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自動車メーカーが、型式指定申請不正問題を乗り越えるには? まずは法の遵守、そして国連WP29を含む合理的な試験へ
2024年6月6日 14:44
国土交通省は6月3日、トヨタ自動車、本田技研工業、スズキ、マツダ、ヤマハ発動機の自動車メーカーら計5社から、型式指定申請における不正行為が行なわれていたとの報告があったと発表した。これを受けて、マツダは同日16時に、トヨタは17時に、ホンダは18時に記者会見を実施。現状で分かっていることについての説明を行なった。
トヨタは調査継続中ではあるが、すでに分かったことを発表。6月末をめどに予定の調査を終えるとしている。また、国交省の発表によればまだ調査中の会社はいくつかあり、全社の調査が終わるまでには、まだ時間がかかると思われる。
国交省は、型式指定申請における不正行為があった車種については出荷停止を指示。不正行為の報告があった5社に立入検査を行ない、不正行為の事実関係等の確認を行なうとしており、実際、トヨタ自動車に対しては6月4日、ヤマハについては6月5日、スズキについては6月6日に立入検査が行なわれている。
そのほか国交省では「国土交通省および自動車技術総合機構において、不正行為のあった車種の基準適合性を速やかに確認する」としており、型式認証に不正のあった車種の再試験などが行なわれていく。この再試験の結果次第では、道路運送車両法に基づき厳正に対処することになる。
マツダ、トヨタ、ホンダが会見
会見を行なったマツダ、トヨタ、ホンダの説明によると、各社によってそれぞれ内容は異なるものの、型式指定申請における条件より厳しい試験になっているために不正となったものが多い。また、エアバッグのタイマー着火(トヨタ、マツダ)問題は、フルモデルチェンジ時に正しく試験しており、さらなる改良を行なったときに型式指定申請における条件とは異なるタイマー着火を行なっている。
トヨタの6事案目となっている、「出力点の制御調整」(レクサス RX)については、試験用の配管つぶれに気がつかずに出力試験を実施。狙った出力が出ないことからエンジン制御で出力を向上させた。本来の条件とは異なる(量産車とは異なる)制御での試験結果を当局に提出したことになり、結果からの制御を行なったことで試験になっていないものだ。会見を行なったトヨタ カスタマーファースト推進部 本部長 宮本眞志氏も「結果が基準を満たすように手を加えてしまっていることが、1から5とは性質が違う事案だと考えております」と語っており、数万の試験の中の1件とはいえ、まずはルールを守るという意識が共有されていなかったことになる。
ダイハツや日野自動車のときは、開発リソースや認証過程のリソースが大きな要因となったとの報告がされていたが、それに伴う見直しで各社から出てきた報告で読み取れるのは、型式指定申請の複雑さと、各社のより厳しい試験をしているので、という思いの部分だろう。
型式認証の大切さは、「認証制度がなぜあるかっていうのは、先ほど申し上げましたけど、量産するにあたって、特に安全面・環境面において、このクルマを量産していいですよというお許しをいただけるのがこの認証制度だと思います」(トヨタ 豊田章男会長)、「認証制度に関わるさまざまな試験は、お客さまに安心、安全に製品をお使いいただくための大前提となるものであり、私どもホンダはこの結果を大変重く受け止めております」(ホンダ 三部敏弘社長)、「法令にのっとって適切に認証を取得できるよう、今回の調査によって見えてきた課題、問題点に対し、全社で再発防止の取り組みを徹底し、皆さまの信頼回復に向けて努力をしてまいります」(マツダ 毛籠勝弘社長)と語っているように、各社はトップはしっかりと認識している。
その上で、「本来であれば世の中に走るクルマ全部を検査した上で、大丈夫ですよということを申し上げるんですけれども、それが現実不可能だと思います。現実不可能なことを当局と相談をしながら、この資料でこういう試験をしましょうねということは決められているというんですけど、そのやり方が非常に曖昧で、かつメーカー間によって、かつもっと言えば担当者によって、解釈の仕方によってずいぶんやり方が違ってくる場合がございます」(トヨタ 豊田会長)など、実際の認証作業の大変さの一端を明かしている。
トヨタはこの型式認定へ向けた作業量について、TPS(トヨタ生産方式)で用いられている「物と情報の流れ図」を年末をめどに作り上げるとしており、現在の自動車会社が直面している型式認定へ向けた作業の一端が分かるようになるかもしれない。
型式指定申請での不正行為再発防止と、将来へ向けての国交省とメーカーによる合理化
今回、多くの自動車メーカーにおいて、試験条件よりも厳しい試験をしているがゆえに、試験条件から外れてしまい、型式指定申請不正問題につながった部分がある。本当に厳しい条件だったかどうかは、詳細が明らかにならないと判断がつきにくいが、分かりやすいのはトヨタのシエンタとクラウンでの4事案目「規定と異なる台車重量」になる。
これは、本来1100kgの台車を後部からぶつけて衝突試験を行なうもので、1800kgの台車をぶつけたデータを提出していたというもの。この1800kgの台車は米国基準のもので、トヨタはグローバルカーを作っているために、この試験を行なっていた。しかしながら、1100kgの台車ではないため型式指定申請不正となったものだ。
