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エネオス、CO2とグリーン電力で生み出した水素由来の合成燃料一貫製造に日本初成功 菅前首相や甘利議員も参加し記念式典

ENEOS中央技術研究所内にある「合成ガス製造設備」の前で行なわれた「合成燃料製造実証プラント」完成式典

 エネオス(ENEOS)は9月28日、神奈川県横浜市にあるENEOS中央技術研究所内に、CO2とグリーン電力から作った水素を原料に使う日本で初めての合成燃料を一貫製造する実証プラントを完成させ、完成式典を執り行なった。

 エネオスの合成燃料は、風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーによる電力で水電解して発生させた水素と、大気からDAC(Direct Air Capture)で回収したCO2を逆シフト反応でCOに還元。さらにCOと水素をフィッシャー・トロプシュ反応でFT合成して合成粗油を製造し、規格適合化を図るアップグレーディングを経て、乗用車やトラックを走らせるガソリンや軽油、航空機を飛ばすジェット燃料、タンカーなどで使われる重油を製造。陸海空すべての燃料が製造可能で、カーボンニュートラル社会の実現に寄与する技術となっている。

 このほか、水素とCO2をプラントで合成して生み出される合成燃料は、原油から精製される化石燃料に含まれる硫黄化合物や窒素化合物、重金属などを含まず、より環境負荷の低い燃料となっており、液体燃料である合成燃料は既存インフラを活用でき、導入時に大きな負担がなく幅広い領域や業界での利用も期待できる点もメリットとして挙げられている。

完成式典後に行なわれた実証プラント見学ツアーで公開されたエネオスの合成燃料
COと水素をフィッシャー・トロプシュ反応させて生み出す合成粗油は、ガソリンなどの元になる「粗ライトオイル」と含まれる炭素数の多い「粗ワックス」の2種類に分かれる。左側に置かれているのは、フィッシャー・トロプシュ反応に使われるFT触媒
地中で精製される原油は硫黄分などが混ざっており、ガソリンや軽油に色が付いているが、プラントで人工的に精製される合成燃料は無色透明である点も特徴となっている

 合成燃料製造実証プラントでは、9月3日に合成燃料で最初の一滴となる「ファーストドロップ」を採取。これによって同実証プラントは合成燃料を一貫製造できる日本初の実証プラントになっており、原料に「グリーン電力から作られた水素」を使用する点も日本初としている。

 実証プラントでは現在、1BD(1日につき1バーレル)の製造規模で実証を進めており、今後は事業化に向けてプラント規模を1万BD程度まで拡大していく計画。エネオスではカーボンニュートラル社会実現に向けた日本の新燃料として、さまざまな技術開発を行なっていくほか、社会的な認知度向上に向け、2025年4月に開催される大阪・関西万博で、実証プラントで製造された合成燃料の軽油で大型車両を走らせるデモンストレーションを行なうべく計画を進めているという。

実証プラント見学ツアー

水素やCO2を作り出す「原料供給エリア」

 式典に加え、実証プラントの解説が行なわれた。

外部から供給される「グリーン電力証書」付きの再生可能エネルギー電力で水を電気分解し、水素を発生させる「水素製造設備」。固体高分子型水電解方式(PEM型)を採用
大気中からCO2を回収するDAC(Direct Air Capture)は、スイスのクライムワークス製を採用
原料供給エリアで製造された水素とCO2は別々のパイプで次の工程に送られる
原料供給エリアの解説パネル
水素製造設備は60m3/hの製造能力を持ち、DACでは1日に38m3のCO2を回収できる
水素とCO2を触媒反応させる「合成ガス製造エリア」
「合成ガス製造設備」の本体
合成ガス製造エリアの解説パネル。合成ガスの製造能力は60m3/h
水素とCO(一酸化炭素)を使って合成粗油の「液体炭化水素」に変換する「FT合成エリア」
中央に立つシルバーの筒がFT反応設備。粉末状のFT触媒が効率よく反応できるよう、内部で撹拌が行なわれている
変換された合成粗油を貯蔵するタンク。常温で液体状となっている粗ライトオイルは手前側のタンク2本に収納され、常温では固まってしまう粗ワックスは奥にあるシルバーの過熱装置が巻き付けられた2本のタンクで保管される
粗ライトオイルと粗ワックスを取り出すためのディスペンサー
FT合成エリアの解説パネル。合成粗油の製造能力は1日1バーレル(約159L)
合成粗油をガソリンや軽油、ジェット燃料などに分けて製品化する「製品化設備」
合成粗油を各種合成燃料に分ける流動接触分解設備
流動接触分解設備では合成粗油の反応で使用した触媒を生成油と分離し、触媒再生塔で再生して再利用するサイクルを構築している
流動接触分解設備の再利用サイクルを説明する展示品

