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豊田章男会長が佐藤恒治社長にお願いした赤いスポーツエンジンは、400馬力を目指すのか? 新型セリカ用なのか?

東京オートサロン2024で公開された赤いスポーツエンジン(手前)と銀色の高効率エンジン(奥)。開発が進んでいるのが分かる

豊田章男会長が佐藤恒治社長に開発を依頼した赤いスポーツエンジン

 トヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏が1月12日の東京オートサロン2024で行なったプレゼンテーションは衝撃的なものだった。TOYOTA GAZOO Racing&レクサスのプレスカンファレンスに登壇した豊田会長は、普通のクルマ好きおじさんとして参加しつつ、佐藤恒治社長に2つの新型エンジン開発をお願いしたことを明かし、開発途中のエンジン写真を公開した。

 脱炭素、カーボンニュートラルへ向かわなければならない自動車業界は、さまざまな形でその取り組みを進めている。その有力な手段としてクローズアップされていたのが、電気で走行するバッテリEV。バッテリEVであれば走行時のCO2排出を抑えることができ、カーボンニュートラル車両として成立させやすし、その構造が分かりやすい。そのため、クルマの将来はバッテリEVだと決めつける意見も多かったが、バッテリEVに給電する系統電力のCO2排出の問題、充電ステーションの問題などが理解されるようになり、決めつける意見も減ってきた。また、なにより消費者が現実的な選択肢としてハイブリッド車を選んでいることが明らかになり、バッテリEV(BEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)、ハイブリッド(HEV)と、CO2排出を抑えるさまざまな選択肢の理解が広がった。

 このトレンドを作り出した一つの要因は、豊田章男会長が社長時代に打ち出した「マルチパスウェイ」戦略であるのは間違いない。BEVやPHEV、HEVといった電動化車両(xEV)に加え、燃料電池を使ったFCEV、FCEVと同様に水素を燃料に使う水素燃焼エンジン(HICE)、さらにはカーボンニュートラル燃料による内燃期間(ICE)の未来を、BEV一辺倒が叫ばれている時代に示した。

 もちろん、砂漠地帯やアフリカなど電動インフラが整っていない地域にお客さんが存在するトヨタならではの方向性ではあるものの、「誰ひとり取り残さない」「すべての人に移動の自由を」という強い思いを豊田章男氏が語り続けたことが、そしてそれを販売で(お客さんの支持で)示したことが、今につながっている。

 その豊田章男会長が2024年の最初に掲げたのが新エンジンの開発であり、モータースポーツに使える赤いスポーツエンジンと、高効率な銀色のエンジンだっただけに、大きな注目を集めた。

正体は不明ながら、トヨタ最新のダイナミックフォース技術を採用か?

 この赤いスポーツエンジンについて、さまざまな方へ取材を試みたものの、その正体は現時点で分かっていないというのが正直なところ。ただ、そのエンジンの狙っているところ、トヨタのこれまでのエンジン開発から見えてきたところもあるので、ここで簡単にまとめておきたい。

 まず、豊田章男会長が東京オートサロンで示した写真は1枚。その1枚の写真から読み取れるのが、赤いエンジンヘッドカバーを持つことと、4気筒エンジンであること、そして過給器が付いていることからターボエンジンであることだ。また、カムシャフトには吸気側、排気側ともなんらかの可変機構が付いているように見え、エンジンブロックもそのカムシャフトを支えるように上がそれなりに大きく、しかも強度をもってラウンドしているように見えるため、高回転・高出力・高強度を狙ったものに見える。

 トヨタのエンジンでは、2リッター4気筒直噴ターボの8AR-FTS型エンジンのような印象を受けるエンジンで、ターボという高出力への対応がしっかり織り込まれているエンジンとなっているのだろう。

 ただ、8AR-FTS型エンジンは現在のトヨタエンジンからすると、一つ前の世代のエンジンとなり、A25A型に代表される現在のトヨタエンジンの設計思想であるダイナミックフォースエンジンとはなっていない。ダイナミックフォースタイプのターボエンジンとしては、2.4リッタークラスの4気筒であるT24A-FTS型、そしてすでに名機とも呼ばれている1.6リッタークラスの3気筒であるG16E-GTS型エンジンがある。さらに詳細スペックは不明ながら、2023年シーズンまで28号車 GR86に搭載されていた1.4リッタークラスのG14E-GTS型(仮称)もある。

 トヨタは単気筒500cc程度が燃焼に有利と語っていたこともあり、赤いスポーツエンジンの排気量は、2.0リッタークラス~2.5リッタークラスのゾーンに収まるものだろう。1.8リッタークラスであれば、G16E-GTS型エンジンのストロークアップで対処できる範囲となるので、4気筒である以上は2.0リッタークラス以上を見ているものと思われる。

 では、この赤いスポーツエンジンの排気量は、2.0リッター~2.5リッターの中でどこが正解となるのだろうか? そこでヒントになるのは、豊田会長の「モータースポーツで勝てるエンジン」という部分。トヨタとして、モータースポーツに転用するエンジンとして望ましい排気量はどこだろうか?