これなどは、試験条件が1100kgちょうどではなくて、1100kg以上になっていれば問題はなかったものと思われる。運動エネルギーは、質量×速度の2乗で導かれるように質量が大きい方が衝突時の破壊力は大きくなる。
この点についてトヨタ 豊田章男会長は「仕向地によってルールも変わります。先ほど後方からぶつけられた場合の北米基準だと、1800kgの重さを後ろからぶつけなさい。ところが日本の基準だと1100kgなんですね。ですからこの場合どう考えるかというのは今の私が言うべきじゃないですけど、日本の自動車メーカー、特にトヨタも世界中で、グローバルでやっておりますので、日本で認可できたクルマが世界で一番厳しいのを通っているので大丈夫ですよとなっていた方が非常にシンプルになってくると思います」と、会見での質問に答える形で合理化できるところはあるのではと語っている。
この点は国交省も同じ問題意識を持っており、各自動車メーカーが会見した翌日となる6月4日の大臣会見で「まずは不正行為の再発防止に注力いただくことが重要」とした上で、「日本の型式指定制度は、国連の自動車認証制度(WP29)がありますが、国連の自動車認証制度の枠組みと調和したものとなっており、試験方法についても、国連基準に規定されているから、これに沿った取り扱いとする必要があります。その上で、各国で規定する認証の提出書面等に関する詳細手続きについては、合理的なものとなるよう常に見直しを行ってきたつもりですが、これからもメーカーとの意見交換はしっかり行ないつつ、合理化できる部分については合理化していかなければならないと考えており、自動車メーカー等関係者の皆さまともしっかり意思疎通、意見交換しながら自動車認証制度が適切に運用されるようしっかり対応していかなければならないと思っています」と、各メーカーと話し合いを進めていくとしている。
6月4日、国土交通省 斉藤鉄夫大臣会見
──自動車大手の型式指定の不正申請についてお伺いします。昨日、トヨタなど自動車5社の社内調査で、現行生産車と過去生産車あわせて38車種の不正認証があったことが発表されました。まず、この事実に対する大臣の受け止めをお願いします。また、本日、トヨタに朝から立入検査に入る予定となっていますが、国土交通省としての今後の対応についてもお願いします。また、過去の教訓を活かせずに不正が今回業界全体に広がったことで、日本経済への影響も懸念されるような、深刻な事態になっていると思いますが、当局としてこれからどういう姿勢でこの事案に臨むかということも、あわせてお願いします。
大臣:国土交通省では、ダイハツ工業等の不正事案を受け、他の自動車メーカー等85社に対し、型式指定申請における不正行為の有無等について調査し、報告するよう指示していたところです。その結果、5月末までに、自動車メーカー5社から、型式指定申請における不正行為があった旨の報告を受けました。型式指定申請における不正は、自動車ユーザーの信頼を損ない、かつ、自動車認証制度の根幹を揺るがす行為であり、極めて遺憾です。
また、ダイハツ工業等に続き、このような不正が確認されたことを重く受け止めています。
国土交通省では、不正行為の報告があった5社に対し、現行生産車について不正行為の報告があった3社においては、国土交通省が基準適合性を確認するまで、不正行為のあった車種の出荷を停止すること、調査継続中の1社においては、最終的な調査結果を速やかに提出すること、各社において、自動車ユーザーへの丁寧な説明や対応に努めること、を指示しました。
また、本日より順次、各社に立入検査を実施し、不正行為の事実関係等について確認を行ない、その結果を踏まえ、道路運送車両法に基づいて厳正に対処していきたいと思っています。
それから後段の日本経済に与える影響というご質問もありました。
今回明らかになった不正事案は、現時点で確認されている限りでは、ダイハツ工業の不正事案に比べ、対象となる車種や生産台数は限定的であると認識しています。
その上で、国土交通省としては、出荷停止による経済への影響を低減する観点からも、基準適合性の確認試験を速やかに行なうこととしているほか、不正のあったメーカー各社においても、生産ラインを止めないため、出荷停止となった車種以外の増産を行なうなどの対応を検討していると聞いています。
国民の安全・安心の確保を大前提として、厳正に対処していくことはもちろんですが、経済への影響を最小限に抑える観点からも、国土交通省として努めていきたいと思っています。
──昨日私も、YouTube、生会見とメーカーの会見を拝見していました。大臣もご案内のとおり、国際基準調和でやっているので、本来認証についていうと、メーカーが品質面で国際基準調和を下まわるような品質は元々ないということで、各社割と品質については自信がある、ただ認証のルールを破ったのは申し訳なかったという言い方を口をそろえて言っているのですが、当局としても、順次国際基準調和について日本のルールとすり合わせをやっているものの、一部はまだこれから手を付けなければいけないものもあります。この辺の当局の考え方はどうされているのか。それからメーカーの一部もおっしゃっていましたが、業界として国のルールをしっかり守っていくことについては各社決意を示されていました。大臣として、例えば自工会の幹部の方々と対話をするなどのお考えはありますでしょうか。
