目指す。また、将来を見据えてもう一段レベルアップした仕様も同時に研究開発中としており、こちらはパフォーマンス版角形電池と比べて航続距離50%向上を目指している。

 パフォーマンス版バッテリはプライムプラネットエナジー&ソリューションズと、普及版バッテリ、ハイパフォーマンス版バッテリ、BEV用全固体電池は豊田自動織機と、トヨタグループ内の知見を結集し開発中だ。

ロケットに使われている極超音速技術をBEVに

ロケットに使われている極超音速技術をBEVに適用し、どんな形状でも空気抵抗を低減する新技術について三菱重工業 宇宙事業部と共同で技術検討している

 現在トヨタでは、BEVの商品力を高めるべくロケットに使われている極超音速技術をBEVに適用し、どんな形状でも空気抵抗を低減する新技術について、三菱重工業 宇宙事業部と共同で技術検討を行なっている。

 具体的には、ロケットの空気による摩擦や圧縮されることで発生する空力加熱から機体を守る技術の知見をクルマの速度域で検討。ボディ表面への処理などにより、空気の流れと接している箇所をコントロールすることで抵抗を抑えることができるようになるとしており、Cd0.1台を視野に入れて開発中とのこと。これについてはボディ形状をはじめ、素材も問わないということでカッコいいデザインと空力の両立が図れる技術として期待されている。

 これについては3年後の実用化を目標に開発を進めているという。

次世代BEVでは3分割した新モジュール構造を採用

次世代BEVでは車体をフロント、センター、リアと3分割した新モジュール構造を採用

 BEVの収益性確保に向け、車両技術、モノづくりの両面で取り組んでいく。

 まず車体をシンプルスリムな構造にし、ギガキャストで成形。大幅な部品統合を実現する。また、自走組立ラインなどの採用により、コンベアのない自由度の高い工場を実現していく。BEV生産工場の設計にあたってはデジタルを採用し、工程の検証などの精度を上げる。これらを通じ、量産車の生産準備期間・生産工程・工場投資など、従来の2分の1を目指し、大幅な固定費の削減を目指すという。

 次世代BEVでは車体をフロント、センター、リアと3分割した新モジュール構造を採用する。電池はセンター部に搭載されるためフロントとリアは影響を受けず、電池の進化を素早く車両に取り込むことができる。

 このモジュール構造を実現する生産技術の1つがギガキャストと呼ばれる鋳造工法で、ギガキャストについては「クルマ屋が考える最適形状を高い生産性の一体成形で実現する」としており、従来は数十点の板金部品で作っていたものを、アルミダイキャストで一体成形する技術を開発中。現在、bZ4Xのリア部分は86の板金部品、33のプレス工程でできているが、アルミダイキャストで一体成形することで、部品点数も工程もそれぞれ1つにすることが可能。コストも重量も従来以下を目指すとともに、生産性も上げていくとしている。

 生産工場についてもコンベアの概念をなくした次世代工場の設計にチャレンジしていく。組立中の量産車が自走して次工程に移動できるようにする技術を開発中で、工場設備側のセンサや制御システムが量産車に搭載された無線端末と交信することにより、量産車を外からコントロール。クルマと工場の融合を目指すという。こちらも3年後の導入を目指して開発を進めているとのこと。

 また、多様な電動車の提供を可能にするプラットフォーム「マルチパスウェイプラットフォーム」を採用し、ラインアップを拡充していく。次世代BEVの投入前にもさまざまなBEVラインアップを広げていくとしており、会場では多様なニーズに合わせてFun to Drive なBEVを提供できる技術の一例として、クラウンのパワートレーンをBEV化したモデルも公開された。

クラウンのパワートレーンをBEV化したモデル

次世代燃料電池セルを開発中、2026年の実用化を目指す

ZEV展示車両

 トヨタではカーボンニュートラルの実現を目指してCO2排出量の削減を進める中で、水素を重要な燃料と位置付けている。水素利活用の促進による「水素社会」の実現に貢献するため、乗用・商用のトラックやバスを含めた燃料電池自動車(FCEV)だけでなく、FC定置式発電機の開発・実証運転などFC製品の普及、内燃機関を生かす水素エンジン車の開発など、水素を「つくる/はこぶ/ためる/つかう」の各領域において、さまざまな業界のパートナーとの取り組みを進めていく。

 展示エリアでは、商用に応える走行と燃費性能を向上させる次世代FC(燃料電池)システムや車載タンクの製造コストを抑える取り組みなどが紹介された。

 次世代FCシステムについては、商用ユース(高寿命、低コスト、低燃費)に応える業界トップクラスの性能を実現する革新的な次世代燃料電池セルを開発中とし、2026年の実用化を目指す。ディーゼルエンジン車をしのぐメンテナンスの簡単さ、スタックコストは2分の1(現行比)を追求し、航続距離は20%向上(現行比)を目指すという。

 また、大規模な水素消費の見込まれる大型商用車用タンクの規格化(原単位づくり)に挑戦し、水素需要の拡大を加速。欧/米/日各社のタンク規格を統一化して数量をまとめることで製造コスト25%低減を目指していく。

 さらに水素タンクについてもさまざまなタイプの車両に対応できるよう、搭載性に配慮して設計した鞍(くら)型と平型の水素タンクも披露された。従来では丸形タンクだったが、佐藤恒治社長からの「なぜ丸くないといけないのか?」との問いに応える形で開発したものという。

 そのほか水素を「つくる」ことについても触れられ、MIRAIで培った燃料電池スタック・セルの技術を応用し、水を電気分解して水素を製造する水電解装置を新開発し、デンソー福島の工場での実装を開始すること、三菱化工機、豊田通商と連携し、タイで現地の鶏糞や廃棄食料由来のバイオガスから水素を製造する取り組みを2023年末までに開始することがアナウンスされた。

 また、すでにトヨタは水素エンジン搭載のカローラスポーツでスーパー耐久に出場しているが、カーボンニュートラル実現に貢献するための新たな選択肢として、水素エンジン車の市販化を目指した開発を加速させていく。具体的にはディーゼルエンジン車の技術を活用した排気浄化システムなどを組み込み、車両全体での検討を推進していくという。

水素エンジン車の実証車
FC小型トラック
FC大型トラック
ハイラックスBEV
BEV商用軽バン