スズキ、「アルト」が誕生30周年と世界累計販売台数1000万台を達成
鈴木会長が初代アルト開発当時のエピソードを語る。記念特別仕様車も発売

初代アルトとスズキ取締役会長兼社長の鈴木修氏(左)。会見には、(左から)元会長の稲川誠一氏、元会長の内山久男氏、元取締役の向山優一氏も出席した

2009年5月12日発表


 スズキは5月12日、軽自動車「アルト」が2009年5月で誕生30周年を迎えたほか、2009年3月末時点で世界累計販売台数が1000万台を達成したと発表。同日に、静岡県浜松市南区の「スズキ歴史館」にて、取締役会長兼社長の鈴木修氏が会見を行った。また、誕生30周年を記念したアルトの特別仕様車「アルト誕生30年記念車」を5月12日に発売する。価格は71万4000円~92万850円。

 アルトは、1979年5月に初代モデルの販売を開始した軽自動車。2009年現在では、2004年に発売された6代目モデルが販売されている。今回の1000万台達成は、国内販売のアルトに加えて派生車種や、海外輸出モデルの「フロンテ」「マルチ800」など、アルトをベースとした車種も含まれている。

 初代モデルの発売当時は、1968年に軽自動車免許が廃止、1971年に自動車重量税の課税開始、1973年に軽自動車の車検制度が導入されるなどの要因が重なり、軽自動車市場が大きく落ち込んでいた。この状況下でスズキは、「女性が気軽に使いこなせるクルマ」をコンセプトにアルトを開発し、モノグレード設定で47万円と言う当時としては格段に低い価格設定で販売を開始した。加えて、当時は地域ごとに異なる輸送費を含めた価格を本体価格とすることが普通であったところを、全国統一価格とし、車体形状は現在は廃止されている物品税が課税されない軽ボンネットバンを採用していた。発売開始と共に市場から評価され、当初の月間販売目標台数の5000台を大きく上回る販売台数を記録したと言う。

スズキ歴史館で展示されている初代アルト
歴史館では、初代アルト発売当時の他車や主な電化製品などと価格を比較し、アルトが低価格であったことを紹介初代アルト発売当時の自動車市場の推移。自動車自体への需要は伸び続けていたが、軽自動車の需要は低下していた初代アルトの販売台数の推移。発売後から目標台数の5000台を上回っている

アルトシリーズの歴史
 以降、1984年~1988年に運転席回転シートやマイナーチェンジ時に軽自動車初の4バルブエンジンを採用した2代目、1988年~1994年にスライドドアの採用やマイナーチェンジ時にエンジン排気量を660ccに拡大した3代目、1994年~1998年に低コスト技術を導入した4代目、1998年~2004年に軽量衝撃吸収ボディーなどを採用した5代目を、2004年からは軽自動車本来の基本性能を追求した6代目を発売した。

 加えて、1987年にはDOHCターボエンジンを搭載したスポーツモデル「アルト ワークス」を、1991年にはトールワゴン「アルト ハッスル」を、1999年にはクラシック仕様の「アルト C」を、2002年には箱形デザインを採用した「アルト ラパン」を派生車種として発売。アルト ラパンは2008年11月にフルモデルチェンジし、現在は2代目が販売されている。このほか、1998年からはマツダに「キャロル」として、2007年からは日産自動車に「ピノ」としてアルトをOEM供給している。

 海外市場では、1983年にはインド政府と合弁会社「マルチ・ウドヨグ(現マルチ・スズキ・インディア)」を設立し、2代目アルトをベースにエンジンを800ccに拡大した海外販売モデル「マルチ800」を販売。以降、パキスタンや中国での販売も開始し、現在では132カ国と地域で販売されている。


2代目アルト。写真は、当時イメージキャラクターに起用していた小林麻美さんにちなんだ「麻美スペシャル」3代目アルト。写真は、スライドドアを採用し、運転席を回転式とした「スライドドアスリム」
4代目アルト5代目アルト現行の6代目アルト
1987年に発売したアルト ワークス。現在では「Kei」ベースの「Kei ワークス」にコンセプトが引き継がれている派生車種の「アルト ラパン」。写真は2008年11月に発売した2代目で、アルトシリーズでは最も新しいモデル海外で生産および販売されているアルトや派生車種

47万円実現のため「エンジンを取ったらどうだ」と言った鈴木会長

会見に出席した鈴木修会長
 今回のアルト誕生30周年記念と世界累計販売台数1000万台達成を受けて、鈴木会長は「初代アルトの発売は、私にとって印象深い出来事であった」と前置きした上で、「当時は軽自動車市場の冷え込みから1カ月に1500台程度しか販売できず、倒産寸前とも言える状況で、打ちしおれている従業員をなんとかしようと思った」と当時の状況を説明した。

 アルトについては、当初の1978年発売を一時凍結し「製造原価で35万円、小売価格で50万円切る車」を目指して計画を再考したと言い、元取締役会長の稲川誠一氏から実現が難しいと言われた際に「冗談交じりで“エンジンを取ったらどうだ”と言った」と言うエピソードを語った。また、アルトの好調な販売については、「ぬか喜びに終わるかと思ったが、発売から7月以降は1万台を突破し、スズキの4輪車の基礎を作ることができた」とコメント。あまりの好評から生産が追い付かず、アルトの生産ラインで製造しつつ、ラインのすぐ隣で工場の増築工事を行っていたというエピソードを語り、鈴木会長は「泥縄式で無計画だった」と冗談を交じえつつ当時を振り返っていた。

 このほか、2009年度の業績見通しについても触れ、「2009年度は大幅な売上減になると予想している。小さな会社は一度赤字を出すと続けて売上が低下してしまうことがあるため、岩にもしがみつく様な思いでなんとか黒字を確保したい」とコメントしていた。


誕生30周年記念の特別仕様車「アルト誕生30年記念車」

アルト誕生30年記念車(ノクターンブルーパール)

 加えて、スズキはアルトの誕生30周年を記念した特別仕様車「アルト誕生30年記念車」を5月12日に発売する。この特別仕様車は、最廉価グレード「E」をベースに、電波式キーレスエントリー、パワードアロック、ドアサッシュブラックアウト、セキュリティーアラーム、専用デカールを特別装備。ボディーカラーは、特別色の「ノクターンブルーパール」を追加した全5色を用意する。価格は、2WD(FF)車の5速MTが71万4000円、3速ATが76万6500円、4WD車の5速MTが86万8350円、3速ATが92万850円。


インパネインテリア専用デカール


(編集部:)
2009年 5月 12日