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ブルーインパルスとエアレースパイロット室屋義秀選手が共演! 福島空港開港30周年「空の日」イベント

室屋義秀選手

 さる9月16日、福島空港において航空自衛隊アクロバットチーム「ブルーインパルス」と、LEXUS PATHFINDER AIR RACINGとして活動するエアレースパイロット室屋義秀選手による初のコラボレーション・エアショーが開催された。

 これは福島空港開港30周年を記念した「空の日フェスティバル」として企画されたもので、ブルーインパルスが降り立ったのは開港以来初めてのこととなる。当日は雲の多い空模様となったが、エアショーを予定していた時間帯には晴れ間ものぞき、訪れた約3500名の観客は写真を撮ったりグッズを買ったりと、思い思いにイベントを楽しんでいた。

ブルーインパルス

 今回のイベントは、ブルーインパルスの人気の高さから混雑が予測されたため、福島空港内で観覧や撮影ができるのは事前に有料チケットを購入した方のみに制限。もちろんチケットの販売数も限定で、最終的に2倍以上の申し込みがあり抽選となった。当日は空港付近の道路上にも警備員が立ち路上駐車対策などを行う一方で、福島空港YouTubeチャンネルでLIVE中継を行ない、多くの人がリアルタイムで楽しめるよう配慮した。

 また、当初の計画では、ブルーインパルスは6機+予備機1機の計7機が事前に福島空港に展開し、16日のイベントは観客の目の前でウォークダウンからエンジン始動、離着陸までを行なう予定だった。しかし開催日前後の天候が安定していなかったことから、ショーはホームベースである松島基地(宮城県)から離発着することに変更され、予備機の1機のみが地上展示のため福島空港に展開した。室屋選手の曲技専用機エクストラEA-300/SCも事前に飛来し、会場の福島空港駐機場にはブルーインパルスと室屋機の2ショットが出現した。

 今回のコラボレーションについて、イベント前日の9月15日に室屋選手にインタビューしたところ、「ブルーインパルスとは、今までも航空祭など同じイベントで飛ぶことはありましたが、福島県で、福島空港で、イベントを盛り上げようという共通の目的でフライトするのは初めて。“チーム東北”として一つになってエアショーを実現できました」と室屋氏。自身が福島県在住であることから「今回は、県民の皆さんと同様、私もブルーインパルスを迎え入れる気持ちでいます。ようこそ、福島県へ(笑)」とのことだった。

 なお、エアショーの直前には松島基地を訪れブルーインパルス機に体験搭乗し、非常に緊密な編隊を保つ統一された意思と、6機のフライトを支える整備員も含めたチーム力の高さに大いに刺激を受けたとも語った。

開催前日(9月15日早朝)の福島空港。駐機場の約半分が特設観覧会場となった
エプロンに並ぶT-4ブルーインパルス仕様機と室屋選手のエクストラEA-300/SC

 イベント会場には、2014年から室屋選手のパートナーを務めるブライトリングのブースが出現、事前申込者限定の写真撮影会も行なわれた。また室屋選手自身のブースではグッズも販売された。イベントを盛り上げる飲食の屋台やグッズ販売のブースも多く設けられており、エアショー終了後のお昼の時間帯にはブルーインパルス関連グッズやかき氷の屋台などに長蛇の列ができた。

ブライトリングのブース
事前申込者限定で室屋選手との記念撮影も楽しめた
YOSHI MUROYAのブースではオリジナルグッズを販売
スタッフが手に取っているのは、室屋選手の著書「翼のある人生」と、新グッズのサーモボトル
会場にはグッズや飲食の屋台が並ぶ。ショーの後はブルーインパルスグッズやかき氷などを買い求める人々でにぎわった
福島空港ターミナルビル内でもアイベックスエアラインなどがブースを設けた
自衛隊福島地方協力本部は1/2tトラック「パジェロ」を展示
ブルーインパルスのパイロットと室屋選手への質問を書く姉妹
観覧チケットの種類に応じて観覧エリアが区分けされていた
ブルーインパルスのクルーが観客席を回り、ファンと交流。「クルーが観客席を回りますのでその場から動かずにお待ちください」のアナウンスが秀逸

ブルーインパルスの編隊飛行

 観客が待ち望んだブルーインパルスは、予定より約15分遅れで飛来した。これは経路上の天候によるもの。また、計画では松島基地を離陸後、南相馬市、いわき市上空を飛んで福島空港をいったん通過、須賀川市、郡山市に向かい、再び福島空港上空に戻り約13分間の展示飛行、その後白河市、南会津町、会津若松市、猪苗代湖、福島市をフライパスして松島基地に戻るというものだった。これは、せっかくブルーインパルスに飛んでもらうのだから、空港周辺だけではなく県内各地も飛行できないかとの福島県側の要望にブルーインパルスが応えたものだという。天候の影響により残念ながら会津地方のフライトはキャンセルとなったが、浜通りや福島市では予定通りのフライトが実現した。

