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トヨタ、新システム「J-SLIM」で生産から納車まで1台1台を見える化 国内販売事業本部本部長 友山茂樹氏が詳説
2023年10月13日 15:19
生産から納車まで1台1台を見える化したJ-SLIM
トヨタ自動車は10月13日、名古屋本社において受注から、生産計画、生産、配送、納車までを見える化する新システム「J-SLIM(ジェイスリム)」の説明会を開催した。この新システムの導入を担当した国内販売事業本部本部長 友山茂樹氏が、導入の狙いや、効果などを詳説した。
このJ-SLIM導入のきっかけは、コロナ禍や半導体不足による納期の長期化がある。トヨタは一時期、国内で94万台の受注残を抱えるなど、受注から納車までが長期化。多くの購入者を待たせることになった。
また、逆に生産挽回を行なって早くお客さまのもとに届けても、お客さまの望む時期での納車でないと、ディーラーなどへの滞留が発生。数か月納車予定のクルマがディーラーのヤードなどへ置かれている事態もあったという。これは少し分かりにくい現象だが、たとえば3月車検のクルマの買い換えであれば、3月に新車が欲しい人も多いほか、企業などではある特定の月にまとめて購入したい会社も多く、適切な時期での納車でないとクルマを製造したのに納車できないということが起きてしまう。全国を見ればその分待っている人もいるため、ある意味在庫のムダが起きている状態になってしまっていた。
友山本部長は、「今までは、向こう3か月の生産の調整をしていた」「予測をベースに生産サイドとやり取りしていた」と語り、常に各部署で予測をベースに議論などを行なっていたという。
そこで「生産システム」「輸送システム」「販売店システム」の情報を統合して見られる「J-SLIM」を開発。受注から、生産計画、生産、配送、納車まで一気通貫に見られるようになった。
J-SLIMで得られる情報
J-SLIMの開発の狙いは、納期の見える化、滞留の見える化、生産制約の改善、部品・用品内示への反映と4つあるという。
納期の見える化は、最大2年分の生産予定枠を販売店へ配分、ラインオフの2週間前までは日ごとに、3か月前までは上旬・中旬・下旬と旬ごとに、それ以上は月ごとに生産台数を見ることができる。つまり2週間前には生産ラインオフが分かるため、販売店でもさまざまな準備ができるほか、受注した時点での納期も月ごとに分かるようになっている。
滞留の見える化は、生産後のヤードにどのクルマがあるのかを1台ごとに管理。このヤード管理は、生産工場、配送、ディーラーの各所におよび、生産されたクルマがどこにあるのか分かる。そして、基準日付を超えて滞留しているクルマは赤く表示されているため、すぐにワーニングが出るようになっている。「なぜ、ここに3台滞留しているの?」みたいなことがすぐに分かるから、すぐに対策も打てるとのこと。
生産制約の改善は、納期をメーカーオプションの一つ一つまで管理しているため、たとえばこのオプションを付けると納期がこれだけ遅れるということが分かるようになっている。そのため納車を早めたい人は、そのオプションを付けないといったことができるのだが、実際には生産制約の改善に使われている。友山氏は具体例としてアルミホイールを示し、21インチアルミホイールオプションによる納期の遅れが分かったため、アルミホイールの生産制約改善を実施(つまり増産)。納車のボトルネックを解消した。
部品・用品内示への反映は、受注情報がすべて見えているため、将来的にどれだけ部品・用品の生産が必要か分かること。これらはトヨタで生産しているのではなく、協力会社で生産しているため、それら協力会社へ情報を早めに伝えることができる。また、部品・用品の会社は小規模な場合もあり、その場合はリードタイムを持って生産支援を行なうなどの対策を打っていけるとのことだ。
友山氏は、このJ-SLIMが稼働したことで、全国238社の販売店と「同じ言語で会話ができる」という。全国238社への生産割当状況(これをファームといい、基礎の数字となる)、190箇所のヤードの滞留状況をトヨタ側も販売店側も見ることができ、問題点をお互いに把握。お客さまの要望を反映した形で納車ができ、トヨタとしては実需に応じた生産ができる。
これまでは数字をいろいろ加工しなければ見えてこなかった問題点がグラフィカルに見えているため、週ごとの会議などでの遅延もなく、「見えているためすぐに対応」だけですむようになったという。
J-SLIMは納期の短縮ではなく、情報の滞留をなくすもの
友山氏は、J-SLIMのポイントは納期の短縮ではなく、情報の滞留をなくすことにあるという。例えば、ノアやヴォクシーなどの背高車や、ランクルなどのフレーム車は生産工場が限られているためJ-SLIMによって納期が劇的に短くなるわけではないという。
クルマの受注状況を1台1台見える化することで、実需による生産を実施。生産したクルマの滞留情報を見える化することで、クルマが滞留している問題点をすぐに把握でき、ムダなどを省くことができる。生産、輸送、販売と独立していたシステムをつなげたことで、TPS(トヨタ生産方式)を作り上げた大野耐一氏が語った「減量経営」、生産数が変動しても生産性を落とさずに収益を上げる体制作りにも寄与するという。「資源を無駄にせず、納期を明確にして安心してお待ちいただく」(友山氏)ことが、情報を滞留させないことによって実現した。