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トヨタ、水素燃焼エンジン搭載ハイエースをハイブリッド化 航続距離を1.2倍に
2024年11月17日 08:25
- 2024年11月16日 発表
トヨタ自動車は11月16日、水素燃焼エンジンにTHSハイブリッドユニットを組み合わせた水素燃焼エンジン搭載ハイブリッドハイエースをスーパー耐久最終戦富士で公開した。この車両は、前年に公開した水素燃焼エンジン搭載ハイエースをハイブリッド化したもの。水素エンジン搭載車が1年で水素ハイブリッド車に進化したことになる。
水素燃焼エンジン搭載ハイエースは、トヨタが水素燃焼エンジン搭載の商用車を実証実験するために作り上げたもの。ベースとなったパワートレーンはランドクルーザー300向けのV型6気筒3.5リッターターボエンジン(V35A-FTS型)で、そこに水素インジェクターなど水素燃焼エンジンとして必要な装備を行なっている。
水素燃料タンクは、ハイエースという大きさが十分にある車両をベースとしているため70MPaの高圧水素タンクを使用。出力は120kW(換算で163.2PS)を実現していた。
トヨタはこれをオーストラリアで実証走行。実際の商用利用を行なうことで水素商用車の実績を積み上げてきた。
トヨタ自動車 Chief Technology Officer兼副社長である中嶋裕樹氏は、「みなさんおぼえていますでしょうか? ちょうど1年前、23年の11月にグローバルハイエースを使った水素エンジン車の走行を体験していただきました」と、1年前の世界初公開について言及。「1年間ずっと走行を続けております。オーストラリアの過酷な環境、それから都市部、さらには物流とさまざまな場所でお付き合いいただき、たくさんの豊富なデータをいただいてまいりました」と実証実験で得られたものを語る。
先ほども紹介したように、水素ハイエースの最高出力は120kW。航続距離は200kmとなっており、決まったルート間を走行する商用利用であればとくに問題はないものの、水素が減ってきた場合に給水素に行く手間がお客さまの声として上がっていたという。給水素可能な水素ステーションインフラがまだ整っていないため、わざわざ(ルートを外れて)給水素に行くというのが、インフラの整ったガソリン車やディーゼル車に比べてデメリットとして指摘されたとのこと。
そこでトヨタはハイブリッド化を決意。FRのハイブリッドクラウンに搭載されているマルチステージTHSを搭載することで水素エンジン+ハイブリッドというパワートレーンを実現した。
THSのマルチステージハイブリッドは、2モーターで構成されるTHS IIシステムに4段変速のステップATユニットを組み合わせたもの。レクサスLSなどにも搭載され、擬似的に10速の変速ステップを作り出している。
水素エンジン車は、H2ICE(Hydrogen 2 Internal Combustion Engine)と称されるとおり、水素を燃料に用いた内燃機関車となる。そのため内燃機関のデメリットであるゼロ発進時の出力調整の難しさ、ブレーキ時のロスエネルギーなどはガソリン車やディーゼル車(よく考えると、軽油車ですね)といった問題を持っており、水素エンジン+10速ATのハイエースでは発進時や加減速時のスムーズさをもう1つと感じる部分があった。
これに最高出力132kWのハイブリッドユニットが組み合わさった水素ハイブリッド車は、発進時はモーターの力も使ってスムーズに加速。走行性能では、航続距離が250kmと1.2倍になるとともに、加速応答は25%もアップ。加速時のスムーズさを作り出すことが可能になった。
水素カローラや水素ヤリスなど、レースを前提とした水素エンジン車では限界領域の性能追及を行なっており、水素エンジンで用いる燃焼は水素ストイキの領域(λ=1、ガソリン燃料では14.7:1だが、水素では34.3:1)にある。一方、この水素ハイエースでは燃費やNOx対策のためリーンバーン領域(λがより大きい領域)で燃焼を行なっている。とくにNOx対策のためには燃焼温度を下げるリーンバーン領域の燃焼が必要で、燃焼の難しくなる過渡領域をハイブリッド機構によるモーターでアシストすることができる。
水素コンバージョンしたV35A-FTS型エンジンでは、リーンバーンを実現するためにより大きなタービンを持つターボを使用することで、リーンバーンに必要な空気量を確保している。後段の試乗インプレでも指摘しているが、大径ターボとなることで発生するネガを、ハイブリッド機構は補うように作られていた。
効率的な、水素エンジン+ハイブリッドという選択肢
実際に水素ハイブリッドハイエースに試乗してみたが、ゆっくりとアクセルを踏んだ際には水素エンジンが始動せずモーターでスムーズに加速。電動車でもあるハイブリッド車特有のゆるやかな加速ができる。商用車であれば、夜中の住宅街などで静かに走ることができ、このような能力は歓迎されるところだろう。
