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S&VL、自動車開発をデジタルツインで支援する「シミュレーション技術研究所」を日本ミシュランタイヤ太田サイト内に開所 最新ドライビングシミュレータ「DiM300」公開
2024年7月30日 13:06
- 2024年7月29日 発表
自動車を中心とする実験・シミュレーション技術を基盤としたサービスを提供するS&VLは7月29日、バーチャルとリアルを融合したデジタルツイン技術を用いた最新ドライビングシミュレータを設置した専用施設「S&VL技術研究所」を群馬県太田市にある日本ミシュランタイヤ本社・太田サイト内に開所し、開所式を実施した。
開所式には、S&VL代表取締役の村松英行氏、同技術マネージャー ドライビングシミュレータ/CAEモデル開発担当の石田敦祐氏、同ディレクター 技術コンサルティング担当の品川貴志氏、S&VLの親会社プログレス・テクノロジーズ代表取締役の中山岳人氏をはじめ、群馬県知事の山本一太氏、太田市長の清水聖義氏、本田技術研究所の坪内敦志氏、日本ミシュランタイヤ代表取締役社長の須藤元氏、群馬県産業支援機構の大久保聡理事長ら、加えてトヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、スバル、マツダ、スズキなど自動車メーカーやサプライチェーンからも多くの招待客が参列した。
S&VLの親会社プログレス・テクノロジーズは2005年に創業し、コンサルティングサービス、システム開発、ソフトウェア販売とサポート、アウトソーシング・運用サポート、新技術調査・研究開発・共同研究などを行なっている企業で、自動車だけでなく半導体、医療機器、航空宇宙、教育機関など幅広い分野にサービスを展開している。また、自動車業界では、日立アステモや本田技術研究所などとの取り引き実績を持つ。
S&VLは「Simulation&Virtual testing Lab.」の頭文字からなる社名で、その名の通りドライビングシミュレータを活用したバーチャルテスト環境を駆使し、プラントモデルの開発、評価、開発プロセス改革まで、ワンストップのソリューションを提供する自動車関連の開発に特化した企業として、2023年3月に東京都江東区にあるダイバーシティ東京で始動。
すでに複数の企業と取り引きをスタートしていて、実験計測受託サービスやシミュレーションモデル開発、コンサルティングサービスなどを展開。今回の最新ドライビングシミュレータを設置した専用施設「S&VL技術研究所」を開所したことで、最新型ドライビングシミュレータを用いた各種実験・計測・設計をはじめ、シミュレーション機器のレンタルやオペレーション受託など提供サービスの拡充が図られた。
S&VL技術研究所の開設場所について代表取締役の村松英行氏は、「自動車メーカーやサプライチェーンからアクセスのいい関東近郊で探していたのですが、VI-gradeのドライビングシミュレータDiM300は、総重量が35tほどあり、高さも10m以上必要となるため、しっかりした地盤と高さのとれる場所がなかなか見つかりませんでした。たまたま別件で日本ミシュランさんと、こんな構想があるけれど設置場所がなくて困っていると話していたところ、今は使用していない工場があり、もともとタイヤ工場の建屋なので地盤も強固ですよと教えていただき、調べた結果バッチリで、2023年9月ごろから工事を始めて本日の開所式を迎えられました」と設置場所が日本ミシュラン太田サイト内に決まった理由を教えてくれた。
また、VI-gradeのドライビングシミュレータ「DiM300」の導入についてプログレス・テクノロジーズ代表取締役の中山岳人氏は、「このDiM300の“300”は、稼働領域が300cmあることを示しています。ほかに150や250もありますが、この300が最新型でもっとも稼働領域が広いモデルです。その結果、これまでは計算で処理していたようなレーンチェンジも、実際に稼働して検証できます。そのほかにも、NVH(ノイズ/騒音・バイブレーション/振動・ハーシュネス/荒々しさ)といった操縦安定性や乗り心地、HMI(マンマシンインタフェース)、HiL(Hardware-in-the-Loop/モデルベース開発)など、車両開発プロセス全体のイノベーションを加速させられます」と説明。
