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ホンダ、AWSの生成AIサービス「Amazon Bedrock」を活用して最適な充電スポットを推奨するPoCデモ CES2025で公開
2025年1月17日 13:46
- 2025年1月6日〜9日(現地時間) 開催
本田技研工業は1月7日~1月10日(現地時間)に米国ネバダ州ラスベガス市で開催されたCES 2025に出展し、本格的なSDV(Software Defined Vehicle)であるバッテリEV「ゼロシリーズ」を発表して、会場となるLVCC(ラスベガスコンベンションセンター)西館の同社ブースで展示した。
ホンダはSDVの開発を行なうにあたり、CSP(クラウドサービスプロバイダー)大手となるAWS(Amazon Web Services)と協業をし、SDVの開発においてホンダがAWS上に構築する「Digital Proving Ground(DPG)プラットフォーム」を活用していくことを明らかにした。
また、ホンダはCESのAWSブースにおいて展示を行ない、同社がAWS上で開発した「生成AIを活用したEVユーザーの充電体験向上サービス」を実現するPoC(Proof of Concept:コンセプトが技術的に実現可能なかどうかを証明する試作のこと)のデモを行なった。
ホンダ ゼロシリーズは本格的なSDVに。ルネサスと協力して2000TOPSのAI性能を実現するハードウエアを製作
ホンダはCESの会期初日にCESの会場で行なった記者会見の中で、同社の本格的SDVであるバッテリEV「ゼロシリーズ」を発表し、その後同社ブースにおいて実車の展示を行なった。
展示されたのはサルーンとSUVの2車種。未来のスポーツカーのようなサルーンと、ヴェゼルの将来バージョンのようなSUVは、LVCC西館の中央あたりにあるホンダブースに展示されていてかなり目立っていた。
今回発表されたゼロシリーズの最大の特徴は、本格的なSDVであるということにある。SDVとは何かと非常にざっくりいうと、PCやスマートフォンなどに利用される汎用のプロセッサーにソフトウエアを組み合わせることで、IVIやデジタルメーターなどのすでにデジタルになっているものだけでなく、ハンドルやアクセル、ブレーキなどの制御系なども含めてソフトウエア的に実現する。
これにより、これまでよりも高度な自動車が開発できるだけでなく、OTA(On The Air)と呼ばれるネットワーク経由でソフトウエアのアップデートを受け取って、自動車のシステム全体をバージョンアップできる。読者の皆さんが使っているスマートフォンのOS、例えばiPhoneであればiOSだが、そのバージョンが上がるたびに機能が増えたりしているが、それと同じことが自動車でも起こるようになる。ホンダはこのゼロシリーズのOSを「アシモOS」と命名しており、そのアシモOSがバージョンアップするたびに利用できる機能が増えていくことが期待できる。
そうしたSDVを実現する汎用プロセッサーとして、ホンダは日本の半導体メーカーであるルネサス エレクトロニクスと協業して、ルネサスのR-Car X5シリーズとホンダが独自開発するAIアクセラレーターを組み合わせて、2000TOPS(スパース性利用時)でかつ20TOPS/Wという性能、電力効率を実現すると明らかにしている。
この2000TOPSという数字がどれくらいすごいかというと、NVIDIAがゲーミングPC向けとして販売しているGeForce RTX 4090という現時点で最も高性能なGPUが1321TOPSで、ゲーミングPC用の数百ワットを消費するようなGPUよりも高い性能を発揮し、かつ自動車に搭載できるような高い電力効率を実現することになる。両社はこれを2020年代後半とされるゼロシリーズのリリースに向けて開発を進めていくと説明している。
魅力的なSDVを構築するのに、ホンダはCSP最大手のAWSと強力タッグ。CESで正式な提携契約を発表
SDVの開発で重要な点は2つある。1つは前出の通り、強力な性能と電力効率を実現する汎用プロセッサーを開発することであり、もう1つがソフトウエアの開発だ。それが両輪として回っていかないと魅力的な製品を構築できない。
というのも、PCやスマートフォンがその端的な例だが、強力なプロセッサーが搭載されていたとしても、OSやアプリケーションソフトウエアなどのソフトウエアをインストールしない限りは“ただの箱”になってしまい、何にも活用できない。SDVも同様で、強力な汎用プロセッサーを搭載するのと同時にそれを生かすソフトウエアを開発し、実装していくことが今自動車メーカーにとって新しい競争軸になりつつある。
