イベントレポート 東京オートサロン 2024

トヨタ豊田章男会長、2つのエンジン開発計画を明らかに エンジン開発への投資忌避をなんとかしたい

普通のクルマ好きおじさんとしてプレゼンテーションを行なうトヨタ自動車株式会社 代表取締役会長 豊田章男氏。後方に2つの新開発エンジンが映っている

2つのエンジン開発計画を明らかにした豊田章男会長

 トヨタ自動車 代表取締役会長 豊田章男氏は1月12日、同日開幕した東京オートサロンのTOYOTA GAZOO Racing&レクサスのプレスカンファレンス時間に登壇。2024年は、トヨタ自動車の社長から会長という立場になったこと、自工会(日本自動車工業会)会長の立場を降りたことから、普通のクルマ好きおじさんとして参加するオートサロンになったと紹介。「モリゾウから新年のご挨拶」という形でプレゼンテーションを行なった。

 そのモリゾウさんのプレゼンで注目を集めたのが、トヨタが新たなエンジン開発に乗り出すということ。モリゾウさんは、「仲間と一緒じゃないと未来を作っていけない」と語り、「550万人の中にはエンジンの部品を作っている仲間たちもたくさんいます。日本を支え、これからの日本を強くしていく技を持った人たちです。この人たちを失ってはいけません」という。

モリゾウさんはプレカンの後、ブース練り歩き取材。ブリヂストンブースでは石橋秀一 取締役 代表執行役 Global CEOと記念写真&モリゾウサイン

 また最近の問題として、「エンジンに携わる人たちは、最近、銀行からお金を貸してもらえないこともあるそうです。そんなこと、絶対にあってはならない……、なんとかしていきたいと思いました」と語り、エンジン開発に対する投資忌避の問題を挙げる。エンジンを作りたい人がいる、しかし銀行はお金を貸してくれない、それはあってはならない、という構造を何とかしたいという。

 そこでモリゾウさんはトヨタに相談し、エンジンを作ることにした。「カーボンニュートラルに向けた現実的な手段として、エンジンにはまだまだ役割がある! だから、エンジン技術にもっと磨きをかけよう!そういうプロジェクトを立ち上げよう!」と。「佐藤社長以下、経営メンバーたちも、その提案に共感してくれて、新たにエンジン開発を進めていくプロジェクトが、トヨタの中で動き出しました」と現在の執行メンバーも承認。トヨタの中で新しいエンジン作りが始まった。

 よく中国を代表にバッテリEVへの流れを語る人は多い。しかしながら、その中国においてもバッテリEVとPHEVが補助金などの優遇を受けられるNEV(新エネルギー車)にあたることから、PHEVが売れ始めている。バッテリEV購入がある程度進み、より長距離を移動可能なPHEVの人気が高まっているという。

 これは軽自動車が売れ、次に普通自動車が売れという流れと同様のものと思えばよいかもしれない。中国において2台目需要が始まっており、同じNEVならPHEVという選択肢も選ばれていることになる。そして当然、PHEVにはエンジンが必要になる。コンパクトで高効率、そしてカーボンニュートラル系の燃料に適合するのが理想だ。実際、GRヤリスに積まれているG16型エンジンでも、E20系燃料の使用は想定しており、今から作るならさらなる環境仕様のエンジンが必要になるだろう。

 数年後、PHEVが世界の潮流になってしまった場合、そういうエンジンを持っているか否かが、自動車会社としての命運を決めてしまうかもしれない。モリゾウさんは、その可能性を感じていると思われる。

 モリゾウさんが一瞬投影したエンジンを作るメンバーの写真には、赤いヘッドの直列4気筒ターボエンジンと、高効率な雰囲気を醸し出す直列4気筒エンジンが映っていた。

愛車座談会で、2つのエンジンの方向性を

愛車座談会

 この時はそれ以上語られることはなかったので、午後の愛車座談会の際に直接モリゾウさんに聞いてみた。「2つエンジンを作る方向性を教えてください」と。

 するとモリゾウさんは、「いやー、どうだろう(笑)」と笑いながら、「一つは環境にいいエンジン、もう一つはレースに勝てるエンジン」と教えてくれた。

 環境にいいエンジンとは、後方に映っているシルバーのエンジンで、コンパクトな筐体から、バルブ挟み角の狭い挟角ヘッドエンジンを想像させる。熱を逃がさず、高熱効率なエンジンであることがうかがえる。

 もう一つの赤いヘッドのエンジンは、写真から読み解く上でVVL機構も付いており、バルブ挟み角もそこそこありそう。エンジンの筐体もゆるやかなアールが付いていることから、バッテリEVのギガキャストもてがけるトヨタのレーシングエンジン鋳造工程を持つ工場で作られたものを想像させる。1枚で、ごはんが2~3杯食べられる写真をモリゾウさんは公開した。

 座談会での退場時にモリゾウさんは一言、「結構、正直に言いましたよ」と。

 環境にいいエンジンに加え、レースに勝てるエンジンも用意する。2つの新しいエンジンに投資するその先にモリゾウさんは何を見ているのか。2026年にステップ3というギガキャスト採用のバッテリEVを準備しつつ、マルチパスウェイ戦略で何が出てくるのか? トヨタはさまざまな手を打っているのは間違いない。

編集部:谷川 潔