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ホンダ、AWS(アマゾン ウェブ サービス)で「爆速」ソフトウェア開発環境を構築

本田技研工業株式会社 電動事業開発本部 BEV開発センター SDM開発統括部 コネクテッドソリューション開発部長 野川忠文氏

AWS「re:Invent 2023」でホンダが講演

 Amazon.com傘下でパブリッククラウドサービスを提供しているAWS(Amazon Web Services)は11月27日~12月1日(現地時間)、年次イベントとなる「re:Invent 2023」をアメリカ合衆国ネバダ州ラスベガスにおいて開催した。

 2日目となる11月28日には、AWSとその顧客企業による「Manufacturing and mobility innovation in the cloud」(クラウドを利用した製造業・モビリティ事業の技術革新)という分科会が行なわれ、日本から本田技研工業 電動事業開発本部 BEV開発センター SDM開発統括部 コネクテッドソリューション開発部長 野川忠文氏がゲスト登壇した。

SDM(ソフトウェアデファインドモビリティ)時代を見据えてソフトウェアの開発を「爆速」にする開発体制構築を目指すホンダ

 野川氏は「ホンダは総合的なモビリティを開発する企業になることを目標に掲げている。そのためには自動車の中だけでなく、自動車の外も含めて総合的にさまざまなソフトウェアをアジャイルに開発していく体制を整える必要があり、その取り組みをAWSとパートナーシップを組んで推進している。最終的にはソフトウェア開発を"爆速"にすることを目指している」と述べ、社内横断的に開発できるような体制作りを目指していると説明した。

ホンダはソフトウェア定義のモビリティを提供していくメーカーになっていく、そのためにはソフトウェア開発が鍵に

 続けて野川氏は、ホンダの最初の製品として、創業者の本田宗一郎氏が世に送り出した「エンジン付き自転車」の写真を紹介した。

ホンダの原点となるA型エンジンを搭載した自転車
ホンダは年間2800万台ものパワーユニットを世に送り出している

 ホンダの「社史」によれば、この自転車は1947年にホンダが自社開発した「A型エンジン」を取り付けて発売したもので、まさにホンダの原点になった1台と言ってよい。また、野川氏の「今や年間2800万台のパワーユニットをグローバルに送り出している。パワーユニットのマニファクチャラーに成長している」というとおり、2輪車や4輪車だけでなく、飛行機やパワープロダクツなど多種多様な製品を提供している。

 野川氏は「ホンダはオートバイや自動車だけでなく、モビリティを人々に提供するメーカーになっており、今後さらにそれを加速していく」と述べ、ホンダは車両を管理するインフラなどを含めた総合的なソリューションを提供する企業になっていくことを目標にしていると説明した。

自動車の中でも外でもSDMの実現を目指す

 その目標のためにホンダは今、SDMの実現に取り組んでいるという。「そのパートナーとなっているのがAWSだ」と野川氏は説明した。

AWSとホンダの関係

 また野川氏は「ホンダとAWSの関係はすでに10年になっている。それまではオンプレミスで展開していたコネクテッドサービスをAWSに移行するなどして、少しずつクラウドの利用を増やしてきた」と述べ、AWSを利用してサービスを構築するという機会が増えてきているのだという。

従来のホンダのソフトウェア開発体制で抱えていた課題

 ただ、そうした中でも野川氏をはじめとしたホンダの開発陣は大きな課題があることを認識していたという。ホンダの社内には車両の領域ごとに開発部門があり、それぞれがバラバラにソフトウェア開発を行なっており、横の連携があまりないことが課題だったと明かす。その結果、ソフトウェアの動作検証は「自動車として組み立てて走らせてみないとテストができない」状況が発生していた。

 今回のre:Invent 2023で、AWSはすべての自動車開発をデジタルツインで行なうソリューションデモを実施している。仮想空間の中でソフトウェア的に構築した仮想の自動車を利用して、ソフトウェアの動作確認を行なえる。そうしたソリューションを利用すれば、仮想空間の中で作成したソフトウェアのコードを利用して自動車を走らせて、ソフトウェアに問題がないかを、実際の試作車を組み立てる前にテストできるという。

 しかし、メーターのソフトウェアはメーターの部門が、IVIのソフトウェアはIVIの部門が、ECUのソフトウェアはECUの部門が開発している現状の体制だと、ハードウェアと一緒に実際の試作車として組み立ててからでないとテストができないので、ソフトウェアの開発に非常に長い時間がかかってしまうのだ。それがソフトウェア開発に時間がかかる理由になっていたと野川氏は説明した。