もちろんドンとアクセルを踏めば、水素ハイブリッドハイエースは120kW+132kWの出力を持っているため、120kWのみの水素ハイエースよりも力強く加速する。一般に内燃機関は低回転域のトルクが小さくなってしまうが、モーターは最初からトルクを出すことが可能で、この水素ハイブリッドハイエースではTHSならではのトルクミックスがうまくいっている感じを受ける。
水素リーンバーンのためタービン径が上がった水素ハイエースではアクセルレスポンスがつらくなっている部分があり、そこもハイブリッド機構が補ってくれた。
水素ハイブリッドハイエースではハイブリッドとの相性のよさが目立つ一方、マルチステージの変速には変速ショックを感じる部分があり、やや作り込み不足も見受けられた。聞けば1週間ほど前に完成したばかりということで、やっとお披露目にこぎ着けたギリギリの仕上がりとのことだ。
当たり前の話ではあるが、内燃機関であればアクセルを離したりブレーキを踏んだりした際に単に失ってしまう運動エネルギーを、ハイブリッド車であれば回生という形で電機エネルギーとして回収。それをモーターで運動エネルギーに変換することで効率的な走行ができる。
水素ハイブリッドハイエースにもその機構は期待されるところだが、試作車のため回生プログラムが組み込まれておらず、エンジンブレーキとは異なる回生感を得ることはできなかった。そんなところからも本当にギリギリで作り上げられたクルマであることが分かる。スーパー耐久最終戦という納期までに何とか仕上げた技術陣には、「試乗させていただきありがとうございます」と感謝の言葉を贈りたい。
ギリギリの仕上がりではあるものの、試乗した水素ハイブリッドハイエースでは、内燃機関である水素エンジン車のデメリットとして挙げられるエネルギーロス部分をハイブリッドという形で補える可能性をしっかり見せてくれた。さらに走行性能アップや質感アップははっきりと体感でき、航続距離も伸びるというハイブリッドのメリットを容易に想像できるクルマに仕上がっていた。
同じカーボンニュートラル商用車であり、水素を用いるものとしてFCEVも挙げられるが、FCEVではスムーズさや効率のよさはあるものの、連続高速巡航では内燃機関のよさがFCEVを上回ってくる。
トヨタのエンジンに詳しいS氏によると、およそ200kWあたりのところにそのポイントがあるようで、高出力、大トルクが必要な中・大型トラックになるとH2ICEのよさが目立ってくるようだ。
では、カーボンニュートラル車であるバッテリEVはというと、バッテリの質量エネルギー密度の低さが中・大型商用車ではネガになってくる。バッテリEVは走行してもエネルギー源の重量が減らないため、とくに大型トラックという形態になるとバッテリを運んでいるのか、荷物を運んでいるのか分からないパッケージになる。逆に水素であれば、乗用車ではネガになりがちな体積エネルギー密度の低さを、中・大型商用車は隠蔽できる。
簡単に言えば、大きくなりがちな高圧水素タンクを載せる場所が豊富にあるので、カーボンニュートラル商用車としてのポテンシャルが高くなる。同様の理由で長距離を飛ぶ航空機では、エアバスも液体水素航空機に可能性を見いだそうとしている。
中嶋副社長によると、H2ICEのよさはほかにもあるという。FCEVでは化学反応で水素からエネルギーを取り出すが、H2ICEでは水素を燃やしてエネルギーを取り出す。「水素エンジン車は水素を燃やすため、水素の純度が低くてもええ。80%程度の水素でも燃やすことは可能や」(中嶋副社長)と語り、FCEVのFCスタックでは問題となる水素の純度低下に対する耐性が強いという。
現在の水素ステーションではFCEVの車両を前提としているため、純度の高い(ISO14687-2で99.97%以上)水素を用いている。結果的にそれは水素価格にはねかえっており、水素が高価な原因ともなっている。
水素純度を低く抑えられれば、製造も容易となり水素価格が下がる可能性も高い。中嶋副社長はその点を指摘しており、にわとりと卵の関係ではあるが、H2ICEが大量に活躍するような場所であれば水素の普及に弾みがつくだろう。トヨタはそのような領域まで見つつ、水素ハイブリッド車を開発している。
なお、この水素ハイブリッドハイエースは、来年春にオーストラリアでの実証実験を開始。回生プログラムなどが組み込まれた形で、実際の使い勝手や問題点を確認していくことになる。日本では地域によって、水素エネルギーの余剰生産が行なわれている場所がある。日本でもそのような場所で実証実験ができれば、さらに水素車の開発はさらに加速していくだろう。水素ハイブリッド車両の普及のために、日本の一部地域での実証実験開始にも期待したい。