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スズキの電動モペッド「e-PO」ってどんなモデル? 近距離移動のための原付一種新モビリティに乗ってみた
2024年9月26日 06:00
発売に先駆けて開発車両に触れた
スズキは、現在開発が進められている新ジャンルの原付一種モビリティ「e-PO(イーポ)」の事前説明会を開催した。
e-POは買い物や通学、通勤など日常の移動手段として便利な存在となっている小型コミュータークラスに属している。2023年7月からは新たな車両区分として「特定原動機付自転車」が設定されたが、e-POはこの枠ではなく「原付一種」の車両として開発されている。
e-POとは?
e-POの説明会では、まずe-POの開発を担当したスズキ 二輪営業・商品部 チーフエンジニア 福井大介氏が登壇。福井氏は2005年にスズキに入社して以来、小型から大型まで幅広い二輪車のエンジン開発に携わってきた人物で、とくにエンジン燃焼の研究をしてきたという。そんな経歴を持つ福井氏が電動モビリティの開発に携わることについて「われわれスズキが、カーボンニュートラルに対して本気で取り組んでいる姿勢と受け取っていただければ幸いです」と語った。
e-POは「普段使いからレジャーまで、身近な移動をもっと自由に!」というコンセプトで、電動アシスト自転車とEVバイクをかけ合わせた新ジャンルの原付一種 電動自転車(電動モペッド)。電動アシスト自転車より強力なアシスト力を持ちつつ、ペダルをこがずとも走行ができるモビリティとなる。また、e-POは従来の原付スクーターと比べるとかなり軽量な車体になっているのが特徴だ。
電動モペッドであるe-POの走行モードは3つある。最大の特徴は「フル電動走行モード」で、これは従来の原付スクーターと同じようにアクセル操作だけで進むことが可能なもの。次に「アシストモード」。これは軽いペダリングで力強いアシストが得られるというもの。なお、フル電動走行モードのときでもペダルをこいでさらに加速させることができるが、この際にモードの切り替え作業は必要ない。最後に「ペダル走行モード」があるが、これは文字どおりペダルをこぐ踏力のみで走るものとなり、用途としてはバッテリ残量が減ってきたり、バッテリが切れたりした際の使用を想定したものとのこと。ただ、注意したいのがe-POは原付一種ということ。バッテリが切れた状態であってもペダルをこいで歩道を走行することはできない。
開発時は社内のテストコースを走行するだけでなく、一般公道を走ることで、実際の路面状況や交通環境下においてのさまざまなデータを取得した。福井氏も調査に参加していて印象としてはよいものを感じたという。
e-POが使用しているドライブユニットは、パナソニック サイクルテック製の電動アシスト自転車に使われるカルパワーユニットだが、アシスト力の設定は電動アシスト自転車用より強く設定しているのでこいだときの加速感は電動アシスト自転車のそれとはかなり差があり、一般交通の中でも不安なく走れたという。
また、信号や一時停止の多い都市部では加速のよさに加え、取り回ししやすいことも大きなメリットでとても使い勝手がよく感じたそうだ。さらにe-POは小柄なので歩道と車道の区分けがない道路でも歩行者や自転車に威圧感を与えないという印象も持ったという。
ただ、気になった点もあった。日本において電動モペッドはまだ認知度が低いようで、車道走行をしていても他の交通のドライバーから原付一種として認識してもらえないケースが多いとのこと。それだけに車体開発のほかにも周囲からの認知度拡大にも取り組む必要があると感じたそうだ。
e-POの搭載技術について
続いてはe-POの開発を担当したスズキの二輪パワートレイン技術部 技術企画課 神谷洋三氏による技術説明が行なわれた。
神谷氏はスズキに入社以来、エンジン開発を担当。初代ハヤブサやユニークな原付スクーターとして人気だったチョイノリの設計を担当したという。
神谷氏によると、スズキでは原付一種のかわりとなるカーボンニュートラルな乗り物を模索するなかで、新しい移動手段としてユーザーに価値ある製品とはなにかを考えることからe-POの開発が始まったという。そしてスズキが作る以上はただの移動手段ではなく、走る、曲がるの要素を重視ししつつ、スズキの行動理念である小・少・軽・短・美という点も意識して開発を進めたとのこと。
e-POに使用しているドライブユニットはパナソニック サイクルテック製の最新のドライブユニットであるカルパワーユニット。電動アシスト自転車では法律上、アシストの力を人力の2倍としているのでカルパワーユニットを積むパナソニック サイクルテックのeバイクはそれに準じた特性になっているが、e-POは電動モペッドなので電動アシスト自転車の決まりは関係ない。そのため人力に対して3倍の力を発揮する設定となっている。
また、電動アシスト自転車では24km/hまででアシストが切れる(24km/hに近づくにつれ、アシスト力も低下する)が、e-POはそういった制限はないし速度に応じて力を弱める制御もないのでカルパワーユニットの能力を引き出している。フル電動走行の快適さを十分に味わえる仕様だ。
実際にe-POに乗ってみた!