しかし、自動車メーカーにとってソフトウエアの開発は、これまでECUのソフトウエア開発などに関して取り組んできた領域だが、OSも含めての開発となると、未知の領域になる。しかし、今後自動車用ソフトウエアの開発は複雑になるばかりで、リリースまでに時間がかかるという事態も想定されている。
そこでホンダは「爆速」というスローガンを掲げて、ソフトウエアの開発を短期間で迅速に行なう体制の構築を目指しており、その開発体制の一部を2023年12月にラスベガスで開催された「re:Invent」というAWSの年次イベントで明らかにしている。ホンダはAWSのクラウド基盤を活用して、より効率よくSDV向けソフトウエアの開発を行なっていくのだと説明した。
今回のCESでは、そうした両社の提携が次の段階に進んだことが明らかにされた。ホンダはAWSと契約を締結し、両社がSDV向けの開発に向けた協業を行なっていくと明らかにしたのだ。ホンダは、AWS上に構築するDPGプラットフォームと呼ばれるソフトウエア開発に利用する基盤を構築し、ホンダがAWS上に構築するデータレイク(データを保存しておく場所のこと)とAWSの計算資源(CPUやGPUなど)、生成 AI、IoT サービスなどを1つに統合することで、効率よくSDV開発を行なっていくことをCESで明らかにしている。
ホンダがAWS上に構築される開発ツールを活用して、SDV向けのソフトウエアやサービスの開発を行なっていく
AWS グローバル SDVリード ステファノ・マザーニ氏は両社の提携に関して「今回の提携では、SDVを開発するための環境、例えばデータレイク、演算装置、生成AI、IoTサービスなどをすべて1つに統合して提供していくことが特徴だ。それにより、ホンダの開発者はSDVを構築していくために必要なピースをAWS上で見つけて、容易に作業をすることが可能になる。また、ホンダの車両から上がってくるデータは、AWSのIoTコアに収集されており、それを利用してさらなるAIの学習に活用する。そうしたサイクルを回していくことが可能だ」と述べ、ホンダがSDVの開発環境をAWS上に統合して構築したことは、同社のSDV開発に大きく役立つはずだと説明した。
AWSのマザーニ氏によれば、ホンダのようにグルーバルに自動車ビジネスを展開する企業がAWSのようなCSPのインフラを採用するメリットは、まさにそのグローバル展開にあると説明した。「ホンダのようなグローバルな自動車メーカーは、世界各地で自動車を販売している。それに開発も日本だけで行なわれている訳ではない。われわれのようなCSPはグローバルにインフラを提供しており、世界各地でそれを利用できる。ホンダのようなグローバルにビジネスを展開する自動車メーカーにとってはそれが大きく役立つはずだ」と述べた。
また、生成AIへの対応も自動車メーカーがAWSを選択するメリットだと説明した。「今回ホンダは、弊社が提供するAmazon Bedrockを利用して、AIを活用した各種のサービスに取り組んでいる。すでにPoCの段階に入っており、今回のCESではその成果を説明している」(マザーニ氏)と、今回ホンダがAmazon BedrockというAWSが提供するAIサービスを活用して、「EVユーザーの充電体験を飛躍的に向上させる新しいソリューション」と同社が呼んでいるサービスのPoCを作成し、それをCESのAWSブースで展示していることを紹介した。
今回ホンダが展示したPoCは、ある地点とある地点の間で最適なEVの充電ステーションをAIが見つけるサービスとなる。従来のEV充電ステーションの検索であれば、単に今いる場所から近いステーション順に表示されるというのが一般的だろう。しかし、今回ホンダがデモしたPoCでは、AIがユーザーの行動パターンや志向などを解析して理解することで、ユーザーが最も行きたいと思うであろうEVステーションの順に表示する。例えば、買い物が好きな人ならショッピングモールの中にあるEVステーションを示し、レストランで食事をするのが好きな人なら好みのレストランの近くにあるEVステーションを表示するなどの形になっている。現時点では実装されていないが、今後は支払いも含めて処理できるような仕組みを実装していくなどとホンダの説明員は説明した。
今後両社はこうした提携に加えて人材交流の面でもプログラムを実行していく計画で、すでに2024年からホンダのエンジニアがAWSに出向いて勉強に参加することで、クラウドやソフトウエア開発に詳しいエンジニアを育てていく交流が行なわれているという。今後はAWS側のエンジニアもホンダから自動車メーカーのニーズを理解する……そうした関係に発展していくことを期待しているとAWSの関係者は説明した。