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豊田章男会長のプレゼンで電動化対応新型エンジン開発加速、トヨタ・マツダ・スバルが3社でサプライヤーにメッセージ

トヨタ、マツダ、スバル3社トップがプレゼンテーションを行なった「マルチパスウェイワークショップ」

 トヨタ自動車・マツダ・スバルの3社共同による「マルチパスウェイワークショップ」が5月28日、ベルサール渋谷ガーデン(東京都渋谷区南平台町)で開催された。トヨタ 代表取締役社長兼CEO 佐藤恒治氏、同取締役副社長兼CTO 中嶋裕樹氏、マツダ 代表取締役社長兼CEO 毛籠勝弘氏、同取締役専務執行役員 兼CTO 廣瀬一郎氏、スバル 代表取締役社長兼CEO 大崎篤氏、同取締役専務執行役員兼CTO 藤貫哲郎氏と、各社の執行トップ、技術トップが出席し、各社それぞれに新型エンジンもしくは新型トランスミッションを発表するなど、時代を画する発表会となっていた。

 トヨタは新型直列4気筒2.0リッターターボと、新型直列4気筒1.5リッターターボと自然吸気を展示。スバルは先の決算で発売を予告していた次世代e-BOXERである水平対向4気筒+THSのストロングハイブリッドユニットと試作車を展示。マツダは、ジャパンモビリティショーで展示していた「アイコニック SP」のパワーユニットと思われる8C型ロータリーエンジンの2ローターバージョンを、謎の前輪とともに展示した。各社、それぞれの個性を活かした発表・展示となっており、すべてカーボンニュートラル燃料時代、電動化時代に向けたパワーユニットになる。

トヨタ 佐藤恒治社長

トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長兼CEO 佐藤恒治氏

 各社CEOプレゼンテーションにおいてトヨタ佐藤社長は、カーボンニュートラル時代へ向かうマルチパスウェイ、つまり多様な方向性について紹介。カーボンニュートラルというゴールへ向かう登り方に、バッテリEVやPHEV、ハイブリッド車やICE(Internal Combustion Engine、内燃機関)、水素といった多様な方法があると紹介する。

 バッテリEVはカーボンニュートラルに必要なものとしつつ、エンジンを搭載するそのほかのクルマもマルチパスウェイに必要な技術と位置付け、「電動車の普及に向けて、パワートレーンに求められる新しい価値を追求し、未来のエネルギー環境に寄り添ったものに進化させていく」と語る。

 トヨタの新型4気筒エンジンの開発コンセプトは2つ。「電動ユニットとの組み合わせによるさらなる効率の追求と小型化」「燃料の多様化への対応」になる。

 電動ユニットの開発を進める中で、エンジン車に電動ユニットを搭載するという発想ではなく、電動車にエンジンを搭載するという発想に立ったパワーユニットを開発。バッテリEVだけでは実現できない、効率のよさなどを目指す。

トヨタの新型直列4気筒 2.0リッターターボエンジン
トヨタの新型直列4気筒 1.5リッターエンジン

 佐藤社長はそういったクルマを「電気リッチなハイブリッド車、プラグインハイブリッド車」と表現し、「電動化時代に最適なエンジンを開発してまいります」と語る。

 一方燃料については、すでにスーパー耐久で行なっているようなカーボンニュートラル燃料の改質に関する3社共同の取り組みもあるが、プレゼンテーションではバイオ燃料やe-fuelなど燃料の多様化に言及。直噴技術であるD-4Sに触れ、高度な燃焼技術を手の内化してきた歴史を語り、それらの燃料についても燃焼技術を磨いていくことを示唆した。

 燃料については、燃料の使用量を増やしていく取り組みが重要だとし、5月27日に発表した出光興産、エネオス、三菱重工業とのサプライチェーン構築に向けた検討を紹介。カーボンニュートラル燃料の「つくる」「はこぶ」「つかう」と全方位に取り組んでいることを強く印象づけた。

