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ホンダ、本格的SDVであるバッテリEV「ゼロシリーズ」の搭載OSは「アシモOS」 CES2025で「サルーン」「SUV」プロトタイプ世界初公開
2025年1月8日 04:00
CES2025でプロトタイプを世界初公開したホンダ
1月7日(現地時間)、米国ネバダ州ラスベガスで開催されているテックイベント「CES」の展示が始まった。CESでは、1月5日~6日が報道向けのプレスカンファレンスなどを実施。メインの展示場となるLVCC(Las Vegas Convention Center)は7日にオープンし、各企業の出展やプレスカンファレンスが行なわれていく。
一般も含めての初日となる7日にプレスカンファレンスをブースで行なったのが本田技研工業。ホンダは、出展ブースを2024年のノースホールから、モビリティ企業多く集まるウエストホールへ変更。初日の午前中という時間帯で、最も注目が集まっているなか、量産へ向けた「Honda 0シリーズ」(以下、ゼロシリーズ)プロトタイプ2車種「サルーン」「SUV」を世界初公開した。
このゼロシリーズは、2024年のCES2024で「Thin,Light, and Wise.」というEV開発アプローチとともに、コンセプトモデル「サルーン」「スペース ハブ」の2台を公開した。1年が経過し、技術展示を経てプロトタイプを米国のCESで公開した。
プロトタイプとして公開した「サルーン」については2026年に北米市場へ投入、その後、欧州、日本などグローバルへの展開を予定。一方、「SUV」については2026年前半に北米市場、その後、欧州、日本などグローバルへの展開となっており、SUVのほうが市場投入が先行する。
SDVの搭載OSは驚きの「アシモOS」
このゼロシリーズは、まったく新規に設計されたバッテリEVで、クルマのアーキテクチャもSDV(ソフトウェアデファインドビークル)として作り上げられている。ソフトウェアでクルマを定義し、クルマを動作することができるよう新たなビークルOSを作り上げた。
これまではビークルOSと汎用名称が付けられていたが、CES2025ではこのOSの名称を、ホンダの自律2足歩行ロボットとして世界中で親しまれてきた「ASIMO(アシモ)」にちなんで「ASIMO OS(アシモOS)」と名付けた。ゼロシリーズもアシモと同様、「世界中の皆様に驚きと感動を与え、次世代EVの象徴となることを目指す」という思いを込め名付けたという。
ゼロシリーズの搭載する自動運転技術は、これまでのレベル3を拡大していく
ホンダは2021年に「レジェンド」で世界初の自動運転レベル3の条件付自動運転車をHonda SENSING Eliteととして実現。アイズオフと呼ばれる領域を走ることのできるクルマを開発した。
ゼロシリーズでは、その領域をさらに拡大。Helm.aiの「教師なし学習」と、熟練ドライバーの行動モデルを組み合わせた独自のAI技術により、少ないデータ量でAIが学習し、効率よく自動運転・運転支援範囲を拡大する。さらに、ヒトやモビリティの研究で培ったホンダ独自の協調AIを活用し、人の運転でも難しい周囲の交通参加者との「譲り合い」といった協調行動の精度をより一層向上させていく。これらの先進技術で、急な動物の飛び出しや落下物など、想定外の出来事に対しても素早く適切に対処できる信頼性の高い運転支援を実現するという。
ゼロシリーズでは、高速道路での渋滞時アイズオフから自動運転技術を搭載開始。OTAによる機能アップデートを通じて、運転支援・自動運転レベル3適用の範囲を拡大していく。自動運転レベル3では、運転主体が人からクルマへと変わり、映画鑑賞やリモート会議など「ドライバーによる移動中のセカンドタスク」が可能となる。ホンダは、この技術を進化させることで世界に先駆けて全域アイズオフを実現し、移動の新たな可能性を切り開くとしている。
ルネサスとの共同開発で、AI性能は2000TOPS。AI ノートPCの約500倍の性能をクルマに
ホンダはゼロシリーズの目指すSDVを実現するために、ルネサスエレクトロニクスと、コアECU向け高性能SoC(System On a Chip)の開発契約を締結。CES2025のプレスカンファレンスで発表した。