 10時55分、福島空港に三角形の「デルタ隊形」で飛来したブルーインパルスは、その隊形を保ったまま旋回して再び上空を通過、隊形を組みかえて「フェニックス・ローパス」を披露した。その後須賀川市、郡山市上空を通過、再びデルタ隊形で福島空港へ。いくつかの編隊航過と、5番機(リード・ソロ)が水平に8の字を描く「720°ターン」、5番機と6番機が水平にハートを描く「ビッグ・ハート」を行い、1~4、6番機による「サンライズ」でショーを締めくくった。航空祭で行うようなアクロバットを伴うフル・ショーではなかったが、タイトな編隊を組み、高速で何度も目の前をローパスするブルーインパルスに多くの観客が魅了された。

ブルーインパルスは10時55分に飛来
会場後方からデルタ・ローパスで一直線に進入する。観客のテンションも一気に高まる
デルタ360°ターン
東日本大震災後に課目に加わった「フェニックス・ローパス」
ブルーインパルスは会場の東、西、北、南西とあらゆる方向から進入
水平に「ビッグ・ハート」を描き始める5番機と6番機
1,2,3,4,6番機による「サンライズ」

エアレースXへの期待も高まる室屋義秀選手のエアロバティック・ショー

 ブルーインパルスのフライトを見上げ、拍手を送っていた室屋選手だが、その後エクストラEA-300/SCのコクピットに座り集中力を高め、11時20分にエンジンスタート。ジェットの甲高い金属音とは全く異なる高回転型レシプロエンジンの音を響かせ、曲技専用機ならではのクイックな演技を披露した。

 エクストラEA-300の「300」は馬力のことで、ライカミングAEIO540水平対向6気筒エンジンが生み出す。エンジンや燃料、パイロットの体重も含めた機体重量は最大でも約950kgで、最高速度は220kt(約408km/h)、ロールレート(1秒間あたりのロール角度)は400°に達するモンスターマシンだ。ブルーインパルスのT-4はジェット機のパイロット養成に使われている機体で操縦性は素直、つまり“飛ばしやすい”機体だが、EA-300はピーキー、つまり過激な機動ができるぶん水平飛行を保つだけでも高度なテクニックが必要で、常に細心のコントロールを要求される。“空のF1”といったところだろうか。

 室屋選手はこうしたモンスターマシンを手なづけ、曲技飛行はもちろん、レッドブル・エアレースでも総合優勝した実力の持ち主だ。まもなく、2023年10月8日からはじまる「AIR RACE X」には、空力をはじめとしてLEXUSの技術陣が総力を挙げて仕上げた(EA-300以上の)モンスターマシンで臨む。期待も高まるというものだ。

 蛇足だが、後のトークショーで「あんなにくるくる回って、目は回らないのか?」との質問に対して、室屋選手は「ときどき回ります。今日は本番なので、目が回らないように気合を入れました」と笑顔で答えていた。

ブルーインパルスに続いて、室屋選手のアクロバットショーがはじまる
ショーのスタートを前に集中力を高める
観客に大きく合図をしてキャノピーをロック、エンジンをスタートする
観客に手を振りながら滑走路に向かう
室屋選手の妙技。ブルーインパルスの優雅な編隊と異なり、観客の近くで縦横無尽の演技を披露する
ショーの最後に「サイド・スリップ」というテクニックで観客に手を振りながらローパス
演技を終えた室屋選手。この日は暑く、軽量化のためエアコンのないEA-300は過酷だっただろう
演技後、時間をかけて観客一人一人にハイタッチ。ファンが平等にパイロットに触れ合えるよう、導線なども緻密に計画されており、大勢が満足できたイベントだった

パイロット3名によるトークショー

ブルーインパルスのパイロット2名と室屋選手によるトークショー

 エアショー終了後、昼休憩をはさんで、ブルーインパルスのパイロット2名と室屋選手によるトークショーが行なわれた。ブルーインパルスからは、駐機している予備機を飛ばしてきた第11飛行隊(ブルーインパルス)総括班長の林幸一郎3等空佐と、7月に第11飛行隊に異動になったばかりの松永“スポック”大誠1等空尉が壇上に立った。戦闘機パイロットには、上空で無線で呼び合う際のTACネームと呼ばれるコールサインがあり、松永1尉は、耳が大きいことから、宇宙船を舞台にした有名なテレビ映画に登場する人物にちなんで「スポック」になったそう。