続けて、「また現在、中国でバッテリEV(電気自動車)を製造しているベンチャー企業と開発工数を比較すると日本は2倍くらい多いですし、日本の自動車メーカーは海外と比べてシミュレータの活用が遅れています。その原因は、自動車という専門分野のスタッフなのに、シミュレータの操作や運用、活用方法を1から学ぶ必要があるからです。それを自社だけでやるのはとても効率がわるいです。そこでプログレス・テクノロジーズやS&VLでは、シミュレータの活用を筐体はもちろん技術スタッフから含めてサポートします。これにより物理的なプロトタイプの作成数、開発時間、コストを削減できます。効率アップは活用方法や用途など導入する企業でさまざまなので、一律に何%上がりますといったことはいえませんが、確実にスピードアップ、工数削減の一助になります」とシミュレータ導入のメリットを解説してくれた。
なお、今回「S&VL技術研究所」の設置場所を提供した日本ミシュランタイヤは、2021年6月に技術と人材を育て産業の活性化と競争力の向上を目指すべく、3D金属プリンターを複数企業で活用しあう「群馬積層造形プラットフォーム」を設立したほか、2023年8月に本社を群馬県太田市へ移転すると同時に「産官学連携で群馬から世界へ発信するビジネス」をテーマに掲げ、ぐんまの運輸デジタルイノベーションを始動させるなど、タイヤだけでなく群馬県を中心とした新たな産業革命にも力を入れていて、今回の誘致で新たな分野でのコラボレーションも期待される。
開所式に参列した山本一太群馬県知事は、「自動運転や安全機能を開発するために必要な、バーチャルとリアルと融合した最先端の技術だと聞き、とても期待しています。群馬県の主力産業は製造業ですが、最近はデジタル産業化、人材育成にも力を入れているので、S&VLさんが太田市にきてくれたことは非常にうれしく思います。さまざまな企業が増えているので、ぜひ相乗効果でともに発展していただきたい」と期待を述べた。また、清水聖義太田市長も、「運転は脳や体の活性化につながるので、免許を返納するのではなく、高齢者でも運転できる自動車をぜひ開発してほしい」とコメントした。
最新型ドライビングシミュレータ「DiM(Driver-in-Motion)300」
VI-gradeのドライビングシミュレータDiMシリーズは、軽量・高剛性・高応答の6軸電気サーボHexapodが、X、Y、Z、ロール、ピッチ、ヨー方向の高周波を再現するとともに、ロングストロークで高速度の3軸電気サーボTripodが、X、Y、ヨー方向の低周波の車両ダイナミクス特性を再現しつつ、Hexapodの動きを的確にサポート。さらにFloatingシステムを組み合わせることにより、車両の動きや挙動までリアルに再現可能。また、Tripodをロングストローク化したDiM300は、より長時間の「加速度G」を再現することが可能で、評価シチュエーションの幅がさらに広がったモデルとなっている。国内ではS&VLのほかにホンダもすでに導入している。
この低周波領域の滑らかな動きと、高周波領域の極限走行状態まで再現可能な高性能シミュレータで、車両モデルベース開発(MBD)の段階で、車両の挙動をドライバーがリアルタイムに体感できる。ソフトはVI-grade製がベースとなるが、さらにS&VLでチューニングを施し、検証する車両への合わせ込みが行なわれている。また、外部の運転支援システムと組み合わせることで、その挙動をDiMのコックピット上で安全に体感することもでき、ADAS開発にも貢献できるという。
システムが起動するとコクピットは中央部に移動。4つのプロジェクターにより湾曲ディスプレイに映し出された背景の中を実車さながらに走行。この日、実際に試乗した山本一太群馬県知事は、「すごいリアル! まるで実車に乗っているみたい。本当にすごい」と驚いていた。