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Amazon、AWS for Automotiveの新サービス「AWS IoT Fleet Wise」 データの収集から学習までAWS上で一括して行なうことが可能に

AWSが発表したAWS IoT Fleet Wise

 AWS(Amazon Web Services)はECサイト最大手であるAmazon.comの子会社「Amazon Web Services, Inc」が提供するパブリック・クラウド・サービスで、エンタープライズから小規模事業者まで幅広い顧客を対象にしたクラウドサービスを提供している。企業は自社でデータセンターを設置するのに替え、AWSを利用することで少ない投資から始められて、より大規模なシステムまで高い柔軟性を維持したまま対応することができる。

 そのAWSの自動車版が「AWS for Automotive」だ。AWS for Automotiveは自動車向けの各種ソリューションが提供される形になっており、自動車メーカーがAWS上に保存した各種のデータを活用し、ADASや自動運転のAIシステムの学習を行なったり、車両からアップロードされた写真データや走行データなどを元に新しい3Dマップデータを作成したりという一連の作業を、AWS上だけですべて行なうことができる。

 AWSは、11月30日(現地時間)から米国ラスベガスで開催している同社の年次イベント「AWS re:Invent」において、AWS for Automotiveの新しいソリューションとして「AWS IoT Fleet Wise」を発表した。AWS IoT Fleet Wiseは自動車メーカーがAWSを利用してAIの学習を行なう場合に、テスト走行させている自動車などから上がってくるデータを収集し、それをAIの学習に適したように成形して保存するためのツールで、自動車メーカーに専任のデータエンジニアを置かなくてもデータの収集から学習までAWS上で一括して行なうことが可能になる新サービスだ。

自動車のICT化、鍵を握るのはインターネット常時接続と自動運転

 今や自動車はICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)とは切っても切れない関係になっている。自動車のICT化に関しては大きくいうと2つの要素がある。1つは自動車のインターネット常時接続化(そしてそれに合わせた回路や配線のデジタル化)であり、もう1つは自動運転やADASに代表される自動化機能の搭載だ。

 自動車のインターネット常時接続化は、英語でいうとConnected(コネクテッド)という言葉で表現される動きで、自動車がLTEや5Gなどの携帯電話回線を経由してインターネットに接続され、クラウド(インターネット上にあるサーバーのこと)と接続され、常時何らかのデータがアップロードされたり、ダウンロードされたりするようになる。

 読者の身近で分かりやすい例でいうと、地図データのクラウド化はその最たる進化の1つだ。従来の地図データは自動車のカーナビのストレージに格納されており、データはUSBメモリなどからのアップデートを行なわない限りは更新されないため、開通後の道路データが入っていなくて遠回りを指示されるなどの不便が少なくなかった。

 それに対して、スマートフォンなどで一般的なGoogle Mapsなどはクラウド型の地図で、地図データはクラウドに保存されており、その地図データは日々最新に更新されている。端末は必要に応じて現在地周辺の地図データをダウンロードしながら動作するので、ユーザーは常に最新の地図データを使って経路検索が可能で、最短距離で目的地に到達することが可能だ。自動車のカーナビの地図も徐々にこうしたローカルにデータを保存する形からクラウドにデータを置く形への移行が始まっており、Apple CarPlayやAndroid Autoなどスマホをセンターコンソールのディスプレーに接続してナビとして利用する形はこのクラウド型になる。今後はそうしたスマホのようなクラウドベースのさまざまなサービスが自動車にも適用されるになり、自動車がより便利になると考えられている。

 そして、現在自動車業界で進行しているのが自動化機能への対応だ。レベル3やレベル4といった本格的な自動運転だけでなく、レベル2やレベル2+に関しても、AIを利用した画像認識などの手法が一般的に使われるようになりつつある。そうしたAIをよりよくしていくためには学習(Training)と呼ばれる作業が必要で、開発時に実際道路を走らせた車両から画像をサーバーにアップロードし、それを利用して学習を行なう。