「遊園地の絶叫マシンは好きか?」との質問に対しては、松永1位も室屋選手も揃って「苦手」と回答。曰く、航空機のアクロバットでかかるものとは違う方向からGがかかるため、反射的に危ないと思ってしまうとのこと。「空に上がって気圧が下がると体内のガスが膨張しておならがでるのでは?」との質問もあり、これには林3佐が「ノーコメント」としつつも、「我々は酸素マスクの空気を吸っていますので大丈夫です。あと、着陸後はいち早くキャノピーを開けて、空気を入れ替えます」と答え笑いを誘っていた。

 質問は多く寄せられていたようだが、駐機場の気温も高かったことからトークショーは約20分で終了、最後に観客の誰もが撮影できるフォトセッションの時間をとってお開きとなった。

 なお、当日は福島空港に展開していたブルーインパルス機のフライアウトが15時に予定されていたが、こちらも天候の影響で翌日以降に延期が決定。ファンの最大のお目当ては、もちろん福島空港に並ぶブルーインパルスだったが、とうとう目の前でエンジンを始動し離陸していく姿は見られなかった。だが、福島空港始まって以来の大きなイベントであり、入場者も大きく制限していたことから会場にも余裕があり、観客の多くが満足したようだった。

福島空港30周年にふさわしいイベントが実現

福島県観光交流局空港交流課 空港利活用担当課長 伊藤裕幸氏

 今回の「空の日イベント」の準備を中心になって進めた、福島県観光交流局空港交流課で空港利活用担当課長を務める伊藤裕幸氏にお話をうかがった。

 福島空港30周年という節目にあたって、ブルーインパルスを呼べないかという話は1年程度前にはあったという。昨年末ごろには防衛省とも協議を持ったが、福島空港には自衛隊機の運用に必要な機材が不足していることや、山間部のため天候の影響を受けやすいことなどから何度も「難しいと思います」と言われてきたそうだ。ただ、福島空港では2013年にブライトリング・ジェット・チームを受け入れた実績があり、それはプラス材料として考慮されたとのこと。当時の担当者を急遽呼び戻すとともに、設備面の問題は代替の提案を行ったり松島基地から借り受けたりするなどして実現の筋道を見つけてきた。それを支えたのは、東北・福島の復興を支援したいという福島県側と防衛省側の熱い意志だったという。

機付整備員により帰投準備が進められるブルーインパルスのT-4。隣の車両はT-4のエンジン始動に必要な電源車で、松島基地から陸送で運ばれてきた。また、パイロットが乗降するラダーも脚立で代用している

 実施の直前になり、天候の悪化が懸念されるため福島空港への離着陸が難しいと判断されたが、予備機1機のみの展開なら可能であるとのことで、ついに福島空港へのブルーインパルス機の展開が実現した。

 また、福島空港では、ブルーインパルスのイベントでは大勢の観客が押し寄せることや、パイロットが現れると多くのファンが近寄ろうとして駆け寄ること、そもそも空港エプロン(駐機場)なのでFOD(ゴミ)などが出ないように留意しないといけないことなど、多くの問題を事前に把握して対策を講じてきた。観覧チケットを有料にして枚数を大きく制限したことや、パイロットらと観客が触れ合う際にも危険がないよう、導線を確保したり、観客には移動せずに待つようにアナウンスしたりというのがその一例である。ゴミが出がちな食事も、エプロンエリアでは禁止。ただし、熱中症を防ぐためにドリンクを持ち込むことは推奨された。

 自衛隊やブルーインパルスがやってくるイベントに通い慣れている筆者の目線で見ても、空港関係者らにとってはじめての経験ながら事前に細かく対策を講じていたのは素晴らしいことだと思う。伊藤担当課長は「ここまでできれば120点満点です」と話したが、大げさな数字ではないと感じた。個人的には、この経験を生かして今後も福島空港「空の日イベント」は全国の航空機ファンが羨ましがるような企画を継続していただきたいと思う。

 なお、本年度のブルーインパルスのフライトは下記のスケジュールが予定されている。例年11月3日の入間航空祭が、2024年1月20日にずれていることには気をつけていただきたい。

令和5年10月7日(土):鹿児島県鹿児島市 特別国民体育大会「燃ゆる感動かごしま国体」
令和5年10月15日(日):芦屋基地 令和5年度芦屋基地航空祭
令和5年10月29日(日):浜松基地 エアフェスタ浜松2023
令和5年11月12日(日):岐阜基地 岐阜基地航空祭2023
令和5年11月26日(日):築城基地 令和5年度築城基地航空祭
令和5年12月3日(日):新田原基地 航空自衛隊新田原基地エアフェスタ
令和5年12月10日(日):那覇基地 航空自衛隊那覇基地 美ら島エアーフェスタ2023
令和6年1月20日(土):入間基地 航空自衛隊入間基地 入間航空祭