プラント完成式典

ENEOSホールディングス株式会社 代表取締役社長 宮田知秀氏

 プラント完成式典では、ENEOSホールディングス 代表取締役社長 宮田知秀氏による開会あいさつを実施。

「私どもエネオスグループでは、エネルギーや素材の安定供給とカーボンニュートラル社会実現の両立に向けて挑戦するという長期ビジョンのもと、持続可能な脱炭素エネルギーへの転換、すなわちエネルギートランジションを重要な取り組みとして掲げさせていただいております。“2050年のカーボンニュートラル”は単一のエネルギーのみでは成し遂げられないと考えており、エネオスグループでは再生可能エネルギーである水素やバイオ燃料、CCSといった多様な選択肢を備えることで社会全体のエネルギートランジションを実現すべく、取り組みを進めております」。

「本日の主役である合成燃料は、水素と二酸化炭素を原料としたカーボンニュートラルな燃料です。皆さまの生活を大きく変えることなく、従来の石油製品とまったく同じようにご利用いただけるところが大きな特徴です。エネオスグループは国のご支援をいただきながら合成燃料の技術を着実に進展させてまいりました。その成果として、この中央技術研究所内に実証プラントを建設し、運転を開始するに至りました。こうして完成式典を開催させていただくことができ、誠にうれしく思っております」。

「本日は実証プラントや製造した合成燃料を間近にご覧いただき、実際に自動車に充填して乗車いただくイベントも用意させていただいております。空気中の二酸化炭素から航空機やさまざまな車両を動かす燃料を生み出す、そんな夢のような技術が世界のどこかではなく、この日本でまさに手の届くところまで来ているということを皆さまにご体験いただきたく思います。“『今日の当たり前』を支え、『明日の当たり前』をリードする。”という私どもエネオスグループの決意のもと、合成燃料を『明日の当たり前』にすべく引き続き取り組んでまいります」とコメントした。

前首相の衆議院議員 菅義偉氏

 国策であるカーボンニュートラルに向けた施策に取り組んでいる国会議員も多数臨席した。

 第99代内閣総理大臣を務めた菅義偉氏は「私は総理大臣の在任中に、全人類共通の課題として地球温暖化問題にしっかりと向き合う必要がある。また、温暖化対策は経済活動にとって制約ではなく、むしろ新たな投資やイノベーションを引き出すといった発想の転換を行なうべきだと考えました。そこで、閣内にはさまざまな意見がありましたが、最終的には誰とも相談せずに『2050年のカーボンニュートラル実現』と自分で判断し、(所信表明演説が行なわれた)本会議場で宣言いたしました」。

「一方で、この挑戦をかけ声だけで終わらせないためには、皆さんにも本気になって取り組んでいただくことが必要です。そこで、政府が口先だけでなく、リスクを取って実際の行動を見せる必要があると確信して、私が自ら財務省に2兆円のGI(グリーンイノベーション)基金を創設するよう強く求めました。結果としてそのようになりましたが、さらに今日では、この基金が現政権の予算措置によって2兆8000億円になっております。この基金を使い、ようやく目の色を変えてさまざまなプロジェクトが真剣に走りはじめたと思っております。政府もこれからの10年間で150兆円を超えると言われるGX投資を官民協調で実現するために、20兆円規模のGX経済移行債を発行すると決めております」。

「カーボンニュートラル実現に向けては、航空機、自動車、船舶など運輸分野での脱炭素化が重要です。その解決の鍵となるのが、申し上げるまでもなく電化と水素、合成燃料の活用です。合成燃料は航空機、自動車、船舶などにそのまま使えて、ガソリンスタンドやタンクローリーといった既存のインフラを活用できる、日本から世界に発信できる次世代の燃料であると思っております」。

「この普及に向けては製造コストの低減が課題になります。エネオスにおかれましては、先ほど紹介したGI基金を活用し、コスト低減に向けた研究開発に日々挑戦しておられると承知しております。その成果として、ここ横浜において実験プラントの完成にたどり着かれました。合成燃料の第一人者であるエネオス技術陣の皆さまにおかれましては、このプラントにとどまらず、さらなる研究開発を進めていただき、合成燃料の大量生産に向けてステップアップしていただくことを大いに期待して、私のあいさつとさせていただきます」とコメント。自身が設立に携わったGI基金を活用するエネオスの合成燃料のさらなる発展に期待を寄せた。