2020年代後半に投入する次世代のゼロシリーズのE&Eアーキテクチャは、クルマのシステムを制御する役割を持つ複数のECUをコアECUに集約するセントラルアーキテクチャ型を採用。SDVの中心となるコアECUは、AD/ADASといった運転支援やパワートレーン制御、快適装備など、車両のシステムを一元的に管理する。そのため、コアECUにはより高性能なSoCが必要となり、従来に比べて高い処理能力が必要となるほか、消費電力の高まりを抑制することが必要になる。
そのため、ルネサスの汎用車載半導体である第5世代「R-Car X5シリーズ」SoCに、ホンダ独自のAIソフトウェアに最適化されたAIアクセラレータを、マルチダイチップレット技術で搭載。この組み合わせで、AI性能としては業界トップクラスの2000 TOPS(Sparse)を20TOPS/Wの電力効率で実現することを目指す。
この2000TOPSというAI性能は、現在マイクロソフトが普及を進めているMicrosoft Copilot+PCで要求するAI性能 40TOPSと比べても約500倍という、圧倒的なものとなる。
ホンダとルネサスは、R-Car X5シリーズで400TOPS、AIアクセラレータで1600TOPSとしており、R-Car X5シリーズであることからUCIeでAIアクセラレータとダイ間を接続する。
この次世代ゼロシリーズのAI性能については、自動運転レベルのグレードバリエーションとともにバリエーション展開もあるようで、マルチチップレットのメリットを最大限に活かしていくようだ。
なお、R-Car X5シリーズの設計はルネサスだが、製造はTSMCのN3A。AIアクセラレータはホンダとルネサスで、製造は同じくTSMCのN3Aになる模様。
エネルギーサービス
ゼロシリーズでは、環境に負荷をかけることなく、自由な移動の喜びとともに提供するために、「ストレスフリーで自由な移動の実現に向けた充電網の構築」、「EVバッテリーを活用したクリーンでスマートなEVライフの提供」という2つの軸による新たなエネルギーサービスを展開する。
北米においては、自動車メーカー8社(アメリカン・ホンダモーター、BMWグループ、ゼネラルモーターズ、ヒョンデ、キア、メルセデス・ベンツグループ、ステランティスN.V.、トヨタ自動車)による合弁会社「IONNA(アイオナ)」を通じ、2030年までに3万口の高品質な充電網を構築する。
さらにゼロシリーズの充電ポートに北米充電規格(NACS:North American Charging Standard)を採用。2030年には、ゼロシリーズのユーザーが約10万口の充電網を使用できる環境を構築すべく、充電網の拡大を進めていく。
ゼロシリーズの投入に合わせて、充電網を有効に活用した新たな充電サービスの提供も検討。このサービスでは、ホンダの知能化技術に、アマゾンウェブサービス(AWS)の生成AI「Amazon Bedrock」などの技術を組み込み、ゼロシリーズや広い充電網から得られるデータを分析することで、充電設備の検索や支払いのシンプル化などの面で、一人ひとりにパーソナライズされた充電体験を提供することを目指す。
カーボンニュートラルの実現に向けては、再生可能エネルギーのさらなる利活用が不可欠。EVの全充電シーンの約8割を占めるといわれる自宅充電において、EmporiaCorp.と共同開発している「Home Energy Management System(ホームエネルギーマネジメントシステム)」に、ホンダとBMW、フォードとの合弁会社「ChargeScape(チャージスケープ)」のVGI(Vehicle Grid Integration)システムを組み合わせ、北米で展開しているEV向け充電サービス「Honda Smart Charge」を進化させる。
これにより、電気代とCO2の削減に貢献する新たなサービスを、2026年以降、順次北米市場などで開始していく。
このサービスにおいてゼロシリーズの車両は、仮想発電所(Virtual Power Plant)として機能。ユーザー一人ひとりに最適化された充電計画を実行する。
具体的には、電気代が安く、再生可能エネルギーを活用できる時間帯を選んで充電を行ない、電気代が高い時間帯は家庭向けに放電することで、家庭全体の電気代をマネジメントする。さらに、電力が不足しているときには、充電した電力を電力系統へ供給することで、電力の安定化に貢献。EVから収入を得ることも可能となる。また、充放電を繰り返すことで懸念されるバッテリの劣化は、ハイブリッド車で培ったバッテリマネジメント技術により最小限に抑制ししていく。