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マツダ、型式指定申請の不正行為に関する記者会見 「組織ぐるみの隠ぺいや改ざんではないと認識している」と毛籠勝弘社長
2024年6月3日 21:07
- 2024年6月3日 実施
マツダは6月3日、国交省からの型式指定申請における不正行為の有無等に関する調査・報告指示に対し、現行生産車について不正行為があったことを報告するとともに、都内で「型式指定申請に関する国土交通省への調査報告について」と題した記者会見を実施した。
登壇したのはマツダ 代表取締役 社長兼CEO(最高経営責任者) コミュニケーション・サステナビリティ統括の毛籠勝弘氏と、マツダ 取締役 専務執行役員兼CSO(最高戦略責任者) カーボンニュートラル統括補佐の小島岳二氏の2名。
マツダが国交省に報告した不正行為は、過去生産車3車種「アテンザ」「アクセラ」「MAZDA6」にて衝突試験における試験車両の不正加工と、現行生産車2車種「ロードスターRF」「MAZDA2」にて出力試験におけるエンジン制御ソフトの書き換えの2点。
これらの不正行為に対して毛籠社長は、2014年~2024年の10年間、全2403試験をすべて調査し、不正行為が確認できたのは5車種、約15万台で、すべて国内モデルと説明。エアバッグの時間指定起爆を行なった事案に関しては、「該当車両はすでに生産を終了していますが、社内の技術検証および再試験を行ない、乗員保護制度については法規が定めた基準を満たす性能を有していることを確認しております。したがいまして、対象車両をお使いのお客さまにおかれましては、引き続きお乗りいただいて、安全性の問題はございません」と説明。エンジン制御ソフトの書き換えが行なわれた「ロードスターRF」「MAZDA2」については5月30日に出荷停止を決め、速やかに法規適合性の確認など適切な対応を監督官庁の指導のもとで進めると説明した。
不正発覚については、2023年に発生した他社の事案を参考に、自社でもスタッフから類似の事案があると声が上がってきたことも明かし、2023年春から調査を開始したものの、業務量が多く2023年9月15日の経営会議でプロセスの見直しを実施。国交省からの指示もあり、過去10年分の試験を網羅的に調査を行なったという。
また、現場スタッフには業務に関するプレッシャーは当然あるが、担当者らに確認したところ“過度なプレッシャーはなかった”とのヒアリング結果も明かした。
今後は今回の事案をもとに自社で作成しているeラーニング教材や、毎年定期的に行なっている教育についての内容を改善しつつ、解釈についても教育を徹底し、認識の統一を図り、認証プロセスも監査できる体制を構築する方向で検討しているという。
さらに、「現場のエンジニアは合理的に正しいことを追及しているだけで、業務の手順書や手続きが一部十分でなかったのが原因で、内部統制や監査で未然に防げなかったのは経営陣の問題である。現場は法規ではなく手順書を見て合理的に業務を遂行しているだけで、組織ぐるみの隠ぺいや改ざんではないと認識している。今後は独自解釈ができない手順書に内容を変えていく」との対策も説明した。
最後に毛籠社長は、「今回、理由のいかんに関わらず、その認証において不正と言わざるを得ない事案が発生したことについて、経営としての責任を重く受け止めております。マツダ車をご愛用いただいてるお客さまをはじめ、多くのステークホルダーの皆さまにご心配、ご不便をおかけすることになり、また信頼を裏切ってしまうことは痛恨であり、深くお詫び申し上げます。法令にのっとって適切に認証を取得できるよう、今回の調査によって見えてきた課題、問題点に対し、全社で再発防止の取り組みを徹底し、皆さまの信頼回復に向けて努力をしてまいります。この度は大変申し訳ございませんでした」と陳謝した。
なお、これらの不正対象車のリコールは現段階では考えておらず、国交省と相談すると説明。経営陣の処分や業績への影響は、現時点では時期尚早と回答をとどめた。
2つの不正行為について
不正行為の詳細については、マツダ 取締役 専務執行役員兼CSO(最高戦略責任者) カーボンニュートラル統括補佐の小島岳二氏が説明を行なった。
前面衝突試験における試験車両の不正加工
前面衝突試験は、正面衝突時に運転者と助手席乗員に対する過度な損害の防止を目的として、運転席と助手席にダミー人形を乗せ、車速50km/hで壁に衝突させて影響を評価するもの。今回の不正は、通常はセンサーが衝突(衝撃)を感知してエアバッグが開くところ、外部装置を用いて時間指定起爆を行ない、その数値を申請データとして使用したこと。
この不正行為が発生した要因は、フルモデルチェンジの際に行なった試験で十分な安全が確認できていて、商品改良モデルはフレームが同じでセンサーの受ける衝撃力も変わらないため、インパネ形状や助手席エアバッグの変更、4WDモデルの追加による乗員保護への影響を精緻に試験しようと、設計基準値での時間指定起爆がよいと独自解釈をして試験を行なっていたこと。
実際には、センサーが衝撃を感知してエアバッグを展開する“自然起爆”も、時間を指定してエアバッグを展開する“時間指定起爆”も、人間の目では判別できないコンマ何秒の違いで、ほぼ同じタイミングとなるが、当時の担当者はフルモデルチェンジのときに行なった試験とまったく同じタイミングでエアバッグを展開させたほうが商品改良前後の差異が正確に取れるだろうと独自に解釈し、時間指定起爆で試験を行なっていたという。
この不正行為は、2014年のアテンザの商品改良モデルから行なわれ、2016年のアクセラ、2018年のアテンザ(MAZDA6)の商品改良時にも同じ手順書を参照していたことから、不正が繰り返されてしまったとマツダは分析している。
出力試験におけるエンジン制御ソフトの書き換え
現行モデル「ロードスターRF(Retractable Fastback)」「MAZDA2」で発覚したのが、エンジン制御ソフトの書き換え。
出力試験の内容は、試験専用の部屋に設置したエンジン単体に、実車と同じ吸排気系(エアクリーナーやエキゾーストマニホールド、触媒、マフラーなど)を装着して、25℃±10℃の空気をエンジンに吸わせ、1000rpmから試験するエンジンの最高回転数まで500rpmごとに出力を測定して、エンジンの出力特性カーブを導き出すというもの。テストには1時間ほどかかるという。
不正行為は、室内で1時間近くエンジンを回し続けることで吸気温度が基準値を超えてしまい、試験そのものが不成立となってしまうことから、ソフトウェアを書き換えて、吸気温度が高いときに入る点火時期補正機能の一部を停止させ、その結果を申請データとして使用していた点。
本来であれば吸気温度を正常な温度域まで下げて、再度テストを行なう必要があるが、自動車は走行中、常に走行風がフロントグリルからエアクリーナーを通してエンジンに入ることから、エンジニアが実車走行環境に合わせてしまっていたという。この不正行為は2018年に始まり、2021年にも同じ手順書を参照していたことから、不正が継続されていた。