国産バイオ燃料・合成燃料推進議員連盟 会長 衆議院議員 甘利明氏

 自由民主党の国産バイオ燃料・合成燃料推進議員連盟で会長を務める甘利明氏は「昨年の春ごろだったでしょうか、合成燃料の“最初の1リッター”ができあがり、それを使って実際にクルマを走らせることを富士スピードウェイで経験しました。よせばいいのに、元F1ドライバーである(自民党所属の衆議院議員)山本左近がレース中と間違えたのかスピンターンまでしたものですから、同乗者からは『2度と乗りたくない』という感想も漏れたようです。ただ、これはレースに使っても問題ないということを証明してくれたわけでございます」。

「本日は日産1バーレルの量産体制がスタートしたということで、あとは要するに、実用に耐える価格にしていくということです。先般、宮田社長に『今買うといくら?』と聞いたところ、1万円と言われました。1万円でも使える人にはどうぞお使いいただければと思うのですが、これを1000円に、そして200~300円にして、実用に供する生産ラインの構築が待っているわけであります。先ほど菅前総理が紹介されたGI基金、これが現在はGX経済移行債につながって、これを使ってできるだけ早くクルードオイル(原油)と同じ価格にしていくことが政官民あわせて努力するところであります」。

「2050年になると内燃機関のエンジンは一掃されるとEUは言っていましたが、ベンツやBMWは方向転換をして、やっぱりエンジンもしっかりと残していくことになりました。ハイブリッドカーが売れまくっているところを見て、まずいと思ったところもあるのでしょう。内燃機関のエンジンは、燃料をクリーンにすれば極めてクリーンな移動手段になります。一方で、EVでも使う電気のCO2依存度が高ければ意味を成さないとも言われることもあります。一次使用としての燃料のクリーン化、グリーン化も1つの解であろうと考えています。それに関して、政官民で結束して1日でも早く一般使用に耐える価格にしていく努力をこれからしっかりしていかなければならないと思います。この式典が合成燃料を1リッター200~300円で提供できる日につながっていくことを心から祈念してお祝いの言葉とさせていただきます」と語り、一般普及に向けた低価格化を実現するため政官民で取り組んでいく姿勢を示した。

総合エネルギー戦略調査会 会長 衆議院議員 梶山弘志氏

 同じく自民党で総合エネルギー戦略調査会の会長を務めている梶山弘志氏は「先ほどもお話しがありましたが、2020年の10月に、菅総理が就任した所信表明の中で、『2050年カーボンニュートラル、ネットゼロ』が宣言されました。資源のない日本では技術開発をしなければならないということでGI基金が設立されたわけですが、当初財務省では1000億円とか2000億円という話でした。それではとても追いつかないということで、総理のひと声で2兆円という基金が誕生しております。14の重要分野を中心として新たな技術開発をしていこうと、そして2050年のカーボンニュートラルを目指して頑張っていこうということでありました」。

「ただ、当時は日本国内でもまだ見ぬ技術を夢見ながら、ガソリン車廃止の時期を議論するような状況でした。つい4年前ですが、そんな時代でした。そして今では現実を見ながら、やはりもっと多様な道筋を考えなければならないという時代になってきたなと感じております」。

「IEA(国際エネルギー機関)の直近の資料では、2000年からの比較で道路交通部門でのCO2削減量は日本が-29%とトップになっています。アメリカは+5%、ドイツは-2%、イギリスは-12%で、環境の議論が進んでいる国でもこのような状況です。日本は一歩一歩着実に技術開発を進め、これまでの技術の積み重ねによってCO2を減らしているところであります。やはり多様な道筋を、この分野でもしっかりと見極めていっていただきたい。そしてエネオスにはトップランナーとして自動車の燃料、そして航空燃料、さらにさまざまな燃料に使えるようしっかりと技術開発をしていただきたいと思っております」。

「もちろん、われわれ自由民主党もしっかりとエネルギーの後押しをしていきたいと思います。今日のプラント完成が第一歩、そして2030年、2040年、2050年としっかりと数値を積み上げながら、2050年のネットゼロを迎えられるよう一緒に努力してまいりましょう」と2020年からの4年間をふり返り、取り組みを続けていく意気込みを口にした。

