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トヨタ、新型2.0リッターと1.5リッターエンジン公開 新型2.0リッターターボは600馬力を見すえた400馬力級スポーツエンジン

2024年5月28日 発表

トヨタ自動車株式会社 取締役副社長兼CTO 中嶋裕樹氏と、新型2.0リッターエンジン

 トヨタ自動車は5月28日、スバル、マツダとともに「マルチパスウェイワークショップ」を開催。そのなかで、新型2.0リッター4気筒ターボエンジンに加え、新型1.5リッターターボ&自然吸気エンジンの3種類のエンジンを開発中であることを明らかにした。

 これらのエンジンは、ガソリンを燃料とするだけでなく、E100といった燃料、カーボンニュートラル燃料、そして水素燃料などを視野に入れた内燃機関で、電動化の未来に対応していくもの。バッテリEVを前提に開発した車両と組み合わせて新世代のPHEVもデザインできるような体格の小ささも重視している。

新エンジンは2.0リッター過給で、2.4リッター過給並みの出力を発揮する
2.4リッターエンジン比べ新型2.0リッターエンジンは、体積で10%小さく、エンジン高で10%低い

 技術的ポイントが多岐にわたるため、本稿では新型2.0リッター4気筒ターボエンジンを中心に紹介していく。

 この新型2.0リッター4気筒ターボエンジンだが、その特徴はモータースポーツ仕様までを見すえて設計されていること。このエンジンの存在が明らかにされたのは、年初の東京オートサロンにおいて。豊田章男会長のプレゼンテーションで、モータースポーツに勝てるエンジンの開発を佐藤恒治社長にお願いしたといい、赤いヘッドを持つスポーツエンジンの写真が公開された。

 オートサロンの情報を中心にした考察は、関連記事として先週お届けし、想定馬力を400馬力と計算した。トヨタ 取締役副社長兼CTOの中嶋裕樹氏によると、400馬力も目指しているが各部品を取り替えての600馬力も見すえているとのこと。

 まず、電動化時代を見すえたエンジンの出発点として、エンジンの筐体をコンパクトにしたいという。エンジンの筐体をコンパクトにすることで、トヨタがジャパンモビリティショーで公開したレクサス LF-ZCのようなかっこよいバッテリEV前提のボディへ搭載することも可能となる。バッテリEVのバリエーションとして、同様なボディを持つPHEVを作ることができることになる。

 そのために採用したコンセプトが、エンジンのショートストローク化。これまでトヨタはダイナミックフォースエンジンとして、ボア×ストローク比を1.2程度としたロングストロークタイプのエンジンを追求。ストロークを長く取ることで、しっかりしたタンブル(縦渦)流で混合気を作り、燃焼効率を上げてきた。

 結果として熱効率に優れ、燃費に優れたエンジンとなったが、引き換えに縦長のエンジン(ピストンエンジンは基本的に縦長なのだが)となってしまっていた。

 これでは電動化時代を見すえたときに、クルマとして実現できるデザイン選択肢が小さくなる。そこで、まずはショートストロークにして、しっかり燃やす技術を開発してきたという。

エンジン性能表。イメージというが、出力はどうも300PSのようだ
シンプルな外観のトヨタ新型2.0リッターターボエンジン

 ショートストロークにすれば、エンジンの高さ方向を抑えられ、エンジンの搭載性も上がる。ショートストロークエンジンであれば、ボンネット高を下げることができ、空気抵抗も改善。走行抵抗の多くを占める空気抵抗を改善することで、燃費を下げていく。一般的に車両の空気抵抗は、前面投影面積とCd値(空気抵抗係数)の乗算によって基礎的な値が求められ、速度の2乗によって抵抗値(力)が増えていく。パワー(馬力、エネルギー)=力×速さのため、車体の空気抵抗は速度の3乗で影響していることになる。つまり、エンジン体格のコンパクト化によるスタイリングの改善は、走行に必要なパワーを大幅に減らすことができる。

 もちろんショートストローク化によるメリットはほかにもある。エンジンの回転数限界をあげることができ、さらなる出力追求もできる。吸排気角度の広角化によってシリンダーヘッド高を抑えることもできるのもメリットになる。

 デメリットは、トヨタがこれまで追求してきたロングストロークによる燃焼効率をさらに引き上げる必要があること。これについて中嶋CTOは、「電動化と組み合わせることでよいところを使う」と語ったほか、電動化と組み合わせないでも効率を上げる技術を追求していくとした。

 トヨタは富士24時間レース内の取材イベントにおいて、400PS/500Nmバージョンの2.0リッターターボエンジンと、300PS/400Nmのバージョンの2.0リッターターボエンジンを公開。実際に動いているところを見せた。

 中嶋CTOによると、このエンジンはシミュレーションを駆使して開発しており、ある程度幅を持たせた馬力とトルクの組み合わせを実現できるという。

 上の方では、市販エンジンではないものの、このエンジンをベースとした600馬力エンジンを想定して開発している。その際は、シリンダーヘッドなどは取り替える必要はあるものの、エンジン筐体は同様のものを用いることができ、逆にそこを見すえて開発することでレーシングエンジンのコストを大幅に引き下げることができるようだ。

 2.0リッターのターボエンジンというと、スーパーフォーミュラやSUPER GTで使われているNRE(ニッポン レーシング エンジン)があり、これは高価な一品ものエンジンとなる。これを量産ベースとすることで、大幅にコストダウン。多くの参加者がモータースポーツに入りやすくなる。

 トヨタ技術者によると、このエンジンは3S型のように、Fバリエーション、Gバリエーションといった展開を考えており、量産効果でよいものを比較的安価にといった原価低減も果たしていく。原価低減というとよくないイメージもあるが、量産化、共通化といった観点で原価を引き下げ、購入者にとっては同じ性能のものを安価に手に入れられることになる。そもそもクルマは18世紀の発明品であり、20世紀のフォード生産方式によって誰もが手に入れられるようになり、トヨタ生産方式によって飛躍的な生産品質の向上を遂げたもの。原価低減によって、人々の暮らしを変えた製品だ。

 そのクルマが、21世紀の電動化、知能化という流れを生き抜くために、ショートストロークという考え方を再び取り入れ、ハイパワーを見すえながらエンジンのカーボンニュートラル化、コンパクト化に挑戦していく。

【お詫びと訂正】記事初出時、動作エンジンの仕様を400PS/300Nmとしていましたが、正しくは400PS/500Nmになります。加えて300PS/400Nmの仕様も存在していました。