今回の説明会では、会場内の広場に設けた特設コースでe-POに試乗する機会も用意されていた。
試乗した印象だが、まずは取り回し。当たり前だがいわゆるミニベロの電動アシスト自転車と同じ構成なので車体は軽い。駐輪中に向きを変えるときもオートバイの移動のような「押し引き」は必要なく、ヒョイと持ち上げられるものだ。狭い駐輪場で移動させたいときや、しまう際に門の中に入れるなどでも負担はない。ここは原付スクーターにはない扱いやすさだ。
そして、またがってみてもやはり自転車。フレームのトップチューブはヘッドパイプからシートチューブに対してまっすぐ伸びているが、小径タイヤでありトップチューブの位置も低いので、背の低い人やスカートをはいた女性でも乗り降りに苦労はないだろう。
e-POはペダルをこいでの発進もできるし、最初から電動で走り出すこともできる。最初はまずペダルをこいで走り出したが、この時点でアシストが効いているので軽くこぐだけでスイスイと走り出せる。ちなみに筆者はパナソニック サイクルテックのカルパワーユニットを搭載した電動アシスト自転車も乗ったことがあるが、そちらと比べても軽いペダリングで速度が乗るという印象。この力強さであれば登り坂の途中からでも軽々と坂を上がっていけるだろう。
走り始めてからペダリングを止めて右手グリップの内側にあるスロットルを回してみた。それもいきなりワイドに開けてみた。モーターの特性的に「ドン」と加速すると思いきや、素早く加速するが急加速的な挙動ではない。そのままスロットルを開けているとスピードメーターは34km/hあたりの数字を表示した。
カーブが迫ってきたので減速。e-POはフロントにディスクブレーキを採用しているが、油圧ではなくてワイヤー式なのでブレーキレバーの握り始めの効きに若干甘いところがある。ただ、軽量で小径タイヤのe-POではその初期の効きの甘さがブレーキのかけやすさにつながっているので、強めにかけて見ても不安は感じなかった。
そしてカーブの立ち上がりでスロットルを開けていくと、ここでも加速感は「スルスル」といった感じの自然なものだった。試乗後に出力特性について聞いてみたところ、リアサスもなく、タイヤのグリップも高くないことから急加速的な挙動をしないよう、マイルドに加速する設定にしているとのことだった。ただ、そこはオートバイメーカーだけにマイルドではあるがスロットルを開けるという操作にたいして気持ちいい加速の伸びになるよう細かい味つけがされているようだ。
次にフル電動走行中にペダルをこいでみたが、これは速い。スロットルを回すのみのフル電動走行のときと比較しても制限速度までかかる時間が短いので、例えば幹線道路の信号待ちで先頭に並んだときなどでも素早く加速でき安心感につながると感じた。
とはいえ小径車であるだけに速度が乗った状態での走行は怖さもあるので、フル電動走行時にこぐことを追加する乗り方は、他の交通と絡むリスクを回避するためのスクランブル加速的に使う能力と考えたほうがいいだろう。
といったあたりがe-POに乗った印象だ。走行性能は以前あった廉価版の原付スクーターとあまり差がないと思うので、原付スクーターで問題なく乗れていたエリアであれば十分かわりの乗り物になるだろう。
ただ、スズキの調査走行結果にもあったように、電動モペッドが原付一種であることの認知度がまだまだなので、そこにいろいろな問題があるのも事実。それゆえに電動モペッドに対して厳しい意見もあったりする。
でも、乗り物としては便利であることは確かだ。また、おそらく車両価格も手頃になるので、坂道が多い地域に住んでいたり、近距離の通勤などで低コストかつ便利な移動手段を求めていたりする人にはちょうどいい乗り物になるはず。それだけにスズキという責任あるメーカーが作る電動モペッド「e-PO」が正式に発売されて、正しい使い方や認知度が広まっていくことに期待したい。