経済産業大臣政務官 石井拓氏

 また、経済産業大臣政務官の石井拓氏は「わが国は、自動車などの運輸部門の脱炭素化に、電動化のみならず液体燃料の活用によるマルチパスウェイの方針を採っております。私の地元である愛知県も、トヨタ自動車をはじめ自動車産業が盛んな地で、大変期待していると聞いております」。

「このようなわが国の考え方を世界とも共有するため、私は経済産業大臣政務官として今年6月にドイツ・ベルリンで開催された合成燃料に関する国際会議に出席してまいりました。この会議は、ドイツのデジタル・交通省、リトアニアの運輸通信省とともに、わが国の経済産業省も共催として参画し、16か国の政府関係者、約70の企業研究機関などが参加して盛大に行なわれました。私はこの会合の場で、カーボンニュートラル社会の実現に向けては『温室効果ガスの削減』『経済の成長』『エネルギー安全保障』の3つを同時に確保する『トリプルブレイクスルー』が重要であり、貯蔵性、可搬性に優れた合成燃料は、まさにトリプルブレイクスルーに叶う技術であることを強く主張してまいりました」。

「この考えを有言実行として世界に発信していくためにも、今後とも合成燃料の商品化、商用化に向けて官民一体となって取り組んでまいりましょう。政府としても引き続き、菅前総理が作られたグリーンイノベーション基金の活用などをつうじ、しっかりと支援してまいります。結びにあたり、この合成燃料の実証プラントに大いに期待し、そしてこの合成燃料を待っている方々に届くことを祈念してごあいさつとさせていただきます」と述べ、政府としても合成燃料に注力していることを説明した。

ENEOS株式会社 代表取締役社長 社長執行役員 山口敦治氏

 式典の最後に登壇したENEOS 代表取締役社長 社長執行役員 山口敦治氏は「原料となるCO2と水素から、1日にドラム缶1本分の合成燃料を製造できるプラントはわが国初であり、世界でもトップレベルの技術を具現化できたと考えております。この成果は、関係者の皆さまの多大なるご支援、ご協力によって得られたものです。日ごろからご支援をいただいております国会議員の皆さま、経済産業省さま、NEDOさま、石油連盟さま、設計・建設をはじめ、技術面でご協力をいただいている千代田化工建設さま、千代田エクスワンエンジニアリングさま、日鉄エンジニアリングさま、そのほかすべての関係者の皆さまにあらためて心よりお礼を申し上げます」。

「ただ、これがゴールではありません。社会の皆さまに合成燃料をお届けするためには、今回の規模ではとても足りず、より大きな規模を目指す必要があります。そのための大きな課題がコストです。私たちはこれまで、地球が長い時間をかけて生み出した資源である原油を利用してきました。一方、合成燃料はCO2から人工的に、しかも短時間で作りますので、どうしてもコストがかかります。もちろん、われわれはコスト削減の努力を継続していきますが、合わせてこのコストを社会全体で負担するための仕組みが必要です。その点を社会の皆さまに広くご理解いただくためにも、実証装置によるデモを役立ててまいる所存です」。

「本日、皆さまからいただいたたくさんのお言葉から、皆さまのご期待に応えるべく、私どもエネオスが合成燃料を社会実装する役目を果たさなければならないと、改めて強く決意いたしました。今回の実証プラントでの技術開発を足がかりに、合成燃料の社会実装へとつなげていくためにも、引き続き国からのご支援と、環境企業や研究機関の皆さまのご協力、そして社会の皆さまのよりいっそうのご理解をお願いさせていただきまして、私からのごあいさつとさせていただきます」とコメントして、日本社会全体に向けても理解を求めた。

既存の車両やインフラを使える利便性を来賓も体感

式典中に実施されたテープカットの様子

 このほかにも式典では、実証プラントの完成を記念するテープカットや合成燃料のファーストドロップを使った車両への給油デモ、合成燃料を給油した車両を運転する走行体験などが行なわれ、合成燃料が既存の化石燃料と変わりなく使えることをアピールした。

甘利議員と宮田社長による合成燃料の給油デモ
甘利議員による走行体験シーン
来賓の衆議院議員 大岡敏孝氏
走行体験のためハリアーに乗り込む梶山議員
ENEOS中央技術研究所の入り口近くにある駐車場を使った周回コースで走行体験を実施
梶山議員と大岡議員は同時にコースインして走行体験を行なった