スバル 大崎篤社長

株式会社SUBARU 代表取締役社長兼CEO 大崎篤氏

 スバル大崎社長は、スバルの「ありたい姿」に言及。スバルのありたい姿は「笑顔をつくる会社」であるとし、そのためにカーボンニュートラル社会の実現に取り組んでいく。

 そのための考え方となるのが「柔軟性と拡張性」。バッテリEVの拡充に加え、ストロングハイブリッドが含まれるICE系商品を強化していく。

 大崎社長は、「最終的にどんなクルマを選ぶのかは、お客さまが決めること」と語り、スバルとしてはスバルらしい選択肢を示していく。

 とくに内燃機関においては、水平対向エンジンとスバル独自の4WD機構「シンメトリカルAWD(All Wheel Drive)」であるとし、磨いてきた技術をもとに「安心と愉しさ」を提供している。

 スバルは、水平対向エンジンとAWDこの2つの技術にこだわり続けており、この技術を磨いていくことでスバルらしさを極めていく。

スバルの新型ハイブリッドユニット。トヨタのTHSを利用したストロングハイブリッドパワーユニット

 燃料についてはトヨタ、マツダとともにすでに取り組んでいるカーボンニュートラル燃料対応を進めていく。当初、BRZによる2.4リッター自然吸気エンジンで始まったスバルのカーボンニュートラル燃料対応は、スーパー耐久の富士24時間レースで第1ステップを終え、次戦のオートポリスからはFA24+ターボという高出力版での公開開発に移行する。カーボンニュートラル燃料は浸食性が高いため、高過給域でのオイル希釈が大きく出る傾向にあり、そのような特製などをレース現場で突き詰めていくことになる。

 また、電動対応については、今回トヨタのTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)を採用。2モーターハイブリッドによるストロングハイブリッドパワーユニットを展示した。

 そして、大崎社長がプレゼンで強く打ち出したのが、自動車産業でともに働く仲間であるサプライヤーたちへのメッセージだ。

「カーボンニュートラル社会の実現は、本日集まった3社だけでなく、オールジャパン、日本の産業界、社会全体で取り組む課題です。自動車に関しても、我々完成車メーカーだけではなく、自動車産業を支えるサプライチェーン全体、さらには自動車を取り巻く産業界全体で働く仲間を『誰一人置いていかない』。そして、多様な嗜好を持つお客さまも『誰一人置いていかない』。そういう姿勢で取り組んでいきます」と語り、カーボンニュートラル社会の実現のためには仲間とともに取り組むことが大切と呼びかけた。

マツダ 毛籠勝弘社長

マツダ株式会社 代表取締役社長兼CEO 毛籠勝弘氏

 マツダ毛籠社長は、ちょうど1年前に行なわれた広島G7サミットの紹介からカーボンニュートラル時代を語る。広島G7サミットで採択された「G7広島首脳コミュニケ」では、車両の電動化を進めることとあわせ、バイオ燃料や合成燃料を含む持続可能なカーボンニュートラル燃料を促進することが宣言されている。

 この後、世界におけるモビリティの流れが電動化一辺倒から、多様性を持ったものに変わっていき、現在地から振り返れば広島G7サミットが一つの転換点になっていたのが分かる。

 毛籠社長は、その広島G7サミットの取り組みと、自社のマルチガスソリューションを紹介。電動化時代における内燃機関に関して、マツダにはロータリーエンジンというユニークな内燃機関があることを示した。

マツダの新型2ローターロータリーエンジン

 このロータリーエンジンの特徴として、小型・軽量・高出力に加え、燃料の雑食性があるという。ロータリーエンジンの燃料として水素やCNGを研究・テストしてきた実績があり、またコンパクトなことから電動化ユニットとの組み合わせもしやすいという。

 つまり、電動化時代におけるマツダのユニークな内燃機関としては、ロータリーエンジンを位置付ける。

 今回、マツダが展示したロータリーエンジンは、8C型ロータリーエンジンを2基接続したツインロータリーエンジン。かつて、市販車に搭載されていた、13Bや12Aと同様の形式となったもの。ただし、高さ方向が異様に低く、オイル供給方式をドライサンプとし、さらにかつての市販車同様に縦置きとなっていた。

