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トヨタと国交省は対立しているのか? 新たに見つかった7車種の不正事案と国内向け車種の生産再開
2024年8月1日 10:29
新たな不正事案が報告されるも、国内仕向け車両の基準適合性は確認され生産再開へ
国土交通省は7月31日、トヨタ自動車の不正事案に関する対応について発表した。内容は、立入検査の結果の公表、是正命令の発出、基準適合性確認結果の公表及び現行生産車の出荷停止指示の解除となっている。新たな追加不正事案を公表し、正しく業務を行なうよう変更することを命令、基準適合性を公表し、国内販売車種については出荷停止の指示を解除した。
トヨタによると、今回新たに不正事案が確認された「ノア」「ヴォクシー」についても7月29日から出荷を停止していたものの、基準適合性が確認されたことから準備ができしだい出荷を再開予定となっている。
6月3日より出荷を停止していた「カローラ フィールダー」「カローラ アクシオ」「ヤリス クロス」の国内仕向け車両についても基準適合性が確認され、9月初からの生産再開を予定している。6月3日出荷停止分の生産再開が9月へずれ込むのは、一度止まってしまったサプライチェーンを立ち上げるのには時間がかかるほか、サプライチェーン全体のお盆休みに配慮したものと思われる。いずれにしろ、国外については再認証を順次行なっているものの、国内販売車種についてはすべて基準適合性が確認されたことになる。
新たに報告されたトヨタの不正事案
今回発表された内容を列挙すると
1.別の試験で使用済みのFrバンパを再利用、歩行者脚部保護試験
2.衝突速度を規定に収まるよう数値処理(小数点第2位の切り捨て)、歩行者脚部保護試験
3.規定と異なる積荷ブロック、量産と異なるシートのロック機構部品で試験、積荷移動防止試験
4.申告と異なるステアリングで試験したが、申告時の仕様の写真を成績書に添付、ステアリング衝撃試験
5.量産と異なる部品で試験、ナビディスプレイ、内装の乗員保護装置試験
6.量産と異なる部品で試験、Frドア内部ブラケット、ポール側面衝突試験
7.量産と異なる部品で試験、Rrドア内張り、ポール側面衝突試験
8.量産と異なる部品で試験、Rrドア内張り、側突衝突
と、○○と異なる部品で試験という項目が目立つことだ。6月3日までの社内調査では見つけられず、国交省の立ち入り検査などで新たに見つかった内容と思われる。これらはすべて再試験され、国交省と基準適合性は確認されており技術的には問題ないものの、報告やドキュメンテーションに甘さがあったことになる。
6月3日の案件についても、話題となった1800kg台車による1100kg台車試験である後面衝突試験において、「(試験実施時にダミー人形を搭載)←今回追加」とあるように、後から訂正が加えられている。つまり、試験時に異なる状況があったのに、それが公表時に正確に開示されていなかった。ダミー人形のあるなしが、後面衝突試験において大きく影響することは考えづらいが、それでも衝突される車両の重量は異なってくるため、オープンにすべき情報だろう。
確かにエネルギー的には1800kgでぶつけるほうが、1100kgよりはエネルギー量が大きく、兼務できる部分が多くなる。ただ、ぶつけられる車両のほうの重さも変わっており、さらに今回確認できたが台車の接触面積も1800kg台車と1100kg台車の接触面積も異なってくるとのこと。これは単位面積あたりの接地圧がという問題になり、正直、情報の出し方も精密な議論をするには甘いと言えた部分になる。
また、6月3日の発表にある歩行者頭部および脚部保護試験においては、「衝撃角度65度の方がより厳しい試験条件となります。本来ならば法規で定められた衝撃角度50度で改めて試験を実施し、そのデータを提出することが必要でした。ところが、開発試験データを申請に使ってしまいました」と発表されていたが、試験条件の変更時期をその後確認していたときに、説明と時期が異なるためにいろいろ確認。これは子供の歩行者頭部保護試験であることが分かった。
確かに、角度65度のほうが角度50度よりエンジン内部に与える変形はベクトル分解した場合には厳しくなる。ただ、65度と50度では凹み方が異なるため、正確にはエンジンコンパートメント内部の部品配置とあいまっての話であり、単純に65度と50度を比較するのは難しい。さらにこの角度が試験で変更された理由は、実際の事故データの分析に基づいたものとなっており、それを考慮すると技術的というよりは、社会的な状況の変化を反映できているか否かになる。この点に関しても、トヨタの報告には甘さを感じる。
この試験に関しては生産中の車種「カローラ フィールダー」「カローラ アクシオ」であり、再試験が行なわれて基準適合性が確認され、前述のように生産が再開されていく。確かに厳しい条件で試験されているが(再試験で適合もした)、交通事故の現状によって変更された試験の認識や報告に甘さを感じる部分がある。
トヨタに国交省から是正命令が下った背景には、そのような部分が外部からも透けて見えるほどの甘さがあり、その点についての指摘も含まれているように感じる。もちろん、トヨタもその点を理解しており、事案の原因が現場と経営の両面にあったとしている。
現場における原因
認証申請に必要な書類を作成する際の社内の運用ルールが不明確
認証業務における必要なリソーセスの明確化と管理が不十分
認証業務の重要性に対する認識が不足
経営面における原因
経営/幹部の認証業務全体における理解と関与が不十分
トヨタでは「認識をもとに正しい認証業務を実施するための仕組み・体制に見直す」としており、「再発防止策としてすみやかにまとめ」国交省に報告するとしている。
また、中長期的にはTPS(トヨタ生産方式)自主研を通じての取り組みを行ない、仕組みや風土づくりを行なっていくという。6月3日の会見で豊田章男会長は「物(もの)と情報の流れ図」によって認証業務をTPS的に明らかにすることで、対策を行なうとともに「仕事の仕組みの課題に対し、具体的な改善活動に着手」するとしており、どれだけ膨大な業務か分かりにくい認証業務の仕事量をトヨタグループとして完全に把握していく。
国交省とトヨタは対立しているのか? 対立している時間はあるのか?