大臣:昨日の各社の記者会見の模様については、一字一句全部見たかどうかは別として把握をしています。その上で今回各社調査の結果、各社においては型式指定申請での不正行為があったことが判明しており、各社においてはまずは不正行為の再発防止に注力いただくことが重要と考えています。
また、まだ調査が終わっていない会社もあります。その会社においては不正行為にかかる調査を進め、速やかに最終的な調査結果を提出するよう求めているところです。
日本の型式指定制度は、国連の自動車認証制度(WP29)がありますが、国連の自動車認証制度の枠組みと調和したものとなっており、試験方法についても、国連基準に規定されているから、これに沿った取り扱いとする必要があります。
その上で、各国で規定する認証の提出書面等に関する詳細手続きについては、合理的なものとなるよう常に見直しを行ってきたつもりですが、これからもメーカーとの意見交換はしっかり行ないつつ、合理化できる部分については合理化していかなければならないと考えており、自動車メーカー等関係者の皆さまともしっかり意思疎通、意見交換しながら自動車認証制度が適切に運用されるようしっかり対応していかなければならないと思っています。
もう一度繰り返しますが、根幹は国連の自動車認証制度の枠組みと調和した試験方法、国連基準に規定された試験方法をとっているということです。
──大臣が自工会の会長と直接お会いするような可能性はございますか。
大臣:まずは今回まだ調査を進めています。まだ調査結果を全部出し切っていない会社もあります。
そういうこととか、今回立入検査を順次させていただいています。それらの結果を踏まえ、考えさせていただきたいと思います。
ただし先ほど申し上げたように、常にメーカー側とのいろいろな合理的な手続きの仕方、書類のあり方についてはしっかりと改善していきたいと思っていますし、その上で私が各社のメーカーのトップの方々と意見交換するかについては立入検査等の結果を踏まえて判断させていただきたいと思います。
国交省と自動車メーカーの分断と対立ではなく、消費者がよりよいクルマを買うため、そしてグローバルで戦うための制度構築を
これら一連の発表と会見を、自動車メーカーと国交省の対決と読み解く人もいる。確かにトヨタの6事案目などは、試験方法にルールを守るという意識が薄いことを感じる。後から調べて配管のつぶれが分かるのであれば、なぜそのときにという気持ちもしないでもないが、それは後知恵のたぐいで、本来はそうならないたために、そうなってもよいように日程的なバッファや仕組みを設けていくべきものになる。要はこれら一連の不正問題の事実を分析し、どうしたらよりよい型式指定申請のための試験になるか、考えていく必要がある。
国交大臣も言及しているが、日本の認証は国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で調整が図られており、グローバルでの合意を行ないながら進んできた。1958年に設立されたEC(現在はEUへと発展)と日本の間で始まり、1998年には米国とも協定を結ぶに至った。もちろん、各国や各経済圏ローカルの部分はあるが、自動車に係る基準の国際調和および認証の相互承認を行なうことで、安全で環境性能の高い自動車の普及を促進していこうというものだ。
共通条件で試験・承認できるものが増えれば、各メーカーの試験コストは下がり、ある一定の枠組みを作ることで、その時代にあった一定の安全性は担保される。大臣も「合理化できる部分については合理化していかなければならないと考えており」と語っているように、各自動車メーカーの知見や今回の不正問題に対する反省を持ち寄ることで事実を積み上げ、安全性を担保しつつ試験を合理化することでよりよいクルマを作り、不必要な日本ローカルの試験を減らす、または条件を見直す(ちょうどではなく、物理法則に基づいた以上、以下の論議)ことで、より適切なクルマづくりを支援できるようなものにしていただきたい。
WP29に関しては、現在も頻繁に会議が行なわれており、自動運転やコネクテッドカーについてのルール作りも進んでいる。物理的な試験の合理化を進めないと自動車はどんどん高価になり、新たな要素の取り入れも遅れていくだろう。今回の不正問題をしっかり分析し、固有ルールで負荷を増やしていくのではなくWP29で共通化できるところは共通化して、国際的な競争力を高める方向に進んでいくことを期待する。
不正問題に関する一部報道では、国交省と自動車メーカーの対立という図式を描いているとろこもあるが、各社トップの全発言や国交大臣の全発言をきちんと読めば、国交省は各社の会見を受けて未来志向で語っていることが分かる。
ただ現在、トヨタはまだ調査が終わっておらず、ほかにも調査中の自動車メーカーがある。トヨタは6月末をめどにとしており、ほかのメーカーもそのあたりでなんらかの報告を出してくるのではないだろうか。国交省としても、すべての調査が終わらない限り、次のステップに進むことは難しいだろう。今回の調査が終わって膿を出し切り、年末へ向けての問題点整理が待たれるところだ。
また、今回ジャパンモビリティショーが10月15日~18日開催となり、「豊かで夢のあるモビリティ社会実現に向けた議論の場」も設けるとのこと。自工会は型式認証申請不正問題に関する出展やディスカッションを行なうなどしてユーザーの信頼回復に努めるとともに、よりよい型式認証申請への議論を深めていただきたい。