 毛籠社長は、「最後に、このロータリーエンジンは、マツダの代名詞ともいえるエンジンだと思っています。このロータリーエンジンを社会に広く貢献できる技術として活用できるようにすることが、この時代における私たちの使命だと思っています。飽くなき挑戦のスピリットで取り組んでいきます」と、ロータリーエンジンを、電動化時代に有用なエンジンとする技術開発に取り組んでいくことを明言した。

3社同時発表の裏にあるもの

東京オートサロン2024でプレゼンテーションを行なう豊田章男会長

 トヨタ、スバル、マツダはなぜこの時期に電動化時代の内燃機関を発表したのだろう? もちろん、その一つは冒頭に触れていた、“普通のクルマ好きのおじさん”として行なわれた豊田章男氏による東京オートサロン2024のプレゼンテーションだ。豊田章男氏は、自工会の会長を退任したことから「ようやく私は“普通のクルマ好きのおじさん”に戻ることができた」と語り、普通のクルマ好きとして「エンジンを作ってきたみなさん、エンジンを作り続けましょう! これからもみんなの力が必要なんです! 今までやってきたあなたたちの仕事を絶対に無駄にはしない!」と強烈に呼びかけた。

 豊田章男氏を普通のクルマ好きのおじさんと位置付けるのは無理があると思うが、普通ではないにしろクルマ好きのおじさんであるのは間違いないだろう。そのクルマ好きとして、多様な未来を志向し、そのために内燃機関の役割はまだあると語る。自身が水素タンクやカーボンニュートラル燃料を背負って走り、ドライバーや技術者とともにカーボンニュートラル時代をたぐりよせている。また、トヨタの社長としてはハイブリッド技術をしっかり利益の出るものとして、トヨタの決算が営業利益5兆円を超える礎を作り上げた。ある意味、結構未来が見えているクルマ好きのおじさんが、本気でエンジンを作りを呼びかけ、本気で自動車の未来を作っていく仲間たちによびかけていたのが、東京オートサロン2024になる。

 トヨタですら、この呼びかけで開発が加速したといい、スバル、マツダにおいても、大きなきっかけになったという。1月に発表して、あれこれ作業して形にするのにかかった時間が4か月となるのだろうか。

 もちろん、富士24時間レースにおいてカーボンニュートラル時代に共に挑んでいく、“共挑”を行なった後というのもあるだろう。ともに開発をしていくことで、カーボンニュートラルの内燃機関に必要なカーボンニュートラル燃料の開発を促進。さらに、トヨタ佐藤社長はその開発する燃料にも自動車OEMからリクエストできるというのが大切だという。

 これまでは燃料メーカーが製造した燃料に、自動車OEMが合わせに行っていたが、今回は共同でエンジンにとって望ましい燃料を開発できる。時代の転換点ならではの取り組みができることになる。

 また、3社の社長が語っていたのが、排気ガス規制に対する取り組み。これらのエンジン群は、現在の排気ガス規制を見ているのではなく、ユーロ7など将来の排気ガス規制を考慮して設計されている。たとえばトヨタの400馬力級スポーツエンジンも、現在の排気ガス規制での値であり、将来の排気ガス規制では出力的に厳しくなるという。そこを電動化で補う、共通の問題を持ち寄るという形で越えていきたいと語る。

 今回、3社での発表となったのは、その排気ガス規制が大きく影響しているようだ。従来の個社による知見や取り組みでは、排気ガス規制を越えていくのがとても大変となり、複数社で取り組むことで排気ガス規制を越えていこうとしている。

 そのために大切となるのは、内燃機関関連製品を製造しているサプライヤーで、今回の発表により3社が本気で内燃機関に取り組む姿勢を見せることで、サプライヤーにも内燃機関開発への投資をよびかけている。