このトヨタの不正問題にかんして、国交省がトヨタに対して厳しくしているとか、逆にトヨタが国交省に対して対抗しているとかとの論もあったが、6月3日の豊田章男会長の会見に関しても、今回の発表に関してもそのように捉える必要はないだろう。
6月3日の豊田章男会長の会見に関しては、重複的な質問はカットしたものの、会見全文を関連記事として掲載しているので参考にしてほしいが、「私が言う話ではないですが」とあちこちで記事になった言葉に続くものは、「今回一斉調査をさせられたことによって、ものすごく我々も気づかされました。そういう意味では国交省の方々に、こういう場を持たせていただいたのは非常にありがたいことです」と語っている。
「不正と言えば不正なんですけれども、みんなでね、みんなで安心安全な交通流を作っていくのに、我々は認証の部分でやっちゃいけないことをやってしまった。そこはしっかりと正してまいります」(豊田章男会長)とも語っているように、トヨタが不正を行なったことをきちんと伝えている。
その上で、「今日のこの会見の場でね、私が声を大にしてそれをやるべきなんてことは言うべきじゃないと思います。言うべきじゃないんですが、やはりこれをきっかけに、国とOEMがすり合わせをして、何がお客さまのために、そしてまた日本の自動車業界の競争力向上につながるか、制度自体をどうするのかという議論になっていくといいなというふうに思いますが、今日の私のこの場で、言うべきことではないなと思っておりますので、ぜひみなさま方の記憶にとどめていただきながら、ぜひともそういうムードも作っていただきたいなというふうにも思っております」と語り、未来志向で認証制度を改善していただきたいと要望。一部を切り取れば、国交省に文句だけ言っているようにも報道できる会見で、そこは報道する側が何を伝えたいかによるところがある。
本誌では、あまりに切り取るのが難しい会見であったので、ほぼ全文掲載を行なっており、時代の転換点となる会見として伝えることを判断した。
では、国交省側がどう捉えているかというと、トヨタ、マツダ、ホンダの会見の翌日である6月4日の大臣会見で「まずは不正行為の再発防止に注力いただくことが重要」とした上で、「日本の型式指定制度は、国連の自動車認証制度(WP29)がありますが、国連の自動車認証制度の枠組みと調和したものとなっており、試験方法についても、国連基準に規定されているから、これに沿った取り扱いとする必要があります。その上で、各国で規定する認証の提出書面等に関する詳細手続きについては、合理的なものとなるよう常に見直しを行ってきたつもりですが、これからもメーカーとの意見交換はしっかり行ないつつ、合理化できる部分については合理化していかなければならないと考えており、自動車メーカー等関係者の皆さまともしっかり意思疎通、意見交換しながら自動車認証制度が適切に運用されるようしっかり対応していかなければならないと思っています」と、未来志向の発言を行なっており、認証制度は不正事案を確認後、運用の面やWP29も含めて合理化できる部分については合理化していかなければならないと考えている。
この会見も関連記事として全文掲載しているので、国交省の基本的な考え方の参考にしていただけたらと思う。
今後、クルマは電動化が進むことや、SDVなど知能化が進むことが予測されており、国内の就業人口は残念ながら確実に減っていく。その中で従来のクルマの部分の認証業務負荷を増やしていくことは、国交省も望んでいないし、メーカーも望んでいない。国交省とトヨタの対立をあおるより、100年に一度の変革へ向け、産官学と国際協調で認証業務の改善を図るべきだろう。
ただし、足元では2023年の交通事故死亡者数が2678人と、コロナ禍明けもあって68人も増加。8年ぶりに増加し、60人以上増加したのは2000年以来のこととなる。しかも、クルマは国交省やメーカーの努力の結果安全になり、交通死亡事故で乗員は亡くならず、相手となる歩行者だけ死亡する例が目立つ。とくに老人が、若い人をひいてしまう例などは悲惨だ。それらを考えると、歩行者保護の試験における報告間違えなどが起こらないような意識と体制を作り上げる必要があるだろう。
警察庁のまとめでは、2024年1月~6月の上半期の交通事故死者数はわずかながら増加傾向で、死者数は1182人で前年同期比は1人。数字としてはわずかでも、亡くなった人やまわりの人にとってはそれがすべてだ。昨年より多くの人が亡くなるような状態が続いてよいわけはないし、そのためにもクルマは安全基準をしっかり守っていかないと、社会的に許容されない乗り物になってしまう。