 ラリーの規定、ツーリングカーの規定などを見てみると、トヨタとしては2.0リッタークラスのスポーツエンジンがあるとモータースポーツへの発展が容易なことが見えてくる。たとえばGT3車両を将来的に作る場合も、この4気筒をベースにしたV型8気筒 4.0リッターなんていうエンジンがあると、GT3のベストセラー車両とガチンコで勝負できるかもしれない。

 では、2.0リッター4気筒ターボとして、その仕様はどのようなものだろうか? まず、基本となるボア×ストロークは、3S-Gなど汎用的に用いられたトヨタスポーツエンジン伝統の86.0×86.0mm(いわゆる86スクエア)ではなく、トヨタ新世代エンジンであるG16E-GTS型エンジン同様、ダイナミックフォースエンジンに用いられている87.5mmボアになるのではないだろうか?

 今回のエンジンは内燃機関の将来を見ており、カーボンニュートラル燃料でも動作するエンジンとして作られていく。G16E-GTS型エンジンもE20までの燃料対応が行なわれていることでもあり、トヨタはこれまでスーパー耐久のST-Qクラスやラリーチャレンジでカーボンニュートラル燃料を使ってきており、87.5mmボアでの燃焼開発が進んでいる。

 ダイナミックフォースエンジンは、縦渦であるタンブル流で燃焼を促進するエンジンであり、これまでのカーボンニュートラル燃料に対する知見を活かすとするなら、あまりボア径には手を入れたくないとこだろう。

 G16E-GTS型やT24A-FTS型と同じボア径の87.5mmであるなら、83.1mmというストロークが導き出せる。単純計算で1気筒あたり499.4ccとなり、86スクエアの499.3ccより2.0リッター以内で排気量を追い込める。

 ストロークがG16E-GTS型の89.7mmより短くなり、ボア×ストローク比も1.025から0.949とタンブルを回しにくくなるが、回転限界を上げやすくはなる。なにより、G14型としてスーパー耐久のST-Qクラスでテストしていた87.5×77.0mm(ボア×ストローク比 0.880)よりは楽に燃焼できるので、すでにトヨタとしては手の内に入った技術となっているのかもしれない。

 そういった部分から、赤いスポーツエンジンはダイナミックフォースエンジンの87.5×83.1mmのボア×ストローク(ボア×ストローク比 0.949)、1気筒あたり499.4ccの排気量で4気筒ターボ。ボア×ストロークが1を切っているのは現代的なエンジンぽくないが、現行のGR86に搭載されているスバル FA24型よりはボア×ストローク比は高い。

 想定出力は、G16E-GTS型エンジンで304PSと300馬力を超えており、搭載テストを行なっていたG14型で「馬力は同等」との話もあったので、1気筒増えて400馬力近辺になるのかもしれない。もちろんレースフィールドと市販は異なるので、1.6リッターのG16E型からの単純計算でも380PSとなるので、300馬力台後半は確実なところだろう。

搭載車は、うわさされている新型セリカとなるのだろうか?

 では、この赤いスポーツエンジンを搭載する市販車両は何になるのだろう。新型エンジン、しかもスポーツエンジンということで華やかなクルマであるとうれしいところだろうか? すると浮かんでくるのは、うわさされている新型セリカ。TOYOTA GAZOO Racingは、試乗会などでかつてのセリカを飾ることもあり、微妙なセリカアピールが行なわれている。

 そのため、かつて3S-G型エンジンを世界のモータースポーツエンジンに押し上げたセリカという車両を引き継ぐべきモデルであるだろうし、近年の伝統を大事にするトヨタの流れを考えると、やはりセリカという名前の車両になるのではないだろうか?

 また、2.0リッター4気筒ターボ、カーボンニュートラル燃料対応というスペックを持つモータースポーツエンジンということを考えると、すぐに思い浮かぶのがスーパーフォーミュラやGT500に使われているNRE(Nippon Race Engine)。モータースポーツエンジンに詳しい人によると、NREはコストが高く、そこのコスト引き下げは多くの人がモータースポーツに参加しやすくなるという。ただ、400馬力近辺では力不足となるため、代替できるかどうかは赤いスポーツエンジンのチューニングポテンシャル次第となる。

 赤いスポーツエンジンの正体はまだ何も分からないが、実際に市販化されれば大きなインパクトを持つものになるだろう。かつての3S-G型のようにモータースポーツシーンへの影響も大きなエンジンになっていくことを期待したい。

苗場スキー場のTOYOTA GAZOO Racing雪上試乗会で展示されていたセリカ なぜ?