 今後自動車メーカーがそうしたクラウドベースのコネクテッドな各種のサービスや、自動運転のための学習には膨大な演算性能が必要で、自動車メーカーはそれを行なうために専用のデータセンター(多くの数のサーバーを集めた演算専用の施設のこと)を自前で建設したりしてきた。

自社でデータセンターを持つ選択肢に加えて、AWSのようなクラウドサービスが自動車メーカーの選択肢になりつつある

AWS for Automotive、AWSのストレージに保存されている大量のデータ(DATA LAKE)を活用して、自動運転用AIの学習やコネクテッドサービスの展開などさまざまに活用することができるパブリック・クラウド・サービス

 AWSのような「パブリック・クラウド・サービス」とIT業界で呼ばれているクラウド事業は、大企業のデータセンターのアウトソーシング(外注化)であり、大企業に代わって運営する仕組みとなる。本来であれば、自社でコストを掛けて、用地を用意し、建屋を作り、広帯域のインターネット回線の用意し、数多くのサーバーを買ってきてセットアップしなければデータセンターは利用できない。しかし、建設だけでそれこそ億単位のコストがかかり、かつその後もサーバーの入れ替えなどのメンテナンスコストがかかる。

 しかし、パブリック・クラウド・サービスでは、AWSのようなサービス事業者がハイパースケールと呼ばれる超大規模のデータセンターを構築し、その中で仮想的な区切りを作成することで、一部だけを顧客に貸し出す仕組みになっている。それにより、言ってみれば建屋の建設費や運営料金などを複数の顧客でシェアすることが可能になるので、少規模の少ない料金から始め、最終的には自社でデータセンターを持つような大規模スケールまで柔軟に対応できることが特徴だ。

 自動車の場合には、そもそも大企業がほとんどで、自社でデータセンターを建設して運営することは不可能ではない。実際、自前でデータセンターを抱えているという自動車メーカーは少なくない。しかし、本国で大規模なデータセンターを持つことは可能かもしれないが、本国以外の国や地域すべてでデータセンターを持つというのは効率的にもあまりよいとは言えない。

 例えば、日本の自動車メーカーが日本でクルマを販売するときには日本のデータセンターを使えばいいかもしれないが、本国ほどは台数が見込めない地域で展開するときにはデータセンターへの投資が過大になる可能性がある。そこで、AWSが提供するAWS for Automotiveのようなパブリック・クラウド・サービスを活用すれば、それを避けながら柔軟なICT環境を構築することができる。

 AWS Automotive ワールドワイド技術責任者 ディアン・フィリップス氏は「AWSを利用すればすべて自前でインフラを構築する必要がなくなり、必要な分だけサービスとして利用することが可能になる。例えば昨年発表したトヨタの事例では、コネクテッド・ソリューションやモビリティサービスの構築にAWSを使っていただいている。一般消費者向けのサービスだけでなく、車両向けのAPIを構築し、車両が今どこにあるのか、どんな状態であるのか、あるいはどこかが傷ついていればそれは誰が運転している時に発生したのかなどが分かるようになっている。ホンダもコネクテッドサービスの利活用にAWSを使っていただいているなど、日本の自動車メーカーにもお使いいただいている」と述べ、AWS for Automotiveがすでに日本の自動車メーカーでも採用事例が増えてきていると説明した。フィリップス氏によれば、そのほかにもフォルクスワーゲングループやフォード、ティアワンのサプライヤーで言えばデンソーやハーマン・インターナショナルなどが利活用を進めているという。

ホンダ、インターナビのプラットホームで「AWS(Amazon Web Services)」利用を明らかに

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1145481.html

トヨタ、ビッグデータの活用を目的にAWS(アマゾン ウェブ サービス)と業務提携

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1271220.html

AI学習に適した形でのデータの選別や成形を自動で行なうAWS IoT FleetWise

AWS IoT FleetWiseの概要

 今回AWSが発表した「AWS IoT FleetWise」は、そうしたAWS for Automotiveのクラウドサービスの中でも、今回のAWS re:Inventで新たに追加されたサービスだ。