部門ごとにバラバラにやっていたソフトウェア開発を、部門横断で行なうような体制に変更していく、そのためにAWSと協業

新しい開発体制では社内の部署を横断する形でソフトウェアの開発体制を構築していく

 そこで野川氏は「ソフトウェア開発をもっとアジャイルにしていく必要がある。そのため、ソフトウェアの開発は複数の領域にまたがって開発していく方式に変更しつつある。そのためにAWSが提供しているIoT FleetWiseなどを利用していく形に変えていっている」と述べ、ソフトウェアをそれぞれの開発チームが開発するのではなく、ハードウェアとソフトウェアを分離していき、ソフトウェアはソフトウェアで開発し、ハードウェアはハードウェアとして開発していく方向性にするために、開発体制の変更を行なっていると説明した。

 野川氏はそうしたより迅速にソフトウェアの開発が進む開発環境を「爆速」と日本語で表現し、従来よりも短い開発期間でソフトウェアの開発を促進できる体制に開発体制を変更していっていると説明した。

 野川氏によれば、ソフトウェアの開発環境は、自動車上のソフトウェアだけでなく、例えばコネクテッドサービスの構築といった自動車外のソフトウェアでも同じように共通化されており、だからこそSDV(Software Defined Vehicle)ではなく、SDM(Software Defined Mobility)なのだ。

ホンダとAWSの関係

 野川氏は「そうした知識や資産を自動車の開発チームと自動車の外のサービスなどの開発チームが共有していく体制に変えていっている」と述べ、車両の中でも外でもソフトウェアの開発が加速して「爆速」の開発体制が実現できるように少しずつ変更していると説明した。野川氏によればAWSはホンダがソフトウェア定義のモビリティを開発する上でパートナーになることを期待しているとのことで、「AWSには将来のホンダの車両を開発する上で"デジタルのエンジン"のような存在になっていってほしい」と述べた。

全てのホンダ製品のためにソフトウェア定義モビリティの開発をしていく

ホンダは世界一になりたいメーカー、ソフトウェア開発でもほかのメーカーに先駆けることを目指す

本田技研工業株式会社 電動事業開発本部 BEV開発センター SDM開発統括部 コネクテッドソリューション開発部長 野川忠文氏

 野川氏は講演後の会見で、「従来は領域ごとに個別に開発していたが、SDM開発統括部というソフトウェア定義モビリティを開発する部門ができて、そこがリードしてソフトウェアの開発をホンダ全体で推進している。今後ソフトウェア定義のモビリティが一般的になっていく中で、従来の個々の部署でソフトウェアを開発しているやり方では難しいと経営層も含めて判断した」と述べ、今後ソフトウェアが機能を実現するようなモビリティが当たり前になっていく時代に備えてこうした体制にしているのだと説明した。

ホンダが想定しているSDMのアーキテクチャ、将来的にはソフトウェアとハードウェアの分離を目指していく

 将来的にはソフトウェアとハードウェアが分離して、例えばソフトウェアはPCやスマートフォンのOSのようになっていくのかと聞くと、「今すぐにということではないが、そうなっていくと考えている」と述べ、「ホンダとしてもそれが“いつ”なのかという問題はあるが、ハードウェアとソフトウェアが完全に分離するような自動車が実現するような時代を見据えていると」説明した。

 今回ホンダが取り組もうとしているソフトウェア開発体制の変更は、自動車開発の方向性にとって大きな意味がある。自動運転の開発1つをとっても、AIを活用した自動運転のソフトウェア開発には、大量のデータと実際に試作車で道を走ってAIモデルの“訓練”を行なうというのが一般的だった。しかし、すでにそうした時代は過ぎて、自動運転ソフトウェア開発は、仮想空間の中でソフトウェアを鍛えて、ある程度ソフトウェアが完成したところで、それを実車に実装して走らせるという手法が使われ始めている。大幅に開発期間を短縮して野川氏のいう「爆速」開発が実現できるからだ。

 ただし、その開発体制は将来の「理想」であって、今ホンダでもそれが実現できているのかと言えばそうではないという。ホンダとしては、ITベンダーから学べるものを学び、ソフトウェア開発でほかの自動車メーカーに先行するような体制を作り上げることがAWSとの提携の目的の1つだと野川氏は説明する。

 野川氏は「ホンダは世界一の自動車メーカーになりたいと考えている、それはソフトウェア開発も例外ではない」と述べ、ソフトウェア開発で他の自動車メーカーに対して遅れているのなら追い越し、リードできるようなメーカーになっていきたいと説明した。