 実際、トヨタ佐藤社長は内燃機関を手がけるサプライヤーやサプライチェーンに関する質問に答える形で、「まず今ご指摘のサプライチェーン、本当に大切なポイントだと思っています。自動車産業、大変すそ野の広い産業ですし、内燃機関に限っても、例えばティア1のお取り引きをさせていただいている会社さまだけでも100社を超えていくことになると思います。そういった各社さまと一緒に未来を作っていくための、まずベクトルを宣言するということが我々大事だと思ってまして、今日の場を持たせていただいています。内燃機関を見ると一緒に作りましょうという宣言です」と語る。

 佐藤社長はそのときに大切なのは、「今、内燃機関が存在しているものがそのままでいいわけではないんです。変わっていかないといけないのは間違いない。それは内燃機関のソリューションだよねと言った瞬間に、技術開発の手が止まってはいけない。どんな未来を作っていくのかっていうことをOEMとして責任を持ってお示しをして、一緒に変えていくということだと思います。数的な問題ですとか、3社にとってもそれぞれサプライチェーンがございますので、そういった横連携ですとか、ある意味そのサプライチェーンの活性化、あるいはさらなる発展のために連携できる、サプライチェーンの中での競争テーマがあるんじゃないかというふうに思っています。そこまで視野に入れて取り組みを進めていきたいと、そのように思っています」といい、各社のサプライチェーンの横連携や活性化を志向していることが背景にあるとした。

 マツダ毛籠社長は、「自動車産業の場合はサプライチェーンが極めて重要で、サプライヤーさんがいないとクルマができてこない、こういう関係にあります。サプライヤーさんに部品を供給していただかないと、我々はクルマを作れないと、こういった関係になるわけです。1社で『内燃機関をがんばるぞ!』と言っても、受け取る側から見ると『ホントかしら?』と、こういうふうに思われる方もいらっしゃるのではないかと思います。こういった公式の場で、3社で、『将来を見すえて自動車産業の国際協力競争力をこのように高めていきたいですね』というお話をさせていただくことで、佐藤さんがお話になったような道しるべというか、基準というか、そういったものをお示しできるというところが今後のサプライヤーさんとの対話にとって、非常に重要なメッセージになるのではないかと考えております」と、3社メッセージの大切さを語る。

 スバル大崎社長は、「内燃機関、おそらく今のままではなかなかこれから先のソリューションにはならないだろう。内燃機関も電動化の技術と組み合わせて、内燃機関自身もやっぱり変わっていかなければいけない。そういう意味ではカーボンニュートラル燃料も同じで、今のガソリンを単純にカーボンニュートラル燃料にしても内燃機関というのは生きない。だから内燃機関も磨いていかなければいけない。さまざまなサプライチェーンに対しても、これからも我々と一緒になって技術開発をやっていく、こういうメッセージを強く出して、ともに未来を作っていくっていうことを、出していきたいなと思っています」語り、3社トップがそれぞれの言葉で、強くサプライヤーに向けてメッセージを贈った。

 今回、調達の統合という話は一切なかったものの、部品の共通化に関しては、必要であれば行なっていきたいという。トヨタ佐藤社長は、浸透性が高いことから技術的に難しいオイルシールの例を出し、「たとえば、オイルシールのようなカーボンニュートラル燃料に対する特殊な技術を持つ製品は共通で利用してもいいかもしれない」といい、部品レベルでの共同開発の可能性はあるという。そのほか、各社が技術開発の難しさを指摘しているように、排ガス関連の部品、具体的にはコスト上昇の要因となるキャタライザーなどもその可能性を持つ部品になるだろう。

 3社はそれぞれの形で電動化時代、カーボンニュートラル燃料対応を見すえた新型エンジンを展示した。3社でサプライヤーに呼びかけることで、より高性能な新時代のエンジンを開発していこうとしている。発売はスバルのパワーユニットが近い印象だが、トヨタの新型エンジン、マツダの新型2ローターなど、搭載車両と合わせ、その登場が楽しみな製品だ。