 AWS IoT FleetWiseとは車両からのデータを、安全かつ効率的にクラウドへ送るためのマネージドサービス(何らかの業務をクラウドなどにアウトソーシングする手法のこと)となる。AWSのフィリップス氏は「AWS IoT FleetWiseは、車両で蓄積された各種データを取得し、それをクラウド側で動作しているAIの学習エンジンなどへ送り込むためのマネージドサービスだ。車両側にAWS IoT FleetWiseに対応したエージェントを導入しておくと、クラウドにデータをアップロードし、かつそれをAIの学習に適した形や地図作製に適した形に成形し、クラウド上で行なうAIの学習や地図の更新に活用することができる」と説明する。

 現代の車両では、さまざまなセンサーが搭載されている。カメラはその最たる例だが、他にもレーダー、ライダー、GPSも自車位置を推定するのに使える重要なセンサーの1つだ。そうしたセンサーは、AIの学習や3Dマップの作成に重要なデータを生成し続けており、分かりやすい例で言えばGPSで計測した自車位置の軌跡は、現在の地図にはない道を検出するのに役立つ。さらには、カメラのデータはドライバーがどのように運転しているかをAIが学習するデータとして利用することができる。

 そのように、自動車は今データを生成しながら運行されているし、自動車メーカーがテスト用として走らせている車両であれば、1日で1TBというiPhoneのトップグレードのストレージが1日で埋まるような容量のデータが生成され、それをクラウドにアップロードすることでAIの学習に利用するのだ。

 しかし、その時に課題になるのが必要なデータは何で、必要ではないデータは何かという選別、さらにそうしたデータをAIの学習や3Dマップの作成などに適した形のデータに成形するといった手順を経なければいけないことだ。というのも、その自動車から上がってくる生データはクルマによってデータの形式が違っていたり、センサーの数が違っていたりと、それぞれに異なるデータになっていることがあるからだ。

AWS IoT FleetWiseの仕組み

 通常そうしたデータは、自動車メーカーの「データエンジニア」が、AIが学習しやすいように成形してからデータプールに保存する。つまり人間が手動で行なうのが一般的なのだが、AWS IoT FleetWiseではそうした処理を自動で行なってくれる。それにより、データの成形にかかる時間やコストを削減することができる。すでにAWS for Automotiveを利用して、AIの学習に取り組んでいる顧客にとってはそのひと手間を自動化し、より容易に自動車からデータを吸い出してAIの学習することが可能になるということだ。

米国の自動運転ベンチャー「Aurora」と米国BEVメーカー「Rivian」がAWSの利用開始を発表

 また、今回AWSは新しい自動車産業の導入事例として米国の自動運転システム開発ベンダの「Aurora Innovation」(オーロラ・イノベーション、以下Aurora)と米国のBEV専業メーカーの「Rivian」(リビアン)がAWSの利用を開始したと明らかにした。

 Auroraは自動運転の開発を行なっている米国のベンチャー企業で、2016年に設立されて以来、急成長を遂げており、今年の2月にはトヨタおよびデンソーとの協業が発表され、トヨタのミニバン「シエナ」をベースにした自動運転車の開発とテストを行なうことが明らかにされている。

自動運転技術開発のAurora、トヨタとデンソーと協業発表

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1305682.html

 今回の発表で、Auroraは同社の自動運転システム「Aurora Driver」の開発にAWSを利用していることを明らかにした。すでに毎日1200万のシミュレーションがAWS上で走っていると明らかにされている。フィリップス氏によれば「SageMakerが使えることが、AuroraがAWSを採用した最大の理由だったと聞いている」とのことで、AWSが提供するAI学習のマネージドサービスであるSageMakerが採用の決め手になったと説明した。

 Rivianは2009年に設立された米国のBEV専業の自動車ベンチャーで、テスラのライバルと目されている企業の1つ。そのRivianも今後AWSを分析、演算、AIの学習といった用途に使っていくと明らかにした。